ベルディアが現れてから二週間ほど経った。
貴方は相変わらず狩りのクエストを受注し、何であろうと片っ端から狩っていた。
ゴブリンの大群がいるというのなら片っ端から鉈に血を吸わせてミンチにし、
ドラゴンがいるというのなら頭を砕いてやっぱり血を吸わせる。
鉄塊のごとき貴方のノコギリ鉈を叩きつけるのだ。
武器というものは穢らわしい獣どもを屠って鍛え上げるのだ。
貴方の平穏な狩りを邪魔するならば誰であろうと狩尽くせばいい。
貴方も時々血に酔って獣化が始まると伝説の狂戦士となりかける。
実に情けない、狩人とは無慈悲で常に氷のように冷酷に狩をするべきだ。
貴方の青年期はまだ遠い、もっと狩に慣れるべきだ。
ニホンジンの中には何を思ったか魔王軍に組みするものもいるという…
穢れた汚物同然の彼らを屠り、その血を流せば何か新しいものが見つかるかもしれない。
貴方はぜひニホンジンが貴方を殺そうと襲いかかってくれるよう望んだ。
そうすれば後腐れなく、世間体を気にせずに彼らの血肉を手に入れられるからだ。
異世界には天使気取りの化け物である上位者がいくらでもいる。
時空の狭間で出会ったかの髑髏の騎士は正しい。
人が連中の為に苦しみ捥がく事など、もはや無いように狩ろう。
穢らわしい神気取りのナメクジども。
だがとりあえずはゴブリンスレイヤーになろう。
差し当たっては1000人…いや1000匹斬りと洒落込むのだ。
ゴブリンは定期的に人里に降りてきて略奪をする…もっぱら繁殖のしすぎによる食糧不足が原因だ。
故に貴方は彼らを哀れんで狩りをするの。
デュラは貴方は無慈悲だと言ったがそれは違う、
今の貴方には慈悲があるから狩るのだ。
結局やってることは全く変わらないが。
とりあえず貴方が晩御飯の為に家に帰るまでに半数は連中自身の晩飯になるだろう。
そういえばあの首なし騎士はどうしたろうか。
アンデッドということで血も期待できないし貴方は放っておいたし忘れていた。
どちらにせよ、彼は人であって獣では無いのだから狩る必要を貴方は認めなかった。
それにベルディア討伐は王国騎士の昔からの悲願らしい。
狩人が獲物を横取りされるときの怒りと悲しみはよくわかる。
故に貴方は他人の獲物を横取りするような真似はしたく無い。
貴方は片っ端からゴブリンたちを狩ってあげた、優しいのだ。
彼らは数を減らし、ほうほうのていで引き上げていった。
血に酔うべからず、常に冷酷に殺戮するのだ。
貴方は前ほどの血の熱狂を起こさずに済んだ。
鉈でゴブリンを両断しようが頭蓋をたたき潰そうがどうとも思わないし何も感じない。
彼らにも巣では飢えた幼子がいるのだろう。
そういえばそうだな、それも味気ないが。
午後になって貴方はアクセルの街に帰ってきた。
簡易トイレで血肉に塗れた衣装と武器は洗い清めたのでクレームは出ない。
「あ!お帰りなさい、お…ジェヴォーダンさん!」
ゆんゆんが貴方を家で迎えてくれた。
貴方は徐々に狩りでなく家での生活に満足を覚えつつあった、青年期を目指す貴方にはあってはならないことだ…
このまま、満足して思い出を積み上げてゆけば貴方は温もりの残骸に埋もれて生きることになるかもしれない。
貴方が狩ってきた者たちの為に、殺してきた者たちの為にも貴方は平安を求めてはいけない。
引き返すことも、後悔することも許されない。
後悔をするくらいなら、なぜ病を受け入れて朽ち果てなかったのか。
後悔するくらいなら最初から何も望まなければよかったのだ。
どうして与えられた命で満足できなかったのか。
更に屍を天より高く積み上げ、人類の青年期への道を開くのだ。
だがここで彼女らと共に家族ごっこをしてもいいだろう。
一時羽を休めるのも、また幼子には必要なのだから。
家で貴方は4人での夕食を楽しんだ。
相変わらずウィズは全く売れない店の店主だし
ゆんゆんはまたパーティーを組むことに失敗した。
それらを全て受け入れ許すのが人形ちゃんであり、貴方である。
どこぞのロクデナシの天使気取りの化け物共と違って貴方は家庭的なのだ。
やっぱ、上位者死すべき慈悲は無い。
貴方は本来の務め、上位者狩りの夜を始めることを誓った。
翌朝
『緊急クエスト!冒険者は武装して城門前に集合してください!』
「なぜ城に来ないのだ、この人でなしどもがあああああっ!!」
また例のデュラハンが城に爆裂魔法を打ち込まれたらしく怒鳴り込んできたらしい。
ウィズに夕食の時に聞いた話では
「ベルディアさんですか?
えっとですねぇ、昔は勇敢な騎士だったけど
武功を立て過ぎて使えていた国に疎まれて冤罪で処刑されたそうで
それが原因で今の首無し騎士になったそうですよ」
なんと、一回死んだだけでなんとなく上位者っぽいのに転生できるとは。
異世界のアンデッド転生とは便利だと思った。
もっとも死ぬ前の鍛錬や死亡の理由、本人の怨念など様々な要素があるので単純に死ねば転生とはいかないらしい。
だが同情すべき点はあるとも思った。
あまりにも哀れな最後ではないか。
「それでですね、私も魔王軍の幹部として魔王城にいた時は
毎回セクハラされてたんですよ、あれって絶対わざと私の足元に頭を転がしてスカートの中を覗き見たり
私の胸元に投げ込んだり…だいたい私がリッチーになったのもベルディアさんの呪いが原因で…」
貴方は前言を撤回した、あいつは今度来たら内臓攻撃で引っこ抜いてから狩る。
そしてノコノコとまた貴方の前に現れたというわけだ。
正確にいうとまた性懲りもなく爆裂魔法を打ち込んだめぐみんの前にだが。
それにしても打ち込んでくる奴を実行する前に捕まえるとか、もう城を引き払うとか選択肢はいくらでもあったはずだが?
ひょっとして撃ち込まれることを期待していたのだろうか。
ダクネスに呪いをかけて慰み者にしようとしたし、ウィズにはセクハラを繰り返していたそうだし
これはもう確信犯だろう。
ベルディアはオーク並みの変態アンデッドだと貴方はギルドの情報に追記しておいた。
情報は大事だな。