このマジェスティックな狩人様に啓蒙を!   作:溶けない氷

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第16話

地面に大穴を穿った爆裂魔法は、すべての不死の騎士団を跡形もなく消滅させていた。

ベルディアと貴方も姿が見えない。

一日一発だけ放てる人類最強の魔法の威力に、その場に居た冒険者達はしんと静まり返っている。

「クックックッ……。我が爆裂魔法を目の当たりにし、誰一人として声も出せない様ですね……」

爆炎が収まった後、ドヤ顔で倒れこむめぐみん。

 

「お前はぁぁぁぁ!何考えてんだ!バカなの!?頭おかしいとは思ってたけどそこまでおかしいの!?」

 

だが倒れ込んだめぐみんは詰め寄るカズマに倒れながら涙目になって言い返す。

「タタタタタ…タイミングはカズマ任せでしたから!私のせいじゃありませんよ!

ふっ、そもそも我が爆裂魔法を発動するときはぶっちゃけこの眼帯のせいでよく見えませんでしたから。

カズマもわかっていたはずです、私の爆裂魔法の命中率が低いなんてことは…

つまりこれは全部走っているアンデッドを目標にしろという指示を出したカズマのせい、私は一切悪く無い。

全部カズマのやった事ってことで」

 

どうもカズマ少年の出したアンデッドナイトとベルディアの一掃作戦は成功したが…

 

「ああああああ、あほかー!お前の爆裂魔法に何かを期待した俺がバカだったわー!」

 

「失敬な!爆裂魔法こそ最強の魔法、現に魔王軍幹部もいまの一撃で倒せたでは無いですか!

ふっ、心配はいりませんよ。

我がライバルのあの狩人はあの程度で死ぬはずもなし…」

「いや、死んでなかったらお前がめっちゃお仕置きされるからな。

俺は知らんぞ」

 

責任をなすりつけ合う人間のクズの図がそこにはあった。

『ついに頭のおかしい紅魔の娘がやっちまった』とか、『名前と頭がおかしいけど本当におかしかった』

周りからは流石の空気の読まなさで賞賛?が上がる。

 

 

「きききき、貴様ら〜!!正気か!?味方ごと撃つなんて魔王軍でもやらんぞ!?」

 

そしてそこには鎧が焦げつつもすくっと立ち上がったベルディアの姿があった。

貴方も立ち上がった、あとでめぐみんはお尻ペンペンだと心に固く固く固く誓いながら。

 

「お、お前…今のでデュラハンの俺ならともかく人間のお前が無事ってどうなってるんだこれ…」唐突な爆発には慣れている、あの程度の爆発はアメンドーズビームで慣れたものだ。

すなわち爆風より早くローリングすれば無問題。

あの程度で死んで心折れていてはヤハグルではたちまち壁の花の仲間入りである。

「いや、爆風より早く動くとかおかしいだろ。

っていうかお前大丈夫なのか?あの街の連中に嫌われてるんじゃないのか?

俺ならともかく、同業者のお前まで纏めて撃つなんて…

よかったら魔王軍の職を推薦紹介してやろうか?」

 

提示された月給は間違いなく王国の最強冒険者パーティーがクエストこなしていての収入と同額かあるいは上回る。

しかも固定給なのだから安定度では段違い、この時点でなぜ王国がまだ生存できているのか不思議だった。

なんと、アクセルの街の眼前で敵の引き抜き勧誘を仕掛けられてしまった。

だが古来より有力な敵の武将を引き抜くのは最も効果的な戦略である。

「うえ…、口の中がジャリジャリする…」

近くの穴では自称女神は起き上がっていた。

彼女も巻き込まれたらしい、貴方よりも爆心地には近かったはずだというのに無傷なのは流石の耐久力と言うべきか。

それとも無駄に頑丈なのか…

 

貴方は古い狩人(時計塔のマリア様)の遺骨に感謝した、

まことに美しい御方は、死してなお骨の一欠片と雖も美しいものだ。

ああ、美しいマリア様…その身体は血の一滴、骨の一欠片まで美しい。

貴方の身体に流れる血の一部には確かにあの御方の物が混じっている。

 

とはいえ今の戦闘と加速の業によって水銀弾を使い果たしてしまった。

貴方はちょっと休憩とベルディアに提案し、自らの血を抜いて銃弾の代わりとする。

「お前…自分の血を武器にするってなんか魔族っぽくね?

本当にそれ人間のスキルだろうな?」

人間(上位者)なので安心してほしい。

 

「まてぇぇぇぇ!このダクネスが相手になる!」

すると今度はあの頭のおかしいクルセイダーが爛れきった情欲も丸出しで駆けてきた。

 

「さぁ!この私の身体目当てでやってきたデュラハンめが!

どうせこの前私を慰み者にできなかった腹いせに

今度は私をこの場で倒して辱めてお約束の公衆面前での

女騎士孕ませ陵辱でもしようという魂胆だろう!

そんな事はさせんぞぉ!この絶倫デュラハンめ!

さぁ!どこからでもかかってくるがいい!」

 

「ひ、人聞きの悪いことを吹聴するんじゃ無い!

もうやだ!この街って初心者向けのくせにこんな変態ばっかなの!?

変態の巣窟なの!?変態の街アクセルって表記にすっぞコラ!」

 

魔王軍の地図で変態の街アクセルという表記になってしまうピンチであった。

更に女騎士を庇う様に、今まで静観するばかりだった他の冒険者達が躍り出た。

数に任せて、たった一人になった首無し騎士を取り囲む。

「ダクネスさんにそんな事はさせないぞ!このエロデュラハンめ!」

 

「違うって言ってるだろ!あーもう!死にたいらしいな…貴様ら」

首なし騎士は遂にキレてしまったようだ。

「ビビる必要はねぇ! 直ぐにこの街の切り札がやってくる!」

「ああ、魔王軍の幹部だろうが関係ねぇ!」

「一斉にかかれば死角ができる!囲んでやっちまえ!」

貴方は貧血になったので補給していた、がんばんなさいよー。

すると、首なし騎士は頭を放り投げ落ちる事ない頭を中心に中に瞳を描き出した。

上空の視界から周囲の状況を文字通り見下ろし、自由になった左手で大剣を掴んで周りから襲ってきた全員を即死させる。

なかなかの手際だ、周囲への攻撃手段に乏しい貴方は感心した。

 

「アンタなんか、今にミツルギさんが来たら、一撃で斬られちゃうんだから!」

魔法使いの少女の一人がそう声を張り上げる。

ミツルギ、確かアクセルの街での強力なソードマスターだ。

そういえば彼はどこにいるのか、貴方は彼が魔剣を売りはられて魔剣探索の旅に出たことなど知る由もない。

ついでに言うとそれを実行したのがカズマ少年だと言うことも。

それにしても相変わらずこの街でのエースとは貴方ではないらしい、残念なことだ。

もっぱらソロで行動しているのが仇になった、ゆんゆんは世間では空気みたいなものだから除外。「ではそいつが来るまで……、持ちこたえられるかな!?」

次に魔王軍の幹部に立ちふさがったのはあの変態女騎士だった。

「よせ、ダクネス! お前の剣では無理だ!」

「守る事を生業とする者として、譲れない物がある!

さぁ!魔王軍の幹部よ!私の体は蹂躙できても…この街の人々には手を出させはしないぞ!」

「変な妄想はよせ! 俺が誤解されるわ!!」

だが残念ながらベルディアのプロファイルには趣味:セクハラという追記情報がしっかりと記載されているのでもはや誤解でもなんでもない。

ダクネスとベルディアが剣を重ねるが、ダクネスが攻めると例え相手が止まっていても当たらないらしい。

「ええい、期待はずれだ!」

その後もダクネスが貴方視点から見ればワザとベルディアが彼女を殺さないように

鎧を削いで嬲りものにしていた。

それに興奮しているが、今のままでは本当に危ない。

 

BGM 灰よ

 

遂に見かねた貴方はようやく鉈を振るった。

ガキンという鋼と鋼が撃ち合う轟音と共にベルディアが貴方のノコギリ鉈を食い止める。

貴方は爆発のダメージを回復させた、冒険者の死は無駄ではなかったのだ。

「なるほど、あくまでも魔王様に逆らおうというのだな。

俺としても貴様ほどのものとやりあえるのは嬉しいぞ」

 

30秒後

 

「ぐはっ!馬鹿な…この魔王様の加護を受けた鎧に亀裂だと!

チート持ちの神器ですら傷もつかんというのに…貴様…一体何者だ!?」

貴方の苛烈な攻撃にベルディアは膝をついた。

貴方は所詮は狩人に過ぎない。

だが貴方はベルディアに実力を無駄に分散させていると感じた。

一週間後に死ぬ呪いなど一瞬の判断が生死を分かつ実戦で何の役に立つというのか。

砕けぬ鎧にしても関節や隙間がないわけではあるまいし、同じ場所に連続して攻撃を受ければこの通りである。

要するに慢心して弱くなった。

「ふふふふふ、全くもってその通りだ。

呪いだ加護だなどと騎士道が聞いて呆れる。

結局は俺もチート持ち同様に能力に頼って修練を怠った結果がこれか…

だがな…」

ベルディアは頭を空中に放り投げ、両手で大剣を構えた。

凄まじい闘気が彼の全身から迸る!

「行くぞ勇者よ!この一撃で全てを決めてくれる!」

ベルディアの渾身の一撃が向かってくるが、貴方はこれを奥義で迎えた。

奥義:ガンパリィ!

 

「グエッ!」

無防備に空いた一瞬の隙を狙って銃弾を叩き込み、崩れた体制に狩人最強の一撃を叩き込む。

奥義:無慈悲な内臓攻撃!

「ごバァ!」

肺腑が潰れる音と共に周囲に血を撒き散らしてベルディアは倒れた…

遂に貴方の勝利だ、さてどうしたものか…

貴方は敬意を表してベルディアに油壺をぶつけると鉈に炎を纏わせる。

「あれ?あれあれ?まさかとは思いますけど…」

そのまさかである、安心して成仏してもらいたい。

貴方はベルディアの心臓に改めて炎の鉈をぶっ刺した。

「あづぅぅ!」

だが安心してほしい、苦しむのは一瞬だ貴方はカチカチと音を立てる仕掛け爆弾を埋め込んだ。

「え?なにこれ!?爆発!?畜生!やっぱお前もあの頭のおかしい連中の一味だチクショー!」

爆発音とともに彼は砕け散った。

空に彼の後ろ姿が見えたような気がする…無茶しやがって…


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