「すみません、お金かしてくれませんか?」
あなたは目の前の奇妙な格好をした少年に金をせびられた。
貴方はどれくらい必要なのかと尋ねると、
「はぁ…冒険者登録に必要な2000なんですけど…」
あなたは何故、彼は冒険者になりたいのか聞いた。
別に生活の糧とするのなら無理に冒険者登録することもないだろうと正論を言った。
あなたは命をかけるリスクに比して報酬は日雇い労働程度では釣り合いに合わないと忠告してやった。
「ええ、そりゃまぁそうですね…」
と冒険者になって英雄に!そして一攫千金となんて馬鹿なことは考えるもんじゃないと常識を言うと柱の後ろの少女が奇妙な少年を引っ張って言った。
「ちょっとカズマ!何言いくるめられてんのよ!」
「ふざけんな!そんなに金欲しけりゃお前が頼め!」
「だってあいつ怖いんだもん!職場でいきなり武器持ち出すような奴よ!それにお淑やかな婦女子に物乞いさせろっての!?」
何やらやいのやいのと騒いでいる。
若いとは素晴らしいことだな、と貴方は柄にもなく思った。
水色頭は見たような気がするが…気にしないでおこう、似たような人間などいくらでもいるではないか。
金がないのは辛いな、だが貴方は見返りもなしに遺志を渡すような間抜けではない、血か啓蒙かそれとも腐った内臓でも請求しようかとも思ったが
貴方はヤーナムに来たばかりのことを思い出した、あの時は何もわからずに輸血されると闘争本能のままにウェアウルフに殴りかかってしまった。
普段着で、そして素手で。
結果は返り討ちだったが、貴方はその後使者たちから武器を授かった。
その時のことを思い出せば、あの時に武器を恵んでもらわなかったら心折れる回数はもっと増えていただろう。
貴方はガタと椅子から立って少年に2万エリスを渡してあげた。
「え?いいんですか?こんなに?」
貴方はかつては自分も少年のように訳もわからずに困っていたことがあった、なので助け合うのは当然だと言った。
「マジすか、いや本当にありがとうございます。
ほら、アクアもお礼言っとけよ。めちゃいい人じゃないか」
アクア、と聞いて貴方は不思議に思った。
それは自分をここへと送り込んだ上位者の名前であった。
あるいはゴース…あるいは…ゴスムのように単なる名前が似ているだけかもしれないが…
ちょっと水色頭を見る…名前も顔もよく似ている人間だ、実に匂い立つ…たまらぬ血の匂いで誘うじゃないかと思った。
そして思い出した、これはあの女神だと。
貴方は久しぶりだなとアクアに言った。
「知らない!知らない!人違いデース!私はアックア!知性と美貌の女神アクア様とは別人デース!」
「お前何言ってんだ…とうとうオツムの方もダメになったか
お前何してこの人を怒らせたんだ?」
なぜ彼女がここにいるかはわからないが、この少年も別世界へ呼んだのだろうと貴方は言った。
「え、ってことはあなたもこのだ女神に異世界転生させられたんですか?」
イセカイテンセイというのが何かはわからないが、確かにあなたはこの女神に呼ばれたと言った。あなたは少年に家(夢)で大切な人(人形)とゆっくりして、仕事(狩り)に行こうとしたら召喚(鐘の音)で気づいたらここにいたと言った。
「アクア!お前何やったんだ!思いっきり誘拐じゃねぇかそれ!そりゃ誰だって怒るわ!」
「私は悪くないもん!だって生きてる人が来るとか想定外だったもん!」
あなたは別に怒ってはいないと言った。
「ほら見なさいよ!その人だって怒ってないって言ってるじゃないからセーフよ、セーフ」
今までにもっとひどい目にあったこともある、人間を生贄に捧げるカルトに突然ボコられて袋に詰められて拉致された事もある。
それに比べればどうということはないと言ってあげた。
「おい!遠回しにめっちゃ怒ってるぞ!
いや本当にすみません、こんなだ女神で…あとできつく言っときますので」
そもそも上位者ならば気まぐれや自分の勝手のために人間を使うなど普通に行ってやったら後は何が起ころうと放ったらかしである。
あるいはゲールマンのように使い潰すかだ。
それに比べればアクアは少年の面倒を見ている分遥かに責任感があるのだろうと思うのだが。
カズマというのは律儀で真面目な少年だ、ヤーナムにはいなかったタイプだ。
強いて挙げるならギルバート(故)だろうか。
つまりヤーナムに放り込んだら30秒で死ぬタイプだ。
あなたは少年に2万エリスを渡すと、登録費用の他に武器・防具・消耗品を揃えて狩に備えよと言った。
今はあなたが助言者なのだ、お望みなら二人を介錯してあげよう。
「やだ、この人ぐう聖常識人すぎ…?」
少年と少女は感謝しながら登録カウンターに向かっていった。
あなたも席を立った、予約してあるとりあえずの拠点である宿屋に行く予定だ。
…
上位者であるあなたにとって寝床などどこでもいい、そもそも夢と一体化したあなたは存在を薄れさせればいつでも狩人の夢に帰れる。
あるいは狩人の夢こそあなたの故郷なのか。
しかしいつまでも現実世界に拠点無しでは怪しまれてしまうし、面白くもない。
啓蒙低き連中に合わせねばならないのが、狩人の辛いところだ。
あなたは血を払うと狩人の格好のまま、宿屋にチェックインした。
「お客様に会いたいという方がおられますが」
すると宿屋の主人が貴方に訪問者がいると知らせてくれた。
見れば宿屋のレストランで鎧に身を包んだ女性が待っていた。
「お初にお目にかかる、私の名はダクネス」
ダクネス…もしかしてDarknessのつもりだろうか、貴方は典型的な啓蒙低き偽名に目を細めた。
「グゥ!そ…その目…間違いない!貴方こそ私の探していた人!」
貴方はこんな少女を知らないし求めてもいない、何の用事かと訪ねた。
「そ…その汚物を見るような目…くっぅぅ!頼む!私を貴方のパーティーに加えてほしい!」
貴方は普段はパーティーなど組まない、だが囮があれば狩は楽になる。
少女には自分といると厳しい目にあったり、実力が足りないと死ぬかもしれないのでやめておいたほうがいいと忠告した。
もっぱら敵の囮として攻撃を一身に受けてもらい、自分が攻撃を担当するので並の防御では耐えられない。
「ひ…ひどい目だと!いったいどんな目に会うというのだ!?頼む、教えてくれ!」
貴方は自分の身の回りで起こった事を考えた…そうだな…たくさんありすぎて困るが…
1:ギルバートのことについて話す
2:ガスコインについて話す
3:アリアンヌについて話す
3にしてみよう。女性でもあるし、貴方は娼婦のアリアンヌについて話した。
貴方に血を分け与え、文字通り血肉を捧げてくれたが遂にはオドンに孕まされて異形の子を産んで正気を失った。
ここまで狂った話をされればこの少女も引き下がるだろうと思った。
「くっぅぅ!?純潔を捧げ娼婦のように尽くしたのにゴミのように捨てられて、挙句は陵辱異種姦の上に出産陵辱だと!?どこまで私を辱めれば気が済むんだ!?」
そこまでは言っていない、随分と啓蒙が高まったなと思った。
「頼む!是非にも私をパーティーに加えてくれ!」
しつこい女性だ、なら試しに使ってみるのでそれでお互いに良ければ正式なパーティーを組むと言った。
ところで彼女はもう誰かとパーティーを組んでいるのだろうか?
「ああ、既に一人…クリスという冒険者とパーティーを組んでいるが…」
それなら貴方よりも先に既にコンビを組んでいるクリスという人物に許しを得るのが筋というものだろうと言った。
三人で組むにしろ、ダクネスが離れるにしろ話を通さなければならないだろうと言った。
「むぅ!た、確かに貴方のいう通りだ…わかった!クリスに話してからまた来る!では失礼する」
実にそそっかしい少女だ、啓蒙が足りないに違いない。
そうだ、狂人の叡智があるから今度これをプレゼントしてやろう。
貴方は彼女がメンバーになるのであればアメンドーズが見えるくらいにまで啓蒙を高めるべきだと思った。
あるいは血を受け入れさせて穢れた血族の伴侶にしてもいいかもしれない。