ノースティリスとヤーナム、どっちが最悪に魔境かって?
…うーん
魔王軍の幹部、ベルディアを狩ってからは貴方の生活もしばらくは落ち着いたものだった。
それもこれも今は紅魔族の里に例の懸賞金で何かと注文したり、工房そのものを拡張したりで貴方もすっかり狩人の本業を中断しているからだ。
今は狩りにはゆんゆんがもっぱらソロで行っている。
今はまだ未熟だが、きっと近い将来に聖杯デブマラソンもできるようになるだろう。
紅魔族の基本スタンスは売られた喧嘩は買うというものらしい。
実に貴方と気が合いそうな民族では無いか、貴方もよく喧嘩を売ったり買ったりして殺したり殺されたりしていた。
特に酷かったのが悪夢の辺境だ。
悪夢というだけあってアクセルでいうと、
皆ちょっと近所の店に飴を買いに行くくらいのノリで殺し合う。
特に理由はないが殺し、暇なので殺し、通りすがりに殺し、挨拶がわりに殺す。
だが心配はいらない、どんな人間でもちょっと殺したり殺されたりすれば立派な狩人になれる。
狩りとは才能など無くとも手を血の海に浸し、死体を天高く山と積むだけで誰でもゲールマンの域にまでいつかは達せられるものだ。
時空の歪んだヤーナムで一体どれだけの狩人が殺されては蘇り、また殺されたのか…
ヤーナムは今でも魔界が溢れかえっているのです、きっと。
皆も異世界転生の折には是非ヤーナムに転生しよう。
ヤーナムは血と臓物と汚物に塗れた最高のファンタジー異世界だ。
獣(獣狩り)はいても除け者(殺されずに済む者)はいないのだから。
本当の愛(瞳と啓蒙)はきっとそこにあるのです。
アクセルの街は奇妙な事に殺しあいがほとんどない、別にヤーナムでも殺しあいは少し活発なだけだが。
おかげで死体が増えすぎて下水道から溢れかえっているなんてしょっちゅうである。
ヤーナムの死体の半分ほどは貴方が作ったいう自負がある。
もっとも夢を見るとまたいつの間にか復活しているのでまた殺し直しであるのが残念だ。
いつかはゆんゆんも死体だまりに脚を浸ける事になるのだろうか?
ならば…連盟はお前(ゆんゆん)を迎えて僥倖だった…
そして貴方が今2番目に有望と考えているのはカズマ少年である。
彼は確かに弱い、今のままではヤーナムに行けば5秒と持たないだろう。だがそれでこそ人の子である。
そしてその弱さを克服し、持ち前の狡猾さで生き延びることができれば貴方と同じように立派に獣狩りの狩人として再誕するやもしれない。
もしくは単に死ぬかもしれないが。
どうすればいいのだろうか…ふむ、一度騙して輸血して殺して復活したら成功するかもしれない。
生き返れば成功、死ねば失敗。
しかしこのアクセルの街では命が非常に重い。
復活が軽々しくできないこの世界ではたかが命が血の岩のように貴重な存在になっている。
故に他人に気軽に輸血を勧めて殺すか死ぬまで観察という手段は滅多に取れない。
実に残念だ。
と、貴方が冒険者ギルドで考えながらとカズマ少年がトボトボとギルドに入ってきたのが目に映った。
貴方は挨拶をするかちょっと殺してみるか少しだけ迷ったが、殺すのはいつでも出来るのでとりあえず挨拶した。
「あ、狩人さん…はぁ…生きるって辛いですね」
何かはわからないが、この若者は早くも人生に疲れ始めたらしい。
季節は段々と冬になりつつある。
普段は馬小屋に泊まり込みの冒険者も流石に冬の寒さをそこで過ごそうという者はいないので宿屋住まいになるのだが…
「馬小屋が…寒くて辛いです…」
はて?彼のパーティーも他の冒険者と同様に報奨金を貰ったはずでは?
「それがですねぇ…あのめぐみんが爆破した城の修理費なんですよ!」
聞けば、あのベルディアが占拠していた城は廃城では無くてこの地方の領主の持ち物だったらしい。
それなら占領されたままにするなよと貴方は思った。
そして今の彼らはその爆破した城の修理費を請求され、莫大な額の借金を背負う羽目になったのだという…
その額なんと5000万エリス…
最弱職業の少年が稼げる額ではない。
…流石に哀れなのではないだろうか?
獣狩りのシモンの1/10くらいは哀れだ。
いくら呪われた冒険者とはいえ…あんまりじゃぁないか…
「いやいやいや!別に呪われてませんからね!」
本当だろうか?この不運ぶり、この少年はもはや呪われているとしか思えないのだが…
「本当に呪われてるわけじゃ…あ、あれ?」
カズマ少年の仲間といえば…
自称駄女神
頭のおかしい爆裂娘
性騎士(笑
ヤーナムの地でもここまで強烈な個性の面々はいな…
いやいたな
金色三角頭のキチガイミンチメーカー、嫉妬!?嫉妬なんですかあぁ!?
ツンデレ鴉頭の狩人狩り、あれは私の獲物さね。
鳥籠頭おじさん、Majestic!
こういった、あまりにも強烈な個性の持ち主達に比べればまだおとなしい気がする。
「オレ…呪われてませんよね…」
大丈夫だ、呪われた地ヤーナムから来た貴方は断言した。
まだ許容範囲だ。
それにしても城を破壊したのはめぐみんなのだから借金はめぐみんのものなのでは?
「いや…長い間、付き合って回収したのもオレですし。
それにパーティー組んだ以上はオレにも責任があるから」
なんと、立派な見上げた責任感の持ち主ではないか。
ヤーナムでは到底考えられない人格者だ、あの街の連中は余所者なら死のうが殺そうが御構い無しという態度だった。
それにしても占領された城は放っておいているというのに幹部が討伐されたら責任を棚上げにして八つ当たりとは。
どうやらここの領主とやらは人面獣心のケダモノらしい。
獣・・狩らねば(使命感
「とにかく今は金がいるんです。
このままでは冬を越せずに凍え死んじまうし、めぐみんの心労もヤバイんです」
貴方は流石に他の冒険者達が暖かい寝床を手に入れた現状だというのに彼らの状況には同情した。
「え!?じゃぁお金かしてくれるんですか?」
それは無理だ、貴方も使ってしまった。
「そうなんですかー、はぁやっぱりな…」
彼のパーティーメンバーも掲示板の依頼を見ているが、どれもこれも髑髏マークがどっさり付けられた高難易度の物ばかりだ。
彼の前途は暗い。