このマジェスティックな狩人様に啓蒙を!   作:溶けない氷

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フロム主人公
味方の死をものともしない蛮勇 
卑劣な戦法ばかり思いつく悪知恵 
無分別な暴力
勇 知 力の3つを兼ね備えた勇者(善とは言ってない


第26話

貴方が人形屋敷の前にやってくると

既に屋敷の門の前にはカズマパーティーがやってきていた。

穢れた血の色の月が夜に上がり、館で人形狩りの夜が始まるだろう…

「な…なぁ…なんかメチャクチャ不気味なんだけど…」

昼間のはずだというのに既に空には雲がかかり薄暗い。

カズマ少年が赤い月のもとで紅く染まった元貴族の屋敷の門の前で入ることに二の足を踏む。

貴方は少年に変わって扉を開けようかと提案した。

「お、おお。あ、お願いします」

ギィ…ギャリギャリギャリいう錆びた鉄の擦れる重々しい音とともに門が開かれる。

敷地に足を踏み入れるとあの懐かしい感覚が蘇る。

脳が震えるあの感覚だ。

啓蒙+1

BGM ヤハグル

Maledictus

Donum Libas

Inficimur

Maledictus Bestia

Pater do si donus

Inficimur

Argentunum Aqua in tenebris

 

ああ、歌が聞こえる…貴方を呼ぶ歌が

上位者を呼ぶ声が、脳に瞳を求める者達の祈りが…

再び赤子の泣く声が辺りに響く、おぎゃぁおぎゃぁおgyaaaaaaa

あの泣き声を止めてくれ、さもなくば皆獣になる

貴方は記憶を手繰った、だがなぜだろうか?

貴方の知識も記憶も全てはあのヨセフカの診療所から始まっている。

あの老人は何者だったのか?貴方はなぜ血の医療を受けたのか?

以前の貴方がどんな人間だったか?知るものはいない。

社会常識や世界については新聞や本で知った

イギリスの首都はロンドン、元首はヴィクトリア女王

それくらいだ。

 

 

問題の幽霊が出ると言う元貴族の屋敷は、アクセルの街中心部から外れた郊外に建っていた。

墓地を隔てているとはいえ案外貴方の家からは近かったようだ。

幽霊屋敷の悪評が付いているとは言え、元貴族の別荘は貴方の家よりも大きい。

とはいえしっとりと、それでいてがっしりとした貴方の狩人の隠れ家調と比べるとどことなく軽薄な雰囲気がある。

不動産屋の話では部屋数が少ないとの事だったが、今のパーティメンバー全員を住まわせても尚部屋は余る規模であろう。

貴方は今回の依頼ではカズマ少年達の邪魔をしないように大家から念には念を入れて注意された。

聞けば、あのアークプリーストの腕前を見込んでの依頼ゆえ、貴方は人形の件でも武力行使禁止になってしまった。

 屋敷への少年の仲間達の評価は上々である。

自称女神は自らに相応しいと豪語、普段は冷静な魔法使いの少女も今日ばかりは年相応に興奮で頬を赤らめていた。

彼らは瀆神的な何かを秘めた館へと入っていく…

それが惨劇の始まりだとも知らずに…

「勝手に不吉なナレーションつけないでくださいよ!」

カズマ少年のツッコミが入った。

「とりあえず、中の様子を見てみようぜ。

幽霊は夜になってからだろうし、もし出て来てもアクアに任せれば大丈夫だろうからな」

貴方はその点にそこはかとなく不安を感じた。

ヤーナムで大丈夫は、まず間違いなく誰か死ぬ前兆である。

大丈夫じゃないだと、たくさん死ぬ(断言

そして案の定あの自称女神は玄関先で霊視をずっとしている。

貴方の幽霊への対処とはまるで違う…死んでいても殺してやるが貴方の信条だ。

彼らは館に入ると一命を除いては掃除を始めた。

なるほど、だが確かに掃除とは重要だろう。

ヤーナムはどこもかしこも戦場跡のように荒れ放題だったが、ここには人の営みがある。

だが残念ながら貴方には興味がない、住む気など無い。

とはいえ彼らに頼られて人の営みを行うのも悪くは無いだろう。

「ああ、狩人どの。すまないが、この台所の掃除を頼まれてはくれまいか?

どうにも私は不器用なところがあってな」

なるほど、彼女はまるで血族狩りに赴くあの青年のように掃除をしようとはした。だが技量が足りないのか肝心の台所はあちこちに割れた陶器やガラスの破片が落ちている。

もちろん、お互いこの館を清潔にいたしましょう…

貴方は鉈の代わりに箒を、拳銃の代わりにモップを持った。

その間にも少女騎士は色々と世間話をしてくる。

出身は?とかウィズさんとはうまくいっているのかとかだ。

貴方は男性だ、ゆえに女性関連に関しては全くわからない。

大体が娼婦を呼びつえて血を集るような男なのだ。

「…ここまで鈍感だとは…」

何がだろうか?

貴方はそういえばカズマ少年についても知らなかった。

「ああ、カズマか?不思議なやつでな。

出身はニホンとかいう国らしいんだが私も聞いたことはない」

ニホン…貴方はいつだったか聞いたことがあるような気がする

「へぇ、貴方は知っているのか。どんなところなんだ?」

とはいえ貴方もよくは知らない。

高名な芸術家がニホンの美術品に感銘を受けて真似をしたとか

作品にその国の印象を取り込んだとか程度だ。

「へぇ…芸術の国か。な、なんというか意外だな。

カズマは到底そういう風には見えないが…」

確かに彼はどう見ても芸術家といった風ではないな。

後はサムライとはいう騎士階級が有名だったり、ニンジャとかいうマスターシーフのようなのとかゲイシャが究極の暗殺者だとか…

そういえば貴方が知る狩人にヤマムラという名前の者がいたがカズマとどこか名前のつけ方が似ている気がする。

彼もサムライかニンジャなのだとしたら、ニホンという国でも獣の病が蔓延しているのだろう。

カズマ少年はとても獣を狩れるような体躯ではなかったが…

「…な、なんというかカズマのイメージとは全然噛み合わないな」

芸術家、騎士、暗殺者、狩人。

ニホンとは貴方のような穢れた狩人と獣が蠢きながらずっと寒くて、暗くて、とっても優しい画…。

きっといつか、誰かの居場所になるような絵が描かれる絵の中の国というイメージになりつつある。

「そ、そうだな。カズマもああ見えて意外と苦労していたんだろうか?」

だが貴方の中のカズマ少年のイメージは狡っからく難題を躱して成果だけ手に入れるというパッチのような人間であるし彼女達もそのようだ。

とはいえ、奴ほどのクズではないし悪党でもない。

「ふふっ、どこの世界にもはぐれものはいるということか。

ありがとう、なぜだが安心したよ」

それは彼女の生まれも関係しているのだろうか。

貴方が見るところ、この少女騎士にはカインハーストの騎士とは違った騎士の様相が見える。

下僕を騎士と言い換えただけの騎士ではない。

貴方は正直なところ彼女の騎士としてのあり方に憧憬すら覚える。

金銀の刺繍が施された華麗な狩装束に身を包んでも所詮は狩人以上にはなれなかった彼らや貴方とは違う人種の彼女だ。

これでこうやってまともに仕事をしていたり、色事を交えなければ実に有能なクルセイダーに見えるのだから不思議だ。

淫乱なのだろうか?人は見かけによらぬもの。

豊かな乳房を見せつける娼婦のような格好を恥じも外聞もなくしているルナ嬢やゆんゆんとは違って肌を隠しているが…

とはいえ思春期の少女に面と向かってそれを指摘するほど野暮ではない。

この世界の女性冒険者やそれに類する者は男性との性交渉を積極的に求め

できるだけ強い雄の子孫を求めるらしい。

この国の王家もまたある意味では血の医療に近しい。

冒涜的なまぐわいによって王家の身体能力を高いものとしていると聞く。

貴方は血によって人となり、人を超え、また人を失った。

彼女らもまた血のまぐわいによって赤子を得ることを望む、それは穢れであり生命の本質そのものだ。




まぁ特別な血の調整ってことは男女の繁殖を調整してるんだろな
馬にサラブレッドが許されるなら人間もまた…
古代からある考え出しね

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