このマジェスティックな狩人様に啓蒙を!   作:溶けない氷

27 / 29
第27話

 

貴方は眠りについた。

本来なら、狩人にもはや夜が訪れることはあっても眠りは訪れぬ。

 

「お待ちしておりました」

唐突に貴方が夢を見ると、かつての狩人の夢によく似た空間にいた。

だがわかる、ここも夢の中だと。

茶会の椅子に貴方はいつの間にか座っており、目の前には輝くばかりの美貌を持った三人の女性が茶会の席に座っている。

傍らには人形が立ち、貴方達四人に紅茶を淹れている。

貴方は知らないが、知っている。

この三人は貴方の娘達だと。

なるほど、人間でありながら上位者であるこの三人にとっては夢の世界ならば過去と現在、未来を同時に存在させる程度はたやすいことなのだろう。

月を思わせる白さは貴方の血族の証か。

人形の子 フリーデ

ウィズの娘 ユリア

ゆんゆんの娘 リリアーネ

彼女達の血の香りはなるほど母親に実によく似ている。

実に芳しく甘い香りがするじゃないか。

そして彼女達が求めるものはまさに蒼ざめた貴方の血だ。

「初めまして…父上。何故貴方をお呼びしたかはもうお分かりですね…」

「ああ、父上。相変わらず甘い香りの父上。

貴方の血を受け継いだことを感謝いたします」

「ゆえに父上、今一度”今”の貴方と血を私たちにお授けください。

聖杯が求めるままに、私たちの血を更に濃いものとしてください」

愛しい娘よ、娘たちよ。

私を殺すのか、あるいは私とまぐわい子を成したいのか。

あるいはその両方か。

驚くことはない、貴方にしても聖杯にそれを求め続けていたではないか。

愛すること、殺すこと。

どちらも同じ。

三人の姉妹の包囲陣はまさに鉄壁であった。

貴方は百戦錬磨の狩人だ、そして彼女達も貴方の経験を踏襲し戦術に反映させている。

驚くことではない、貴方の戦術は我流であり荒削りだったが

未来の貴方は娘達のために自らの経験を体系化し

効率的で合理的、一切の無駄を省いた狩の技術として貴方の娘達に継承した。

マリアの遺志を持つ人形

天才アークウィザードのウィズ

紅魔族族長の娘 ゆんゆん

考えてみれば母親となった三人は貴方とは違う天才であった。

天才の血筋に凡人が磨いた戦術を組み合わせるとこうなるのかという良い例である。

フリーデは貴方と人形の間に生まれし娘だ。

ゲールマンの鎌を巧みに扱い短銃から強力な銃弾を放ってくる。

単純な身体能力で見ればあのゲールマンすら越えるだろう。

それでいて戦術はゲールマンの完成されたそれを堅実に踏襲し、基礎に忠実だ。

つまり付け入る隙が極めて少ない。

貴方は回避機動を取るが一歩ごとに追い詰められていく。

 

ユリアは刀と魔法と銃を使いながら貴方を追い詰めていく。

貴方はその詰めを回避するために少しづつ傷ついていく。

体力とスタミナを犠牲にしながら致命傷を回避していくのだ。

ウィズのアークウィザードの遠距離魔法と狩人の戦術の融合がこれほどまでに厄介だったとは思ってもいなかった。

言って見れば機動性の高いガトリング砲のようなものだ。

 

リリアーネはゆんゆんの娘。

高い魔力で武器を強化してくる最も貴方のスタイルに近い狩だ。

最も基礎の狩であり、ゆえに非常に危険だ。

貴方が少しでも隙を見せれば内臓を抉ってくるだろう。

全ての攻撃・フェイントは即死攻撃以外を導くための前座でしかない。

一撃必殺。

そして銃弾が炸裂するたびにどこかが抉られる。

銃弾に炸裂する魔法術式を埋め込んでいるらしい。

あくまでも空間の攻撃で決して避けられない。

 

貴方は三人の娘達と戦い、そして全身全霊を尽くして殺された。

三人の刃物が貴方の身体を貫き、臓物をえぐり取る。

「父様、ありがとうございました。

また会いましょう」

 

貴方が殺される様を人形は館から見ていた。

「ああ、狩人様。貴方もまた、夢に囚われるのですね」

 

貴方は夢の中で死んでカズマ少年の屋敷の中で再び目覚めた…

素晴らしい夢だった、貴方の娘達は素晴らしい狩人達だった。

これこそ彼女達と子作りに励む強い理由になるだろう。

貴方はカズマ少年にもぜひ子作りを勧めようと思った。

人の中の淀みを根絶するのではない、より純化し

清いものへと昇華するのだから。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。