このマジェスティックな狩人様に啓蒙を!   作:溶けない氷

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魔王軍預言者「こやつが真なる勇者ですぞ!」
予言の水晶玉に映ったのは…全身血塗れ内臓まみれで獲物に内臓攻撃する狩人だった…
これには魔王様もドン引き
「これは相手にしたくないキチガイですわ…」
だが心配はいらない、彼はヤーナムではむしろ常識的で良識的な方だから



第28話

貴方は死んで目覚めた。

死と目覚めは非常に似通っている。

肉体の死と夢での死は時に相反し、時に同一のものとなるのだ。

さて、貴方はカズマ少年達が除霊に来ている屋敷の中で目覚めた。

一室を借りて貴方は人形狩に来たのだ。

といっても夜にならなければ動き出さない程の低級な人形であり、貴方の愛しい人形とはエブリエタースと虫程の違いがある。

貴方の人形への愛はゲールマンのマリアへの執着にも似たものである。

ゲールマンはマリアを愛していたのだろうか?

抱きたかったのだろうか?

いずれにしろ失って後悔するくらいなら抱くべきだったのだ。

「ああああああああー!!」

どこからか啓蒙皆無の自称女神の叫び声が聞こえる。

獣でも出たのだろうか?あるいは恐ろしい獣や聖職者の獣にでもなったのだろうか?

まぁ良い。

「『ターンアンデッド』! 『ターンアンデッド』! 『ターンアンデッド』! 『ターンアンデッド』! 『ターンアンデッド』! 『花鳥風月』! 『ゴッドブロー』! 『ターンアンデッド』! 『ターンアンデッド』! 」

騒がしい音が屋敷の中から聞こえてくる。

 

すると貴方は向こうからいつかの少女騎士ダクネスが駆けてくるのが見えた。

爛れた情欲さえ発していなければカズマパーティの中では最も有能なメンバーなのだろうが。

貴方は何があったのかをダクネスに聞いた。

「ああ、アクアが秘蔵の酒を飲まれたとかで幽霊退治に精を出していてな。

申し訳ないが私はこれからクルセイダーとしてアクアの手伝いをするんだ。

本職には及ばないが私も聖騎士だからな。

よかったら貴方も手伝ってはくれないだろうか?」

貴方は屋敷を火に包んだり廃墟にする事なく手伝うようにウィズから言われている。

尤も浄化魔法が使えない以上はアクアに頼りきりになると思うのだが。

それにしてもカズマ少年とめぐみんは何をしているのだろうか。

いつのまにか獣になっていたので通りがかりに殺しました、というギルバートみたいなことになっていなければいいのだが。

「カズマは自分は今回は役に立たないからと寝てるんだ。

全く!彼も貴方を少しは見習ってほしいものだが!」

 

貴方はいつもの通りに狩衣装を来ている。

眠る時もだ。

対して彼らはそれぞれ寝巻を来ている。

狂気と殺戮、絶望と死体の獣狩りの夜を過ごした貴方と彼らとの価値観の違いは果てしなく大きいようだ。

すると肩で息をしながら疲れたのか息を上げながら自称女神のアクアが戻って来た。

あれだけのペースで魔法を連発していたのだからさぞやスタミナと水銀弾を消費したのだろう。

「ゼーゼーぜーっ!はー。

キリがないわね、あら?応援は二人だけ?

カズマとちびっこはどうしたのよ?」

「ああ、カズマとめぐみんなら寝てるんだ。

最も除霊に対応したスキルを持っていない彼らはいてもいなくても同じだと思うが」

 

「全く!めぐみんはともかくカズマさんはこの人を見習いなさいよ!

仮にも男の子ともあろう者がこの女神アクアを働かせて自分は寝てるんだなんて不敬よ!不敬!

ちょっとは信徒としての自覚を持ちなさいよね!

こうなったら屋敷中の悪霊をかたっぱしから除霊するのを手伝ってもらいます!」

 

とはいえ貴方も除霊に必要な能力があるかと言われれば全くない。

呪詛溜まり、怨霊の乱舞などヤーナムの神秘の力はあるが事態を致命的に悪化させそうな能力ばかりだ。

そこで貴方は二人から離れて屋敷をチェックすると伝えた。

二手に分かれれば悪霊がいる場所を効率的にチェックし負担も少しは減るだろう。

もとより機動性重視の貴方が彼女達と組んでも狭い屋敷の中では動き回る場所が取れない。

「それは構わないが…大丈夫なのか?」

「ダクネス、心配しすぎよ。魔王軍幹部だってチャチャっとやっつけちゃうんだからダイジョーブよダイジョーブ!

ふふん、といっても除霊に関してはアクア様に譲ると認めたわね?

いいのよ?このアクア様を崇めてアクシズ教に入信してもいいのよ?」

 

それは遠慮しよう。

連盟で間に合っている。

 

貴方は借りていた部屋から出て人形の置かれていた部屋に歩いていった。

すると突然通路の向こう側から壺が飛んで来て聖騎士の顔面に直撃した。

「はぁん!な、なんという雑な扱い!

わ、私をまと扱いしてもてあそぶとは!」

なぜか相変わらず攻撃を食らって喜んでいる。

「な!ポルターガイスト!?おのれ小癪なぁ!

このアクア様の力で浄化してやるわよ!」

彼女達は壺が飛んで来た方向に駆けていってしまった。

…貴方は指をパチンと鳴らすと、使者達が床から顔を出した。貴方はヒビが入ったごつい壺を彼らに手渡した。

なかなか分厚い、あの少女は顔に食らっていたが大丈夫だろうか?

ヤーナムに来たばかりの貴方では普通に大怪我しそうな気がする。

使者たちはダクネスの顔に直撃したしゃれた壺を受け取ると被って消えた。

使者たちはお洒落に興味があるらしい、本人達が気に入っているのならそれで良いではないか。

 

 

人形が動くと言うのなら、貴方の人形の良い友達になってくれるかもしれないのだ。

すると通路の向こう側から大量の人形たちが物陰に隠れながら貴方を見つめている。

貴方は実に愛らしいではないかと興味を持った。

貴方はこの屋敷のアンティーク人形に乗り移った悪霊達が人形を動かしていると理解した。

全くもってお話にならない。

所詮啓蒙低き幽霊は死んだとしてもその程度の存在だったのか。

人形は命なき人形が自らの意思と高貴な方の遺志によって生命を形作るゆえに美しく尊いのである。

そこらの縁もゆかりもない幽霊が動かすのではそれはミコラーシュの操り死体と差は無い。

とはいえ人形に宿っているのはもっぱら幼子の霊のようだ。

なるほど、それで遊びたがっていたのだろう。

だが貴方が近づくと人形達はビクッと恐れをなしたように貴方を遠巻きにして更に貴方が近づくと全力で逃げていった。

どうやら貴方は人形の霊達に恐れられたらしい。

貴方の啓蒙高き脳は霊を命ある者として、夢を現実にすることを当然とする。

ゆえに死んだために夢の世界に近くなった幽霊達は貴方から冒涜的殺戮者の匂いを感じ取り貴方を恐れ、逃げていったのだろう。

生きているのなら神様だって殺してみせるとはよく言う。

だが死んでいても殺す事は啓蒙さえあれば誰にでも出来るのだ。

 

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