このマジェスティックな狩人様に啓蒙を!   作:溶けない氷

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精霊 ゴースの遺子
海といえば呪いと海に底は無いという常識により
狩人の啓蒙が生み出した海の精霊、当然カズマ達ごときが相手になる存在では無い


第4話

 

結局貴方はパーティーを編成することに失敗してしまった。

構わない、どうせ鐘を鳴らせば誰かテキトーに来るだろう。

ついでに血に飢えた侵入者も来てこの世界が終わるかもしれない。

ちなみに血に狂った狩人達はどいつもこいつも魔王より強いマジキチ狂人の模様。

狩人様が鐘を鳴らさなくって良かった良かった。

そんな貴方がギルドで何をしようかと椅子に座って待っている。

この前討伐したエンシェント・ドラゴンの銀行振込手続きが終わればまたクエストを受けてもいいかもしれない。

ドラゴンという事で狩りに期待していたが、あっさりと狩れたので貴方は再び聖杯デブ狩マラソンよろしくアクセルクエスト片っ端受注マラソンに精を出している。

血晶石がでないのが辛いが狩という行為そのものを嗜むのが狩人だ。

貴方は難易度の高い狩のクエストから受けていく。

一撃熊の群れとそのネームドボス。

王都から派遣された上級職の冒険者パーティーすら皆殺しにする強力な群れ。

白狼の群れとそのリーダー。

素晴らしいじゃないか、まさに獣狩りのクエストというわけだ。

 

距離が近ければ効率化のためについでにマンティコアとバジリスクを同時に討伐することも辞さない。

貴方が難度が高い方のクエストを順番に3、4枚持っていくと

受付嬢のルナ嬢は何故か疲れた顔をして受理している、鎮静剤が必要だろう。

「貴方ねぇ…幾ら何でもこれって初級冒険者が受けていいクエストじゃありませんよ」

 

随分な言い草である、だが誰でもいつかは初級から中級にランクアップしていくものだろう。

 

「貴方が噂のマジキチ狩人ですね!」

椅子に座ってどれから狩ろうかと考えていると黒い髪に紅い目の幼女が貴方を指差してきた。

 

「我が名はめぐみん!誇り高き紅魔一族随一のアークウィザードにして爆裂魔法の使い手!

アクセルの街随一の狩人、シャスェール・ドゥ・ジェウォーダンよ!我と共に世に名を知らしめようではないか!」

 

要約するとパーティーを組んで欲しいらしい。

まぁいいかと貴方は安請け合いした。

アークウィザードなら多分今の依頼でも余裕だろう。

貴方はとりあえず一撃熊の討伐クエストに行くということをめぐみんに伝えた。

するとそれまでのテンションはどこへやら、青褪めた顔色になる

「えっ?マジでこれ受けちゃうんですか…

すいません、私まだ駆け出しなんでもう少しマイルドな依頼にしてくれると助かるなーなんて」

 

そういって彼女が持ってきたのはまたジャイアントトードの討伐依頼だ。

貴方はそれは初日に定数の60倍以上を討伐して飽きたと言った。

今は最低でも一撃熊、巨大狼、あるいはドラゴンの群れだ。

これでも生ぬるい、さぁ聖杯マラソンの時間だと言いたいが正直飽きた。

かつてはワンパンで殺されていた旧主の番犬狩りも慣れて来ると最早ルーチーンワーク。

啓蒙の高い貴方としては種類も攻撃パターンも様々なドラゴン、グリズリー、狼といった獣らしい獲物との遭遇を渇望した。

 

「あら、貴方…絶対止めといたほうがいいわよ。

紅魔族のウィザードさん、このぶっちぎりでイカれた狩人さんとパーティーを組もうなんていくら紅魔族でもそこまでイかれて無いでしょ?

止めときなさい、貴方絶対死ぬわ」

貴公…ルナ嬢よ、それは無いんではないだろうか?

別に異世界のレイヴンや王達の化身に挑むわけではないのだから。

彼らは確かに強い、今のままでは本気を出しても勝率は1%にも満たないだろう。

だがいつかは彼らと決着をつけるつもりだ、その際にこの世界をリングに使わせてもらいたい。

ちなみに頭のおかしいフロム主人公達同士が本気で激突すると人も魔物も異世界も滅びる。

 

「…あ、すいません。やっぱ私はもっと身の丈に合ったパーティーを探します。

ふふふ、だがますます気に入ったぞジェヴォーダンよ!

我が真の力を解放した暁には、再び共に戦おうではないか!」

 

まぁ頑張ってくれ。

貴方は再びまたもやパーティーを組むことに失敗した。

おかしい、以前なら血に狂った狩人に集まれと鐘を鳴らせば湧いて出てきたのに。

もしかしたら場所が悪いのかもしれない。

血塗れの場所や腐臭放つ場所など、世にも悍ましい場所では友達ができやすいという法則がある。貴方はやはり分かりやすい不吉な場所といえば墓場だと考えたので夜になったら行ってみようと思った。

薄暗くてジメジメした、ナメクジがいそうな場所にこそ狂気と紙一重の啓蒙がある。

そんな訳で貴方は夜になる前に手早く山向こうのマンティコアを退治することに決めた。

 

目にも留まらぬ素早さで杖を鞭へと変形させ、マンティコアの頭部に亀裂を入れる。

獲物は貴方を牙や爪で引き裂こうとするが、力任せの攻撃など貴方にとっては最初の聖職者の獣で慣れている。

さらにいえば、マンティコアは確かに速いものの力も速さも良く観察すれば獣より遥かに劣る。

見るべき点は体力とタフさ、だが致命攻撃の前ではそのタフさも意味を持たない。

狩人はまずは観ることを生業とし、勝利への方程式を組み立てたならば後は計算通りの狩の仕事をこなすだけである。

頭部への攻撃で怯んだマンティコアに素早く近づいた貴方はそこに必殺の一撃である致命攻撃を加える。

頭部から頭蓋骨を貫通しての貴方の内臓攻撃で脳幹への直接攻撃、タフさに定評のあるマンティコアといえど脳を破壊されれば即死である。

貴方はマンティコアの体を切り裂いて血腥い内臓を腑分けしていく、強力なモンスターは内臓、骨、肉、革と行ったパーツが極めて有用性が高いために高く売れるが

貴方が特に見るべきは強靭なこの獣の内部構造であろう。

医師のごとき解体で貴方は啓蒙がまたしても上がった、更にその尾からは狩に使えるやもしれない毒を抽出できそうだ。

貴方は獲物を木箱に収納すると近くの洞窟の灯りから再びアクセルの街の灯りで目覚める。

「ああ、もう帰ってきたんですか…日帰りでマンティコア討伐ですかーすごいですねー」

貴方は受付のルナ嬢にクエストのマンティコア狩が終わったことを報告した。

「おかしいですねぇ…王都の神器持ちの上級職パーティーが全滅させられたクエストですよ、これ」

ふむ、確かにマンティコアの毒は常人なら食らえば数秒で死に至る猛毒だった。

食い散らかされた死骸から見てヒーラーがまずやられて、そこから陣形が崩れたというところだろう。

どちらにせよ、パーティーを組んだことがない貴方にとって陣形など意味がないが。

貴方はマンティコアの毒を武器に塗布したり銃弾に混ぜる機材が必要になった。

流石の上位者である貴方といえども狩に道具は必要だし、道具を調整したり製作するのには現状の設備では不十分である。

狩人の夢の設備は確かに充分だが、あれらはあくまでも古き狩人達から受け継がれたものであり

新たな境地を目指す貴方は自らが作り上げる隠れ家、あるいは工房を必要としている。

獣との違い、常に進歩し続けるのも狩人の責務であろう。

 

…貴方はアクセルの街の中に狩工房を構えることを決意した。

幸いにして今までのクエストで狩った獲物の賞金やそれから作り出した薬剤、素材そのものの代金として手持ち資金は充分にある。

問題は場所だが、実を言うと貴方は王都から拠点を移すように打診されていた。

しかし、貴方はすでに気づいていたのだが魔王軍とは結局のところ少し種族が違うだけで結局は貴方から見れば人でしかない。

上位者である貴方から見れば啓蒙の無さと言う点では神も人も魔物も等しく啓蒙なきものである。

それならば魔王軍相手の兵士ではなく獣を狩ると狩人本来の務めに戻るべきだ。

更にいえば灯りさえあれば貴方は擬似的にテレポートが可能である。

ゆえに立地はどこでも良い、まるでインテルネッツの時代だ。

それならばアクセルの街で良いだろう、土地代も安く済む。

貴方は商店街にやってきた、不動産屋の情報をざっと見たところ大きさといい古さといい街の中心部でありながらまるで青の秘薬を飲んだ貴方のようにひっそりと佇む程よい大きさの庭付きの家を見つけた。

少し荒れているが墓場のすぐ隣という啓蒙高い素晴らしい立地だ、狩人の隠れ家にこれほど相応しい物件はあるだろうか?いや、ない。

狩人の隠れ家ってのはね、ひっそりと侘しくて寂しくて忘れられた墓場で静かに虚しく暖炉の火が燃えてる…そういう場所じゃ無きゃいけないんだよ。

葬送の花を植えてやれば実に侘しく美しくそして儚い夢のような住まいになるだろう。

更に良いことにここは貴方が秘薬の製作を依頼した女性の店に近い。

貴方は既に啓蒙高い上位者でありながら物を作るのは苦手なのだ、使者ちゃん達からもっぱら買うだけ。

不器用なのだろうか?

啓蒙を高めても苦手なことはある。

「あら、いらっしゃいませ!今お茶出しますね」

貴方はウィズの店にやってきた、彼女が人でありながら人ならざる者。

貴方は墓場で汚物にまみれ呪いを孕んだ遺体でもないかと墓を探っていたところ、ウィズがリッチであることを貴方は偶然知った。

墓場で死者達の魂を天界へと帰していた彼女に霊を片っ端から狩って遺志を剥ぎ取り更に墓荒らしをしようとしたら怒られた。当たり前だ

「いけません!死者の魂を冒涜するような事なんて、いくらアイテムに必要だからってやっていいことと悪いことがあります!」

他人の臓器を勝手に盗むのは駄目らしい。

貴方は全くもって正論の彼女の話に説得され、それなら自分のアイテム製作を手伝って欲しいと頼んだ。

「ええ!だって…私リッチですけど…い、いいんですか?」

不死者程度で何を気にしているのか、そもそも本当の不死者とは殺されても絶対に死なないやつらのような存在だろうに。

死者の王とは大した呼び名だが、貴方達からすれば赤ん坊に毛が生えた程度の幼年者に過ぎない。

「ふふ、おかしな人ですね…え?貴方が…ああ、やっぱり。

私のところにも噂は届いてますよ、なんていうか…とっても個性的な新人狩人だって」

 

個性的(啓蒙99)間違っていない


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