このマジェスティックな狩人様に啓蒙を!   作:溶けない氷

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第7話

 

ゲールマンは強かった、強い狩人だった。

「すべて、長い夜の夢だったよ…」

眠れ、夢は今終わる。

そして現れた月の魔物、失望した。

こんなものか、ゲールマンを倒した貴方はあの上位者によってゲールマンの代替物にされるはずだった。

青ざめた血を欲する上位者は貴方をどうにかできると思い自らノコノコと姿を表した。

そして貴方に狩られた、貴方は失望し、冷笑し、憤慨した。

こんなものかと

最初の狩人ゲールマンが、教区長ローレンスが、聖剣のルドヴィークが、時計塔のマリアが、ガスコイン神父も灰狼ディラも狩人狩のアイリーンも連盟のヴァルトールもアルフレートも…

 

こんなつまらない奴にいいようにされたのか。

この程度の奴の為に狂わされたのか(ミコラーシュは除く)

ゲールマンとの死闘で傷ついた貴方は月の魔物と連戦となったが問題にならなかった。

力・速さ、そして技。

全くもってお粗末なものだった、こんな自分の実力すら正しく評価できない奴が上位者だと?お笑い種だ。

さっさと死ねと貴方は思った。

そして貴方は月の魔物から最後の蒼ざめた血を奪い、上位者になった。

上位者、何が上位者だ。お笑い種もいいところだ。

貴方は上位者を冷笑した。

結局のところナメクジに毛の生えた程度の連中が力を持て余し、裏でこそこそと人間を弄ぶ。

それだけの間抜け連中が自称神気取りなだけではないか。

蒼ざめた血を求めよう、上位者狩りの夜は近い…

そして獣狩りの夜は終わらない、人から獣を狩り尽くすその日まで…

人は獣、獣は人。ならば獣を排除した人は果たして人だろうか?

それとも上位者だろうか?

 

ゆんゆんの大冒険(友達探し)

ギルドの掲示板の前で一人の少女が唸っていた。

その少女は豊満だった、年不相応な豊満さの少女が困っていることは

「ああー!なんでメンバー募集ないんですか!」

そもそも少女はパーティーメンバーを募集しているがそちらの方には誰からも応募がない。

『アークウィザード、レベル・職業・経験は問いません』

ここまではいい、だが

『メンバーさんは私と友達になってください。

優しくしてください、日記を交換してください、話を聞いてください、ボードゲームをするときは付き合ってください、休日は一緒に遊びに行ってくださいetcetc』

と、びっしりと条件を書き連ねている。

ここまで条件が長いと誰もがドン引きして応募するものもおるまい。

仕方ないのでこちらから応募しようとしたが、どこも今度は少女の目から見て条件が合わない。

しかし実家から持ち出した軍資金も無限ではない以上クエストは受けなければならない。

のだが、なぜか最近はこの駆け出し少女でも出来そうな初心者向けクエストがない。

もっぱら魔王軍の幹部が近場に住み着いた為と、

アクセルの街と狩場を行ったり来たりする誰かから漏れ出す悍ましい血臭のせいだ。

誰のせいだろうか?

『あ、これ…』

そこにはルナ嬢が書いたギルド推薦

『アクセルのマジキチ狩人の依頼』があった。

「私の人形との話し相手を募集しています。

とても母性に溢れおとなしい子ですので色々教えてあげてください。

啓蒙が最低1以上必要。

女性

報酬は日に1万」

紙は茶色く変色し、くしゃくしゃでなぜか液体が垂れたような跡がある。

普通に考えれば頭のおかしい者でなければ受けないが…

「お人形ちゃんの話し相手なら慣れてるし…けーもーってのわからないけど…」

ゆんゆんの脳裏には幼い頃から話し相手だったサボテンやヌイグルミと言った者たちがいた。

話し相手をするだけで1日1万というのは破格の報酬だった。

ゆんゆんはこの頭がおかしすぎる依頼を駄目元で受けてみることにした。

どっちにしろフリーでモンスター退治をしても得られる報酬も経験値も微々たる者だ。

この依頼を受付嬢のルナ嬢のところに持って行くと…

「え?これ…ほ、本当に受ける人いるんだ…

ごめんなさい、ギルドとしては手数料を貰った以上掲載しないといけないんだけど

まさか受ける人がいるとは思わなくって…

確認するけど依頼主はあのマジキチ狩人よ?それでも本当にいいのね?」

 

どこか疲れたルナ嬢の目を見ながらゆんゆんは

(あ、これ受けちゃダメな奴だ)

と早くも気づいたが、

「いえ、受けた以上は面接だけでもやってみます…

駄目だったらまた他のところでバイト探しますんで」

気落ちしながらも狩人の家に向かった。

狩人の家はアクセルの街の郊外、墓地のすぐ近くにある。

昼間でも人気が無く、墓場という薄気味悪い雰囲気にゆんゆんはかなり不安になってきたが

着いてみるとそこは墓地の近くの家でも一面に白い百合が咲き乱れ、

古い教会を改装したような家は年季が入り落ち着いた雰囲気を醸し出す上品な場所だった。

 

 

BGM 狩人の夢

ゆんゆん 啓蒙1

トロフィー ”初めての啓蒙”を手に入れました!

 

ゆんゆんが狩人の家に近づいて行くと階段横に設えられた椅子に誰かが座っている。

「あああああああ!あの!す、すみません、募集の張り紙を見て来たんですけど」

ゆんゆんは意を決して椅子に座っている美しい女性に声をかけた。

目は泳いでいるし足は震えている。

「あぁ、初めまして…私は人形。どうぞよろしくお願いします。

あなたが狩人様の仰っていた私の話し相手ですね?」

 

(え?人形!?この人が)

椅子に座っているがそれだけで立っているゆんゆんと同じくらい高い。

だが手を見れば最高級の象牙のように滑らかで美しい白さを誇っているが球状関節は人では絶対にあり得ない。

ゆんゆんが考えていた人形とは動かないし、ここまで美人ではないし、そもそも喋ったりもしない。

つまりはこの人が人形で、人形ではないということだ。

「あなた様のお名前は?」

テンパったゆんゆんはついにあれをやってしまう。

「わ、我が名はゆんゆん!アークウィザードにして上級魔法を習得せんとする者! やがて紅魔族の長になる者!」

 

(…し!しまったぁぁぁぁぁぁ!)

ゆんゆんはつい紅魔族特有の例の自己紹介をしてしまった。

顔を真っ赤にしているが、人形はゆんゆんの自己紹介に驚いた顔でパチパチと拍手をしている。

「い!いいですから!拍手とか別にぃ」

「ゆんゆん様、とても良いお名前ですね…

貴方様の事を私、もっと知りたいのですが…よろしいでしょうか?」

 

するとゆんゆんは顔をパァッと明るくして

「え!?いいんですか?よろしくお願いします!

あ、それと…私と友達になってください!」

ゆんゆんはその日、昼間から日が傾くまでずっと喋り通しだった。

ギルドに帰って来たゆんゆんは依頼内容の達成を誇らしげにルナ嬢に報告する。

 

「はい!私、お人形ちゃんとお友達になれましたよ!

いっぱいお喋りしてお茶も入れてあげました!」

 

…ルナ嬢はなぜかとても可哀想な物を見る目でゆんゆんを見た。

それでもきっちり報酬を手渡したのはプロだと言える。

 


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