このマジェスティックな狩人様に啓蒙を!   作:溶けない氷

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第8話

近頃は冒険者達も気合いを入れている。

常日頃はダラダラしている冒険者連中ですら今の時期は完全武装し朝から気合が入っている。

まさに決戦の時近しといった風貌だ。

もっとも、今でも暇つぶしに聖杯デブ狩に勤しむ貴方にとっては彼らの決死の覚悟も普段と変わらないように写る。

さて、貴方は相変わらず家を今はもう殆ど記憶に無い故郷の様式にするべくリフォームに励んでいた。

貴方の好むのは最先端のヴィクトリア朝の当世様式。

アクセルの街のそれは少し古めの様式で、彫金、彫刻などが施されていないため物足りないのだ。

「それでですねぇ、バニルさんったら酷いんですよぉ。

私の事を商才0のポンコツ呼ばわりして…」

そしてなぜウィズが貴方の家に入り浸っている、本人曰く今日は店を早めにしめて墓地に入れなかった魂の浄化のバイトに来たらしいが

別にバイトのない日にまで夜くるのはどうだろうか?

 

夜まで暇なのでということでウィズは貴方相手に世間話などをしている。魔族の連中は邪神を崇拝しているらしい。

貴方はウィズに邪神について色々と質問してみた

どんな外見なのか、貴方は脳みそだけの生きた目玉なのかあるいはゴース、あるいはゴスムのようなナメクジなのか、はたまた月の魔物のような形状し難い物なのか。

貴方がウィズに貴方が今まで狩尽くしてきた上位者について事細かに説明すると…

「てけ・・・・てけリリリリリリ!」

ウィズは目をグルグルさせながら訳のわからない譫言を繰り返し始めた。

急性啓蒙中毒である、貴方はウィズに鎮静剤を含ませてベッドに寝かせた。

よくある症状である、貴方もよくかかった。

軽症なのでゆっくりすればすぐ治るが、重症だと体からなぜか槍が飛び出して即死する危険な病気でもある。

「ああ、窓に!窓に!ごめんなさい、お金さん窓から飛んでいかないでぇ!

もう砂糖水だけの生活は嫌ぁ!」

ベッドに横たわったウィズは魘されている。

だが流石に血だけで生活できる貴方と違っていくら不死者とはいえ人間の感性が抜けないウィズに砂糖水だけの生活では溜まる啓蒙も溜まるまい。

単調で退屈な生活ほど啓蒙を高めることへの障害はないのだから。

そう考えればヤーナムの連中の輸血漬けという生活、あれほどまでに獣性が急激に高まったのは輸血ばかりの単調な生活がもたらした害毒だろう。

貴方はウィズをそっと寝かすと部屋の内装作りに取り掛かった。

工房道具が揃いにくいのはなんともならない、王都から取り寄せねばなるまい。

特に本棚の中身の充実は必要だろう。

「う・・・ううん…スゥ…」

落ち着いたのかウィズは安らかな寝息を出して貴方のベッドで深い眠りについた。

 

「それでですね、人形ちゃん。

めぐみんったら酷いんですよ。

いつも私が決闘を挑んでもずるい方法ばっかで私の事をいなすし…」

同じく目をグルグルさせながら人形ちゃんに一心不乱に話しかけ続けるのは最近雇ったバイトの子のゆんゆんだ。

驚くべきことに彼女の啓蒙の高まりは非常に高い。

聞けば彼女はこの歳になるまで他者との関わり合いを持つ事を控え、自らの本質と世界の成り立ちについての内省、観察眼を鍛え続けてきたらしい。

素晴らしい、生まれながらに啓蒙を高めるべく努力をするなどゆんゆんの神秘力はウィレーム学長に匹敵するかもしれない。本人は友達ができにくいなどと言っていたが、神秘探求の道とはそういうものである。

貴方も長い狩りの夜で啓蒙を高めたが、ゆんゆん程素早く啓蒙が高まることはなかった。

この調子ならあと一ヶ月も人形ちゃんと話し続けるだけで血の岩を使者たちから買えるようになるだろう、素晴らしい。

貴方はこの世界で啓蒙を高めることがいかに難しいかを知った。

獣に過ぎないモンスターの狩りでは啓蒙が高まらないために啓蒙取引ができないという事を知った貴方は思いついた。

ならば啓蒙が高まりやすい者を見つけてその者に取引をさせて更に彼らからエリスと引き換えにアイテムを買えばいい。

その点で言えばゆんゆんは最高の逸材だった。

彼女自身の啓蒙の高まりやすさが紅魔族という種族から来ているのかは不明だが啓蒙とともにレベルが上がっていく事を考えれば啓蒙とこの世界のレベルには相関性があるのかもしれない。

このあたりは実験と観察を続けなければわからないが啓蒙につられてレベルが上がる事はゆんゆんの冒険者カードで確認できたが経験値が入るのは間違いない。

「めぐみんったら本当におかしいんですよ!

ネタ扱いの爆裂魔法ばっかにこだわって…あれじゃ未だにメンバーだってできやしませんよ!

私は狩人さんともお友達になれましたけどね!」

 

別に問題はないだろうと思った、そもそも世の中にはパン一にアルデオ車輪に大砲という装いの狩人すら珍しくない。

火力と機動力を極限まで追求したあのような連中こそ真に啓蒙高き変態と言えるだろう。

その点で言えばめぐみんも立派に変態である、ヤーナムに出しても恥ずかしくないまごう事なき変態である。

せっかくだから今度の聖杯ダンジョンにはあの4人組も誘おうかと思った。

3人は上級職だし、かなり期待できるのではないだろうか?

残念ながら3人は狩人の適正なしだが冒険者のあの奇怪な格好の少年なら狩人になれるかもしれない。

豚の尻を2、30回掘らせれば誰でも狩人になっていく。

そんなとりとめもない事を考えているとアクセルの街にあのルナ嬢の声が響き渡る。

『緊急クエスト!全ての冒険者は完全武装した状態で城門前に集合してください!』

 

『ウフフフフ…お帰りなさい狩人さん…ほら、お風呂?ご飯?それとも…たまにはお人形ちゃんと同じくらい私も可愛がってくださいねぇ…』

『そうなんですよお人形ちゃん…私だってライバルよりお友達の方がいいに決まってますよ…

私も狩人さんみたいにかっこいい人とパーティー組みたいなぁって…

え?ええ勿論!私も狩人になります!マジックハンターです!』

二人は緊急クエストの告知にも関わらず夢の世界から帰ってこないので

貴方は気つけの鎮静剤を嗅がせ、彼らの意識を夢から現実へと引き戻す。

「あら?私ったら何を…早く晩御飯の用意しなきゃ…」

「はっ!あれ?狩人さん?私ったらまたお人形ちゃんに夢中になってましたか?そうですよね!サボテンちゃんにも構ってあげなくちゃ」

貴方は二人に緊急クエストの招集がきた事を話した。

二人とも冒険者登録している以上、行かなければまずいのではないかと・

「「!そ、そうでした!こればっかりは何としてもやらなきゃ!」」

二人は大慌てで家から門の方に駆けていった。

実に慌ただしい事だと貴方は思いながら武器を手に貴方も駆けていく。

ご近所づきあいにも優れ、無慈悲で、血に酔った良い狩人なのだから。

 

「行ってらっしゃいませ、狩人様、ウィズ様、そしてゆんゆん様。

あなた方の目覚めが有意なものでありますように」


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