このマジェスティックな狩人様に啓蒙を!   作:溶けない氷

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第9話

 

貴方は集合している冒険者たちの群れに混じった。

それはそれは自然な混じりかたでこれならば啓蒙0のアクセルの街の冒険者から見れば

まるで目の前にアメンドーズがいても気づかないように誰も気づかない。

だが貴方にもやはり知らないことはあるようだ。

「皆さん!  今年もキャベツ収穫時期がやってまいりました!!」

キャベツ:アブラナ科アブラナ属の多年草。野菜として広く利用され、栽培上は一年生植物として扱われる。

そして貴方の目には彼方から飛来する緑色の点が次々数を増やしている様が映っている。

なんだこれは、と貴方はこの世界に来てから驚愕した。

「あら?ジェヴォーダンさんはもしかしてキャベツ狩りは初めてでしたか?

キャベツはですねぇ、とっても栄養豊富で甘いんですよ。

特に今年のは出来がいいからって1万エリスで買取してくれるんですって!

これで砂糖水生活もしばらくはキャベツ三昧にできます。

狩らなきゃ!」

 

キャベツは狩るものではあるまい、と貴方は思ったが。

貴方の目は遥か彼方から飛んでくる物をしっかりと目にしている。

つまり、飛んでくるキャベツをである。

あれはまずい。

貴方の記憶が今までの事故死を再生する。

広場で獣狩りの群衆に包囲されて死亡、下水道でネズミの大群に襲われて死亡、ダンジョンで湧いてくる蜘蛛に囲まれて死亡、悪夢の世界で犬にまとわりつかれて死亡。

貴方は1対1、あるいは射程の長い武器ならば4体くらいで遅く密集しているならなんとか対応できるかもしれない。

だが狩人というのは1対多数は基本的に苦手なのだ。

相手がのろければ対処のしようもあるが、なぜかヤーナムで群れを作っているのは結構素早い連中が多い。

必然的に攻撃され怯んだところに連続攻撃であえなく死亡という例が実に多い。

なぜかは知らない、啓蒙がいくら高まってもわからないこともある。

ゲームシステム上のご都合主義だという声が聞こえたような気がする。

 

啓蒙が高まりすぎたようだ、貴方は鎮静剤を嗜んだ…ふぅ。

貴方はこの世界は啓蒙が低すぎると嘆いたが違ったようだ、ドラゴンよりもマンティコアよりもグロフィンよりもキャベツが空を飛ぶ。

どうやら貴方がこの世界を選んだのは間違いではなかった、その証拠に今も啓蒙がちょびっと上がったのを感じた。

キャベツは飛ぶ、新たなる視点から見た世界は貴方をまた一歩青年期へと推し進めた。

だいぶ方向性が間違っているかもしれないが、試行錯誤もまた必要なのだ。

「1万エリス!1万エリス!絶対沢山狩ってお人形ちゃんにお土産買ってってあげます!」

ゆんゆんも殺る気満々のようだ、実に頼もしい。

超攻撃型マジキチ狩人:シャスェール・ドゥ・ジェヴォーダン

魔法大火力凄腕貧乏アークウィザード:ウィズ

バランス型脱ぼっちアークウィザード(人形とサボテンが友達):ゆんゆん

 

かなり攻撃に偏っている気がするがダンジョンでも似たような構成だった。

 

聖杯ダンジョンにおける一般的パーティー

超攻撃型マジキチ変態脳筋狩人

超攻撃型マジキチ切腹血質狩人

超攻撃型マジキチ神秘カリフラワー狩人

 

やはり攻撃に全振りは間違いではない。

殺される前に殺せば全て解決なのだ。

 

そして…始まる…

「狩人様、キャベツ狩りの昼が始まります」

別に始まらんでいい。

「えいえい!この!このこのこの!」

「待って!こんな時まで逃げないで!」

ウィズとゆんゆんは前の前に飛んで来たキャベツをそれぞれの獲物の杖と魔法で撃ち落とし回収している。

「フリーズ!ほら、凍らせて獲れば品質を下げずに済むんですよ」

ウィズはゆんゆんにキャベツ狩りの極意を教えている。

「わかりました!フリーズ!フリーズ!」

実に微笑ましい二人のアークプリーストのキャベツ狩りである。

しかしそんな事は関係なしに貴方には問題が発生した。

さて、どんな手段で獲ったものか。

水銀の銃弾は強烈な重金属汚染の危険性があるためキャベツは食べ物ではなくなってしまう。

では神秘はというと、どれもやはり食べ物に使うものではない。

貴方は小さなトニトルスを使ってみた、キャベツは焦げた炭化物になった。

…どうやら貴方は良いキャベツ狩人ではなかったようだ。

そこで素手で殴ってみたらキャベツは落ちた、ダメージを与えるとキャベツは気絶するらしく収穫できる…

貴方はつぶらな瞳でこちらを見つめてくるキャベツを見た。

貴方はその瞳の奥にキャベツがこれまでに辿って来た一生を見た、大地から芽を出し雨風にも負けずに強く育ち、そしてその身に栄養を蓄えまだ見ぬ大地目指し飛び立つその姿を。

さらに幻視した。キャベツが荒野で朽ち果てどもその亡骸からは再びキャベツが芽を出しやがては荒野が緑なす大地となりキャベツが再び旅を再開する様子を。

啓蒙の高まりに貴方はぼうっとした、少し狂気が高まったのかもしれない。

「あ!危ない!」

ウィズが警告してくれたが少し遅かった、貴方は横から飛んで来たキャベツにぶつかられてしまった。

更に何が悪かったのか次から次へとキャベツが貴方にどんどん向かって突進して来た。

きっとキャベツも貴方が普通の人間とは違う、キャベツへの理解高きものと見て親しんでくれたのだろう。

その割には追突は全力だった、更に言えば量が多すぎて貴方はキャベツに埋まってしまった。

「ジェ、ジェヴォーダンさん!?いま助けますから!」

「待っててください、助けたらもうこれって親友って事ですよね!」

 

貴方は大量のキャベツに埋まりながら悟った、宇宙は空にある。

そしてキャベツの心もまた宇宙だったと。

結局、ウィズとゆんゆんは貴方に集った大量のキャベツを貴方ごと氷漬けにする事で大量に捕獲した。

「「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」」

二人とも貴方に謝っている、だが何を気にしているのか。

貴方は少しの間凍っていた程度ではないかと二人に気にする必要は無いと伝えた。

キャベツの前で巨大な月を幻視して考え事をした結果であり、貴方の不注意だ。

更に言えば貴方は二人が差し出したキャベツの買取り報酬も不要だと伝えた。

「でも…それじゃ貴方のぶんが…それにこれだけの報酬も結局ほとんどは貴方に集まったキャベツでしたし」

そう、貴方は1000を超えるキャベツにたかられていたのだ。

それも一つ一つが数kgを超えるよく肥えた栄養たっぷりのキャベツだった。

その総重量はおそらくは数トンにも達したろう。

ウィズとゆんゆんが大急ぎでキャベツを凍らせて引きずり出してくれなかったら貴方は数台の大型馬車の下敷きになったようなものだった、アメンドーズに殴られ慣れていなかったら即死して家で目覚めていたろう。

貴方は警戒すべきもののリストの烏頭犬と血蜘蛛の次にキャベツを加えた。

きっとキャベツじゃなくてこの世界の上位者の眷属に違いない。

それならばと貴方はウィズとゆんゆんが買取金額を半々すればいいと貴方は答えた。

それにゆんゆんに至っては貴方を助け出す時に梃子がわりに使って高価な魔法の杖を折ってしまっている。

「だ!大丈夫ですよ!初心者向けの安物ですから気にしないでください!」

魔法使いの杖が安物だとは寡聞にして聞かない、それに彼女は紅魔族の族長の娘にしてアークウィザードだ。

そんな人物の持ち物が安物のはずがない。

そこで、貴方は昔自分が使っていた杖があるのを思い出した。

安物(遺志1000)だが手入れはしているので是非今度家に来た時にもらって欲しいと言った。

「えええええぇぇぇぇ!いいんですか!ううふふぅぅ!

ぷ!プレゼントなんて…友達からのプレゼント…」

「よかったわね、ゆんゆん。あらあら、でも狩人さん?私にはお礼はないのかしら?

ゆんゆんにだけなんてちょっと嫉妬しちゃいますよ…」

なぜかウィズが貴方ですら薄ら寒い思いをする笑顔を貴方に向けている。

貴方は折角だから今回は3人のパーティーの初仕事祝いとして冒険者ギルドで皆で料理を楽しむのもいいが

貴方の家で人形ちゃんも含めて密やかに祝おうと言った。

その際にとびきりのワインも開けようと。

「あら!貴方の推薦するワインなんて楽しみです!

これはもう私が料理の腕を振るうしかないですね!」

ウィズは自分の食事は砂糖水だが、貴方の家では実に見事な家庭料理を作る。

最近はゆんゆんも料理を手伝っているらしい。

貴方も人形ちゃんも料理という概念は理解できても実践はできない。

啓蒙と実行の間にはいまだに厚い壁が横たわっている。

 

そう言いながら貴方達はギルドに保存しておいたキャベツを持って帰ろうとした。

 

『はぁぁぁぁぁぁ!なんでぇ!なんでこんなに買取金額が安いのよ!』

向こうでは誰かが何故かキャベツではなくレタスを狩っただのと言っていた。

貴方はいわゆるスキルをどうするかで悩んでいたが、今回のカズマ少年の実践例を見て盗賊系・潜伏系のスキルを重視することを決意した。

背後から音も気配もなく近寄って溜め攻撃を食らわせればそこからの内臓攻撃で相手は死ぬ。

スティールに関してはどうだろうか?殺してから奪ったほうが早いし確実だし相手の反撃も防げると思うのだが?

幸い、貴方の職業であるこの世界のハンターにも似たようなスキルは多い。

貴方は更に良い狩人になるだろう。

 


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