九鬼家従者部隊序列1位、忍足あずみは目の前の男を見る。
先ほど屋敷にいた際、侵入者が九鬼のビルの前にいる情報が入った。
しかし、それだけならば他の従者に任せればいいはずであったが、状況は一変した。
確認されていた侵入者達の動きが一斉に止まった。再度、外の状況を確認したところどうやらたった1人の一般人と思われる男をのぞいて武装した者達全員が気絶しているとのことだった。
あずみは急遽、部下の序列15、16位のステイシー・コナーと李静初を従えて状況の確認に向かったのだが。
そこにあったのは思いも寄らない光景だった。
九鬼ビルの明かりが照らす中にあったのは、情報通り気絶をした武装集団10余名とそのただ中で佇んでいる群青色の和装をした男だった。
男の格好自体は特に問題はない。ここ川神においてはいろいろな人間がいる。
それこそ自分たちだって、九鬼従者部隊であるが、知らない人間が見たら目を疑うであろうメイド服姿だ。
問題は、武装集団の中にいて無傷なままいる男の存在そのものに対してだ。
明らかに、この現状は目の前にる男によって作り出されたものだ。情報では一般人とあったが、武装した人間を無力化できる人間を一般人とは呼ばない。
あずみは、緊張を解かない。横にいるステイシーと李も同様に目の前の男に対していつでも対応できるようにしていた。
とりあえず話を聞こうとすると、向こうから声をかけてきた。
「うむ、とりあえず抵抗はしない。どこへなりとも従おう。必要があれば背中の刀もそちらに預ける。」
そういって、男は手を挙げた。
side out
小次郎は目の前の立つ女達を見ていた。
(なんとも面妖な格好のおなご達だ。いや、この場合においては某もか…。うむ、それにしても…。)
再び小次郎は3人を見る。
(可憐だ…。しかし、ただの華ではないか…。蜂に、餓狼、それに蛇いや竜といったところか…。)
小次郎は目の前にいる女達がただ者ではないことを見抜いた。
もっとも、彼女たち程度であるならばここで死合うことになってもさして問題はないが、現状がなにも解らないところでこれ以上騒ぎをたてることはないと思い、口を開いた。
「うむ、とりあえず抵抗はしない。どこへなりとも従おう。必要があれば背中の刀もそちらに預ける。」
そう言って、小次郎は手を挙げた。
その様子を見て、信じたのか目の前の女達も緊張を解くと、真ん中にいる1人が前に出て言った。
「ここで何をしていた?」
「いやなに、信じられないかもしれないが気づくとここにいてな。すると、この者達が襲ってきたもので戯れに露払いをな…。」
そういわれ女達は周りで気絶している男達に目を向けた。
確かに、嘘ではないようだ。
「はっ!こいつらを全員お前がやったていうのかよ?」
「確かに、全員刀のようなもので打ち込まれたようですが…。」
その言葉に小次郎は肩をすくめて肯定する。
すると、先ほど前にでた女が小次郎を見て言った。
「取りあえず、話を聞かせてもらおうか。お前、名前は?」
「うむ、了解した。名は佐々木小次郎という。」
その言葉に3人は目を見開き驚いた顔をする。
しかし、小次郎は何故かは解らなかった。たしかに、この名前は一人歩きしているし、ここが日の本であるなら誰もが聞いたことがあるなだろうが、それにしても目の前の女達の驚きぶりはおかしかった。
すると、金髪の独りが代表の茶髪の方に何か耳打ちする。
「おい、あずみ。佐々木小次郎って、じゃあこいつも武士道プランの?」
「いや、現在認知されているのは源氏の3人と葉桜清楚だけだ。」
「では、彼は…。」
目の前でこそこそと話している女達が気になったのか、小次郎は彼女たちに声をかける。
「いかがしたかな?」
「おい!お前は本当にその名前なんだろうな?」
茶髪の女が再び小次郎を見て訪ねる。
しかし、その顔にはいささか憤りや苛立ちが見て取れた。
「無論、生憎とこれ以外に名乗る名は持ち合わせていなくてな。」
「そうか…。」
そう言って、女は少し思案する。
「おい、どうするあずみ?」
「しゃあねえ、うちらだけじゃ埒があかねえ、取りあえず上の意見も聞くしかねえ。」
「わかりました。」
どうやら話は付いたようで、小次郎は背中から愛刀を外した。
そして、それを彼女たちの前に出すと言った。
「では、案内を頼む。先も言ったように下手のことはするつもりはない。それに、少しばかり聞きたいこともあるのでな。」
「分かった。じゃあついてこい。」
刀を受け取ると、女達は佐々木小次郎ろ名乗った男を囲うようにして、ビルの中へと入っていた。
side out
九鬼家ビル 一室
そこに小次郎は立っていた。
目の前には額に×印が付いた者達が4名おり、周りにはその従者らしき者達が控えていた。
(なるほど、この者達がこの城の主達か…。そして、先ほどの女達はその従者なのだろう。しかし…。)
小次郎は思案しながら、その従者達を見る。
特に目を引くのは、その場にいるだけで人外の力を持つであろう金髪の巨躯をした男だ。
下手なことをしようものなら、瞬きもするまもなく刈り取られるだろう。
刀があれば別だが、いまこの場においては為すべはない。
その他にも、眼鏡をかけた老紳士や肌の焼けた男、優男を装っているがその実こちらの動きを注視している男。
そして、ここへ自分を連れきた女達も控えている。
そんな圧倒的な不利な状況にも関わらず、小次郎はいたって平静だった。
(いやはや、まさかこれほどの者達がこの地にいるとは…。実に面白きものよな、この浮き世は…。)
そのようなことを考えていると
「以上がここまでの顛末のご報告になります。」
小次郎を連れてきた女が言った。
「それにしても佐々木小次郎とはねぇ。どういうことだマープル。」
「どうもこうも、この件に関してはあたしゃ無関係ですよ帝様。」
マープルと呼ばれた老婆が、帝と呼ばれる当主へと答える。
どうやら、事態は小次郎が思っていた以上に複雑なようであった。
「でもさ、お前なら俺たちに内緒で勝手に武士道プランを進めることもできるだろ?」
帝の言葉にマープルが一瞬目を細めるがすぐに、答える。
「たしかに、あたしならそれくらいはしますけどね。そもそも、佐々木小次郎のクローンを作り出すなんて無理です。」
「ほう、何故だ?」
マープルの言葉に帝の隣にいた奥方らしき人間が訪ねる。
すると、マープルは小次郎を見ながら言った。
「そもそも佐々木小次郎なんて人間はいないからですよ。宮本武蔵との巌流島での決闘は有名ですが、実在したとは考えられていない。つまり、後の人間がその剣豪の名前だけを伝えた存在ってわけです。」
「なるほどね~。じゃあ目の前にいるこの佐々木小次郎は誰なんだ?」
と今度は帝が小次郎を見る。
その眼光は鋭く、すべてを見通しているようだった。
しかし、小次郎はそんなプレッシャーもどこ吹く風とでも言うように受け流していた。
すると、奥方とは逆側に座っていた女が小次郎を見て尋ねた。
「もう一度聞く、お前は何者だ?」
「佐々木小次郎」
小次郎は真っ直ぐと女をみすえて言った。
すると、帝が女に尋ねた。
「どうよ、揚羽?」
「嘘を言っているようには見えませぬが…。」
「申し訳ない。しかし、これ以外に名乗れる名は持ち合わせていない故。」
と、頭を下げる。
その姿は姿はあまりにも清々しく、これ以上ないほど目の前の男が佐々木小次郎であるのではとその場にいる誰もが納得しそうになる。
そして、揚羽と呼ばれた女が帝に尋ねる。
「いかが致しますか、父上?」
「うーん、そうだな。なら確かめてみるか!」
その言葉にその場にいるほとんどのもの達が驚く。
すると、奥方が再び尋ねる。
「帝様、確かめるとは?」
「いや、何。こいつが本当に佐々木小次郎なら、確かめるには一つしかないだろう。誰かと戦わせりゃいい。」
「素性の知らないものに暴れる機会を作るので?」
帝の提案に、マープルが言う。
しかし、帝は面白そうに言った。
「こいつが本当に佐々木小次郎か確かめるのならこれ以上の案はないだろう?ただの剣豪オタクや変わりモンならそれで終わりだし、もし暴れてもヒューム達がいる。」
と、帝は控えている先ほどの人外の雰囲気を醸し出している男に目をやる。
男はやれやれと言いながらも、笑みを見せるだけであった。
そして、帝は続けて言った。
「だが、もしもだ。もしかしたらってこともあるからな。それにこうするのが一番面白い。」
「それが一番の理由でしょうに…。」
と、揚羽があきれたように言う。
しかし、帝は無視して小次郎を見て言った。
「どうだ、自称佐々木小次郎。受けてみるか?別にこれで負けたとしても時に何もしねえよ。その時はお前はただの偽物って、見なされるだけだ。何も危害を加えやしない。だが、そうだなもし期待以上のものを見せてくれたなら、俺の名において何でも言うことを聞いてやろう!」
「父上!?」
その言葉に今度こそ揚羽は立ち上がる。
「何、向こうが名前を賭けてんだ。こっちも賭けなきゃ割に合わないだろう。」
「しかし…。わかりました。」
と、揚羽は座った。
そして、一連の会話を聞いた小次郎がここにき口を開く。
「承知した。帝殿、寛大な措置、感謝いたす。で、私は誰と立ち会えばいいのか?」
「うーん、そうだな…。誰か希望者はいるか?」
すると、マープルが言った。
「では、桐山でいかかです?仮にも剣豪の名を騙る者、彼ぐらいに後れをとるようでは話になりませんからね。」
「私はかまいませんよ、何事にも率先して取り組めと、母も言っておりました。」
と、マープルに言われ控えていた優男が前に出てきた。
そして、小次郎の前に出ると恭しく自己紹介をした。
「九鬼家従者部隊序列42位、桐山鯉と言います。よろしくお願いいたします。佐々木様。」
「こちらこそ、よろしく頼む桐山殿。」
と、頭を下げる小次郎。
そして、頭を上げると桐山鯉をみて笑みを浮かべた。
その笑みが気になり、鯉は尋ねた。
「いかがなさいましたか?」
「いや、鯉という雅な名ではあるが、その実下肢は龍のそれとは驚嘆に値すると思ってな。」
その言葉に全員が目を見開く。
そう、桐山鯉という人間はその器用さから序列42位という立場にいるが、それだけではない。
極限までに鍛え抜かれた足技こそが、彼をその序列に位置させている最大の理由なのだ。
しかし、小次郎はまだ合間見えて1時間もしない内にそれ見破ったのである。
目の前の出来事に、その場にいる者達の予想は徐々に確実なものとなっていた。
目の前にいる男はもしかしたら本当に佐々木小次郎なのではないのかと。
「では、こちらになります…。」
桐山鯉に促され、小次郎は立ち会いの場へと向かった。
その表情に一抹の不安もない。
あるのは自らの人生を捧げた剣をふるうのみという、ただ一つだけであった。
to be continued