「川神学園?」
「はい、左様です。」
従者部隊と義経達に挨拶を終え、九鬼ビル内の案内も終えた2人は時間も良い頃合いとなったので朝食をした部屋に戻り休憩をしていた。
「それが義経たちが通う学び舎の名か?」
「はい、入学の手続きはすでに済ませれいるのですが、そろそろご挨拶に伺おうと思っていたのです。」
クラウディオが湯飲みにお茶を入れながら言う。
小次郎は自分ですると言ったのだが、クラウディオ曰わく自分が入れたい、それに自分の方が旨く入れられると言ったので、小次郎は何も言わず任せていた。
「忝い。しかし、それならば何故?」
「私の役目は義経様たちのお世話です。それは彼女達が学校に行っても変わりません。もちろん貴方も。ですから、良い機会です。休憩が終わったら一緒にご挨拶に伺いましょう。」
「なるほど。ならば確かに一度、私も伺わねばならんな。」
と、湯飲みを机におきながら言う小次郎。
確かに、クラウディオに任せて正しかったと湯飲みを見つめている。
「はい、正確には学園ではなく。学園の学長である川神鉄心様が総代を務めておられる川神院という寺院です。」
「寺院とな…。」
「ここ川神市の中心的な要所でもあり、武の総本山とも言われる場所です。」
“武の総本山”
その言葉に小次郎は胸が高鳴るのを感じる。
そして、自然を笑みを浮かべていた。
「小次郎もまだ川神の土地をよくは知らないでしょう。折角ですので、案内がてら行きましょう。」
「それは願ってもない。是非、同行させていただこう。」
そう言って、お茶を飲み終わると2人は九鬼ビルの外へと出た。
小次郎にとって日が昇っている内の川神は初めてだったが…。
「うむ、夜も趣があって良かったが、明るい内の景色もまた違って良い。何より海がよく見える。」
「それは良かった。では、参りましょうか。」
そう言って2人は川神院へと向かう。
途中、商店街を抜け、仲見世通りを通ることになったがその際
「うわ!すっごいイケメン!あ、あの~。」
「む、何か用かな?」
「いえ~、コレ、うちで作ってる飴なんですけど、良かったらどうですか?」
法被を着た華やかな少女にそう言われ立ち止まる。
クラウディオを見ると、笑顔で頷いたため、遠慮なく試食した。
「うむ、飴などずいぶんと久しぶりだが、美味い。」
「ホントですか!良かったら、一袋どうぞ!!」
「いや、しかし…。」
「良いんです、これからもご贔屓にして下さい!」
と、無理やり渡されてしまった。
クラウディオは「人々に愛されるのも九鬼の目指すところ貰っておきなさい。」
と言ったので、小次郎はその飴を懐に仕舞った。
そんなこんなしているうちに2人は川神院へと着く。
「いやなんと。武の総本山とは聞いていたがこれほどとは、見事な。」
「そうでしょう。世界中から武芸者が訪れる場所ですからね。では、お邪魔しましょう。」
2人が門をくぐると、そこには緑色のジャージを着た男性が立っていた。
彼は2人に気がつくと、近づいてきて言った。
「これはこれハ。クラウディオさん、どうされました。」
「突然の訪問、申し訳ありません。ルー師範代。川神鉄心様に編入に際しての私めの入校許可の件でご挨拶に伺いました。鉄心様はご在宅でしょうか?」
「なるほど、そうでした力!ところでそちらの方ハ?」
と、ルー師範代と呼ばれた男が小次郎を見る。
小次郎は一礼をすると挨拶をした。
「お初にお目にかかる。私は佐々木小次郎と申す。九鬼家にて従者をしている者でして、此度はクラウディオ殿と同じ目的で川神院にご挨拶に伺った。」
「佐々木…、小次郎?彼も武士道プランの関係者です力ナ?」
「ええ、そのようなところです。義経様達、武士道プランの方々のお世話には私とこの佐々木小次郎がその役割を担っておりますので、是非鉄心様にご挨拶をと。」
ルーは小次郎を見た。
そして、少し考えると口を開き言った。
「わかりましタ。総代のところへご案内します。」
「ありがとうございます。では、小次郎行ってくるので、貴方は少し待っていて下さい。」
「承知した。」
そう言われ、小次郎は頷く。
クラウディオがルーに連れられて奥に行くとその場には小次郎のみが残された。
(さて、どうしたものか…。)
そう思い、小次郎はあたりを見渡す。
ここにいては訪れる者の邪魔になるだろうと思い、近くにあった巨木の方へと歩む。
そして、誰もいないと思うと今朝、自室でしたように目を瞑った。
ここにおいてもまた、小次郎は夢想の域に自らを置く。
しかし、心なしかその心中は今朝よりも研ぎ澄まされているように感じた。
風が頬にあたり、小次郎の長い髪を撫でる。
微かに風に混じった潮の香りが鼻孔をとおり、胸に広がる。
鳥のさえずり、揺れる羽音、それら全てが騒がしいほどに感じるが、寧ろそれらが小次郎をなおも夢想の域へと自らを深くさせた。
(心地の良い場所だな…。)
しばし、小次郎は瞑想する事にした。
side out
川神院 総代室(鉄心自室)
「うむ、了解したぞい。義経ちゃんたちの世話と言うことならお前さん等も学園にいる必要があるじゃろ。」
「感謝いたします。」
「何、ヒュームが1年生のクラスに入ることに比べたら、どうってことないわい。じゃが…。」
クラウディオの目の前に立つ老人、川神鉄心は言葉を区切る。
普段、垂れていて閉じているような瞼から、真剣な眼差しが顔を出す。
「もう一人の従者の件ですネ、総代?」
「うむ、佐々木小次郎とはこれまた随分な名前が出てきたのう。」
「突然のことで申し訳ありません。ですが彼も我々九鬼の一員、どうか納得していただければと。それと、彼の存在も義経様達同様、時がくるまでは周囲に知られぬようお願いします。」
鉄心とルーの言葉を聞きつ、そう話すクラウディオ。
鉄心は少し考え込むと、、
「ま、会えば分かるじゃろう。その者はどこに?」
「今は門の前で待っていますヨ。」
「なら会ってみようかい。」
「ご配慮感謝します。」
そう言って、3人は小次郎の待つ門へと向かった。
side out
川神院 門前
(これは…。たまげたのう…。)
(スゴい。もはや達人の域。いや、それ以上だヨ…。)
出てきた3人が見たのは、なおも瞑想している小次郎の後ろ姿だった。
今、小次郎は砂利の上だというのに、正座している。
しかし、その姿に苦悶の様子はなく清々しく、そして穏やかだった。
「クラウディオ殿、話はすんだのかな?」
「ええ。」
「それと、確かルー殿と言ったか、それにそこにおわす翁殿がこの寺院の総代殿か…。いや、勝手に場所をお借りしてすまない。ここは心地が良くてな。ふと瞑想していたら、いつの間にか座していた。」
そう言って、後ろを向いたままであるというのに、そこに誰がいるか分かっているように話す小次郎。
そして、立ち上がり3人の方を向くと頭を下げていった。
「改めて、挨拶申し上げる。私は佐々木小次郎。九鬼家に従者として仕えている者だ。以後お見知りおきを。」
「うむ、儂がこの川神院の総代川神鉄心じゃ。お前さんの話は聞いておるよ。」
と、笑顔で返す鉄心。
その姿に小次郎は底知れぬ高さと深さを見た。
そして、鉄心もまた目の前の男に吸い込まれるほどの奥行きを感じる。
(佐々木小次郎か…。ホホ、これはあながち嘘じゃないかもしれんのう…。)
鉄心は小次郎に近づくと、目を見て尋ねた。
小次郎もまた鉄心の瞳を見据える。
「お前さんは何者じゃ?」
「佐々木小次郎。それ以外に名乗れる他なく、そしてこれは恩ある九鬼が認めた私の名。なればこそ、そうあろうとするのみ。真贋はどうであろうと。」
沈黙が流れる。
そして、鉄心は目を逸らさず言った。
「分かったぞい。義経ちゃん達の世話のため学園にはいること許可しよう。」
「忝い。感謝する川神翁殿。」
「鉄心でかまわぬ。何、お前さんがいると何かと面白くなりそうじゃしのう。」
と、小次郎に柔和な笑顔を向ける。
すると、クラウディオが隣に立ち再び鉄心に礼を述べる。
「ありがとうございます。では、新学期からは私どもで義経様達の世話をさせていただきます。」
「うむ、よろしくのう~。おお、そうじゃ!小次郎、こっちのルー・イーも学園で教師をしておる。」
「師範代のルー・イーでス。学園では体育を教えていまス。学園のことで分からないことがあったら何でも聞いてネ。」
「こちらこそ、世話になるルー殿。」
と、差し伸べられた手を握る小次郎。
すると、外から誰かが走ってくるのが見えた。
「只今戻りましたーって、あれお客様?」
「何、誰だ?って、なんだ九鬼の従者か、どうせならメイドのねーちゃんが良かったのに…。」
「お帰り、一子。これ!モモ、客人に失礼じゃろう!」
鉄心がやってきた少女たちと言葉を交わす。
1人は赤みがかった茶髪のハツラツとした少女、もう1人は胴着姿の黒髪の少女だった。
すると、鉄心が小次郎に2人を紹介する。
「孫の百代と一子じゃ。2人とも学園の生徒じゃから、まあ何かあったらよろしく頼むぞい。」
「はじめまして!川神学園2年生の川神一子です!!」
「同じく3年の川神百代だ。そっちのじいさんは見たことあるが、そっちは新顔か?」
そう言われ、クラウディオは小次郎に目線を送る。
それは学生である2人にはまだ武士道プランについて秘密であること。
そして、同時に小次郎の名も明かすことはない。と言っていた。
そして小次郎はその意志をくむ。
「はじめまして。九鬼家従者部隊序列3位のクラウディオ・ネエロと申します。本日は所用でお邪魔させていただきました。」
「同じく従者部隊の佐々木と申す。新参者ゆえクラウディオ殿について川神院にご挨拶に伺った。」
小次郎は自分の名を明かすことなく2人に挨拶をした。
もし、名を聞かれたら適当に名乗ろうと考えていた。
因みにその時に浮かんだのは、以前冬木で戦った騎士の主の名前だったのはここだけの話である。
「へえ~。新入りさんなんだ、よろしくお願いします!」
「それにしてもその格好、武芸者か?従者部隊は皆同じ格好だろう?」
と、言われ小次郎は答える。
もちろん昨夜のことと言った細かいことは省いてだ。
「昨日より、仕えた身の上でありましてな。未だに服が準備されていないのです。」
「彼の業務はまだ本格的なものではないので、今はこうして特別にさせております。」
と、クラウディオも話をつなげる。
すると、百代が小次郎を見て言った。
「おい、それなら少し私と遊ばないか?」
「む…。」
「その格好、多少は腕に覚えがあるんだろう?九鬼としてもコイツの腕が私に通用するか見てみる価値はあるはずでしょう!」
「ちょ!お姉様!?」
と、百代は拳を小次郎に向かって突き出す。
あまりにも突然な提案に周りの者も呆気にとられていた。
すると、鉄心が百代に拳骨を浴びせる。
「痛ッ!!」
「コレ!モモ!!客人に喧嘩を売る奴がおるか!!」
「何をするんだ、ジジイ!」
百代も反撃とばかりに手を振るうが、鉄心に避けられる。
小次郎はその様子を見て、苦笑した。
百代が壁を越えた強者であることは見た瞬間に分かってはいた。
だが
「生憎と“がらんどうの巨木”を愛でるたちはなくてな。」
「ッ!!」
小次郎のその言葉には唖然とした。
そして、百代もまたその言葉を聞き逃さなかった。
彼女の目が小次郎を鋭く射抜く。
しかし、小次郎はやはり冷ややかな笑顔を百代に対し浮かべていた。
to be continued