伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
初めての戦いを終えた八幡の胸に去来する感情は?
「ハァ……ハァ……ハァ……!」
殺すか殺されるか。
命懸けの死闘を制した俺の心に去来するもの。
それは殺戮を繰り広げた化物を討ち取ったという満足感でも、雪ノ下を守れた誇らしさでもなく、どうしようもない虚しさと、1つの命に終止符を打ったという昏い実感だった。
全く、何て後味が悪いなんてものじゃない。
自分で選んだ事なのに、苦しくて、気持ち悪くて堪らない。
俺は、いつの間にか元の姿に戻った自分の手を見つめる。
変身が解除されて尚、その手には奴らの血で赤く染まってしまった幻視を見る。
「……っぐ」
それでも……今は未だ良い。
本郷先生の言葉を借りるなら、この胸に残る不快感こそが俺がまだ人である証なのだから。
しかしこの先、まだ残る奴らとの戦いが続けばどうだろう?
戦う事に慣れ、この不快感にすら順応し、傷付けることに鈍感になる自分。
穢れていく事に戸惑いすら生まれず、やがて奴らと同じ様に他者の命を何の感慨もなく奪える
存在に成り下がってしまうことを考えると、おぞましかった。
「比企谷くん……」
そんな未来に震える俺の手に暖かい温もりが伝わる。
雪ノ下の手が、俺の穢れた右拳に重なっていた。
「……ああ、蜘蛛野郎は倒した。――そっちは?」
「ごめんなさい。何とか追い詰めようとしたのだけれど、逃げられたわ……」
「ん、そか……。まあアイツの方は日中動けないっぽいし、取り敢えず当面は大丈夫だろう」
「……ええ」
手と手と重ね静かに肩を寄せ合う俺と雪ノ下。
こんなことされたら普段の俺ならドギマギして冬でも汗をかく所だが、今は心地よい温もりだけを感じる。
もっと触れ合っていたい。ずっとこうしていたい。
俺のした事の全てを知った上で寄り添ってくれた彼女の存在が、俺に未来への恐れと戦いの虚しさを忘れさせてくれた。
そうしてしばし心地よい沈黙に浸った後、雪ノ下は静かに口を開いた。
「……本当のことを言うとね。貴方が教会に来てくれた時、いけない事だと分かってもホッとした自分が居た。戦って欲しくない気持ちはあるのに……滅茶苦茶ね」
「そんなの……お互い様だろ。俺だって今……お前に救われてる……」
「そう、それは良かったわ。……本当にいいの?」
気持ちはもうお互い分り合ってる筈なのに、雪ノ下は改めて尋ねる。
何を今更……とは思わない。
例え言わなくても分かることだとしても、分り合っていたとしても、それはきっと必要なことなのだから。
だから俺は、重なる彼女の手にほんの少しだけ力を込めて、『ああ』と頷く。
すると彼女は短く息を吐き、意を決した表情で俺を見る。
「なら約束して、この先の戦いでどんな事が待ち受けていても……なるべく……誰かを泣かせない道を選んで。由比ヶ浜さんとか……小町さんとか……一色さんを、悲しませない選択を常に選ぶようにして。――約束してくれるなら、私は自分の全てを懸けて、貴方を支える」
「雪ノ下……」
きっとこれが、彼女の落とし所なのだろう。
全く、律儀というか、何というか……。
「――――分かった。“お前も含め”その……善処する」
「っ! …………バカ」
彼女が敢えて省いた自身の名を強調し、俺は頷くと雪ノ下は赤くなった顔を背けた。
25歳になった彼女は、綺麗になった。
しかし今この瞬間、俺はこうも思った。
――きっと
心にかかった黒い靄は、いつの間にか、薄れていた。
朝日の光りが、今は心地良い。
――――俺と彼女の戦いの日々は、こうして幕を上がる。
殺戮を以て殺戮の連鎖を絶つこの戦いが、その当事者となる俺の選択が正しいのか間違っているのか。今それを考えるのは意味の無いことなのだろう。
――それはきっと、紡いだ未来の先で生きる。
仮面ライダークウガという作品はある意味で『ヒーローを否定するヒーロー』と呼べる部分があるのでそういう(ある意味で)捻くれた一面を八幡という主人公らしからぬ捻くれた青年の機微で表現しました。
彼と雪乃の長く険しい戦いは、まだ始まったばかりです。
さて、ここまではある意味「俺ガイル」のキャラをクウガにあてただけでしたが、次回よりズ・メビオ・ダとの戦いを描く原作3・4話をベースにしつつ、俺ガイルサイドに重点を置いた箸休め的話がしばしはじまります。
順調にストックがなくなり今週先週ほど更新できませんが改めましてこれからもよろしくお願いします!