伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。   作:烈火・抜刀

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今回から再びクウガ本編の時が進みます。

本話と次話はゆきのんが主役……というか後で気づいたら八幡出番ねえ!(爆)



EPISODE:17 雪ノ下雪乃は、妖艶なるバラの神子と出会う。<1>

一旦東京に戻った比企谷くん(あの男)が、下は中学生から上は人妻まで、色んな女性の元へ足を運んでいる頃、私は焦躁に駆られながら市内を回り、逃げた第3号の足取りを追っていた。

 

――えっ? 怒っている? 誰が? 全く意味が分からないわ。

 

◆◆◆

 

長野県警本部 01:33 p.m.

 

時を遡る事、数時間前――

午前中は仮眠と着換えなどの為に自室で休息を取っていた私は昼過ぎに県警本部に戻った。

 

そこで程なく顔を合わせた海老沢さんから、私達が第1号及び第3号と戦った資材置き場の現場検証の結果を聞いた。

 

結論から先に言うと現状、未だ有力な手がかりは何も発見されず、どころか現場に連れて行った警察官がパニックになるという珍事があったとの事だ。

 

続いて私は鑑識課に顔を出し、比企谷くんが倒し爆散させた第1号の遺体破片の解析結果を聞きに行った。

 

「第1号の体組織や奴が吐いた糸の分析結果はまだ出ていません。ただ、破片の状況を見るに、腹部を中心に爆発が起きたのは間違いないようです。……せめて形のある遺体だったら良かったのですが」

 

「そうですか……」

 

比較検証の対象がない奴らの分析にはさしものベテラン鑑識班も手を焼いている様子だった。

 

しかし一方、この数時間で明らかになった事実も確かにあった。

 

「ただ、血液成分の結果だけは既に出ています。これが未確認生命体第1号の血液成分。――そしてこれが、それと極めて酷似した血液が、これです」

 

画面に表示された2つの円グラフ――血液中の白血球や赤血球などといった成分の比率を表したそれらは僅かに比率こそ異なるものの、ほぼ同じ成分で構成されていた。

 

私は最初、この比較対象が蜘蛛の血液なのかと思って鑑識の青年に尋ねるが、彼は静かに首を横に振る。そして私に、空恐ろしいとすら感じる答えを伝える。

 

「蜘蛛に赤血球はありません。この血液は――我々、人間のものです」

 

◆◆◆

 

「人間か……人間ねえ……」

 

それから30分後。県警内の視聴覚室で行われた捜査会議に於いても先の鑑識があげた報告は参加していた捜査員達に衝撃を与えた。

 

あれ程の力と、怪物然とした姿を持つ生物がこと血液だけ見れば我々と同一の存在という事実。

 

私はまだ、比企谷くん()という前例を知るが故に比較的早く受け入れる事も出来たが、知らない者からすればそう簡単にはいかないだろう。

 

「現状ではまだあくまで血液成分が似ていると言うだけで同じ人間だという判断はできません。ただ、件の九郎ヶ岳遺跡の映像から見ても“我々と極めて近い生物”ではないかと思われます」

 

戸惑いにざわつく捜査員を制する様に、本部長が語気を強めて発言する。

 

「既に判明しているだけで被害者は27名。また、周辺の県でも不可解な変死体や子供の失踪などの報告があがっている。それを踏まえた上で、これまで姿を確認できた未確認生命体をもう1度確認してくれ」

 

そう言って本部長が合図を送ると、会議の進行補助を請け負った亀山くんが現時点で姿が確認できた未確認生命体の情報を提示した。

 

第1号:蜘蛛型。後述の第4号と争った末に死亡。

第2号:一昨日第1号と争っていた個体。他と比べ腹部の装飾品が異なる。(比企谷くん)

第3号:蝙蝠型。第4号との交戦後、現在は逃走中。

第4号:第2号と酷似した姿をしているが体色が赤く、頭部の形状も若干異なる。(比企谷くん)

 

その他、不鮮明な映像のみだが岐阜・愛知の県警から報告の上がった2体。

そして、九郎ヶ岳から甦った影が便宜上――第0号としてナンバリングされた。

 

「以上の情報を踏まえ、関東管区からの通達を伝える。未確認生命体に関する報道管制は引き続き継続。極力秘密裏に各生命体の捜査にあたり―――発見次第、射殺せよ」

 

「っ! ――待ってください。第2号と第4号は射殺対象から除外すべきだと思います」

 

発見次第、即射殺。

奴らの行った殺戮を鑑みれば充分に想定される事態だったが、それでも反射的に背筋が凍り付いた。

 

私は一拍おいて努めて感情を隠し、あくまで一捜査員という体で提案した。

 

別れる前にも比企谷くんと話し合い、彼の正体についてはやはり当面は警察にも明かさない方向で動くべきだと決めた。

 

彼自身のみの安全、正体を公にする事で伴うリスクを鑑みての判断だ。

 

だから私にとっての最初の正念場は何としてもこの場で第4号(比企谷くん)は当座の脅威ではないと捜査本部に理解して貰う事だ。

 

「何故そう判断するのかね?」

 

他の捜査員がざわつく中、本部長は私に視線を向けて尋ねる。

それは当然の疑念だ。私は引き続き努めて私的感情を見せず、その理由を述べた。

 

「この2体はこれまでの出現で人間に危害を与えず、第1号や第3号のみに攻撃していました。そして私も先のサンマルコ教会の戦いで彼に助けられています。ですからまずは――「それはあくまでお前の主観的な見解だろう雪ノ下!」っ、それは……」

 

しかしそんな私の発言を――引いては私自身を威嚇する様な高圧的な声音で――遮られた。

 

口を挟んだのは、私が県警に配属されて以来何かと不躾な視線をぶつけてくる叩き上げの中年捜査官だった。

 

その視線には、『まだロクに現場も知らないキャリアの小娘がアピール目的で発言するな』という露骨な敵意に見ている。

 

しかし厄介な事に『主観的な見解』と言う意見そのものは、正論でもあった。

 

「雪ノ下くん、第2号と第4号が我々に敵意がないと、明らかに証明できるのかね?」

 

「それは…………」

 

疑念の視線が強まる中、比企谷くんの正体を秘匿した上で本部長をはじめとした捜査員を納得させる言葉が思いつかなかった……。

 

◇◇◇

 

長野市内 04:10 p.m.

 

結局その後の会議でも『未確認生命体は例外なく発見次第即射殺』という方針を撤回出来なかった私は激しい焦躁に駆られながら、依然足取りを掴めない第3号の捜索を行っていた。

 

――甘かった。

 

これは私の発言が比企谷くんへの信頼ありきの主観であるという以前の問題――現場捜査員らの私個人に対する嫉心を軽視していた私の落ち度だ。

 

女性の社会進出は、それこそ私達が生まれる前の世代から推奨されてきたものだ。

実際、私達の母の世代に比べその敷居は確実に低くなった。

 

しかしそれでも、警察という組織は根本的には男社会であり、現場であれ上層部であれ、その主軸となって働くのはそうした動きが始まる前から社会で生きてきた層の年代なのだ。

 

男尊女卑、とまでは言わないが、ともすると実の娘と同年代程の小娘がキャリアというだけで捜査方針にアレコレ口を挟むのを面白くないという彼らの考えは、……納得は出来なくても、理解は出来る。

 

――仮に高校時代の私なら、きっと口を挟んだ捜査官を正論を叩き着けて言い負かそうとしていただろう。実際、あの場でそうする事も出来た。

 

しかしそれではダメなのだ。

あの場で彼らを言い負かした所で、得られるものなど何もない。

 

それは言わば、ただ私の中のちっぽけな自尊心を満たすだけに過ぎず、彼らは一層、私に対し敵意を強め、頑なになるだろう。

 

大切なのは彼らを屈服させる事ではなく、納得して貰い、賛同して貰う事だ。

 

それは今回に限らず、私がこの警察組織内に於いて上を目指す中で絶対に必要になる力でもある。

 

私の知る限りだと、そういう能力に最も長けている人間は――姉さんを除くと――やはり一色さんだろうか?

 

自身も充分優秀でありながら敢えて周りの人間に弱みや未熟さを見せ、自然な形で助力を得る。

 

比企谷くんはそんな彼女の事をよく『あざとい』と評していたが、そう言う彼も何だかんだで動かされていた。

 

或いは由比ヶ浜さんの様な天真爛漫さ――愛嬌とでもいうべきものがあれば、それこそ周りには自然と人も集まるだろう。

 

どちらも私にはない力であり、彼女達の存在は、ただ強く正しくあれば、どんな道理も貫き通せると思っていた私にそれを教えてくれた。

 

しかし現状、私にはまだそんな彼女らの様な可愛げはない。

だから今は、私に出来ることからすることにした。

 

当座の問題としてまだ日が明るい内に逃走した第3号を発見し倒す。

そうすれば当面、比企谷くんに変身して貰う必要がなくなる。

その後の方針については、合流後に彼と話し合って決めよう。

 

念の為、メールを送っておくべきだろう――。

 

ドン!

「あっ、ごめんなさい」

 

そう思って迂闊にも歩きながらスマホを捜査してしまった私は視線が留守になり、前方を横切った女性とぶつかり、咄嗟に謝罪。

 

「ギチャバビコギザ……!(嫌な匂いだ……!)」

 

しかしその濁音が多い言語を耳にした瞬間、私の背筋は凍り付いた様な衝撃を受ける。

聞き間違い、或いはただの勘違いかもしれないが、その言語は奴らと同じ……。

 

「っ!! し、失礼、今、何と仰いまし……「っ!」待ちなさい!!」

 

問い詰めようとする私を押し退けて走り出した彼女を、私は追いかけた。

 

その行く手には何故か、無数のバラの花弁が舞っていた……。

 




というわけで厳しい現実に難儀する女性キャリアゆきのんと、グロンギ側のヒロインといえるバラのタトゥの女=バルバさん登場回でした!

クウガ放映当時自分は中3だったのですが、ぶっちゃけ作中で1番美人さんだと思ったのは彼女だと思いました(笑)

次回は本作のメインヒロイン(の1人)とそんなグロンギ側ヒロインが真っ向からぶつかる話です。

えっ、グロンギ側の主人公?
勿論ゴオマさんですよ!(爆)

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