伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
長野県 高架下 04:37 p.m.
「ダダダダバゴグレ、ダン クウガ(戦ったそうだな、クウガと)」
「ゴグザ。ババジ クウガ ザ ギダレ ズンダ ゾ!(そうだ。かなりクウガを痛めつけてやったぞ!)」
長野市内で消息不明の未確認生命体第3号の捜索を行っていた私はその途中、奴らと同じ言語を話す女性と接触。
逃走する彼女に何とか食らいついた私は人気の無い廃工場へと辿り着き、そこで先程の女が異様に目のギラついた30歳手前位の男と濁音の多い独特の言語で会話を交わしていた。
男の声と異常性を孕んだ立ち振る舞いに……私は激しい既視感と1つの可能性を抱いた。
まさか、奴が……第3号?
一方、どこか己の手柄を誇示し、評価して欲しいと言わんばかりの立ち居振る舞いをする男に対し、女は妖しく微笑みながら彼の頬に右手を艶めかしく這わせた。
――妖艶。
彼女の容姿や雰囲気を端的に述べるなら、この2文字以上に相応しい言葉はないだろう。
改めてじっくり観察すると、その顔は恐ろしいまでに美しく、妖しかった。
年齢は恐らく私と同年代だろうが、どこか浮き世離れした色香を感じる。
また、その立ち居振る舞いにも品格が伴っており、まかり間違ってもこの数日で猛威を振るった奴らと同族とは思えない。
普通ならば奇抜さを感じるであろう、額に刻まれた“白いバラのタトゥ”すら、その美しさを際立たせるアクセントに昇華している。
「……っ! ハァ、ハァ……」
そんな極上の美女に触れられた第3号(?)と思しき男は興奮し、鼻息荒く目を血走らせる。
しかし次の瞬間、バラのタトゥの女はその表情をしかめ、男の頭部を握りしめた。
その右腕のみを、植物の蔓を纏った人ではない異形に変貌させて。
「……っ!!?」
信じ難い光景に私は一瞬、声を漏らしそうになるのをグッと堪える。
昼の鑑識員が言っていた血液成分のデータ。
幾度か奴らと接触した中で芽生えた所感。
そして、『比企谷くんという、奴らと同等の力を持った存在』。
――私の中で予てから組まれつつあった予想が今、確信へと変わった。
奴らの正体は……私達と同じ“人間”?
だとしたら、奴らと同じ時代から発掘されたベルトで変身した比企谷くんは奴らと等しい存在……そして、彼は、ある意味で人を――。
全身の血の気が引く感覚に足下がグラついた様な錯覚に見舞われそうになった。
一方、しばし異形化した右手で男を締め上げたバラのタトゥの女はその手を戻し、掌から出現させた1枚の紅いバラの花弁を奴に差し出す。
――あたかも、パーティの招待状の様に。
「リンバ、ガズラデデギス(皆、集まってきている)。ギゲビ“トウキョウ”(“東京”にいけ)」
「トオ・キョ?(東京?)」
「リント ゾログ ゴゴブ ブルド ザ(“リント”が多く集まっている所だ)」
「ロドド ゾ ジャズバス ボソゲスンザバ?(もっと奴らを殺せるんだな?)」
「ヂバグ!(違う!)」
再び増長しだした態度を見せる男(第3号?)に対しどこか苛立たしげに恫喝するバラのタトゥーの女。
その言語が解明できない以上、推測のしようもないが、何処か断罪してる様にも見えた。
「アッレレ~? 何々、お姉さん達こんな所で痴話喧嘩~?」
「そんなキモいおっさんほっといて、俺等と遊ばな~い?」
そんな状況下で事態は全く予期しない方向に転じた。
彼らのやり取り痴話喧嘩の類いと勘違いした若い男の2人組が近づいてきた。
「……チッ」
「……ケハァ!」
忌々しげに舌打ちするバラのタトゥの女。
そして男の方は、まるで叱責の捌け口を見つけたとでも言いたげに口角を上げ、その姿を蝙蝠の異形――未確認生命体第3号へと姿を変貌させた。
「「わあああああああああああああッ!!」」
目の前で起きた信じ難い事象、その果てに現れた怪物の存在に悲鳴を上げる男達。
私は脇のホルスターから拳銃を抜き、彼らに向かって銃口を向け、叫んだ。
「警察よ! 速く逃げなさい!!」
一同の視線が集中する中、私は躊躇することなく第3号の胸部に数発の弾丸を撃ち込む。
銃声を耳にして状況を本能的に察した男達は脇目も振らず逃げ出して行く。
それでいい。今この場で最も優先すべき事=民間人の速やかな避難を促し、私は既に残弾の尽きた銃を構えたまま、奴らの視線を引きつける。
――――正直、少しでも気を抜けば手が震えそうになって仕方がない。
既に奴らの脅威をこの身で充分痛感していた私の身体は本能的に奴らとの対峙を避け、先の二人組と共に逃走しろと命じ、……私の中の女々しさが彼の名を叫ばせようとする。
――助けて比企谷くん、と……。
それでも、私は引かなかった。引けなかった。
ここで彼に卑しく救けを乞えば、然も彼を、名を叫べば跳んできてくれる『都合の良いヒーロー』の様に扱う様な女に、彼と共に戦う資格などないという、想いがあったから……。
「ギソギ グジグジ ン ゴンバァ(白い首筋の女ぁ)」
「ラデ、ゴオマ!(待て、ゴオマ)!」
私の顔を見るや否や、第3号が下卑た笑みを浮かべながら近付こうとするが、その動きをバラのタトゥーの女の恫喝が制する。
そして彼女は私にジッと視線を定め、まるで値踏みする様な眼を私に向ける。
その視線には――何故か不思議なことに――奇妙な好意、ある種の慈しみの様な感情が、垣間見えた気がした。
「ゴンバ ゲンギ リント……(リントの女戦士、か……)」
そして、まるで見逃してやると言わんばかりに踵を返し、立ち去ろうとする。
情けなくも一瞬抱いてしまう安堵。しかし私は弾丸を装填した銃を構え、覚悟を決めて彼女を呼び止めた。
「待ちなさい!」
「――――フン」
「っ!」
その勝ち目のない抵抗を嘲笑しながら、彼女は掌から夥しいバラの花弁を放つ。
ともすると幻想的にすら感じるその光景とむせ返るような香りの中、私は意識を失った――。
◇◇◇
『何故殺さないバルバ! いらないなら俺にくれ! この女の白く柔らかそうな首筋を、生きたままむしゃぶりたい!!』
己の卑しい欲望を隠そうともせず、また、己がどれほど愚かな事をしたのかまるで理解もせず懇願する我ら“グロンギ”の面汚し“ス・ゴオマ・グ”。
全く以て煩わしい。
あまりの不快感から衝動的に『当初の予定通り』この場で処分してやろうかという想いが再び湧く。――これだから《ズ》の連中は嫌なのだ。
《ベ》ならばまだ己の分を弁えた態度を取るし、《メ》や《ゴ》なら間違ってもこの様な愚行を犯さない。中格故の傲慢さと無知を併せ持つが故に始末が悪い。
同格の“ズ・グムン・バ”と共に我々《ラ》の許可無く神聖な“ゲゲル”の真似事を行い、我ら麗しき民グロンギの誇りに泥を塗った。
それは本来、例外なく処分の対象となる。
しかし実際相対した
ただ殺すだけでは、足りない。
この男には他のプレイヤーのゲゲルを間近で見せ付け、己が無知と無恥を解らせた上で、始末する。それが私の下した判決だった。
――しかし、その過程で興味深いものにも出会えた。
透けるように白い肌と艶やかな長い黒髪を伸ばしたリントの女。
自ら戦いに赴かず、祭り上げたたった1人の
しかしその瞳の中には、そんな己を戒め、戦士たらんとする克己の意思が垣間見えた。
――少なくとも、私の傍らで未だ未練がましい眼をする
クウガに封じられてから流れた時の果て、リントの、それも女の中にあの様な眼を持つ者が現れた――それは、好ましいことだ。
これから始まるゲゲル。
その果てに行われる“究極の闇”に対し、この時代のリントがどの様な動きを見せるか。
興味は尽きない――。
クウガ原作を見た方でも知らない人がいるので説明いたしますが本話中出てきた<ベ>というのは<ズ>よりさらに位置する下級の集団のことです。
また、作中を見るにそもそもゲームの資格のあった<ズ>自体集団の中から選抜されたエリートらしいんですよね。多分ですが約200いるとされるグロンギの内
ゴ集団:最上位の10体の精鋭(本作ではおり含め13体にする予定)。
メ集団:ゴに近い22体の上級怪人。
ズ集団:中堅どころの怪人達、多分50~60?(推測)
ベ集団:最下級種族100とか??(推測)
なんだと思います。
ちなみにバルバはグロンギサイドの視点人物としてこれからも活躍するのでしょうが、彼女の考えについてはTVや小説版を読んだ上で私が頭の中でくみ上げた部分も多分に含まれているので疑問や違和感を感じたらご意見いただければと思います。
私の中でのバルバ像はかつての戦いわないリント=人間と人身御供の様に戦士になったクウガを軽蔑しつつ、自らの力で抗う現代の人類に対してはある種の愛情?みたいなのを抱ている様なキャラです。
そして、そんな人類の代表者として目を付けられることになったゆきのん。
ゴオマといい、本作の彼女はグロンギ相手にモテモテです(爆)