伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
EPISODE:01 死の警告の先、異形と戦士は復活する。<1>
――麗しきグロンギ、襲い掛かりて。
――卑しき者、リントを狩る。
――静寂の中、骸の他に、眠る物なし。
およそ人間の感覚では理解のしようが無い、遠い遠い悠久の昔日。
石造りの祭壇でひしめく夥しい数の異形を前に、“彼”は唯1人、対峙していた。
視界を覆う程の数を誇る彼らの殺意に満ちた眼差しを一身に受けながら、それでも彼はひるむ事無く、戦いを挑んだ。
ある時は燃える炎の如き拳を振るい挙げ――
ある時は流れる水の様にしなやかな動きと棒で敵を薙ぎ払い――
ある時は吹きすさぶ疾風の矢を以て敵を射貫き――
またある時は、大地を揺るがす大剣を以て敵を切り裂いた――
そうしておよそ200に及ぶ異形を伏した後、戦士は最後に残った異形の王に蹴りを見舞い、彼とその配下である全ての異形を封印した。
決戦後、神殿は戦士が属する平和を愛する部族等により埋葬された。
これは彼らが『戦いという文化』すら知らぬ民族故の優しさであると同時に、1つの保険でもあった。
民族の未来を導く巫女は預言した。
『悠久の時の果て、彼らは再びその姿を現す可能性がある』と。
故に彼らは、決断した。
優しく残酷な決断――戦士の埋葬を。
――画して、多くの同胞を救った古代の英雄は、何人も立ち入れぬ場所で封じた蛮族と共に封じられた。1人、孤独に、優しいが故に、孤高に。
遙かなる時の果てに生きる。愛しき同胞の末裔達の笑顔を守る為に……。
自らの『力』と『魂』を継承するかも知れない。誰かを待って――――。
◇◇◇
2018年1月19日 城南大学考古学研究室 07:43 a.m.
「…………ん、もう朝か……」
歴史を感じるデスクトップPCの乗った机の上で殆ど寝落ち同然に眠っていた俺は、窓から差す陽光と雀の鳴き声で目を覚ます。
口の端から垂れかかった涎を拭い、軽くストレッチをすればあちこちからパキポキと音がする。
好きでやってる研究とは言え、流石に連日連夜研究室に缶詰は堪える……。
けど下宿先に戻ってもうるさいしこき使われるから全然休まらないんだけどね!
ひとしきり柔軟を終え意識を覚醒させた俺は次いで、俺より3時間も早く寝落ちした癖に未だグースカ寝てる研究仲間を起こした。
「おい、もう朝だぞ? ――起きろ由比ヶ浜」
「……んん、後5分寝かせてぇお母さん」
コイツ、なんてベタな寝言を……!
「誰がお母さんだオイ。マジで早く起きて飯でも食いに行くぞ! 他の連中に泊まったのがバレるとまたいらん誤解を生む」
寝ぼけた由比ヶ浜の身体を揺らし、なんとか起こそうと努力する。
一晩中資料を読み漁っていただけなのにいらん誤解をされ、噂を立てられるのは気分が悪いし、何より由比ヶ浜に悪い。……途中で寝るなら家に帰れよとか言いたくはあるが。
「う……ん……って、アレ? ヒッキー?? なんで私ん家にいんのっ!?」
「いつからお前はここの主になったんだよ。研究室に泊まったんだろ。夜食食って割とスグ寝たけど!」
「えっ……あっ、そうだったっけ……ごめん。てか毛布、ありがとう」
「……おう」
覚醒すると同時にこりゃまたベタな勘違いをして勝手に戸惑い、素直に謝る由比ヶ浜。
そういやコイツ高校時代、現国の時間に居眠りして平塚先生に起こされた時も寝ぼけて『お母さん』とか言って悪気なくあの人傷付けてたっけ……。
しかし段々と思考が冴えるに従って、彼女はまた俺にあらん疑いを掛けてきた。
「……変なこととか……してないよね?」
「する訳ねえだろ! ……徹夜で一緒に調べ物するの、これで何度目だよ」
そんな寝込みを襲う度胸があったらとっくの昔に童貞なんぞ卒業してるわ! と、やや最低な脳内ツッコミをしつつ、疑惑をキッパリ否定。
刻一刻と迫る|魔法使い≪30歳童貞≫化を考えると絶望しそうだ。
「……そっか、してないんだ…………バカ」
えっ、なんでそこでちょっとふくれっ面になるの?
もしかして期待してた的な……イヤイヤイヤ、ないないない!
そんな夢みたいなフラグはエロゲかラノベの中ぐらいにしか存在しない。
ってかふざけんなよ。
ぶっちゃけ俺だって無防備なお前をみてムラムラする時の1回や2回あったのに、強靱な自制心(別名:自己保身とも言う)で耐えたんだぞ?
それをなんでバカとか言われなきゃいかんのだ! 訴えるぞ!
――と、いう文句を言いそうになったが、彼女の背後にはやたらめったら法律に詳しくておっかない刑事さんがいるのでぐっと堪えた。自己保身、大事。
「……取り敢えず朝飯にすっぞ。コンビニでもいいけど、折角だし俺んトコ寄ってシャワーでも浴びてこいよ」
「えっ、いいの? 行く行く!」
そんな訳で俺と由比ヶ浜は腹ごしらえの為に外に出ようと部屋の片付けを始める。
そこで不意に、突けっぱなしだったPCの解読ソフトが、一部の解読を完了した通知が眼に留まった。そういえば寝落ち直前にデータ打ち込んでたっけか。
「えっ、何々? 九郎ヶ岳遺跡の文字、解読できたの!?」
「取り敢えず3文字だけな。――――えと……って」
興味津々にPCに顔を近付ける由比ヶ浜にちょっとドキドキしつつ、解読された文字を見る。
そこに表示された解読結果は――
◇◇◇
喫茶ポレポレ 08:34 a.m.
「『死』と『警告』と『力』? 何ですかそれ?? 『このお墓を暴いたら呪うぞ~』みたいな奴ですか?」
「ん、……まあ解読ミスかなんかだろうけどな」
出がけに縁起でも無い解読結果を確認した俺と由比ヶ浜は当初の予定通り、俺の下宿先で朝食を摂りながらあざとい後輩こと、一色いろはに話した。
オリエンタルな味と香りの店、ポレポレ。
一色の母方の叔父が経営する大学近くにある小さな喫茶店。
そして大学入学からしばらくして、彼女の紹介でかれこれ7年近く厄介になってる俺の下宿先だ。
千葉の自宅から東京23区内への大学進学。普通に考えれば充分通学可能だと思うだろう思ってたけど実際キツいんだよ。ここのキャンパス駅から遠いし。
で、そんな時一色(当時受験生)から『先輩~♪ 大学に近くて偶にお店手伝うだけで家賃タダにしてくれる所あるんですけど~』とかお誘いを受け、な~んか胡散臭いな~とか思いつつも実際キャンパスに近くてカレーもうまかったからまあ、受けた。
けど案の定というか、やっぱりさ、上手い話には裏があるんだよね。
まず『偶に店を手伝う』ってのが基本、休日店の手伝いなんだわ。
先述の通りカレーやコーヒーが美味いから、店が混む混む。
しかも後になって手伝う時間を時給換算してみたら普通にバイトして部屋借りた方が安く上がったんだよね。
おまけに手伝いがない日でも時たま一色が店に遊びに来て、買い物に付き合わせたりドライブ連れてけだのと『家主の姪』の権限でこき使ってくる。
全くもってもタダより高いモノはないとはよく言ったもんだよ。
「でもでも、態々そんな脅し文句残すってことは、ひょっとしたら物凄い金銀財宝とか眠ってるかも知れないって事ですよね!? そしたら先輩お金持ちじゃないですか!」
「いやだから多分何かの間違いだっつの。大体、発掘しても俺等にはその所有権とかないしな」
「えっ、そうなんですか結衣先輩?」
「あはは、うん、基本的にはね。トレジャーハンターとかは映画の中だけの話だし」
「えっ、じゃあお宝見つけて一発逆転とかないんですか? な~んだ、そしたら先輩達、どうしてそんなお金にならないことやってるんですか~?」
金目の話でないと知るや途端に興味を失ういろはす、マジドライ。冬なのに大変!
もう何か、ね? ここまで態度が露骨だと逆に可愛くすら思えてくるまである。
因みに以前、小町にほぼ同じ話を時も殆ど同じリアクションだった。
花より団子ならぬ、ロマンよりお宝。
この辺の価値観はやっぱ、性差もあったりするのだろうか?
「あーでもいろはちゃんの気持ちも解るな~。ぶっちゃけ私も考古学者って埋蔵金発見する人達かと思ってこのゼミに入ったし」
「おいお前ちょっと初耳だぞそれ。つーかそんなアホな勘違いして今は博士号取ろうとしてんの!?」
聞き捨てならない、というか聞いて後悔する様なカミングアウトをかますガハマさん。
「い、今はちゃんと分かってるからいいの! ――実際、楽しいしね」
無自覚に恥を暴露して赤面しつつ、研究室での今の日々に充実した表情を見せる。
実際、彼女の頭悪い……違った常識に囚われない柔軟な発想は思わぬ発見のきっかけになったり、意外と核心を突いたレポートを書いて教授を唸らせたこともある。
その人柄も含め存外、大学講師なんかに向いてるのかも知れない。
「うーん、確かにそういうのも悪くないとは思いますけど……」
一方、実利主義ないろはすはまだ納得しきれない様子で、……何故か俺の顔を見て溜息をついた。
「……ハァ、やっぱり選択し間違えたのかなぁ。葉山先輩なんて医学部卒業して今じゃ立派なお医者さんなんですよ先輩!? 今から弁護士やプロ野球選手になれとはいいませんけど、もうちょっと甲斐性見せてくださいよ!」
「そこでなんで葉山がでんだよ!? ていうかお前は夫の稼ぎでご近所さんと張り合う奥様か」
「えっ、ちょっ何ですかそれもしかして私の旦那様気取りですかちょっとやめてください先輩そういう事はちゃんと博士号とるかせめてこのお店の後継いでから言い直してくださいお願いしますごめんなさい!」
「いやだからなんで俺はことある毎に告ってもいない内にフラれてんの? つーか懐かしいなそのフレーズ」
高校時代はそれこそ飽きるほど聞いたいろはすによる超速自動お断り。
俺は一体あと何回、こいつにフラれるんだろうか……。
などと雑談をしつつ朝食を済ませた俺達は再び教室に戻ろうとするが、そこへ由比ヶ浜のスマホが鳴る。
「もしもしー……ってゆきのん!? 久し振り~~! どうしたの急に?」
その相手は、俺と彼女の高校時代の部活仲間であり、現在は長野県警警備部に所属する女刑事・雪ノ下雪乃であった。
仕事柄忙しく、就職後は滅多に会えなくなった親友からの連絡に声を弾ませる由比ヶ浜。
その様子に俺も一色も思わず頬を緩ます。
「え……うん、そうだけどどうして? ――え、うん。――――うそ……!」
しかし話が進む内、徐々に彼女表情は険しくなっていき、声にも抑揚がなくなった。
刑事となった友人からの電話。
それは残念ながら、不吉な報せを告げるモノだったのだ。
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