伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。   作:烈火・抜刀

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なかなかバトルパートに移れないことに関して肯定的なコメントを多くいただけて感謝です!

という訳で6日連続投稿です(多分今週はラストかな?)。

今回はサプライズな人物が登場します。

葉山、三浦、ルミルミ……なんかここ数話、怒涛の新キャララッシュです(苦笑)


EPISODE:28 “相棒”の為、雪ノ下雪乃は最強の上司に立ち向かう。

警視庁 02:00 p.m.

 

「失礼します」

 

八幡と別れて警視庁に戻った私は、未確認生命体関連の事件の捜査を受け持つ警備部長の執務室に入室した。

 

理由は無論、昨日彼に警視庁の試作車であるTRCS2020の試作車(トライチェイサー2020)を渡したことに対する事情説明だ。

 

「聞かせて貰えるか、何故この様な独断を行ったのか」

 

机の上に監視カメラが捉えたバイクを駆る第4号()の写真を置き、説明を求めるのは、この部屋の主にして近々設立されるであろう『未確認生命体関連事件合同捜査本部』の責任者となるであろう“一条(いちじょう)(かおる)”警視長。

 

まだ40代半ばという異例の若さで警視庁の一部門のトップの座に納まった警察組織始まって以来の俊英。次期総監の呼び声も高い傑物だ。

 

警察組織内では語りぐさとなった2000年に起きた『ある事件』を始め、数多くの難事件を解決に導いた手腕と、まさしく警察官の模範とも言うべき誠実な人柄に対する信頼は上層部・現場双方からも厚く、多くの若手警察官の目標となっている。

 

――私にとってもそれは同様であり、また警察学校での訓練時代、それぞれの教科でトップを取る度に教官等から『同期内では一番だが、この学校の歴代生との中では2番、一条薫に次ぐ成績だ』と言われ続け、密かに対抗心を覚えた存在でもある。

 

そんな複雑な感情を覚える上司に対し、私はこれから些か……いや、相当に無茶な言い分をまかり通さなければならない。

 

「未確認生命体第4号――彼は我々の味方です。そしてああする事が第5号による被害拡大を防ぐ最善の手段と考え、実行致しました」

 

「君が先日長野県警で行われた捜査会議に於いても『第2号と第4号を射殺対象から除外すべき』と進言した事は聞いている。結果として昨日、第5号を倒す事が出来たその判断が適切だった事は否定しない。――だがだからといって君の問題行動を看過する訳にもいかないことは、分かるね?」

 

「――――はい」

 

穏やかで理性的な口調で、しかし眼光だけは鋭くこちらの見据えながら放たれる問いに、私は首肯し、理解を示す。

 

本部長の言ってる事は正論だ。

如何にあの時の行動が適切な判断であったとしても、一度捜査会議で決まった方針を否定し、個人の独断で警視庁の備品――それも極秘開発されたワンオフの試作機――を民間人(?)に譲渡するなど、まかり通して言い話ではない。

 

まして、それ程の事をして尚、私が第4号()に関する仔細な報告を拒み続けているのだから尚更だ。傍から見れば、私の行動は警察官のモラルから大きく逸脱している。

 

「……単刀直入に聞こう。君は第4号と直接的に繋がりを持ち、協力を得られる状況にある。それは間違いないね?」

 

「……………………はい」

 

「そして、今後も彼の助力をえながら未確認生命体が起こす殺人事件に対応していきたい。と」

 

「……その通りです」

 

「――――悪いがそれは承認できない。少なくとも君が彼に対する報告を拒み続ける以上はね」

 

「…………」

 

その語も本部長は私の思考を先回りしたかの様な的を射た質問をし、その上で私の要望を否定。

 

――いや、違う。正確には『第4号について知っている事を話せ、そうすれば融通を効かせる事も出来る』と暗に示してくれているのだろう。

 

組織の長としては甘い、しかし何故この本部長が現場からも絶大な支持を得ているのかが分かる。何よりも『犠牲者を減らす事』を念頭に置いた誠実な人柄が見受けられる裁量だ。

 

「無理を承知でお願いします。どうか第4号()に関しては私に一任してください。――無論、責任の一切も私が負わせても貰います」

 

だが私はそんな本部長の温情に背を向け、組織に対し冒涜的とも言える意見を貫こうとする。

 

明確な証拠も提示せず報告も拒んだ上で、『個人の信頼』だけを担保に独自行動を諾す。

それが警察という司法組織に於いて、どれ程バカげた行いであるかなど、言うまでも無い事だ。

 

一条本部長が向ける眼光に一層の鋭さが増したことを感じ取った。

 

――正直、ここに来るまで全てを打ち明けるという選択肢も考慮し、葛藤もあった。

 

ましてや自分は『話さなかった』事で、由比ヶ浜さんを傷付けてしまった直後であることも含め、隠すことが事態を余計に悪くするのを思い知ったばかりだ。

しかし物事には逆に『話してしまった』事で起きる弊害も存在する。

 

第4号に関する詳細を本部長に話すと言う事は即ち、比企谷八幡の正体を警察組織全体に明かすという事と同義だ。無論その組織全体の中には、必ずしも信頼に足る人間ばかりではない。

 

八幡()を化物の1人として扱い、排除しようとする者。

逆に強大な力を持つ彼を都合の良い英雄に仕立て上げ、利用しようとする者。

 

例え本部長一個人を信頼できたとしても、警察組織全体を、引いてはその指針に口を挟む国そのものを信用することは“まだ”出来ない……。

 

――“あの姉”がどう動くかも、予想できない。

 

明かす事も明かさぬ事もどちらもリスクが伴うなら、今は明かさぬ事を選ぶ。

 

彼が皆を守る代わりに、私が彼を支える。

 

昨日交わした約束を胸に、私は一条本部長の鋭い視線と真っ向から見据えた。

 

「……もし仮に、第4号が人々に危害を加える存在に変質した場合、君はどうする?」

 

数十秒の沈黙の末に投げかけられた質問。

私は一瞬、責任の所在について尋ねているのかと思ったがスグに違う事を理解した。

問われているのは“責任”ではなく“覚悟”であるという事を――。

 

「その時は…………私が彼を、射殺します」

 

言葉にして発した瞬間、胸を突き刺す痛みを覚え顔を歪めそうになったが何とか堪え、努めて毅然とした態度で、私は応えた。

 

この場に於いて、『そんな事ある筈がない』や『私は彼を信じています』と言った言葉は――例え本心であっても――何の意味もなさない。

 

一条本部長が問いかけているのは、私個人の主観ではなく、第4号(八幡)に対しと警察官の使命に対し、どこまで真摯に向き合う気持ちがあるかなのだ。

 

「………………………分かった」

 

◇◇◇

 

「雪ノ下、……本部長は何だって?」

 

警備部長室を退出し捜査本部に割り当てられた会議室に戻った直後、昨日私と共に第4号(第八幡)を擁護する立場を取ってくれていた中年刑事――杉田(すぎた)守道(もりみち)警部補が声をかけてくれた。

 

他の捜査員が居る前で話すのもどうかと思い、2人で会議室廊下に移動し、私は取り敢えず当面、第4号(及び第2号)に関しては射殺対象から除外。

その扱い、TRCS2020に関する責任の一切は私が負うという形でまとまったことを説明した。

 

容認……と言うよりは当座は黙認、といった所だろう。

そして第4号が万が一の行動を起こさない限り、私の合同捜査本部から外さないというお墨付きを頂いた。――ハッキリ言えば、出来過ぎた結果と言えるだろう。

 

「そうか。あの堅物で知れた本部長相手にそれだけ譲歩して貰えたんなら上出来だな。――まあ、昔から道理の分からない人じゃないって知ってたから然程心配もしてなかったんだけどな」

 

ホッと胸をなで下ろした様子でこの件に関する顛末を我が事の様に喜んでくれる杉田さん。

昨日第5号に襲われていた所を彼に助けられた事で味方と認識してくれたらしい。

 

「まあしばらくは現場の方でも多少の混乱は起きるだろうな。目の前で同僚を殺された奴からすりゃ『4号だけ例外』なんて話も簡単には受け容れられんだろう。……まあ、ここの捜査本部の連中には俺が言い聞かせとくから取り敢えず安心しろ」

 

「――ありがとうございます」

 

長年警視庁の捜査一課に籍を置き、捜査本部の中では年長の部類に入る杉田警部補は現場での信頼も厚く現場組のリーダー格だ。

そういう人物が早々にクウガ(第4号)を肯定する立場に回ってくれたのは本当に僥倖といえるだろう。彼の義理堅さ、自分にはない捜査員間での信頼力には頭が上がらない。

 

しかし同時にそんな彼に対しても八幡の事を明かせない心苦しさと、疑問が生まれた。

 

「……杉田さんは、第4号の正体を知らないままでも、よろしいんですか?」

 

「ん? ……まあ、話してくれるなら是非聞きたいが、女の隠し事をズケズケ詮索する程おじさんも野暮じゃねえさ。……小学生の娘にもそれで口聞いて貰えなくなったことあるからなぁ」

 

「フッ、私にも覚えがあります」

 

おどけた態度で返す杉田さんに、私も思わず苦笑してしまう。

この人間味のある人柄も、同僚からの信頼される所以なのだろう。

圧倒的な実力と清廉な信念で人を引っ張る本部長とはまた違った人の上に立つ才能だ。

 

「まあ、事情が聞けない以上出来ることも多くはないと思うが取り敢えず何かあったらアテにしてくれ。おっさんって生き物は若い子に頼られると嬉しい生き物だからな」

 

「フフ――ええ、頼りにさせて貰います。杉田さん」

 

未だ懸念を抱くものが多くあるが、まずは1人、頼もしい同僚が出来た事に私は安堵を覚えた。

 

「あっ、ここにいましたか杉田さん! ……と、どうも」

 

そんな折、見覚えのある同年代の刑事が駆け寄ってきた。

 

彼の名は桜井(さくらい)(つよし)

私と同じく間もなく正式に設置される合同捜査本部のメンバーに内定しているキャリアの刑事。

そして昨日の第5号との戦闘で私が発砲を阻んだ人物だ。

 

あの場は杉田さんの取りなしで事なきをえ、互いに形式上頭を下げることで収まったが、それはあくまで信頼する先輩の顔を立てたに過ぎず、彼が私個人に対し思うところがあるのも無理からぬ事だ。――第4号(八幡)の事も含め、他の捜査員の信頼を得る為にそれに値する働きが求められるという事だろう。

 

「おう桜井か、どうした血相変えて? ――もしかして例の件、当たりか!?」

「例の件?」

 

午前中から捜査本部を外していた私が首を傾げると、桜井さんは『そうなんです』と言ってメモ帳を開き、説明をしてくれた。

 

「今日の午後以降、港区と品川区で墜落事故が多発しているんです。その数は既に9件、偶然じゃ考えられない数字です」

 

それは新たな事件――戦いを告げる一報であった。

 

◇◇◇

 

「ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

十階建て前後のビルディングが建ち並ぶオフィス街、男は必死に逃げていた。

仕事を辞め家族を捨て、浮浪者として世捨て人同然の生き方をした数年来、経験したことのない程にそれこそ、死にもの狂いで。

 

きっかけはほんの数分前だった。

 

飲食店が建ち並ぶ路地裏で残飯を漁っていた折、季節外れの装いをした、恐ろしく冷たい眼をした若者がこちらに視線を向け、加虐的な笑みを浮かべ近づいてきたのだ。

 

こんな生活をしている身だ。

分別のない若者に遊び感覚で理不尽な暴力を受ける事も珍しくない。

 

過去の経験に基づいて男は即座に逃げ出し、地の利を活かして逃げ仰せるつもりだったが、程なく相手がこれまで対峙してきた若者等とは異なる事を直感した。

 

ビルとビルの間、人一人通れるかどうかの路地裏を駆け抜けている筈なのに、若者は悉く先回りし、自分の前で冷たい笑みを浮かべて待ち構えているのだ。

 

まるで行く手を阻むビルディングなど“跳び越えた”かの様に……。

 

「あっ……!」

 

それでも本能で『足を止めれば死ぬ』と直感していた男はもたつきながらも必死に逃げ続けようとするがゴミ箱に足を取られ転倒してしまう。

 

「フッ、ラザ ヅズベス バ?(まだ続けるか?)」

 

そして顔を上げた彼の目の前で薄ら笑い浮かべる若者が立っていた。

 

「バギン グ ドググ ズゴゴ ビンレザ(22人目だ)」

 

「あっ……ああああああああああああああああああっ!!!」

 

恐怖に顔を引きつらせるホームレスの胸倉を掴み、男――ズ・バヅー・バはその姿を異形に変え諸共に跳躍。

 

25mという自身の最高跳躍点に達した達した所でホームレスを地面に叩きつける様に落下させる。

 

数秒にも満たない絶叫の果てゴシャリ、と骨が砕け、血肉が飛び散る音が聞こえる。

重力に加え人間の数十倍の膂力を持つバヅーによって力が加わった事で、その遺体はただの落下以上に凄惨な形になる。

 

そしてその様をビルの屋上から眺めながら、バヅーは腕輪に付属した小さな輪の1つをずらし、満足感に浸り、陶酔する。

 

――ああ、やはりゲゲルは最高に楽しい。

 

脆弱なリントを追い詰め、惨めに逃げ回る様を嘲笑った末に始末する。

叩き落とす瞬間の悲鳴、恐怖に引きつる表情、肉体が砕け散る音――何もかもが、心地良い。

そしてグセパ(腕輪)に始末したリントの数を刻み込む度に、自分は奴ら(リント共)より秀でた存在であるという実感が湧き、愉悦に浸れる。

 

それが楽しく愉しくてたまらない。

 

――人々を恐怖に貶める邪悪なゲームは開幕したのだ。




はい。
と、いう訳でまさかの登場を果たした一条薫本部長登場回でしたw

当初は一条さんを出すつもりはなかったのですが最近小説版を読んでなんだか出したくなってしまいましたw

本作の一条さんは原作と同じ1974年生まれの42歳。
未確認生命体関連事件合同捜査本部の本部長という設定となっています。

話中、ゆきのんがその武勇伝をメッチャ評価してましたが大体全部小説版に準拠です。

ぶっちゃけこの人の高校時代って雪ノ下姉妹や葉山よりハイスペックだったんだろうなーと思います。

次回次々回は番外編を投稿予定でーすw

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