伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
申し訳ありませんが描写重視の為、若干テンポが悪く、グムンさん登場と八幡変身は次にもちこしです。
お楽しみに!
長野県警察本部前 14:15 p.m.
今朝方、久し振りに掛かってきた雪ノ下から伝えられた信じ難い報せを聞いた俺達はそのまま急ぎ、長野へと急行。
彼女との待ち合わせ場所である県警庁舎前に到着した。
「ゆきのん!」
「急に呼び出してごめんなさいね由比ヶ浜さん。それに――――久し振りね、比企谷くん」
「お、おう――――」
例によってその姿を捉えるや否やワンコの様に抱きつく由比ヶ浜から出遅れつつ、俺は約半年ぶりに再会した彼女――雪ノ下雪乃に挨拶をした。
スーツ姿の上に羽織るのは上等だが幾分使い込まれた印象のあるトレンチコート。
その顔立ちは高校時代から相も変わらず――否、当時から更に磨きの掛かった美しかった。
25歳。
それはアニメやラノベなど十代が主役となる作品に於いては時に『ババア』などと蔑まれ、世間的にも『若い子』のカテゴリーから外れるかどうかという年頃だ。
しかし一方だからこそ、『若さ』などという上っ面の要素に囚われない女性の真の美しさが如実に現れる年代でもある。
分かり易く言えば、アイドルと女優なんかそうだろうか?
若さを武器にグループアイドルは瞬間的な注目度、インパクトに秀でているが、二十代三十代になって尚その頃と同じ輝きを放つ者はそうザラにはいない。
対して女優というのは――勿論、ピンキリではあるが――十代の頃より二十代三十代の方が魅力を発揮する人も比較的多い。
要するに本当の美人というのは結局、幾つになっても美人なのだ。
「相変わらず妙に挙動不審で胡散臭い目つきね。思わず職質しちゃいそうになるわ」
そして、氷の女王は幾つになっても女王なのだ。決して可愛いお姫様に戻る事はない。
あ~、ゾクっとするわー。やっぱ長野ってくそ寒いわ-。
流石冬季オリンピックが開催されるだけのことはあるね。
「そっちも変わりない様で何よりだよ」
「フフ」
一方、そんな俺達の高校時代の様なやり取りを見て由比ヶ浜は楽しそうに笑う。
嘗て奉仕部で共に過ごしたあの頃を思い返しているのだろう。――俺にも、共感できた。
しかしここは同窓会会場ではなく、雪ノ下が今朝突然俺達を態々他県から呼び出したのもあくまで今回彼女が受け持った『事件関係者』として話を聞く為に他ならない。
雪ノ下自身、その事には若干の寂しさというか楽しそうにする由比ヶ浜に対し申し訳なさを感じているように見える。
そしてそんな彼女の表情から察するに、今回その『事件』の渦中にあった俺達の共同研究チーームである信濃大学考古学研究室の人達は恐らく――。
◇◇◇
長野県警察本部内会議室 15:34 p.m.
考え得る限りの『最悪』を想定して臨んだが、甘かった……。
先程、雪ノ下から見せられた映像が頭にこびりついて離れず、吐き気がする。
内容は九郎ヶ岳遺跡内で夏目教授らが録画した昨晩未明の発掘の様子だ。
映像の序盤は、これまでの日本史実を一変させかねない未知の遺跡内の調査に声を弾ませる教授らの和気藹々とした光景が映された。
しかしその遺跡の中央に安置された棺の蓋を開け、中で眠る腹部に不思議な装飾品を着けたミイラを動かした所で『奴』は現れた。
獣の様な呻き声を上げながら、二足歩行で姿を現したそいつは、その後……大凡人間にはあり得ない異常な力でその場にいた者を1人残らず、力任せに惨殺したのだ。
まるで自分の中に蓄積された怒りの発散する様に……。
「お待たせ、由比ヶ浜さんは隣の部屋のソファで横になっているわ」
「……そうか」
特にショックが大きかったらしい由比ヶ浜を休ませに行った雪ノ下が戻ってきた。
俺はその手にあった温かいお茶の入った紙コップを受け取る。
「……ごめんなさい。事件の概要を理解して貰う上でどうしても見て貰う必要があったのだけど、配慮が足りなかったわ」
「いや、実際口頭だけじゃ信じられないだろ。『遺跡から出てきた怪物に殺された』なんて馬鹿げた話……。まだ細かい時代鑑定はしてないけど、少なくとも数千年、ヘタすりゃ数万年前人目に触れなかった遺跡だぞ? ――それより、お前は大丈夫なのか? 顔が青いぞ」
恐らくこの不可解な事件の真相を掴む為、この凄惨な映像をそれこそ何回も見返したのだろう。
警察官としての使命感からくる確固たる意思が感じられ、正直尊敬の念を覚える。
――顔なじみの前くらい、多少は弱みを見せても良いと思うけどな。
由比ヶ浜ほど顕著ではないが顔色の冴えないことを俺が指摘すると、雪ノ下は一瞬眼を丸くした後、僅かに口元を緩めた。
「大丈夫よ。……ありがとう。――貴方こそ普段に輪を掛けてゾンビみたいな顔だけど大丈夫? ちゃんと生きてる?」
「生憎と平常運行だよ」
感謝の言葉を口にしつついつもの皮肉をかます雪ノ下。もうっ、ゆきのんったらタフなんだから!
「――専門家の意見を聞きたいのだけど、“アレ”は一体なんだと思う?」
「おい、俺は考古学者の卵であってUMAの研究家じゃないぞ。……ただ、個人的な所感を言わせてもらうなら、アレには人に近い知能がある気がする」
「同感ね。奴は出てくる時、棺の中のミイラを怒りにまかせてバラバラした後で腹部の装飾品を地面に叩き着けた。まるで何かを誇示する様にそして――」
俺の直観的な意見に雪ノ下も同調し、やはり同じ点に着目していた。
そう、あの怪物が装飾品を叩き着けた時に発した『クゥウウガァアアアアア!』という叫び声。
理性無き獣の雄叫びと捉えるには、あまりにも感情を籠もっていた。
具体的に言えば、憎しみと怨嗟が――。
「あの怪物の消息は未だ不明なのだけれど、私にはその正体の手がかりがあの……いえ、“この”装飾品にあると思うのよ」
「って、こいつは――」
そう口にするや否や、雪ノ下は俺達が入室する前に机の上に置いてあったジェラルミンケースから映像に映された装飾品を取り出した。
ビニールを包まれたそれには棺の物と同じ系統の古代文字が刻まれている。
その多くはまだ未解読だが、側面に描かれた一際大きく刻まれた文字だけは“死”“警告”に続いて解読されていた。
その意味は――――“力”。
「鑑定に必要な諸々の手続きは私の方で済ませて置くから、可能な限り早くその文字を解読して欲しいの。頼めるかしら?」
「ん、まあ、元々それを調べるつもりではあったしな。出来る限り協力させて貰うよ」
あまりにも現実離れした事態に戸惑いは残るものの、俺は自分でも驚く位あっさりと、彼女の依頼を受ける事を即決した。
それは考古学者としての好奇心と、被害に遭った夏目教授らに対して多少なりとも弔いをしたいという気持ち。
そして、雪ノ下の力になってやりたいという想いが根幹にあったからだと思う。
「失礼します! 雪ノ下警部、お話が――」
俺が彼女から装飾品を受け取った直後、会議室に制服を着た若い警官が入ってきた。
彼は雪ノ下の耳元で小声で耳打ちしつつ何故か時折、俺を睨み付けてきた。
ハハ~ン。さては雪ノ下にホの字だな?
などと中学生みたいな事を考えてしまう。
「分かった。すぐ行くからちょっと待ってて亀山君」
えっ、今亀山って行った?
頭のキレるインテリで、亀山なんて名前のお供連れるとか、さてはお前、特命係だな!
……などとバカな事をちょっと考えてた俺に、雪ノ下はバカを憐れむような視線を向けた。
「妙な通報が入ったから申し訳ないけど私はここで失礼するわ。――由比ヶ浜さんの事、お願いね」
「おう。……気を付けろよ」
「――――ええ」
久々の再会をゆっくり喜ぶ暇も無く、雪ノ下は俺の言葉に軽く微笑んだ後立ち去って行った。
仕方ない。今日の彼女はあくまで受け持った事件の捜査の為に俺達を呼んだのだ。
そこに寂しさなどの感傷を持ち出すのはフェアじゃない。
まあいずれ、この事件が解決すればゆっくりと会うことも出来るさ。
俺達はもう、学校や学年、部活なんて枠がなくても繋がっていられる確かな物を持ってるのだから――。
ゆきのんは警視庁採用ですがキャリア公務員の宿命として今は長野県警警備部で現場を学んでいます。本作では警察官を志すにあたり唯一の欠点であったスタミナが改善されてますが、原作の一条さんほど人間離れしたフィジカルは持ってません。
ただし、射撃の腕前はいい勝負。