伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。   作:烈火・抜刀

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バヅー戦第1ラウンド決着。
クウガの運命や如何に!?(煽り)



EPISODE:31 龍の力は発動し、戦士クウガは蒼天を翔ける。<3>

杉並区阿佐谷 03:33 p.m.

 

青い身体に二段変身した八幡と第6号がこの界隈で最も高層のビルへと階段を駆け上がる様に跳んでいったのを確認した私は、地上に降りてパトカーで急行。

 

降車したところで同じく駆けつけた杉田さんと合流した。

 

「雪ノ下! 4号と6号はこのビルの上か?」

 

「ええ、行きましょ「うおおおおおおおおっ!!」……えっ!?」

 

先程回収したライフルの装弾を確認しながら杉田さんと共にビル内部に突入しようとした矢先、耳に入ったの聞き慣れた男性の、聞き慣れない絶叫。

 

そしてドッ、という隕石でも落下した様な衝撃音だった。

 

スグにそちらへ向かうとそこには、陥没したタイル状の地面うつぶせで倒れるクウガの姿があった。

 

「八っ……クウガ!?」

「クウガ?」

「4号の事です!!」

「4号? ……ってなんで青くなってんだ!?」

 

近くに杉田さんが居たことを失念し、一瞬彼の名を呼びかけた私は咄嗟に言い換えながら駆け寄ろうとする。

 

だがその行く手には、ビルから悠然と降下してきた第6号が立ち塞がった。

 

「フン、ジャザバダダバ(早かったな)ゴンバ ン クウガ(クウガの女)?

 

「クッ……!」

「っの野郎……!!」

 

目の前に現れ(意味は分からないが)挑発的な物言いに発憤した私と杉田さんはそれぞれライフと拳銃を構え奴に向けて発砲。

 

しかし奴はその持ち前の敏捷性でヒラヒラと躱した上で敢えてこちらに迫らず、「まずはこいつからだ」と言わんばかりに倒れるクウガの背中を踏みつけた。

 

「アグッ……!」

「ボンバロボバ(こんなものか)? ズギヅン ド ジョパブバダダ ジャバギバ、クウガ(随分と弱くなったじゃないか、クウガ)」

 

「やめなさい!!」

 

どこか落胆のニュアンスを感じる嘲りを口にしながらクウガを踏みつけ、既に動くこともままならない彼をいたぶる第6号。

 

銃を構えた私の恫喝も当然の様に無視し、瀕死の彼を力任せに持ち上げた。

 

――まさか、もう一度地面への叩きつけでとどめを刺そうとでもいうの!?

 

いくらクウガ()でも今の状態でそんな事されたら……!!

 

私が嘗て無い焦燥に駆られたその瞬間、一陣の風が吹き、第6号のマフラーがたなびいた。

 

「っ! ……フン、ギボヂヂソギ バ クウガ(命拾いしたなクウガ)。ハッ!」

 

すると奴はまるで心変わりでもしたかの様に唐突に持ち上げたクウガを投げ捨て、跳び去って行った。

 

――見逃された? いや、けど何故??

 

これまでの未確認生命体の残忍さを間近で見た私には奴の突然の退却が理解出来なかった。

 

……いや、違う。前にも似た例はあった。初めて第3号の時がそうだ。

 

「おい雪ノ下、俺はダメ元で逃走した奴を追う。お前は……」

「っ、はい!」

 

一方、私が数瞬奴の不可解な撤退に思考を割いているのとは対称的に杉田さんはその経験値をもって状況を素早く俯瞰。“私と第4号(八幡)”を上手く二人きりにする状況をお膳立ててくれ、パトカーでその場を走り去った。

 

その気遣いに感謝しつつ、私はいつの間にか変身を解いていた――或いは維持できなくなった――八幡の元に駆け寄る。

 

意識は殆ど無かった幸いに息が在ることを確認後、私は119番と葉山くんの携帯に電話をかける。

 

「もしもし私よ。――八幡が第6号との戦って深手を負わされたわ。関東医大病院(そっち)に搬送して貰うからお願い」

 

最悪の事態は回避できた――――いや、そう思うのは私のエゴだ。

原因不明の退却をしたが第6号は遠からずまた犯行を再開する。

 

この場で奴を倒せなかったが所為で、また犠牲者は増える。

 

その誰とも知らぬ被害者より――八幡()が助かった事に良かったと感じてしまうのは警察官として失格と言える。

 

――そして何より悔しかったのは、今回の戦いで私は彼に……何の助力も出来ず、それどころか足を引っ張ってしまった事だ……。

 

◇◇◇

 

関東医大病院 08:45 p.m.

 

「ハァ、ハァ、小町ちゃんこっち!」

「あっ、ちょ、待ってくださいよ結衣さん!」

 

――ヒッキーが未確認との戦いに負けて病院に運ばれた。

 

あたしのスマホにその一報が入ったのは、取材がキャンセルになった都合で仕事を早めに仕事を切り上げた小町ちゃんと夜食用にと小野寺くんが作ったサンドイッチをつまんでいた時だ。

 

連絡をくれたゆきのんの私への申し訳なさや、ヒッキーに怪我を負わせた悔しさを電話越しに感じながら、あたしは小町ちゃんと昼間にも一度行った関東医大病院へやってきた。

 

もう診療や面会の受け時間も終わっていて薄暗い無人の受付を通り過ぎる。

当然いけない事なのだろうけど、そこは後で優美子か隼人くんに頭を下げて許して貰おう。

 

「……あり? 何でお前らここにいんの?」

 

そう思いながら病室へと続く廊下に差し掛かったところで、あたしは反対方向から歩くヒッキーと顔を合わせた。

 

「ヒッキー!」「お兄ちゃん!」

 

驚きの声を挙げるあたし達にヒッキー人差し指を口元に寄せ『病院内だから』と声量を落とすように促す。

 

その振る舞いはいつもの彼と同じどこか気怠げで――ぶっちゃけ薄暗い夜の病院で見るとゾンビみたいだったけど――とにかく“普段通り”で、あたしと小町ちゃんは思わずその場にへたり込みそうになった。

 

「もーう、全然大丈夫そうで心配して損したよ! 雪乃さんから聞いた時は心臓止まるかと思ったよ」

 

「……あー、成程な。確かに救急車で担ぎ込まれてたけど、寝て起きたら治ってたんだよ。強くなった身体様々って感じで今はもう全然平気だ」

 

「そう、なんだ……」

 

助かった要因があのベルトの――クウガの力のお陰だっていうのは素直に喜べなかったけど、今はとにかく、いつものヒッキーが見れて安心した。

 

小町ちゃんもそれは同じみたいで本人は気付いてないけど目尻に涙を溜めていた。

 

あたし達に遠慮してあんまり心配してない風に装っていたけど、やっぱり本当はお兄ちゃんの事が心配だったみたいだ。何だかその顔が見れてちょっとホッとした。

 

「もうっ、それじゃあお兄ちゃんは心配かけた罰として結衣さんを家まで送ること! あっ、あたしは雪乃さんに駅まで送ってって貰うからご心配なく♪ ――送り狼になるかどうかは双方に自己責任って事で♪」

 

――なんてちょっと思ってたら何かまた凄いこと言い出した!?

ていうかそれって遠回しに『あたしを好きにしろ』って言ってない!?

………………あー、でもないなそれ、うん、絶対ない。だってヒッキーだし。

 

ていうか……そんなんでどうにかなるならこんな苦労しないよ小町ちゃん?

 

「……あー、すまん。実はこれから急いで店に戻らなくちゃなんないんだわ。何か団体の客が来たって一色から応援要請入った」

 

なんて色々考えているとヒッキーは申し訳なさそうに謝った。

 

いくら平気だっていってもほんのついさっきまで救急車に運ばれる様な身体だったのにとは思うけど、それだけ身体が元気だって言うなら安心も出来た。

 

「ん、いいよあたしは1人で帰れるから」

「悪いな。……それと今はゴタゴタしてるけど、終わったらきっちり話をしよう。俺とお前と、雪乃の3人で」

「…………うん、分かった。私もキチンと自分の気持ち、話すから」

 

そして――こんな状況でそう思うのも心苦しいけど――どういうきっかけであれ昼間あんな別れ方をしたヒッキーと普通に話すことが出来たのが、嬉しかった。

 

「小町も、何か久々なのに慌ただしくて悪いな。気を付けて帰って、例のクソガキとはキチンと別れるんだぞ?」

 

「うん、お兄ちゃんあんま結衣さんや雪乃さんに心配かけちゃだめだからね? ――あと別れるとかないから絶対」

 

そう言って最後に――どさくさに紛れて小野寺くんを別れさせようとして失敗したけど――小町ちゃんに別れを言って、ヒッキーは足早に病院を出て行った。

 

「由比ヶ浜さん、小町さん――!」

「比企谷の奴ここを通らなかったかい!?」

 

慌てた様子のゆきのんと隼人くんが駆けてきたのはその直後だった。

 

「えっ、お兄ちゃんでしたらもう全然平気で忙しいからってお店に戻りましたけど?」

 

状況が飲み込めず小町ちゃんがキョトンとした様子でそう応えるとゆきのんはこめかみに手を添えて「平気って……まったくあの男は」と頭痛を抑える様な仕草で毒吐く。

 

そしてそこへ、隼人くんが状況を説明してくれた。

 

「確かに強化された身体のお陰で命に別状はないけど、全く平気なんて大嘘もいいところだよ。全身打撲で普通の人間の基準で言えば全治一ヶ月の重傷。…………しかもなまじ治癒力が桁外れな分、身体には尋常じゃない負荷が掛かってる筈なんだ」

 

沈痛な面持ちでそう説明する隼人くんの言葉にあたしと小町ちゃんは、絶句した。

 

◇◇◇

 

「――本当にごめんなさい」

 

病室の廊下で立ち話も、という事で受付前に移動しあたし達にゆきのんは深々と頭を下げた。

 

「ちょっ、やめてくださいよ雪乃さ~ん! 悪いのは勝手に病院抜け出したお兄ちゃんなんですから」

「いいえ、その事だけじゃないわ。私……何も出来なかったの。彼と第6号の戦っている場所に居たのに……それどころか、危うく人質にされかけて、彼の足を引っ張った。……お兄さんを支えるって約束したのに……」

 

心苦しそうに自分の無力さを懺悔するゆきのんの言葉を聞く度に、私は胸が痛くなった。

 

彼女を責める気になんて勿論なれないし、私にはその資格なんてないと思った。

 

ヒッキーが戦わなきゃいけない事情も、ゆきのんがどんな気持ちでそれを助けてるかも理解しようとせず拗ねていた自分には……。

 

「…………由比ヶ浜さんの心配していた通りになってしまったわね」

 

ずっと黙っていたあたしに自嘲する様な顔でそう言う彼女に私は思わず尋ねた。

 

「……ゆきのんは、どうやってヒッキーが戦うのを受け容れられたの? 最初は嫌だって思ってのに……?」

 

ともすると批難する様な意味合いに取れる言葉だったけど、これは本当に純粋な、心からの疑問だった。

 

彼女はとても真面目で、そして優しい女性だ。

いくら強い力を手に入れたからって一般人のヒッキーを利用するなんて事、絶対にしない。

そして暴力なんて絶対に振るわないヒッキーを戦わせること何て、絶対出来ない筈だ。

 

実際、最初にその事を知った時はすぐに東京に戻って身体を診てもらう様に言っていた。

 

なのに、どうしてそれを受け容れられたのか?

あたしはどうしてもそれが分からなくて、だから知りたかった。

 

「……分かってしまったのよ。彼の気持ちが、守りたいモノが何なのか、どうしようも無い位」

 

「ヒッキーが、守りたいモノ?」

 

「ええ、――彼は何も、自分の身を犠牲にして人類を救おうとか、私達警察官の様な正義感で戦ってる訳じゃないのよ。――唯、自分に大切な繋がり(本物)をくれた人達の暮らす日常を、幸せを、笑顔を守りたくて戦ってるの」

 

――大切な繋がり(本物)

 

『俺は……本物が欲しい……!』

 

その瞬間、あたしの中で昔彼が言った言葉が反響した。

 

あの時、今よりもっと何も知らなくて、不器用で、生きるのがヘタだった彼があたし達にぶつけてくれた本当の気持ち。欲しい物の正体。

 

あたしはあれから今日まで、彼が『それを手に入れられたか?』尋ねた事はなかった。

 

捻くれた彼が本当のことを言うかも怪しかったし……何よりそれは、聞く様なことじゃなく感じ取るものだと思ったから。

 

けど今日、初めて分かった。

彼はとっくにそれを手に入れて持ってる事を自覚して、胸の中で大事に仕舞い続けていたんだと。

 

あたしやゆきのん、いろはちゃんに小町ちゃん――他にも沢山居る人と人との繋がりを、その人達の幸せ手を、自分の命や怪物になるかも知れない恐怖と秤にかけても守りたいって思ってくれている。

 

――――ズルいよヒッキー。

 

そんな風にあたし達の事を想ってくれてる人の事を、止められるわけ、ないじゃん。

 

「……こんな事、刑事として絶対に認めてはいけないのだけど、正直に言うわ。昨日、第5号を追いかける中でそんな彼の気持ちを聞いて……私はどうしようもなく、嬉しかったの。手前味噌な承知だけど、私達とのこれまでの時間を、これからの時間を何を賭しても守りたいなんて言われて……凄く、嬉しくて、誇らしかったの……」

 

「うん……分かるよ。あたしも……今、同じ気持ちだったから」

 

当の本人が死にかけるくらいの怪我を負った直後なのに、自分の頬が緩んでしまうのを自覚できた。

 

同時に、あれこれ悩んだこの2日間が凄くバカらしくも感じた。

 

古代の遺跡から得体の知れない怪物が甦って、ヒッキーがそれを倒す戦士に選ばれた。

ゆきのんはそれを刑事として支えて、銃を構えて一緒に戦っている。

 

そんなマンガやゲームみたいな状況に翻弄されて、2人があたしを置いて遠い世界に行ってしまうことが寂しくて不安で、怖かった。

 

――けど、それは間違いだったんだ。

 

どんな凄い状況になってもヒッキーとゆきのんの原点はあの日あたし達が出会った奉仕部の部室にあって、あたし達3人にとって1番大事なモノは何も変わってないんだ。

 

……正直、今でも未確認生命体は怖い。

 

2人が危ない目に遭うのも怪我をするのも嫌だし、万が一に死んじゃったらって思うと背筋が凍り付く。

 

何よりいつか、あの第零号とヒッキーが戦うって考えると、心臓が止まりそうになる。

 

――だけど、なんでかな? 

 

ずっと頭の中でぐちゃぐちゃだったものが今はスッキリしてて、何をしなきゃいけないかが、よく見えていた。

 

「ゆきのん、あたし送ってって欲しい所があるんだけどいい?」

「えっ、ええ、けど小町さんも……」

「あー、あたしの事は気にしないで大丈夫ですよ。ダーリンに迎えに来て貰いますから♪ にしても……ヌフフフ♪」

 

いつの間にLINEで小野寺くんに連絡を入れていた小町ちゃん(相変わらず気配り出来過ぎる娘だなぁ)が何だか凄く含みのある笑みを受かべる。

 

「ど、どうかしたの小町さん?」

 

「いえいえ~、まあ、大方の予想通りではあったんですけどぉ、お兄ちゃんやお義姉様達のガチっぷりがこう、妹として嬉しいやらこっ恥ずかしいやらで……。何かもう、お二人が甲乙付け方過ぎていっそもう、どっちとも籍入れず3人で爛れた内縁関係になるのもありかなーって」

 

「なしよ」「いや、ないからソレ!」

 

ニヤけ顔でとんでもない事を口走る小町ちゃんに私とゆきのんは同じタイミングでツッコミを入れた。

 

そしてあたしはゆきのんが運転する車に乗って――城南大学の研究室へと向かった。

 




という訳で戦闘ではものの見事に敗北しましたが、随分と長引いたガハマさんとの喧嘩(?)はこれにてようやく決着がつきました。

……というかアレですよね?
書いた自分が言うのもなんですがなんなのこのバカップルトリオって感じですよね(爆)

要する3人ともお互いのことや共に過ごす時間が大好きで、それを守りたいから意見を違えてただけっていう話なんですよ。

長い間踏みとどまってる癖に思いだけ成熟したもんだから愛情の方向がとんでもない事になってますw

真面目な話、最終的に八幡を誰とくっつけようかガチで悩んでます。



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