伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。   作:烈火・抜刀

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GW初日、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

悲しき勤め人の自分はちょくちょく祝日出勤が控えとりますが、今年は“比較的”日休めてラッキーと勝ち誇ってますw

自分は遠出するタイプではないので希少な休みは本作の投稿に力入れて1話でも多く投稿したいなーと思ってます!



EPISODE:32 誓いを胸に、由比ヶ浜結衣は龍の謎に挑む。

都内某所・休業中の水族館 10:03 p.m.

 

バラのタトゥの女によってゲゲル(ゲーム)の開始が宣告され、丁度半日が過ぎた。

 

厳格なる掟により、『ゲゲルが行われている間はリントを狩ってはならない』と定められた彼らは各々盗んだ酒を煽ったり、やはりどこからかくすねてきた現代の小物などを弄ったりしながら余暇を潰していた。

 

そんな中、幸運にも真っ先に最大の娯楽(ゲゲル)を楽しむ権利を与えられた最初のムセギジャジャ(プレイヤー)――バヅーが勝ち誇った顔で帰還。

 

9で満たされる輪を4つ、1の輪が4つ動いたグセパ(腕輪)を見せ付ける。

 

「ザググシ ボソギデ ビザ(たっぷり殺してきた)。バギン グ ズゴゴ ド ズゴゴ ビンザバ(40人だ)!」

 

授けられたノルマの凡そ半分を殺したと得意げに吹聴するバヅー。

 

当初かなりの難易度とみていたゴオマをはじめ、その場にいた何人かの表情に驚愕と嫉妬、反感の色が滲み出ていた。

 

しかも午後3時時点でその7割弱に相当する人数を容易に仕留めた序盤のペースを比べれば後半は著しく殺害数が減った。

 

これは彼が倒す事も出来たクウガを放置した理由や、警察の手際により狩り場周辺で外を出歩く者が激減した事も関係しているが、意図的に手を抜いたところも大きい。

 

2日で81人のリントを殺す? そんなものは造作もない!

“この程度のゲゲル”、成功させて当たり前。

 

狙った様にキッチリ半分で打ち切ったキルスコア(殺害数)は、そんな彼の――人間の命など己の力を誇示し、自尊心を満たす糧としか考えていない者の傲慢な誇示だった。

 

「パパンビジゼ、ゼビズンバ(あと一日でできるのか)?」

「ドグゼンザ(当然だ)」

 

そんな自身の――ある意味でグロンギらしい――不遜な振る舞いや自己主張を無視して尋ねるバラのタトゥの女の問いにも躊躇いなく即答。

 

「フン、ガグガ パ バダー ン ゴドグド ザバ(流石はバダーの弟だな)」

「――っ!!」

 

だが、そんなバヅーの振る舞いを不快に思った1人がボソリと言った一言が、上機嫌だった彼の表情を曇らせた。

 

「ゴセバ、“バヅー” ザ(俺は、“バヅー”だ)!」

 

浮かれていた熱は一気に冷め、一方で湧き上がる殺意を秘めてバヅーは呟いた同胞の胸倉を掴み、親指で自らを指して喧嘩腰に言い放つ。

 

誇りを何よりも尊ぶ彼らにとって、個の実力を『ゴの血縁』などというつまらない事で定義づけられるの屈辱であり侮辱だった。

 

一方掴みかかられた方の若者も、半ばこうなる事を望んでいたのか視線は鋭くバヅーを睨みつつ、口元は笑みを零していた。

ゴオマをはじめとした何人かがそんな一触即発の空気に沸いた。

 

「バヅー! ガルメ!!」

 

しかしそんなお互いに抜き身のナイフを突きつけ合う空気は、バラのタトゥの女の一喝によって一瞬で沈静化する。

 

基本的に血の気の多い者しかいない彼らを束ねる“ラ”の称号を持つ者として、窘めるもまた彼女の役割だった。

 

「……フン!」

「――ハッ!」

 

面白くなさそうに相対した男――“ズ・ガルメ・レ”から手を離すバヅー。

先程までならこれから酒でも飲んで騒ぎたかったが、今はとてもそんな気分になれない。

 

――この苛立ちは、より多くのリントを殺す愉しさでしか払拭できないだろう。

 

 

◇◇◇

 

 

「ゆきのんはこの後もやっぱり捜査本部に戻るの?」

 

「ええ、現場検証とか諸々杉田さ――同僚に任せてしまったから。今の所は第6号も行動を中断してるけど、多分明日にはまた動き出すでしょうし、今日も多分、徹夜になるわ」

 

「そっか、じゃああたしとおんなじだね」

 

病院のエントランスで小町ちゃんと別れたあたしはゆきのんの運転する車に乗り、文京区にあるあたしのマンション……じゃなく城南大学へ向かっていた。

 

「――本当にいいの由比ヶ浜さん? その……私達の事を許してくれたのは嬉しいのだけど、だからって貴方が手伝わなくったって別にいいのよ?」

 

「じゃあ聞くけど、ゆきのんはあたしが刑事で、自分が研究室の人だったら素直にそうする?」

 

「……そうね。今更だったわ。――頼りにさせても貰うわね、由比ヶ浜さん」

 

「うん!」

 

久しく交わしてなかった1番大事な友達との普通の会話。内容は非日常的だったけど、それでもたまらなく嬉しかった。

 

「あっ、いろはちゃんからだ」

「一色さん?」

 

後2分程で大学という所でLINEにメッセージが届いた。

その内容は――

 

【いろは】

結衣先輩今大学ですかー? 先輩にメッセ送ってもずっと未読なんですけど、もしかしてまた研究室で徹夜だったりします? 帰らないなら帰らないで連絡入れてくださいって言っといてください(`_´)

 

――というものだった。

…………やっぱり。

 

「……はぁ、ヒッキーお店に戻ってないって」

「貴方の予想通りね。全く――」

 

病院を抜け出した時点で薄々予想はついていたけど、隼人くんの話を聞いた後だと流石に呆れた。それでも事情を知らないいろはちゃん達に心配かける訳にもいかずあたしは『うんそう、ヒッキースマホ店に忘れたんだって』とソレっぽく辻褄を合わせ結果的に彼のフォローをした。

 

そうこうしてる内にゆきのんが運転する車は城南大学の正門前に到着した。

 

「研究室には寄ってかないの?」

 

「ええ、ここじゃ私に出来る事はないもの。私は私で刑事として可能な限り第6号の情報を集めて彼をサポートする。だから由比ヶ浜さんは……」

 

「うん、あたしも必ず朝までに調べるよ。青くなったクウガの事。…………あの、だからねゆきのん? ――あたしもその、ヒッキーと同じが……いいな。ダメ?」

 

こんな時に聞くことじゃないかもしれないけど、とは思いつつあたしはゆきのんに、1つのおねだりをした。

 

最初は何のことを指しているのか分からずキョトンとしていたけど、その持ち前の頭の回転の速さであたしの漠然としたお願いを理解し、優しい微笑みを向けて返してくれた。

 

「ええ、八幡をお願いね……()()

「うん!」

 

9年目の付き合いで初めて名前の方で読んでくれた親友の言葉が嬉しくて、あたしは力強く頷いた。

 

 

◇◇◇

 

 

城南大学考古学研究室 10:33 p.m.

 

「―――――――……ハッ! いかんまた意識飛んでた……」

 

葉山や雪乃の目を盗んで病院を抜け出した俺は、先の戦いで変化した『青いクウガ』に関する記述が棺に刻まれた碑文にないか探る為に解読を開始したのだが……。

 

「…………眠い。猛烈に、眠い…………」

 

猛烈な眠気に襲われ、先程から何度も意識が飛んでは目覚めを繰り返していた。

 

恐らく、腹の中の石が『傷塞ぐのに力使うからはよ休め』と命じているのだろう。

 

病院を出た時点であった気が狂いそうになるほどだった体中を襲う痛みは大学に着く頃には大分収まったが、代わりに今度は凄まじい睡魔が襲ってきた。

 

回復に用いたエネルギー充填を促す様に体力は持って行かれ全身が鉛の様に重い。

少しでも気を抜いたらたちまち爆睡してしまう予感があった。

 

研究漬けの生活で徹夜には慣れっこだったんだけどなぁ……。

 

研究室の隅にある冷蔵庫にストックしたマッ缶でカフェインと糖分を補給しても、『翼を授ける』でお馴染みの栄養ドリンクをキメても、ダブルクリップで太腿を挟んでも全然目が冴えない。

 

クソ、どうにかして第6号(あのバッタ)が動きを再開する前に青の戦い方を調べなきゃならんのに……。

 

「ヒッキー、目がいつも以上に死んでるよ? 一週間放置したサバみたいになってる」

「そりゃ殆ど兵器だな…………って、由比ヶ浜っ!?」

 

意識が朦朧とする中で聞こえた声に反応して一拍置き、気がつけば背後に立っていた由比ヶ浜に気付いた俺は思わず飛び跳ねそうになる。

 

「おまっ……何でここに!?」

「それはこっちの台詞だよ。隼人くんから身体のこと聞いたんだからね! ……ヒッキー、またあたしに嘘吐いた」

「うっ、…………スマン」

 

拗ねた様に頬を膨らませる由比ヶ浜(可愛い)につい謝ってしまう。

……まあ実際、コイツにはここ数日、嘘吐いてばっかだったしなぁ。

 

しかしそんな咎める言葉と裏腹に、彼女の声音はどこか優しく、転んで泣いてる子供をあやす母親の様な包容力を感じさせた。

 

「怒ってないよ、もう。……ううん、ホントは最初っからヒッキーにもゆきのんにも怒ってなかった。――ただ、2人に置いてかれてる寂しかったのと、怖かっただけなんだ」

 

「由比ヶ浜……」

 

「えいっ!」

 

そして――こいつ自身、何も悪くない筈なのに――懺悔する様な言葉を言った後、彼女は座る俺の頭を抱きしめた。

 

う、うおおおっ! こ、後頭部に『人をダメにすくクッション』何かより千倍ふんわりとした感触良い匂いががががががが!

 

い、いかん……吸い込まれる様な柔らかさに身を委ねたくなるのに心臓がバクバクして、色々ヤバイ。何この生き地獄? アレか? 嘘吐いて事への報復か!?

思考力低下した状態でこの甘く柔らな攻撃はしんど過ぎる……!

 

けど、だとしたら捨て身過ぎるぞ由比ヶ浜? いや、“そんな気なんか”ないことは分かってるけど。

 

いくらヘタレに定評がある俺だって真夜中に2人きりでこんな……あぁ、雪ノ下警部殿に手錠をかけられるエンディングが見える……!

 

いかん、このままじゃ『未確認生命体第4号、同級生に強制猥褻で逮捕!』とか新聞に載って世間を賑わすぞ!?

 

「――ヒッキーはさ、優しす過ぎるんだよ。出会った頃からずっと……あたしの事、妹とか子供みたいに守ろうとしてない?」

 

「い……いや、そんな事……ないぞ? 何だかんだいって俺も助けられてるっていうか……寧ろ俺の方が甘えてるし……」

 

昼間の諍いで雪乃と共に痛感した気持ちを思い返す。

俺達は由比ヶ浜(こいつ)を気遣っているつもりで実際はその優しさに甘えていただけという事を。

 

――それからねガハマさん? 後頭部にこんな爆弾押しつける奴を妹とか子供とか、そんな庇護対象として見ること出来る程、ヒッキー悟り開いてないよ?

 

バリバリ意識してますからね? だからお願い! 心臓に悪いから取り敢えず離れて!!

 

「そんな事ないことないよ。あたしに黙ってたのだって、あたしがあのビデオや蜘蛛みたいな奴に怖がってたからだし、あたしを巻き込まない様にって思ったんでしょ?」

 

「それは……実際、その通りではあるだろ? お前は巻き込まれただけで、無理して怖い思いする必要ないっていうか……俺も雪乃(あいつ)も、お前の辛い顔、見たくないしな」

 

「うん、ありがとう。そんな風に気を遣ってくれるのは凄く嬉しいよ? だけどね、おんなじ位、寂しいんだ。だって怖かったり辛かったりするのはヒッキーもゆきのんも一緒……ううん、あたしより2人のがもっとそうなのにあたしにだけ優しくするんだもん。――あたしだけ置いていかれたみたいで、2人だけで遠くに行っちゃったみたいで……それが嫌だった」

 

そう言われて俺は、自分の考えの浅慮を思い知った。

 

確かにそうだよな……他人に、否――1番近い所にいる人間に頼りにされないなんて辛いよな。

 

結局、俺も雪乃も、由比ヶ浜に優しくしてる様で、自分達を甘やかしてただけだったんだ……。

 

強引に身勝手に、相手を振り回すのが良いなんて事もないが、だからって優しくするだけで良いなんてこともない。

 

――やっぱり俺は、男としちゃ甲斐性なしもいいとこなんだな。

 

コイツに怖い思いをさせないことばかり考えて、寂しい思いさせてる事にも至らないなんて。

 

俺は自分の右手を抱きしめる彼女の右手に重ね、せめて今、彼女に1番、言うべき言葉を口にした。

 

「頼っていいか由比ヶ浜? 俺はクウガの力をちゃんと使いたいんだ。これ以上、未確認(あいつら)に好き勝手させたくねえ」

 

「……うん、任せてヒッキー!」

 

◇◇◇

 

1月24日 02:22 a.m.

 

「うーん、やっぱり“青”って文字は見つからないなぁ……ていうかこの碑文書いた人達の文化に、色って概念がないのかな……」

 

簡単な解読経過と今1番知りたい『青くなったクウガ』に関する碑文の解読を初めて4時間。

 

既に半分になったコーヒーメーカーの中身とは対称的に解読は滞っていた。

 

基本的には“戦士”の文字が入った文だけを抜粋した上でヒッキーが予めあたりをつけたいくつかの文の文字を読み解こうとしてるんだけど、全然ヒットしない。

 

例えば高く跳べる様になったって話から『空駆ける戦士』って検索しても『飛翔』という文字と『戦士』という文字が連なった文はないし、もっと単純に『青い戦士』って検索してもまるでヒットがない。

 

うーん……解読のアプローチ、変えた方がいいのかな?

 

青……青いもので連想するもの……空?

いやでもそれなら『飛翔』に近いニュアンスがある筈だし……なら、他は何だろう?

 

後ちょっと、一箇所でも歯車が噛み合えば見えてきそうなんだけど、それが中々出てこない。

 

――少し休憩、いれよっかな。

 

「んー!」

 

一旦PC画面から目を離して軽くストレッチをした後、仮眠用でもある研究室のソファで熟睡するヒッキーの方に目を向けた。静かな寝息だけ立てて、ピクリとも動かない。

 

隼人くんの話だと身体の傷、変身させるお腹の石の力でゆっくり休めばそれだけで傷はスグ治るらしいけど、そんな人間離れした身体になったヒッキーの『心の負担』は多分、どんなに凄い力を持っていても、何にもしてはくれないだろう。

 

――けどそれでいいんだ。(そこ)にまで干渉されたらそれこそヒッキーはただ戦う為だけの機械になっちゃう。それに何より、石なんかに獲られちゃうのは悔しいもん。

 

――だってそれを癒すのは、彼の心を支えるのは、あたしやゆきのんがしなきゃいけない事だもん。譲れないよね?

 

そんな事を考えながらあたしは寝息を立てる彼の10cm位の距離で届かないのは分かった上で、告げた。

 

「ヒッキー、あたしももう離れないからね。絶対――」

 

 




という訳でガハマさんのターンでしたw

序盤はゆきのん一強でしたけど、自分的にはなるべくガハマさんやいろはすなど他のヒロインにも頑張ってもらい「~~とくっついてほしい!」「もうハーレムでいいっしょ!」など色んなコメントをいただける作品を目指して頑張りたいと思います!

というか何人かの人に感想やメッセージで「もう3人エンドでよくね?」と言われましたがこれからです!

バヅー戦が終わった後も各ヒロインとの関係性を描くEPISODEを次々用意してるのでこれからもお楽しみに!

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