伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
皆さんエンジョイしてますでしょうか?
『楽しい連休の初日になんて話投稿してんだ!』ってクレームがくるのを覚悟しての投稿です。
台東区 御徒町 04:40 p.m.
――後1人、後1人でクリアだ!
6人目の
現在の
ポツリ、と一粒の雨がその頭上に当るまでは。
「ガレバ(雨か)……チッ!」
少し前から雲行きが怪しかったのは分かっていたが、思いの外に早く降り出したことに舌打ちする。
透明化、と言って差し障りのないレベルの優れた擬態能力を持つ彼は、殊ゲゲルに於いては強力なアドバンテージとなる。
現に行動を開始してから数時間経過して尚、いつもは蜘蛛の子を散らす様に逃げる獲物達は彼という狩人が目の前に居ても気付かず、大半の被害者が『殺された』という事実にすら気付かず息絶えた。
しかしそんな反則じみた能力にも、いくつかの制約が存在する。
その1つが、今まさに降り始めた雨だった。
――後少しだったのに、忌々しい。
特異な能力を持つグロンギは得てして、己の『殺し方』に拘りを持つ者が多い。
これはルールだからという訳ではなく、己の技術に対するプライドや『この先にあるより高度で楽しいゲゲル』に進む為の彼らなりの――狂った――向上心が故である。
このまま止むのを待つというのも考えたが、そうなると間もなく日が沈み、同じく能力発動が難しい夜間になってしまう。
さて、どうするか?
しばしそんな思案にふけっていたガルメだったが、彼は程なく『自分の姿を見た』2人の若い女性に気付いた。
『俺を見た奴は、必ず死ぬ』
その歪な拘りに則り、ガルメは彼女達を“最後の獲物”に定めた。
◇◇◇
痛いくらい激しく降り注ぐ雨の中、私と茜は荷物も投げ捨てて必死に逃げていた。
小学校の時に経験したイジメや、町を歩いてる時に絡まれそうになった強引なナンパの時なんかとは比べものにならない恐怖から。
そしてその先に待ち受ける死という結末から逃げる為に。
「ハァ! ハァ! ハァ!! 急いで茜!! 追いつかれちゃう!!」
「ま、待って留美! わ、私もう……キャッ!」
『ハハハハハッ! ドウシタドウシタ? モット必死ニ逃ゲタラドウダ!? モタモタシテタラ、殺シチャウゾ?』
冷たい嘲笑を挙げながら常に一定の距離を維持して迫る未確認。
その様子は本当に楽しそうで、自分達が――命も含め――ただただ弄ばれていると感じさせた。
だけどそれが分かったからって足を止められる筈がない。
例えそれが死神の掌の上だとして私達はどこまでもどこまでも、闇の中を走り続けるしかないのだ。
「しっかり! ほら、掴まって」
私は転倒した茜を握り、再び駆け出す。
高校時代、ソフトボール部だった彼女は2年の夏に怪我で引退した彼女は今も膝に障害を抱えていた。
日常生活では支障が無いそれも、こんな命懸けの追いかけっこを強要されれば大きく差し障る。
その後も二人で何度も転んでは立ち上がって逃げて逃げて、逃げ続けた。だけど……。
「ハァ……ハァ……嘘……行き……止まり?」
その先に待ち受けていたのは残酷な行き止まり――文字通りのデッドエンドだった。
「思ッタヨリ頑張ッタナ? ダガココマデダ」
四方が壁に囲まれた行き止まり。周りには他に人もいない。
ダメ……いや……来ないでっ――!!
「ギベッ(死ねっ)!」
「あっ……!」
「茜!!」
未確認の口から飛び出した長い舌が茜の首に絡みつく。
「うぅ……や、だぁあ……たすけ……うっ……!」
「………………茜? いやあああああああああっ!!!」
そして、締め付けられながら必死に、泣きながら抵抗していた彼女は、ある瞬間を境に動かなくなって……未確認はそんな茜を……壊れた玩具の様に投げ捨てて――狂った様に、笑った。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! ジャダダゾ(やったぞ)!! ゲゲルブシガザ(ゲームクリアだ)! ハハハハハハッ!!」
糸が切れた人形の様に投げ捨てられた茜の前で本当に……心の底から楽しそうに笑う未確認。
私は、思考と身体が切り離された様に、動けなくなった……。
「サア、次ハオ前、ダ」
「――――――ヒッ!」
ペチャリ、と冷たく滑った気持ちの悪い感触が頬に当る。
茜の首を締め上げた未確認の舌が、まるで味見でもするかの様に、私の頬を舐め回した。
「ゲゲル達成記念ダ。特別丹念ニ、ユックリジワジワ、殺シテヤロウ」
◆◆◆
「これで44人目……」
「仮に透明になれる奴なら雨でこれ以上の犯行は出来ない筈だよな……」
朝方から都内23区や千葉で行われた『見えざる殺人』はその後も続いた。
数時間前に噴水公園で合流した俺と雪乃はその後も発生する犯行が発生する度、千代田区や江東区などの現場周辺を駆け回ったが掴めず、今もまたこうして御徒町で発見された遺体の搬送を遠巻きに覗いていた。
「失礼します雪ノ下警部! 実はすぐそこでこんなものが――」
そんな折り、1人の制服警官が雪乃の元に駆けつけ、ずぶ濡れになった女性モノのバッグを見せる。殺害現場から100m程離れた道端に捨てられたそれを雪乃は遠慮無く検分。すると中からは、持ち主を特定する決定的なものである学生証――それは、俺のよく知る人物・鶴見留美の物だった。
「雪乃っ!」
「ええ、先行して! 私は他の捜査員に指示を出して彼女を探す!!」
一瞬頭を過ぎった最低最悪の想像を現実にしない為、俺はトライチェイサーを起動させバッグが発見された場所へと向かい、先程の現場の位置から逆算したルート駆ける。
「いやああああああああああああっ!!」
程なく、聞き覚えのある彼女の、聞いた事も無い様な悲鳴が耳に入った。
「留美っ……!!」
その声に従った先でまず最初に視界に入ったのは倒れた人物を抱きかかえ慟哭する留美、次いで得意気に立ち尽くす未確認。
俺はバイクで即座に両者の間に割って入る様な場所に停め、未確認を睨み付けて威嚇した。
「何ダ? オ前モ殺シテ欲シイノカ?」
日本語っ!?
異形の怪物の口から放たれた馴染み深い言語に、一瞬思考が停止する。
――いや、違う。今それは重大じゃない!
――奴が一連の事件の犯人なら最優先すべきは、今ここで確実に倒す事だ!!
バイクから降りた俺は腹部に手を添えてベルトを出現させ、右腕を斜め前方に突き出す。
「変っ……し「八幡! 茜が動かないの! お願い!! 早く救急車呼んで!!」――くっ」
変身を行おうとする刹那、錯乱する留美に抱きつかれた俺は気が削がれ変身の発動しそびれてしまう。
「ハッ――!」
そしてそんな一瞬の隙を逃さず奴はその身軽な動きを利用して、夜の闇に消えていった。
「慌テルナクウガ、オ前トノゲゲルハ、“メ”ニナッタ時ニ取ッテオク。今日ハモウオ開キダ。ソレカラソコノ黒髪ノ女、オ前モソノ時、必ズシテヤル! ハハハハハハハハハッ!!」
人の神経を逆撫でする様な、或いは心を踏みにじる様な悪辣な笑い声を揚げ、奴は闇の中に消えていく。追跡は難しいだろう。
――否。
本当は、例えダメ元だとしても、追いかけるべきなのは分かっていた。
けど出来なかった。
「八幡っ、八幡っ! 八幡っ!!」
目の前で親友を殺された上に自らの殺害予告までされた
すまん雪乃……。
「……大丈夫だ留美、アイツはもういない。安心しろ」
「ああああああああああああああっ!!」
俺に出来たのはただ、降りしきる雨の下、大切な者を奪われた彼女を抱きしめてやる事だけだった。
本当に……本当にごめん。赤坂、留美……。
守ってやれなくてごめん。仇すらとてやれなく……ごめん。
「…………っ!」
左腕で留美を抱きしめながら、俺は右拳を壁に叩きつけた。
それは何の意味もない事だと、ただの自己満足だと分かっていても、自罰をせずにはいられなかった……。
そして翌日以降、消える未確認は一切姿を現さず、警察にその存在を目撃されなかったことから“第11号”といったナンバリングもされる事もなかった。
――赤坂茜はそんな『名前すらない未確認』に殺されたのだ。
――その親友の留美は、憎むべき悪魔の名を浮かべることすら、出来ないのだ。
◇◇◇
2月3日
千葉県 馬込町 11:25 a.m.
その日は朝から酷い雨だった。
あれから数日経過した週末、赤坂茜の葬儀はしめやかに執り行われ、俺は間もなく火葬場へと出荷される彼女の遺体が乗った霊柩車を見つめていた。
人生の花盛りと言える二十歳の女子大生が帰宅途中に殺される。
改めて語るまでもなく、それは紛う事なき悲劇と呼べるものであり、昨夜の通夜や今日の葬儀では多くの遺族や友人が涙を流し、理不尽な結末に憤っていた。
しかし一方で、この悲劇はTVや新聞などで報じられることはなかった。
何故か? ――簡単な話だ。その日だけで他に44人の人間が同じ悲劇に見舞われたからだ。
未確認生命体が出現してからと言うもの、首都圏に於いて『人の命が奪われる』という最悪の事象が、日常になりつつあった。
既に犠牲者は100人をとうに超えた。
それはつまり、こんな光景がこの2週間足らずでもう、100回あったという事だ。
そしてその現実に、この場所で生きる人達は順応してしまいつつあったのだ。
その全てが、自分の無力の所為なんて思う程、俺も自惚れてはいない。
俺が現場に駆けつけられるのは何時だって誰かが殺された後であり、犠牲者を10から9以下にする事は出来ても、0には出来ない。
流れる血の量を減らす事は出来ても、止める事は出来ないのだ。
――分かっていたことだ。
――奴らが人を殺し続ける以上、いつかその牙が、俺の知る人間に向けられる事なんてわかりきっていた。
――分かりきっていたことの筈なのに……本当のところは、理解していなかったんだ。
「ヒッキー……やっぱり留美ちゃん、来なかったね」
「…………ああ」
一緒に葬儀に参列した結衣が、親友との最期の別れの場に顔を出さなかった彼女の身を案ずる。
今日の告別式にも、昨日の通夜にも、留美は姿を現さなかった。
赤坂の死が受け容れられないのか、それとも自分だけが生き残ってしまった事に、必要の無い罪悪感を抱いているのかは分からない。
分かるのは彼女が今、大事なモノを奪われた喪失感に苦しんでいる事だけだ。
「あのさヒッキー、これから留美ちゃんの所に……行かない?」
「……行って、どうするんだよ?」
「分かんないけど……分かんないけど多分、留美ちゃんは……ヒッキーに傍に居て欲しいんじゃないかって思うの……」
どこか言葉に迷いながらも、結衣はそこか確信を持った様に断言する。
アイツにとって只の先輩程度の存在でしかない俺がかとも思うが……きっと同じ場にいたからだろう。
「…………そうだな。何が出来るって訳じゃないけど……行くか」
「うん、行こ!」
結衣の提案を受けた俺は以前教えて貰った留美の実家に向かうことを決める。
だがその時だった。
喪服のポケットの中にしまっていたトライフォンが数日ぶりに鳴ったのは……。
「……ヒッキー」
「悪ぃ結衣、やっぱ今日は無理そうだ。――――俺だ雪乃」
既に大凡を理解した様子の結衣に詫びつつ、応答する。
俺が今日、赤坂の葬儀に出ている事を知ってる雪乃は普段以上に固い声色で内容を告げた。
『墨田区錦糸町の方で未確認生命体が現れたわ。現在市民を7人殺害した所で駆けつけた警官隊と交戦中。……先日の消える能力を持つ奴ではないみたい』
「……分かった。すぐに行く」
いつもの様に最小限のやり取りだけ済ませ、トライチェイサーを起動させる。
アクセルを回そうとした所で、結衣が声を張り上げた。
「ヒッキー! …………気を付けてね」
「――――おう」
俺の身と心を案じてくれる彼女に頷き、発進。
しばらく走って人気の無い場所に差し掛かったところで俺はマシンを走らせながら、右手を前方にかざし、空を切る。
「変っ……身!!」
あの日と同じ土砂降りの雨の中、赤いクウガとなった俺は金色のヘッドカウルに変色したトライチェイサーで駆け抜ける。
俺は赤坂を救えなかった。赤坂以外にもたくさんの命を救えなかった。
そしてきっとこの先も、たくさんの命を救えないだろう。
だけどそれでも……止まれない。
ここで止まってしまえばそれは多くの命を見捨てる事と同じ――いや、『俺が殺す』のと同義だ。
そしてそれはこんな俺の我儘を受け容れて支えてくれる雪乃や結衣への裏切りでもある。
折れてたまるか……。逃げてたまるか……!
自分の持てる全てを懸けて――こんな狂った“日常”に抗い続けてやる!!
という訳でTVでは空白だったズ・ガルメ・レの昇格ゲゲル回でした。
ルミルミファン全てを敵に回し、原作の十割増し位憎たらしい感じにしたお喋りカメレオンへの『おとしまえ』は残念ながらしばらく後となります。
そしてバヅー編でもちょっと登場したオリキャラの赤坂茜、白状すると出てきた時点でこの時死ぬことが確定した『八幡の知己の被害者』として生まれたキャラだったりします。
我ながら酷い(汗)
本作では名もないモブキャラはそれこそ既に何十人も死んでますが、やはりこういう名ありキャラ、それも年若い女の子を作中で死なせるのってすっごい罪悪感を覚えますね。
龍騎や555とかバンバン名ありキャラが死ぬ作品を書いた小林靖子氏や井上敏樹氏なんかはどんだけ強靭なメンタルやねんと感心してしまいます(苦笑)
知り合いが殺されるというエピソードは何気に五代雄介ですら(作中では)なかったものですが、敢えて今回は書かせてもらいました。
知り合いであろうがなかろうが全力で助けるのが仮面ライダーではありますが、それでもやはり、人である以上は、『悲しみに差がある』のは必然。
その辺の苦しみみたいなものを八幡に味わってほしかったんです(爆)
そしてそれを乗り越えて、五代雄介や小野寺ユウスケとも違うクウガになって欲しいと思っています。