伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。   作:烈火・抜刀

39 / 53
GWもいよいよ終盤、皆さんは素敵な思い出つくれたでしょうか?

自分は大体家でこの作品書くか撮りためてたアニメの消化に費やしてしまいました(笑)

まあ、悔いはないのですがw

そんな華やかな連休に今回も葬会館0の作者の性格の悪さがバレそうな話を投稿します。

今回はバトル回です。


EPISODE:38 心清き戦士は、己が道の意義に葛藤する。

墨田区 錦糸町 00:16 p.m.

 

「グゥウウ! リントゾロレェ(リント共めぇ)!」

 

初の達成を収めたガルメに続いてゲゲルの資格を得た未確認生命体第11号“ズ・ネルモ・ダ”は焦っていた。

 

「絶対に逃がすな! 撃てぇえええええ!!」

 

東京に召集されてから自分のゲゲルが始まるまでの間、事前に多くのリント――それも“殺しやすい”子供を含め家族連れの多く集まる――イベントが開かれるこの場所を選んだ筈なのに、

標的の数に対し仕留められた獲物の数が余りにも少ないのだ。

 

この対応の早さには皮肉にも、警察側にとっても辛酸を舐めさせられたガルメが影響していた。

 

より正しく言えばそれは、警察の――人間の彼らに対する“理不尽への怒り”だった。

 

多くの人間が行き交う駅前でありながら『姿が見えない』という理由で対応が遅れた事から、一条本部長は都内全域に設置された監視カメラをチェックする人員の増員を決定。

 

更に未確認発見時の対応マニュアルの草案を僅か数日で仕上げて各警察署に配布し、その落とし込みを徹底させた。

 

そして現場の警察官1人1人も、そのマニュアルを徹底的に頭に叩き込み実践した。

 

三桁に及ぶ命の搾取に憤っていたのは何も、比企谷八幡や雪ノ下雪乃だけではないのだ。

 

「こちら雪ノ下です。杉田さん、蔵前通りの包囲網を一時的に解いてください。間もなくそこから“増援”が合流します」

 

『ああ? そんな報告聞いてな……そういう事か、分かった!』

 

既に各員の配置が完了した状態での雪乃の指示に首を傾げる杉田だったが、持ち前の察しの良さで彼女の意図を暗に察し、即座に従う。

 

彼女の言う増援――未確認生命体第4号がその空いた包囲を抜けて愛車と共に駆け抜けたのをその直後のことだ。

 

 

◇◇◇

 

 

「クウガ……!!」

「おおおおおっ!」

 

その日を祭りが行われる予定だった大型公園周辺で包囲される11号に向け、俺は浮かせたトライチェイサーの前輪を叩き込む。

 

時速200kmオーバーの勢いを正面から受けた奴は十数mに渡り吹き飛び、屋台の1つに激突した。

 

「ガッ……グゥウウ! ギベェエエエエエ(死ねぇえええええ)! クウガァアアアアアア(くうがぁああああああ)!!」

 

倒壊した屋台からすぐに起き上がった11号が、俺の姿を捉えると同時に拳を振り上げ迫ってくる。

 

「オオオラアアアアッ!!」

「グゥウウウアアッ!?」

 

俺はそれを真っ向から受けて立ち、正面から拳を打ち付け合う。

ほぼ同時に互いの胸部に炸裂する拳、明暗を分けるのは単純な力の優劣――制したのは俺だった。

 

「ッダアア!」

 

多少のダメージを負いながらも相手を怯ませる事を成功した俺は、そのまま押し切る様に拳を叩き込む。――いつもと同じ、生々しく気持ち悪い拳の感触が今日は一段と鮮烈に残る。

 

だが戦況事態は良好だ。

このままダメージを与え続けて頃合いを見てキックを叩き込めば――

 

「ヒャアアアアアア!!」

「「っ!!」」

 

そう思った矢先、俺にとっても11号にとっても予期せぬ事態が発生した。

 

無人の屋台が立ち並ぶ中で肉弾戦を繰り広げ、3つ目の出店を倒壊させた所で、その隣の屋台に隠れていた7,8歳位の女の子が悲鳴を上げて姿を現したのだ。

 

――逃げ遅れて隠れてたのか!? いや、それよりマズい!

 

飛び出した女の子がいる位置は、最悪にも11号の目の前だった。

 

「ハァア! ゲギド ビンレ ザ(8人目だ)!!」

「させるかぁああああああっ!!」

 

萎縮して身を屈める女の子に一切の躊躇なく迫る11号。

 

俺は放たれた弓矢の様に猛然と飛び掛かってその凶行を阻み、力いっぱいその顔面を殴りつけた。倒れた所で、マウントポジションを取った。

 

――殺させない。

――絶対に、殺させない!

――例え全てが救えなくたって……少なくとも俺の目の前ではもう誰1人だって、死なせてたまるか!!

 

イヤと言うほど味あわされた救えない痛みを胸に、俺は拳を振り上げる。

 

「アアアアアアアアッ!!」

「イ……ヤダ……、死ニタク……ナイ。見逃シテ……クレ……!」

 

刹那。強化された俺の聴覚に拙い日本語で、信じ難い言葉が届いた。

 

――何を言ってるんだコイツは?

――自分は……自分達は何人も、何十人も命を奪っておいて! 

――今まさに、泣き叫ぶ幼子の命を奪おうとしておいて、何を身勝手な事をほざいてやがるんだ!!

 

「ふざけんなああああああああああ!!」

 

体中を駆け巡る血液が沸騰する様な怒りを覚える。

こんな奴が、こんな奴らがいるから……!

 

――殺してやる!

 

視界が真っ赤になり、胸の内から湧き上がるドス黒い情動が心を染め上げる。

 

「わぁああああああああああん!!」

「っ!!」

 

そんな、得体の知れない感覚に呑まれそうになった俺の心を引き戻したのは、先程狙われた女の子の泣き叫ぶ声だった。

 

怖かったのだ。

感情のまま、本能のままに殴り合う俺と11号――2体の“化物”の凄絶な殺し合い……。

 

 

その叫び声を聞いた瞬間、奴に向けて振り下ろそうとした拳が奴の眉間数cmで止まる。

血液が煮えたぎる様な激情が、急激に冷めて行くのを感じた。

 

――違う。そうじゃないだろ? はき違えるな比企谷八幡!

 

お前が拳を振るうのは、救えなかった己の不甲斐なさを償う為じゃない。

まして感情のままに意に添わない存在を殴り殺すためじゃないだろ?

 

道理から外れた化物を倒す。正義の断罪者にでもなったつもりか? 自惚れるな。

大事なモノを……そいつらが生きる世界を、日常を守る為だろう。

原点を忘れるな、力をかざす目的を、間違えるな……!

 

「ギィイイ……ゾべッ(どけっ)!」

「しまっ……!」

 

俺が自身の暴走を省みた数秒、11号は好機を逃さず俺を押し退けて拘束を解き、公園の外へと逃走を図る。俺は急いで奴を追おうするが、そこへ女の子を保護しに来た雪乃が駆けつける。

 

「大丈夫よ八幡! 奴はまたすぐこっちに戻ってくるから、その時にとどめを」

「戻る?」

 

真っ向勝負では勝てないと見て逃げた奴が態々? と疑問を口にするしそうになるが、そこへけたたましい無数の銃声が11号の逃げた先から響いた。

 

「逃がすな! 撃ちまくれ!! 絶対に奴をこの公園の外から出すな!」

 

その中心に立つ現場で何度か顔をみたイケボの中年刑事が銃声に負けない声で叫ぶ。

 

そんな彼の指揮の下で放たれた十数名の警官による弾幕は、例によって奴に致命傷を負わす事は叶わなかったが、その逃走を妨げる壁にはなった。

 

先の俺との殴り合いで負ったダメージもまだ残っている奴は、たまらず踵を返して別方向から公園を脱出しようとする。

 

――だがその方向には、既に俺が待ち構えていた。

 

「ギララ――(しまっ――)!」

「ダリャアアアアアアアッ!!」

 

動じる奴の胸に俺は全霊の跳び蹴りを叩き込む。

 

吹き飛んだ奴の胸には何時もの刻印――先日の解読結果に寄れば“鎮める”という意味のようだ――が浮かび上がり、流し込まれたエネルギーが亀裂となって駆け巡り、腹部へと到達。

 

「ア、 アアアア……ギジャザ(イヤだ)……ギジャザアアアアアア(いやだああああ)!!」

 

そして、心の底から死の恐怖に怯え、最後の瞬間までその運命を拒みながら爆発していった。

 

取り囲んだ敵を徹底的に追い込み、とどめを刺す。

 

これ以上犠牲を出さない為には最善の手段であり、援護してくれた警察の人らには本当に助けられたとは思う。

 

――だけど、何でだろうな……?

――倒せた筈なのに、守れた筈なのに、どうしようもなく虚しいのは……。

 

 

◇◇◇

 

 

城南大学 考古学研究室 03:23 p.m.

 

朝から降り始めた季節外れの長雨は、今もまだ降り続いている。

 

第11号を倒した後もポレポレに帰る気になれなかった――どんな顔をしておやっさんや一色に会えばいいのかわからなかった――俺は、研究室で碑文の解読を行っていたが全然進まなかった。

 

自分の中の形容し難いドロドロとした感情の正体が分からず、それを抱えたまま誰かの前に立ちたくなかった。

 

これは言わば、(ひと)りになる為の言い訳――現実逃避だった。

 

研究室で博士号取得の為に結衣や戸部と本郷教授の下で研究し、下宿先ではおやっさんや一色と店で働く。

 

偶に時間が出来たら実家に戻って小町の顔を見にいったり、川崎や平塚先生んとこに遊びに行ったり、懲りずにラノベ作家を目指す材木座の作品をディスったり、戸塚と一緒にテニスしたり――就職してから一層会う機会の減った雪乃とメールなどで近況を報告しあった。

 

気がつけば高校1年生までの日々が嘘の様に、多くの誰かと繋がって生きてきた。

 

最早俺にボッチを語る資格はなく、精々ボッチ(笑)が関の山だろう。

 

それは忙しかったりやかましかったり、時々煩わしかったりする日々だったけど、総じて暖かく、愛すべき日常だった。

 

――だけど一方で昔に比べて俺は、独りで過ごす事がヘタクソになったとも思う。

 

別に孤独に過ごす時間が嫌いになった訳じゃない。

(ひと)りで過ごす時間には誰かと共有する時間にはない安らぎや楽しさ、意義も感じる。

 

どっちも大切な、俺が俺である為の大切な時間。

だけど今は、独りになるとどうしようもない不安を覚えるようになった。

 

体は戦車みたいに頑丈で強靱になった筈なのに、心は寂しさを感じて震える小動物ハート。

とんだラビットタンクである。

 

原因はなんとなく分かってている。

それは俺がクウガという『それそのものが孤独(ボッチ)な存在』になった故だ。

 

現状唯一、未確認生命体(奴ら)の殺戮を正面から阻止することの出来る存在。

現状唯一、奴らを“殺す事の出来る”力を持った存在。

 

普通の人達とも、奴らとも違う存在。

奴らと同じ力と異形の体を持ちながら、人の心が残った半端な化物。

 

そんな得体の知れない存在になった――誰とも“違う”存在になった事で、以前よりずっと……俺は誰かとの関わりを求めるようになった。

 

皮肉な話だよな。全く――

 

 

【オリジナルグロンギFILE.2】

 

未確認生命体第11号 “ズ・ネズモ・ダ”

ズ集団に所属するネズミの特性を持つグロンギ怪人。2018年2月3日に行動を開始。

ゲゲルのノルマは『36時間で63人』。広いフィールドを素早く回りながら1人ずつ獲物を狩る戦法を得意とし、子供や老人など『殺し易い獲物』を選び確実に殺す事を主義としている。

先だってゲゲルに成功したガルメに強烈な対抗意識を抱いており、祭りの会場を襲撃することで短時間のゲームクリアを画策する。

しかし当日は大雨で来場者の数が芳しくなかったのに加え、警察の迅速な対応に完全に嵌まり、公園内に包囲されてしまう。

更にそこへ駆けつけたクウガと交戦。正面からの戦いでは歯が立たず瞬く間に追い詰められた所で命乞いをし、動揺させる事に成功するも警官隊の弾幕に阻まれ逃走に失敗。

最期はマイティキックで倒されるが、その死に様は八幡の心に昏い影を遺した……。




前回の『知人が犠牲にあう』というのに引き続きTVシリーズでは見られなかったシリーズ第2弾として今回は『グロンギによる命乞い』というのをやってみました。

いやぁ、ホントこういう展開を連続でぶち込むとかこの話書いてる奴、根性腐ってますね(爆)

捕捉するとグロンギのゲゲルはもし制限時間以内に達成できなかった場合もれなくベルトが自爆するデスゲーム仕様なので、彼の言い分は「死にたくないから俺がリント殺すの邪魔しないで」という身勝手極まりないものだったりします。

しかしそんな事を知らない八幡は果たして何を思うのか?


誤解を恐れぬ言い方をすれば仮面ライダーっていわば『人の心を持った怪物』な訳ですが、その有り様って、結構地獄ですよね(汗)

次回も八幡にはたっぷり悩んでもらおうと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。