伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。   作:烈火・抜刀

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おまたせしました。

いよいよグムンさんが出てきますよー!


EPISODE:03 死の警告の先、異形と戦士は復活する。<3>

長野県警察本部1Fエントランス 03:25 p.m.

 

「待たせた。大丈夫か?」

「ううん、ごめんね色んな事任せきりで……行こっか」

 

雪ノ下と別れ、休んでいた由比ヶ浜と合流し退館手続きを済ませた俺は未だ顔色の優れない彼女の身を案じる。当人は気丈に振る舞いつつも、やはりまだその顔色は優れない。

 

「差し当たってはこっちに残った棺の写真とこのベルトに書かれた文字の解読だな」

 

「うん。少しでも早く解読して、ゆきのんの捜査に役立てて貰おう!」

 

しかし俺の言葉を受けた所で由比ヶ浜は顔を上げ、力強く頷いた。

ただの学者見習いでしかない俺達が、夏目教授らの無念を少しでも晴らすのに助力するには一刻も早くあの遺跡の全容を解明する他ない。

 

言わばこの解読は、死んでいった今日じゃ教授たちに対する弔い合戦ともなる。

 

そしてそれが高校時代からの親友の助力にもなるというなら、由比ヶ浜にとってこれ以上のモチベーションもないだろう。結果的にそれで元気になってくれるなら、俺もやぶさかではない。

 

状況的に観光や土産を買う気持ちにもなれない俺達は早々に駅に向かい、東京へ蜻蛉返りする

ことにした。

 

――だがそこへ、1台のパトカーが県警本部の扉を突き破り、俺達の目の前に突っ込んできた。

 

「きゃあ!」

「何だぁ!?」

 

建物全体に響く様な音と、治安を守る警察の象徴と言えるパトカーの暴挙という絵面が強烈な衝撃を与える。

 

そして、エントランスに集まった経験や俺達一般人の視線を集める中、“ソイツ”は姿を現した。

 

「フン、リントゾロバ、ゾソゾソド!(フン、リント共が、ゾロゾロと……!)」

 

聞いた事もない言語を口にしながら敵意に満ちた視線で周囲を見渡すそいつは、人の様に二足歩行で歩きながら、その外見や所作には獣の様な印象を与える。

 

どこか蜘蛛っぽい造詣の頭部が印象的な土色の異形――『怪人』という呼称が1番しっくりくるのかも知れない。

 

「ひ、ヒッキー……アレって、もしかして……!」

 

俺の服の裾を掴んで震える由比ヶ浜がその異形を指し、俺と同じ疑念の口にする。

 

そう、俺達はつい先程、映像でこいつと似た雰囲気を持つ怪物を見た。

遺跡から出てきたあの化物……まさか、コイツが?

 

「ムン! フン!」

 

あまりにも唐突な展開に俺達が思考を麻痺させていると間も、蜘蛛の怪人は動き出した。

奴は近くに居る者、目についた人間を片っ端から殴り倒した。

 

奴自身は軽く叩いた程度の所作なのだが、その攻撃を受けた人々は次々に……物言わぬ屍となっていった。

 

パン! パンパン! と、乾いた銃声が響き渡る。

怪人を危険生物と判断した制服警官や刑事が拳銃で発砲した。

 

しかし無数の弾丸を浴びて尚、蜘蛛男は身じろぎ1つせず、着弾した弾丸は貫通どころか食い込むこともせず、その柔軟な筋肉にで弾かれてしまった。

 

「ハッ、バジュギガバ(ハッ、痒いな)」

 

寧ろその発砲は蜘蛛男の注意を引くだけの過ぎず、警官達は次々とその餌食になっていく。

 

映画でも舞台でも何でも無い。

正真正銘の現実――リアルの殺戮が、俺達の目の前で繰り広げられた。

 

「い、いや……いやあああああっ!!」

 

目の前で虐殺を繰り返す怪人の暴挙と映像の怪物の姿がオーバーラップしたのか、由比ヶ浜は現実を拒絶するかの様にその場に蹲り悲鳴を上げた。

 

それも無理からぬ事だが、マズい事に彼女のその悲鳴は蜘蛛の注意を引いてしまった。

 

「ムン!」

 

ひと跳びで距離を詰めた蜘蛛男、俺は咄嗟に由比ヶ浜を抱えその右側に回避する。

 

その時、牽制に投げつけたジェラルミンケースが破損し、入れていた例の装飾品が露出。

それを目にした瞬間、蜘蛛男は驚愕した様にそれを凝視した。

 

「ドセザ、“クウガ”ボメスドバ!?(それは、“クウガ”のベルトか!?)」

 

「クウガ……!?」

 

全く理解出来ない奴の言語の中で何故か耳に残った単語。

映像の奴も言っていたが、やはり何かあるのか?

 

奴が動揺している間に俺は装飾品を掴み距離を取ろうとする。

 

「っ!!」

 

刹那、俺の頭の中に、この装飾品を腹に巻き目の前の奴とよく似た“異形の群”と戦う赤い戦士の姿が駆け抜けた。

 

「ぬおおおおっ!」

「アブねっ!」

 

「ヒッキー!」

 

その映像に一瞬意識が飛んでいた俺に蜘蛛男が襲い掛かる。

なんとか間一髪でそれを躱すが、どうやら奴はこの因縁があるらしい装飾品を手にした俺に狙いを定めたらしい。

 

――このままじゃ、遅かれ早かれ殺される!

 

生まれた始めて感じる混じりけの無い純然たる殺意。

学生時代に向けられた同級生からの悪意など比較になりようもない。

おぞましくて、恐ろしくて、いっそ思考を停止できたらどんなに楽だろうとすら思える。

 

けど、それは出来なかった。

何故なら俺のスグ傍には、今も震え怯える由比ヶ浜がいるのだ。

せめて……そう、せめてだ。彼女だけはこの悪意から逃れさせたい。

 

幸か不幸か、今俺の手元にはその為の“手段”があった。

 

「隠れてろ由比ヶ浜……。コイツは俺が、なんとかする――!」

 

俺は手に持っていた装飾品を巻き付けるように腹部に当てた。

 

するとその瞬間、ベルトの中心に埋め込まれた石は眩い光りを放ち、俺の腹の中に吸い込まれた。

 

「嘘……!」

 

「ぐっ、おおおお……い、痛ぇえ……」

 

俺の言う事を聞かず後を追ってきた由比ヶ浜の姿を目の端に捉えつつ、俺は痛みに悶え苦しんだ。

グググ、痛い……! つーか、熱い!!

全身の神経にベルトの接合部から伸びた茨の様な何かが絡みついて溶け合う様な感覚に苛まれる。

 

「ハァ、ハァ……冗談じゃ、ねえぞ……このままじゃ、戦うどころじゃ……」

 

「ムン!」

 

狙いを完全に定めた蜘蛛男が俺を屋外に投げ飛ばす。

しかし驚くべき事に、人間を一撃で屠るあの怪力を見舞われて、俺の身体に致命傷はなかった。

 

相変わらず体中痛いが、それも少し落ち着いてきた。

とにかく今は、目の前に迫る死神に抗わなければならない。

 

「っ……あああああああああ!」

 

とどめを刺そうと歩み寄ってくる蜘蛛男の胸にめがけ、俺はありったけの気力を振り絞り、右腕を突き出す。

 

「っ!!」

 

するとその瞬間、それまで何十発も鉛玉を受けても微動だにしなかった蜘蛛男がのけぞった。

 

そして――そんな俺の右腕は黒い皮膚と白い装甲に覆われていた。

 

「変わっ……た……!?」

 

「ヒッキー!!」

 

そんな俺の視界の隅に県警本部から出てきた由比ヶ浜が移る。

あのバカ! 隠れてろって言ったのに……!

 

「クッソ……!」

 

とにかく今は、この蜘蛛男をどうにかするしかない!

俺は腹をくくり、怯んだ蜘蛛男に殴りかかった。

すると身体は左腕、右足、左足と攻撃を加えた箇所から右腕と同様に変化し、やがてその胸も白い装甲で覆われ、そお腹には、先程俺の腹に吸い込まれたベルトが白銀の輝きを放っていた。

 

「があっ!」

 

「ハア…ハア……ハア……っ!」

 

「嘘……!」

 

目を見開いた由比ヶ浜が見守る中、俺の肉体はさっき一瞬頭に流れ込んだ戦士とそっくりに“変身”していた。

 

真っ白な、戦士に――――!

 

 

 

 

 




グロンギ語の表記パターンについては当初フォントの色や書体を変えようかとも考えたのですが最終的にこの感じにしました。

自分は一応クウガ放映時、英検と一緒にグロンギ語検定3級とってるので挨拶程度はできますよ(笑)

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