伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。   作:烈火・抜刀

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GW最終投稿でございます!

やっぱ原作準拠じゃない完全オリジナルエピソードって結構難しいですね(笑)

書いてて楽しいんですけどw

活動報告のアンケートにもありますが、今後こう言うオリジナルの体で何かリクエスト的なものがあればそちらやメッセージで送ってくれると嬉しいです。

絶対に話にすると確約はできませんが、皆さんのアイディアや本作に対する所感みたいなのを知りたいですw

今回はあのキャラも出ますよ!


EPISODE:39 由比ヶ浜結衣は穢れた聖者を抱きしめる。

千代田区 防衛省 03:30 p.m.

 

「失礼します。未確認生命体第11号事件の検分、先程終了したそうです。例によって死体は爆発四散したそうです」

 

日本の独立と安全――防衛を司る中央庁の1つ、それを束ねる大臣・郷原哲男は数年前からその片腕として秘書を務める雪ノ下陽乃がもたらした一報に、嘲りの色の濃い笑みを浮かべた。

 

「つまり今回も最終的には第4号頼みだったという訳か。フン、強引に警備態勢の強化を敢行した割には随分と粗末な結果じゃないか、警視庁と若き俊英という奴も存外大したことが無い」

 

「ですが一般市民の避難がスムーズだったのは事実みたいですよ? 休日でイベントがあったことを鑑みると十倍以上の犠牲が出てもおかしくない状況だったと思います」

 

「関係ないなそんな数字は。最終的に世間が注目するのは問題の根絶した“英雄”の存在――つまりは第4号だ。……“彼”の足取りはまだ掴めないのかね?」

 

一条薫やその部下が数日の睡眠を犠牲にして一新させた警戒態勢の強化を些事として扱い、犠牲者の数にも一切の感情を動かさない郷田。

 

その関心は、この国の価値観に一石を投じる存在になり得る超人、『英雄』として担ぎ上げるに足る存在、未確認生命体第4号――――その正体にあった。

 

そんな冷徹な持論を唱える上司を前に、陽乃は物心ついた時から自然と身に付けていた人受けの良い微笑を浮かべながら応えた。

 

「警視庁から提出される写真や動画はいずれも“変身後”のみ。その所在はいずれも掴めないそうです。これはもう、完全に握り潰されてますね。()()()の素性」

 

「チッ、それもあの若造が裏で糸を引いてるという訳か……全く以て忌々しい。並行して調べさせてるあの男の泣き所は何かないのか?」

 

「それも全然ないんですよねぇ。普通あの若さであれだけの地位なら、何かしらのコネなり裏技を使ってそうなものなんですけど――いるんですねぇこういう“聖人”みたいな人間」

 

客観的な報告の中に僅かに私的な関心を向けながら、40過ぎて尚衰えない覇気を秘めた精悍な中年男性の写真を見つめる陽乃。

 

30年近い人生の中で多くの偽善者、上っ面だけのエセ聖者の本質を見抜いてきた。

 

しかし彼の来歴やその人柄を知る者の心象などをみる度に、そうした偽者と一線を画す何かを感じさせた。

 

――そう、9年前に妹の存在を介して知り合った“彼”にどこか近い、何かを……。

 

「フン、現実に聖人なんていはしないさ。仮にいたとしても、その手は血と泥に塗れて誰も触ろうとはしない。汚れると分かっていて握手を求める人間などいないからね」

 

「例え汚れると分かっていても抱きしめて支えたくなる。そういう人こそが本物の聖人ってことなんじゃないですか? ――まあ、郷田先生には一生縁が無い話でしょうけど。少なくとも私は、先生の抱きしめたいとは思いませんし」

 

「相変わらず言うねぇ君は……使えなかったらとっくにクビにしているよ」

 

「お褒めに預かり光栄です♪」

 

時代劇の悪代官かくやという怪しい笑顔と、颯爽としていながらどこか隠しきれない妖艶な魅力を秘めた笑みを向け合う郷田と陽乃。

 

現役防衛大臣とその私設秘書の関係はどこまでも互いの持つ権力と手腕ありきのものであり、そこには一欠片の信頼も親愛もありはしない。

 

だからこそある意味、互いに遠慮の無いやりとりが出来た。

 

「そう言えば小耳に挟んだんだが、君の妹は今、対策本部に参加しているそうだね? そこから何か――」

 

「アッハッハッ、あの()が捜査状況を外に漏らすなんて真似絶対しませんよ。ましてや私には絶対……ね。噂だと例のイケメン本部長さんには随分目をかけてもらってるみたいですけど」

 

「ほう、……まさかとは思うが男女の関係というのは?」

 

「あー、それはないですねぇ」

 

もう随分長いこと顔を合わせていないが、妹の事は何でも分かる。

 

出世の為に女を使う――あの子がそんな自分や自分の大切にする親友や“彼”を裏切る真似、するわけがない。

 

陽乃には、そんな絶対的な確信があった。

 

「事実はどうだっていい、『警視庁の若き俊英と謳われた男が、うら若い女性捜査員を誑かし、キャリアアップの為に捜査本部に着けた』……ありそうな話じゃないか?」

 

「――私の可愛い雪乃ちゃんを、そんなくだらない事に利用すると?」

 

刹那、陽乃の瞳には氷を研いだ刃の様な冷たさと鋭さが宿る。

 

打算的な関係の中にあって、踏み行ってはならない部分に触れたことに気付いた郷田は「じょ、冗談だ……」と気まずそうに視線を逸らした。

 

――やっぱりこの俗物に“必要以上の情報”を伝えなかったのは正解だったみたいね。

 

郷田に提出する報告書から意図的に削除した。未確認生命体第4号が合同捜査本部の一捜査員と繋がっており、それが他でもない自分の妹であるという情報。

 

そしてそこから導き出されるかなり高確率な仮説――未確認生命体第4号の正体は……。

 

 

◇◇◇

 

 

城南大学 考古学研究室 04:02 p.m.

 

『理性の化物』

 

嘗て、雪乃の姉・雪ノ下陽乃は俺の生き方をそう評した。

 

それは常にガチガチに塗り固めた思考や疑心の殻に籠もり、脆い心――ちっぽけな自尊心を必死に守ろうとする様を皮肉ったものだった。

 

しかしそれから9年。奇しくも俺は今、ある意味で本当に『理性を持った化物』となった。

 

理性を――人の心を持ったまま化物。

人から外れた癖に、人の中で生きたいと願う歪な怪物。

 

大切なもの守る為に化物の力を使う癖に、人であることに執着する。

身勝手で矛盾に満ちた、どっちつかずの半端者。

 

別に戦う事から逃げ出したくなった訳じゃない。

今更俺に、その資格があるとも思わない。

 

やるべき事――否、やらなければならない事は、何も変わらない。

 

なのに俺は今、迷っている。悩んでいる。答えのでない疑問を永遠と考え続けている。

 

意味など無いと分かっていながら、思考を放棄することが出来ずにいた。

 

 

 

「――やっぱりここいたんだ」

 

そんな思考の迷宮を彷徨っていると、結衣が研究室に現れた。

その恰好は別れた時と同じ喪服姿で、普段は明るい色調の服を好む彼女とは随分心証が異なる。

 

……色っぽい、と言い換える事も出来るかもしれない。

 

「? どうかした??」

「い、いや別に……それよりお前こそどうしたんだ?」

 

「うん、さっきゆきのんから11号倒したって電話で聞いたから……多分、ここにいるんじゃないかなって……その、あたし今、居ても……いいかな?」

 

「――いいに決まってんだろ? ここはお前の研究室でもあるんだ」

 

明らかに俺の事を気遣って遠慮してる結衣に、少しぶっきらぼうに応える。

やっぱ今、相当酷い顔してるんだろうなぁ……俺。

目とかもう、三日放置したサバ並に腐ってんだろう。

 

「ん、……じゃあ遠慮なく――――えいっ!」

 

俺から――そもそも取る必要などない――許可を取ると、何故か緊張した様子で研究室に足を踏み入れた結衣は俺の後ろに回り込み――座っていた俺に覆い被さる様に、背後から抱きついてきた。

 

「っ!?!? ちょっ……おまっ!」

 

肩甲骨の辺りに当る2つの柔らかくていい匂いのする、柔らかい癖に密度のある感触。絡みつく腕。その奥から聞こえる心臓の鼓動、その温もりはどこまでも暖くて……ってヤッベ! 今一瞬意識持ってかれた!! 

 

何だこの人を……というか男をダメにする超絶ふんわかクッション!?

 

「な、何やってのお前!? し、神聖な学びの場で、ハ、ハレンチデスワヨ!?」

 

いかん。動揺の余り何故か口調がお嬢様委員長キャラになってしまった!

 

「あーその、ゴメンね? 何か今のヒッキー、抱きしめて欲しそうな顔してたからつい……」

「はっ!? いや、してねーし! ていうか何だよ抱きしめて欲しそうな顔って!?」

「う、うるさいなー。……じゃあ、あたしが抱きしめたかったからでいいよ」

 

日頃よくアホっぽさを感じる発言を頻発するが、根本的に常識人な彼女らしからぬ、滅茶苦茶な言い分。だけど漂う雰囲気はどこか艶っぽくて……

 

「な、何か発言がビッチっぽいぞエロヶ浜……」

 

「ハアッ!? ビッチじゃないし! エロくもないし!! ていうかまだ処女だし! 知ってるでしょヒッキー!?」

 

「いや、それは知って……っておいバカさっきっから何言ってんのお前!? 後で絶対後悔する黒歴史発言連発するんじゃありません!」

 

こんな所でこんな態勢で処女だビッチだとか、人に聞かれたどうすんだ!

ていうかコイツ、自分からこんなことしといて滅茶苦茶テンパってんじゃねえか!?

俺がとち狂って押し倒したりしたらどうするつもりなんだったんだ?

 

「と、とにかくこのままで! いい? 動いちゃダメだからね!?」

 

「~~っ、……分かった」

 

ヘタに抵抗する余計首に当る胸の感触を感じてしまいまずいので一先ず言う事を聞く。

 

落ち着け……、確かこういう思考がエロい方向になった時は家族の事思い浮かべるといいんだ。

 

思い出せ……偶の休みは家で仕事の愚痴ばかり漏らすダメ親父の姿を。

仕事が忙しくて睡眠不足で小じわが増え、親父に八つ当たりするお袋の顔を。

年下のカレシに入れ込んだ小町の惚気顔を……!

 

「ちくしょう!!」

「わっ! どしたのヒッキー!?」

「いや、何でも無い。ちょっと簀巻きにして南極調査船に放り込みたいクソガキのこと思い出しただけだから……」

 

煩悩を退散させようと思ったら目を逸らしていた家庭の闇(笑)を思い出してしまった。

 

しかし取り敢えず何とか正気を維持できるようになった俺は、彼女が真意を語るのを待った。

 

 

「――ゆきのんからね、言われたの。ヒッキーの傍に居てあげてって……『私が聞けない気持ちを、聞いてあげて』って……」

 

「っ…………そうか」

 

ここで雪乃の名前が出た時は一瞬驚いたが、すぐに腑に落ちた。――その理由も含めて

 

今日は周りに他の警官も多かったこともあってロクに会話も交わさずその場で別れたが、俺の様子が変だったことは――赤坂の一件も含め――なんとなしに察していたんだろう。

 

――全く、刑事として洞察力があるのは結構だけど、俺のこと見透かし過ぎだぞ警部殿?

 

でもって、その役回りを結衣に任せるのがなんつーか、まあ……。

 

「……最初に言っとくけど、相当嫌な気持ちになるぞ? ドロドログログロしてて……胃もたれして、メシ食えなくなるかも」

 

「うん、いいよ。だから聞かせて? ――あたしは、ゆきのんみたいに同じ場所で戦えないから、せめてちょっとでも……一緒に背負いたいの」

 

――それ、ちょっと殺し文句過ぎしませんかね由比ヶ浜さん?

 

背中におっぱい当てられながらそんな事言われた日にゃ、よっぽどのヘタレでもなきゃ押し倒すぞ? ――まあ俺は超1流のヘタレ童貞だから出来ないけどな。

 

本当ならこれは、自分だけで抱えるべき問題なんだろう。

他の奴に……コイツに、同じ思いさせたって何にもならない事も分かってる。

 

だけど……無理だ。

 

こんな気持ちの時に、こんな事を言われて、それでも『関係ねえ』なんて言い切れる程、俺は強くない。――ホント、ボッチ(笑)もいいとこだな。昔の俺が見たら、なんていうか……。

 

「…………命乞いされたんだ。今日、戦った未確認に――」

 

不甲斐ない自分を内心で嘲笑しながら、俺は結衣に、自分の中に鬱積した気持ちを訥々と伝えた。

 

――身勝手な命乞いに頭にきて、情動のまま殴り殺そうとした自分に激しい嫌悪感を覚えた事。

 

――逃げ遅れた子供にその瞬間を見られて泣かれて、仕方ないと分かっても凹んだ事。

 

――警察の人達が逃げない様に囲む中でとどめを刺す状況に、空恐ろしい感覚を覚えた事。

 

――赤坂を助けられなくて、留美になんにもしてやれなくて、悔しくてたまらなかった事。

 

――いつまで経っても終わらない殺し合いの日々が、嫌で嫌でたまらない事。

 

その全部をゆっくり時間をかけて、打ち明けた。

 

結衣はそんな俺の聞くに堪えない血と泥に塗れた気持ちを、時折相づちを打ちながら聞き、最後に1つだけ、尋ねた。

 

「ヒッキーは、もうクウガになって戦うの、嫌になっちゃった?」

 

「…………いや、戦う事には迷いはない。迷っていい筈がない。しんどいが……クウガとして戦う事に意義は感じてて、間違った事はしてないって自負はある。――――だけどな、最近思うようになったんだ。“間違ってない事”と“正しい事”は、似てる様で違うって」

 

「間違ってないのと、正しいのは、違う?」

 

「ああ、前者は『最悪を回避する方法』で後者は『最善を実現させる方法』とも言えるな。本当はもっと、想像も付かないけど、アイツ等と対話したりとか、手があったんじゃないかって思うんだ。――雪乃には言うなよ? 刑事のアイツに、こんな考えは絶対押しつけたくない」

 

アイツが未確認にその銃口を向けるのは、市民を守るって刑事の仕事を考えれば至極当然の事だ。例え一緒に戦う立場でも……勝手に首を突っ込んだ俺とは、違うんだ。

 

結衣もそれは理解しているのか、静かに頷いた。

 

「うん、言わないよ……ここで言ったヒッキーの気持ちも全部、誰にも言わない」

 

「ん、サンキュ。――けど俺、バカみたいだよな? どの道やる事は変わらない筈なのに、グダグダ答えが出ないこと悩み続けて……。意味なんてない、どころか却って足を引っ張る様な気持ち抱えて……。いっそ頭まで戦う事でいっぱいのロボットみたいになれればー―「それは違うよヒッキー」……結衣?」

 

ずっと聞き手に徹していた結衣がここにきて初めて、俺の言葉に異を唱えた。

 

「ヒッキーがそうやって悩む事、あたしは全然、バカな事だとも意味の無い事だとも思わない。だってそれは、ヒッキーがアイツ等を……未確認みたいな奴らだって本当は傷付けたくないって思っちゃう位優しい証拠でしょ? すっごく難しい問題から逃げずに、辛くても一生懸命考えてるって事でしょ? 戦う為の体に変わったヒッキーの……昔と変わらない部分でしょ?    

ヒッキーがヒッキーである証拠でしょ!? だったら……捨てないでよ。そこは」

 

「結衣…………」

 

優しく諭す様に、そして整然と説く様に、俺が抱える現状を肯定する結衣。

 

迷う事も、悩む事も、苦しむ事も、恐怖も、躊躇いも、葛藤すらも必要なこと――俺がまだ、人間である為の証明であると説いた、本郷教授の言葉にも重なる。

 

――ああ、そうだったな。最近しんどい事が多くて忘れかけてたよ……“ソレ”を捨てたら、それこそ俺は只の『未確認生命体第4号』になっちまうもんな……。

 

「サンキューな結衣。……けどお前、結構しんどい事言うよな? 悩み続けながら戦えって、ある意味、雪乃よりスパルタだ」

 

「あはは、ゆきのん何だかんだ言って超優しいもんね。……だから、ね。あたしが一緒に背負うの。ヒッキー、『一緒に戦う仲間だからこそゆきのんに言えない事』もいっぱいあるんでしょ? だったらそれは、これからも全部、あたしが背負うの」

 

ギュッ、と抱きしめる力が強くなる。

彼女の決意が、覚悟が伝わった。

 

「辛いことがあったらあたしに言って? 苦しかったらあたしに甘えて? ヒッキーが、また頑張れる様になるんだったらあたし…………その……何でもする……から……」

 

「ブッ……!」

 

コイツ……また自覚してるんだかしてないんだか分かり辛い感じでとんでもない事言い出すな! もし狙って言ってんならやっぱエロヶ浜だし、天然でかましてんならアホヶ浜だぞ!?

 

ああ、クソ! 直前まで結構ぐっと来たというか、胸に響いたのに、嬉しかったのに今はコイツの真意がどっちなのか気になってしょうがない。

 

ガンダムの緊迫感ある戦闘シーンで女艦長の乳揺れが気になって仕方なくなっちゃった時に似てる!

 

何か悔しいな……ここは1つ、コイツに追い詰められた童貞の怖さを教えてやろう。ククク。

 

「――本当にいいんだな? 結衣」

 

「ふぇ!?」

 

俺はやや強引に結衣の抱擁を解いて立ち上がり、その肩を掴む。

 

案の定、彼女は耳まで真っ赤にしてテンパる。やっぱり分かってなかったんじゃねえかこの野郎!! 童貞の純情を弄びやがってからに!

 

「ここで俺が何しても、きいてくれるのかって聞いてるんだよ」

 

「えっ、あぅうう……――うん。も、勿論ダヨ!?」

 

テンパってるテンパってる。ククク、ではこの男を惑わすなんちゃってビッチに天罰をくだしてやろう!

 

「じゃあ、遠慮無く頼むぞ? ――――購買に行って、やきそばパンとマッ缶買ってきて」

 

「パシリ!? 頼みってパシリなの!?」

 

鳩が豆鉄砲喰らった様な顔をしてあわあわする結衣、だがこんなもんじゃないぜ!

 

「アレレ~? 何でもって言ったよね由比ヶ浜さん? それとも予想と違った? 一体何をお願いされると思ったのかな~?」

 

子供演技をするコナンくんばりの煽りで更に追撃を加える。

結衣はすっかり顔を真っ赤にして目を伏せ、己の不用意な発言を後悔する。

 

よーく覚えとけよ? それが黒歴史を刻む瞬間だ!

 

「~~~~っ!! 分かった! 買ってくればいいんでしょ!? もうっ! 今日土曜で購買休みだからちょっとコンビニ行って買ってくる!!」

 

「いや、行かんでいい行かんで。つーか、一緒に出るぞ。一旦服着換えてポレポレで飯食って、ここに戻る。――ここ何日かサボっちまった解読作業、土日返上で進める。手伝ってくれ」

 

ひとしきりからかってスッキリしたからかい上手の比企谷くんこと俺は、改めて結衣に頼み事をした。

 

赤坂と留美の事で落ち込み、手を着ける気になれなかった碑文解読。

差し当たって知りたいのは『見えない敵に対抗できるクウガの力』だ。

 

彼女達への償い、なんておこがましい事をいうつもりはない。

ただ、もう2度と同じ思いをしない為にも、出来る事からしたい。

 

今度こそ奴を逃がさない為に、1人でも奴らに苦しめられる人間を、減らす為に……。

 

「――う、うん、分かった! 一徹でも二徹でも付き合うから! じゃあ、1時間位したらポレポレ集合ね! ……けどなんでお店でご飯? 別にいいんだけど」

 

「いや、店なら飯代基本タダじゃん? 戸部への借金返済とか、小町や一色の誕生日も控えてるから節約したい」

 

「あはは……そっか」

 

借金に関しては自身に罪悪感があるのかそれ以上は追求せず苦笑する結衣。

これが一色あたりなら『先輩ってホント甲斐性なしですよね~?』とか弄るんだろうなぁ。

 

ああ、ホント、稼ぎが良くて安定した職業に就いたデキる女と結婚して養って欲しい……。

 

「うん、けど分かった。じゃあ部屋戻って着換えたらすぐ行くから。――後でねヒッキー」

「おう」

 

苦笑しながら納得し、一足先に研究室を後にする結衣を見送る。

 

――――いつの間にか雨は上がり、俺の中のモヤモヤとした暗鬱な気持ちも霧散していた。

 

いや、悩みそのものがなくなった訳じゃない。

 

この力とどう向き合っていくべきか、正しい事と間違ってない事の間にある矛盾とか、考えるべき事は数多くあって、多分その幾つかは、一生掛かっても答えが出ない命題なんだとも思う。

 

だけど今は、不思議と肩が軽い。

胸の中には暖かい何かを感じて、爽やかな気持ちでいられる。

 

きっとまた、遠からずこの気持ちは曇るだろう。

今日以上に心がドス黒くなって、自分を見失ってしまうことがあるかもしれない。

 

だけど多分――全く根拠はないけれど――『大丈夫だろ』って思えた。

 

今この瞬間、俺の心は、“青空”みたいに澄みきっていた。

 

 

【おまけ】

 

――やらかした! やらかした!! やらかしちゃった!! 

 

大学から徒歩10分の部屋に帰ったあたしは戻って早々ベッドにダイブして今さっき彼と交わしたやり取り――特に最後にからかわれる原因になった言葉を思い出して身悶えた。

 

バカじゃないのあたし!?

 

ここ何日かのヒッキーの様子が心配で、同じ気持ちだったけど立場を考えて一緒に居てあげられないゆきのんに任されて、彼が自分が想像してるよりずっと苦しんでるのを知ったのに……。

 

あんな、弱ってる所につけ込むみたいな事言って……そのくせホントにそういう事になりそう(っぽく演技したヒッキー)と目が合っただけで茹で蛸みたい真っ赤になって!

 

優美子や小町ちゃんとかにも言われたけど、色々拗らせ過ぎでしょ25歳!?

 

恥ずかしい……出来る事ならひと月くらいヒッキーと顔を合わせたくない。――あ、嘘、会えないと寂しいから2,3日くらいかな?

 

とにかくあたしは、自分が言った言葉とか、成り行き次第で抜け駆けしちゃおうとしたズルいとことかが恥ずかしくって情けなくって、仕方が無かった……。

 

力になりたい。支えてあげたいって気持ちは嘘じゃないけど、やっぱり……なんだろう?

見返りが欲しいって思っちゃったのかな? 

 

やっぱりあたしは、あの2人みたいに高潔にはなれない。

ちょっとズルくてバカな癖に計算とかしちゃう、色々足りないガハマちゃんだ……。

 

――ごめんね。ゆきのん……。

 




という訳で陽乃さん登場&ガハマさんターン回!

今現在私の頭の中では『一条薫VS雪ノ下陽乃』というキレ者同士の対戦カードが浮かんでたりしますw

それと今回、親友に八幡を任せたゆきのんの心情についてですが、彼女と八幡は、お互いを大切には思ってますが、一方で共に命を懸けて人々を守る使命を共有する『同志』としての意識が強いので、互いに互いの弱い所を意図的に見ないように心がけてます。

……見たら多分、それこそ傷のなめあいばかりのズブズブな関係になりそうなので。

甘えを許せない感じです。

けどなんか……夫の元に公認の愛人を派遣する本妻みたいだなぁ(爆)

本作は健全な(?)全年齢対象作品な上、まだまだヒロイン未確定の序盤何で、今後もこう言う『寸止め』みたいな展開があると思いますw

今後とも長い目でお付き合いくださいw

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