伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
今後は投稿ペースが落ちるとは思いますが今後も拙作をよろしくお願いいたします!
今回と次回は日常回でーす!
2月10日
文京区 ポレポレ 09:23 a.m.
「ふぁあああ~~あ……はよっス」
「はよっスじゃないですよ先輩! またこんな開店準備で忙しい時間に起きて」
11号との戦いから1週間経った週末。いつもの様に一色の文句を右から左に聞き流した俺は、開店準備の邪魔にならない様にキッチンの端っこでぱぱっと朝食を準備する。
この邪魔くさく扱われる感じ、実家で小町やお袋にケツを叩かれる親父を思い出す。
血は争えんって奴だな。
今日のメニューはサンドイッチとカップスープ。
腐っても喫茶店に下宿してる身なので簡単な料理はササッとで出来る。
総合的な料理スキルでは雪乃には及ばないものの、平均的な独身男性よりは達者になった自信がある。
――え、結衣? アイツはなぁ……。前よりはマシにはなったんだけどなぁ。
「もうっ! 最近ずっとこんな感じなんだから……雪乃先輩も何か言ってやってくださいよ!」
「そう、ね……比企谷くん、寝不足はお肌の大敵よ?」
「うわーテキトー。どうしちゃったんですか雪乃先輩!? あの頃みたいなキレのある暴言で先輩なんか泣かせてやってくださいよ!」
俺の生活の実情を知ってるが故に責められない雪乃は、一色との板挟みで言葉に詰まる。
「ふーん、平日は結衣先輩と毎晩密室で夜を明かして、週末は雪乃先輩とデートですか? 良いご身分ですね先輩」
うーむ、普段のあざとさすら見せずストレートに悪意をぶつけるとこ見ると、本格的に機嫌悪いなこりゃ。
……近々、何かしら埋め合わせをせにゃならんかもしれん。
◇◇◇
千葉県 柏市 10:33 a.m.
「ごめんなさいね。休日に時間取らせて。一色さんの事も……」
「気にすんな。どのみち今日は午後からバイトでこっち方面に来る予定だったしな。昼までには終わるんだろ?」
一色の嫌味を(言われた俺以上に)気にしてちょっと凹んでる雪乃をフォローしながら、俺は今日の目的地である科学警察研究所にバイクを停めた。
にしてもコイツ、相変わらず一色の事、地味に大好きだよなぁ。
密かに由比ヶ浜に『ソッチの気』があるのかと思ってたが2人への態度を見るにこいつも……クハァ、きらら系の日常4コマ好きな俺としては色々捗ってしまう……!
ベルトに刻まれた碑文『心清く体健やかなる者、これを身に付けよ』――要するに健全な心と体を持った人間がクウガになるとの事だが――心の清らかさって一体なんだろうな?
いや、逆に考えろ。つまりは超古代に於いても百合を愛でることは健全である。
悠久の昔から、女の子同士のイチャイチャは尊いという事じゃないか!
『俺、ツインテールになります。』の太古の帝王ティラノギルディ隊長も百合属性だしな!
フ、期せずして超古代文明の文化の一端を解き明かしてしまった。
やはり俺には考古学者の素質がある様だ。
このテーマ――超古代文明に於ける百合信仰――で論文を書けば博士号取得とか余裕だろう。
「八幡、貴方またアホな事考えてるでしょ? 顔がとても気持ち悪いわ」
「バッ、バカ言うな! ちょっと“リント”の文明について考えてたんだよ! が、学者ってのはどんな時も研究のことで頭がいっぱいになるもんだからな!」
ふと気がつけば、隣で雪乃が道ばたに転がった虫の死骸を見る様な目を向けていた。
「“リント”――確か碑文解読で分かったクウガが属していた民族の事だったかしら」
「ああ、俺の腹の中のベルトを作って自分達に殺戮の牙を剝いた奴ら……“グロンギ”に対抗した平和主義の民族、らしい」
頭に浮かんだ不埒……いや、尊い百合妄想を誤魔化す為に咄嗟に口にした言葉に食いつく雪乃。
解読結果はちょくちょくメールとからで伝えているからなんとはなしに彼女も把握はしている。
「リント……そう言えば奴らの口から何度か耳にした記憶があるわね。……奴らからすれば私達はそのリント族の末裔、という解釈なのかしら?」
「多分な。――まあ、奴らがそもそも何でリントを襲い始めたのかまでは分からんけど……」
より正確に言えば、名前以外の奴らに関する記述に関しては何かこう、『意図的に分かり難くしてる』って感じがあるんだよな……。
直感の範疇なんだが、クウガの力の継承者――つまり俺に、知られては不味い面を隠そうとしてる気がしないでもない。
「クウガの力に関してはどう? 赤や青以外にも違う姿があるかもしてないって聞いたけど」
「ああ、1つがもうちょっとで分かりそうなんだ。ひょっとしたらこの間の奴――赤坂を殺した見えない未確認を捉えられるかもしれん」
先週から優先的に解読を進めているクウガの新しい力――見えない敵を捉える姿、結衣の手伝いもあって大分全容が見えてきた。近日中には完全に解明出来るだろう。
「例のあの未確認ね。……私達も、貴方ばかりに頼らず何とかしないとね。――まあ、そういう協力を仰ぐ意味でも、貴方をここに連れてきたんだけど」
そう言って彼女の後をついていく形で建物内を歩いていた俺は、『第1研究室』と掲げられた部屋の中へ入る。中には、1人の女性が待っていた。
「やっほー、直接顔を合わせるのは久し振りだね雪乃ちゃん。アラ、またちょっと綺麗になった? なーんか前より艶っぽくなってるけど、カレシの影響かな?」
「ご無沙汰してます榎田さん。――それから同性じゃなきゃセクハラですよその発言」
「気にしない気にしない♪ 夫に逃げられた寂しいシングルマザーに潤いを与えてよ~」
見た目は化粧っ気はないが眼鏡と白衣がよく似合う、平塚先生と同年代(いや、ちょっと若いか?)位の知的な美人さん。しかし中身は中々どうしてはっちゃけ気味だ。
ちょっと雪乃のお姉さんを思い出すな。
……まあ、あの魔王さんに比べれば大分マイルドではあるが。
表面的に纏ったキャラって感じはしないし、ホントにちょっとからかうだけの親戚のおばちゃんって感じだ。いや、お姉さんか? 微妙だ。
「先だってお伝えしましたが、今日はお借りしているトライチェイサーのメンテと、彼を紹介しに来ました。――比企谷八幡、未確認生命体第4号です。八幡、こちらは科警研の責任者で貴方が使ってるマシンの設計者である榎田光さんよ」
「ど、どもッス……」
俺も雪乃に名を呼ばれ、ちょっとどもり気味に会釈する。
すると彼女――榎田さんは『んんっ!?』と何故か訝しげな顔になる俺の事をしげしげと眺めた。
「あの……何ッスか?」
こういうキャラは――誰かさんの姉の所為で――苦手意識を持つ俺が居心地悪くなりながら尋ねると、彼女は『ごめんごめん!』と言って視線を離しながら謝った。
「いやー、雪乃ちゃんから聞いていたイメージと大分違ってたからちょっと意外でね。もっとこう、福●蒼汰とか菅●将暉みたいな子かと思ってたから」
頭は掻きながら、苦笑いの中にちょっと落胆の表情を浮かべる榎田さん。
勝手にイケメン俳優のイメージ押しつけられて、勝手にガッカリされる。
……コレなんて罰ゲーム?
「…………あー、雪ノ下警部殿?」
そうなった原因と思しき優秀だが時々ポンコツな警部殿に視線を向ける。
一体何をどういう風に語れば、この俺が如月弦太朗やフィリップになるっつーんだよ?
新手の嫌がらせか?
「わ、私はそんなこと、一言も……」
「え~、雪乃ちゃんの話を聞けば誰だって期待しちゃうわよ~。とても誠実で信頼に足る素晴らしい
一体この人達は誰の話をしてるんだ?
誠実で信頼に足る? 素晴らしい?
俺ついさっき、そう語った本人には『アホ面で気持ち悪い』って言われたんですけど……?
……まあいいや、これ以上この話題を突っ込むのは藪蛇っぽいし。
榎田さんに促され、俺達は体育館のように広い実験場のような場所へと移動する。
以前雪乃に連れられた車庫に似たサイバー感溢れる機材が置かれており、その中心にはここに来た時に預けたトライチェイサー2020が数名のつなぎ姿の職員によって整備されていた。
「まだ渡して半月位だから大丈夫だと思うけど、あくまで試作車だから色々不具合とかもあるかもだし、一通りのチェックはしておくわね。一応これからも月一位でメンテしに来てくれると助かるわ」
俺達がここに来た理由の1つ、それはバイクのメンテナンスだ。
ガソリン不要で時速300kmオーバーを記録するモンスターエンジンも含め、TRCS2020はその外見以上に普通のマシンとは構造が異なる。
「助かります。八幡、端末を」
「お、おう」
雪乃に促され、俺はポケットからトライフォンを取り出し榎田さんに手渡す。
彼女はそれをPCに繋ぎ、この半月ちょっとの俺の走行データを抜き取った。
「フムフム……短い期間の割には摩耗してるわねぇ。まさかこの子が性能をフルで引き出してくれる乗り手が見つかるとはねぇ……ウフフ、お陰でいいデータが取れそ♪」
何かエラい上機嫌だなこの人。
何気にバイクのことを『この子』とか言っちゃうあたり、仕事が趣味的な感じの人なんだろうか? ……まあ、こんな乗り手のこと念頭に入れてないアホみたいなスペックのマシン作った人しなぁ。
「確か、
「ええ、TRCS2020-Aね。まあコストや操作性の兼ね合いで大分デチューンしちゃう事になるけどねぇ。比企谷くん、だっけ? テストライダーとして何か気になったこととかこうして欲しいみたいな要望あるかな? 参考に色々聞きたいな」
アレ? いつの間にか開発スタッフの一員みたいな扱いになってません?
いんだけど別に……。しかし、不満ねぇ……。
「変身してない時はアホみたいにじゃじゃ馬で、加減に難儀したってトコ位ですかね? 5号倒した後に生身で乗った時はちょっと苦労しました」
何せ車体重量は軽い割に馬力が破格だからなぁ。
なまじ最初の運転が感覚や肉体が強化された変身状態だったから色々ギャップに戸惑ったもんだ。
しかしそんな俺のささいな所感に対し、榎田さんは先程までの気のよさそうな雰囲気から一転し、眼鏡の奥の視線を鋭く尖らせた。
えっ、なに? 何か俺、地雷踏んだ?
「……変身してない時って事は、変身した後だと全然問題ないってことかしら?」
「あー……まあ、そうッスね。クウガ……や、4号になると感覚も人間の何十倍にもなるんで、生身での原チャリくらいには手軽に扱え――「原チャリ!? 今、君、私の最高傑作を原チャリって言った!?」ちょっ!?」
身を乗り出して俺に詰め寄る榎田さん。ちょっ、近い近い近い!
俺的には馬力を押さえ込めるパワーがあればどんな運転も出来る操作性の良さを評したつもりなんだけど、何かニュアンスに誤解が生じてる。日本語って難しい!
「……ふーん、そっかー、へー、自転車扱いなんだー。へー……様子に物足りないって事ね?」
あっ、ダメだ。もう何言っても聞く耳もたない感じだこれ。
持病の負けず嫌いが発症した雪乃と似た様な感じになってる。
「あ、あの榎田さ「ちょっと静かに! 今、新しいマシンの草案メモってるから! ――面白いじゃない。TRCS2020を超える機体、搭乗者への負担を度外視したマシン。作ってやろうじゃない!」――量産化と真逆の方向に進んでますよ!?」
ガンダムをベースにジム作れって言われてる癖に一気に
――察するにこの人の暴走、割と珍しくないっぽいな。
◇◇◇
柏市内 レストラン 00:34 p.m.
「なかなか濃ゆい人だったな」
「基本的には聡明で理知的な人ではあるのよ。ただちょっと、仕事絡みでスイッチが入ると、ね……」
トライチェイサーのメンテと情報抜き出し、諸々の用事を済ませた俺達は昼前には科警研を後にし、近場のレストランで昼食を取りながらあのちょっとだけ残念な美人さんについて語る。
……平塚先生や陽乃さんにも言える事だがどうしてこう、俺の周りのスペックの高い年上の美人はちょっとアレなんだろうなぁ。勿体ない。
「あっ、すんません。ライスおかわりお願いしまーす!」
「よく食べるわね……」
「ん? ああ、クウガになってから変身しなくてもやたら腹が減る様になってな。お陰で地味に食費が掛かって仕方ねぇよ」
俺の食いっぷりを見て呆れ気味に尋ねる雪乃、そういうコイツは注文したパスタにあまり手をつけていない。というか――
「お前、もしかして少し痩せたか?」
「…………そうかしら? まあ、痩せたと言われれば悪い気はしないわね」
「いや、寧ろお前は元々もうちょっと肉付けなきゃダメだろ。特にむ――何でも無いですごめんなさい謝るからそのパスタを食うのに不要なナイフは置いてくださいお願いします」
誤魔化そうとする雪乃を追求しようとするも失言にめざとく反応され全面降伏。
どうでもいいけどコイツ胸絡みのネタに敏感過ぎね?
全くない訳じゃないんだから気にせんでもいいと思うが……やはり実姉と親友という身近な同性がアレだから
「別に心配する様なことじゃないわ。ただ最近ちょっと忙しくてまともな食事が滞っていただけだから。それより八幡、足りないんだったら追加注文する? ここは私が持つわよ」
「いや、ロクに喰ってない奴に奢って貰うとかないだろ。つーか金ないって言っても昼代ぐらい出せるから」
「けど貴方の休日を潰したのは事実でしょ?」
「さっきも言ったけどどうせコッチ来るつもりだったから大したロスじゃねえよ。……つーかそもそも、今日の科警研だって1番の目的は俺と榎田さんの顔繋ぎだろ? 警察内で少しでも俺の味方作ってこうっていう。――ありがたいけど無理し過ぎだ」
基本的に1から10まで、俺の為。
ただでさえ激務だっつーのに時間まで作った上に申し訳なさ覚えるとか、こいつのこういう所、昔からあんま進歩してねぇんだよなぁ。
「無理しすぎ、ね。――そっくりそのまま貴方に返すわ八幡。だから黙って奢られなさい」
「いや、お前には負けるわバカ、絶対に自分の分は自分で払う」
「今、私の事バカって言ったのは聞き間違いかしら? 将来養われたいとかほざいてた癖に食事代も遠慮するとか専業主夫志望が聞いて呆れるわ。というか昔から貴方、口だけよね?」
「お前は専業主夫という生き方をなんも分かってない。いいか? ヒモとは違うんだヒモとは」
「甲斐性がない癖に強情な男ね……!」
「お前が言うな意地っ張り……!」
しまいにはテーブルの端に置かれていたレシートを引っ張り合いながら罵詈雑言をぶつけ合う始末。――俺達は一体何と戦ってるんだ?
尚、最終的に払いについて揉めに揉めた末、無事に割り勘と相成り、俺達は店を出た。
「じゃあ俺はさっき言った通りバイトだからここで、お前はまた捜査本部か?」
「いえ、今日は一応非番にしてるわ。午後からもちょっと人と会う約束をしてるのよ」
「……そうか」
誰と会うんだ。とは流石に聞けんな。
カレシ面してキモいとか言われたら凹むし、実際カレシでもキモイ。
しかし表情を見るに、仲の良い友人とのんびりお茶って感じでもなさそうなんだよな。
――無理を承知で戦ってる自覚があって、そうある事に1つの誇らしさ、みたいなものを抱いてる分、お互いの無理を止められない部分がある。
その癖、相手の無茶を知る度に自らの不甲斐なさを覚える。
信頼し合ってる筈なのに、俺と雪乃の関係は、どこか歪だった。
という訳で榎田さん本編初登場回、この時、八幡は知らなかった。
自分の不用意な発言が、超古代から蘇った馬の鎧の性能をフルで活かすスーパーマシンを生み出すきっかけになるとは(笑)
因みに作中の独白で出てきた『俺、ツインテールになります。』は個人的に最も好きなラノベで、特撮好きなら絶対読んで損はない作品ですよ!(布教)
次回もお楽しみに!