伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
ホントは今回の話で日常回終わりの予定でしたが次回までかかりそうです。
テンポが悪くてごめんなさい(苦笑)
今回は何気に今まで出番がなかった彼女の登場です!
東京都 港区 フレンチレストラン『Bistro la Salle』 01:03 p.m.
「――で、そのままヒキオとヤッたと?」
「ブッ!! ――ゲホッ! ゴホッ! や、ややややってないよ何にも! 何言ってんの優美子!?」
ヒッキーとゆきのんは千葉の方に戻っていた頃、あたしは久々に休みが取れた優美子と待ち合わせをして一緒にランチをしながらお互いの近況を報告し合っていた……ンだけど……。
「えっ、何? そこまで行って何もナシだったの? ないわ-、てか何? ヒキオって結婚するまでそういう事はしないとかそういう宗教にでも入ってんの?? 結衣にそんな風に誘われてスルーとか、ヤバイっしょ」
「いや、別にあたしだって誘ったわけじゃない……………よ?」
吹き出してしまったコーヒーを(ちょっと儚げな感じで可愛い女の子の)店員さんから渡されたフキンで拭いながら、優美子の勘違いを否定する。……うん、そう、違うから。うん。
「ふーん……けど『流れ次第ではアリかなー』くらいは思ったっしょ?」
「…………えっと、まあ……そう、かも」
けど優美子はそんなあたしの反応を完璧に読んだ上で更につっこんだ気持ちを見透かす。
うぅ、相談する相手間違えたかも……。
「ん、素直でよろし。――で、その上でハッキリ言うけどさ、そういうのはあんまよくないと思うよ? ヒキオのヘタレっぷりはどうかと思うけどさ、結衣も結衣で相手任せって言うのはダメっしょ。断言すっけど絶対後悔するよ?」
「それは……うん、そうだよ、ね……」
そんな優美子の容赦ないけど正しくて、何より気遣ってくれる言葉が胸に刺さる。
こんな風に明け透けに意見を言ってくれる友達って、中々いないよね。
「結局さ、大事なのは結衣自身がヒキオや雪ノ下さんと“これからどういう関係になりたいか”なんだと思うんだよね。ヒキオと一緒になりたいとか、雪ノ下さんとの関係を応援したいとか――もしくは3人でズブズブドロドロな感じになるとか?」
「なっ! さ、最後のはちょっと……」
明け透け過ぎて、道徳というか倫理的にアレな事も遠慮無く言うのがアレなんだけど……。
「まあ、最後のは半分冗談としてさ、要するに自分の理想っていうか終着点みたいなのはハッキリしろって話。今みたいに流れ任せとかはそうだし、『ずっとこのままがいい』もダメだよ? ――どんなにそこが居心地良くたって、ずっと同じ場所には居られないんだからさ」
「………………うん、分かってる」
どこか自分自身にも言い聞かせている様にも聞こえる優美子の言葉が、心の1番奥に反響する。
『ずっとこのままがいい』
それは確かに誰もが分かりきってる当たり前の事で、でも同時に、誰もが簡単には受け止められない気持ち。あたしもそれは何度も思い知った。
高校を卒業して、ゆきのんと違う大学に進学した時や長野に転勤になった時。
そしてヒッキーがクウガとして戦う事を決めた時。
あたしはいつも置いてかれる寂しさを感じて、そこに立ち止まりたい
ずっと一緒に、立ち止まりたいって思って、それは無意味だって思い知って……。
でも、本当はやっぱり、未練があった。
だから結局、ずっと自分からは、動き出せてなかった。
「何を選んでもいいけど、ちゃんと考えな? ……こんな事、ホントは言うべきじゃないのは分かてるけどさ、――ヒキオも雪ノ下さんも何時『もしもの事』があってもおかしくな場所にいるって事も含めて、ね」
「っ! ……うん」
それはとても恐ろしくて、だけどどうしようもないくらい向き合わなきゃならない事だった。
不意に頭の中を過ぎったのは――目の前で親友を失った留美ちゃんの顔だった。
例えどんなに居心地が良くても、ずっとそこにはいられない。
それどころか、何時か突然、理不尽に終わってしまうかもしれない。
――だから人は……あたしは、ちゃんと考えなきゃいけない。
「優美子、あたし一生懸命考える! ヒッキーの事も、ゆきのんの事も――何より自分の気持ちもちゃんと!」
「うん、頑張んな結衣。んでまたどうしたらいいか分かんなくなったら、またこうしてご飯しながらあたしに話しな」
聞いてて結構辛くなる事――多分、言う方も結構しんどい事――を言いきった上で、優しい笑顔を向けてくれた優美子。
何だろう。優しいのは前からだったけど、今の仕事についてから変わった所がある気がする。
そう、まるで――
「優美子って、何だかお母さんみたいだね!」
「ブッ!」
「ひゃあ!」
尊敬の意味を強めに率直に思った事を告げた次の瞬間、優美子の口から吹き出したコーヒーがあたしの顔に掛かった。
「だ、大丈夫ですか!?」
さっきの女の子と違う、何となく暑苦しい感じの男の店員さんが渡してくれたフキンで顔を拭くあたしに、咳が落ち着いた優美子が、睨んでた。怖い。
「結~~衣~~、アンタよりにもよって同い年にお母さんはないっしょお母さんは! そこはせめてお姉ちゃんみたいとか言うとこだから!! 次言ったら絶好だかんね!?」
「う、うん、ご、ごめん……」
それまでの見守る感じが嘘みたいに取り乱して、というかちょっとマジギレで詰め寄る優美子。
うわぁ、またやっちゃった。
ヒッキーにもよく言われるんだよなぁ~『お前は人の地雷を踏む天才だ』って……。
◇◇◇
千葉県 市川市 川崎家 04:30 p.m.
「うし、これも正解だ。スゲーなけーちゃん、全然出来るじゃねえか」
「エヘヘ、そかな?」
現在の学力を測るためにやらせた問題集の答え合わせをしながら、俺は正解率の高さ――けーちゃんこと川崎京華の学力の高さに感心する。
姉や兄に愛され天真爛漫に育ち、幼い頃から変わらない見る者をほわっとさせる愛らしさを持つ娘だが、その地頭はかなり良い。
性格は姉の川崎沙希と違うけど、この辺は姉妹揃って優秀なんだろう。
取り分け思考の柔軟さが求められる理数系は総じて出来が良い。若干苦手意識が垣間見られる古文と社会科系の科目なんかは幸い俺の得意分野だからじっくり教えてやられる。
これならそれなりの進学校である総武高の受験も難しくない。
否、頑張り次第ではもう1ランク上の学校だって目指せるだろう。
コンコン、と部屋の戸をノックする音が耳に入ったのは丁度そんな採点が終わったタイミングだった。
「お茶とお菓子持ってきたけどそろそろ休憩、どう?」
「おう、ナイスタイミング。んじゃひと息いれっか、けーちゃん」
「ワーイ♡」
塾や予備校講師にはない家庭教師の醍醐味、おやつ休憩である。
「どう? この娘普段テスト前とかもあんまり勉強しないから……」
「どうもこうも、割と『俺いらなくね?』状態だな。少なくとも同じ頃の小町より30倍くらい出来は良いな」
まあ、小町の可愛さは成績なんてものじゃ推し量れんがな!
そんな天使な我が妹も今では立派な社会人、そして今は……今は……!!
「ちっくしょう!!」
「ひゃあ!」
「ど、どうかしたの急に!?」
いかん、我が家に寄生したクソガキの事をまた思い出してしまった。
「嫌、何でも無い……所でけーちゃん、志望校は今のとこ総武高一択なのか? はーちゃん的にはどっか女子校受けるのもありだと思うんだよね」
持病のシスコンを発症し驚かせてしまった事を詫びつつ、俺はしれっとけーちゃんに悪い虫が付きにくい進路を推奨する。
それこそ小町みたいに社会人になってから悪い虫が付く可能性とかもあるが、こんな可愛らしい娘が高校生なんて言う思考のリソースの7割をエロい事に割いてる奴らの所に放り込むなど危険だ。
高校生ともなると脱童貞したケダモノ共がうじゃうじゃいやがるからな……チキショウ!!
「あんた……妹を男に獲られて気持ち悪さに磨きが掛かってない? 大志も同じ事言ってたよ。京華にちょっかい出す男は簀巻きにしてブラジル行きの貨物船に乗せるって」
「大志? ……ああ、元祖悪い虫か」
名前を聞くまですっかり忘れてた川崎の弟でけーちゃんの兄貴。
嘗て小町を狙い、密かに俺に命を狙われていた小僧。そして何故か小町が他の男とくっついて尚、俺の事を『お義兄さん』と言い続けてる。――何故だ?
昔は目障りで仕方ないクソガキだったのだが、そうか……今や奴も年頃になった妹の身を案じる立派な
「いや、真面目に女子校ってのも悪くないと思うぞ? 愛徳学園とか吾妻女学園なんか結構名門――「都内の高校はダメ。未確認いるし」……あ、ああ、そだな」
名門で知られる私立女子校を挙げる俺に対し、川崎は表情を硬くして即座に否定する。
刹那、部屋の空気が重くなったのを感じた。
「……実はさ、ウチの両親とも話してるんだよね。ここも殆ど川一本渡れば東京で、アイツ等からすれば差なんてないし。都内の会社に就職したあたしや大志はともかく、この娘はね……」
幼い頃から生まれ育ったこの場所を離れる寂しさを滲ませつつ、何よりも大切な妹、引いては家族の安全を考える川崎。――相変わらず家族想いなんだよなコイツは。
実際、未確認生命体が現れて以来、首都圏からの移転を考える世帯は多い。
川崎やご両親の考えは至極真っ当であると言える。
今最も注目されていて、最も暗鬱とする社会問題に気まずくなる中、けーちゃんが俺の袖を引っ張った。
「はーちゃん、私もっと楽しい話がしたいな。はーちゃんの大学とか、住んでるお店の話とか、聞かせて?」
昏い問題を抱えた社会を生きていかなきゃならない多感な年頃の少女の懇願。
例え束の間の逃避であっても、せめて今だけは楽しい話がしたいという願い。
そうなんだよな。
未確認生命体の所為で苦しむ被害者っていうのは何も殺された被害者やその遺族だけじゃないんだ。
けーちゃんが高校に入る来年、或いは大学や社会にでる数年後、奴らがいなくなってるとは限らないのだから……。
「うっし、じゃあいっちょ取って置きの面白話をしてやろう。俺の知り合いの知り合いが下宿先の喫茶店ででやらかした笑える失敗談とかどうだ?」
「いや、それアンタの話でしょ絶対? 喫茶店に下宿とか言っちゃってるし」
「えっ、嘘、お前鋭過ぎ。探偵とかやったら?」
俺の知り合いの知り合い=自分。この巧妙な言葉のマジックを容易く見破るとは、出来るな。
「やんないわよアホ。――ああ、そういえばこの間頼まれてたやつ出来てたの忘れてた。ちょっと待ってて」
そう言って一旦その場から離れた川崎は1分程俺達を待たせた後、黒いベストを持って戻る。
その胸には古代リント文字の“戦士”のマーク――クウガのエンブレムが刺繍されていた。
「おおっ、何だよまだ2,3日しか経ってないのもう仕上げてくれたのかよ。ありがとな」
「ん、まあ、大した仕事でもないし……暇つぶしに、ね」
それは数日前の家庭教師初日、今みたいな休憩時間のちょっとした雑談をきっかけに彼女に頼んだ物だった。『暇な時で良い』とは言ったがもう仕上げてくれるとか流石プロ意識が高い。
感激した俺は早速そのベストを羽織ってみる。
うん、やっぱこのクウガマーク、かっこいいな!
「わあ! はーちゃんカッコイイ♡ 似合う似合う!」
「そ、そうか?」
ベストを羽織ってファッションショーよろしくクルっと一回転する俺の姿に拍手を送るけーちゃん。ヤバい、お世辞でも超嬉しい。うっかりお小遣いあげたくなっちゃう!
「うん、まあ“適当”に仕上げた割には中々かな? ホント“適当”なんだけどね?」
「いやいや寧ろ適当でこれだけの仕事とかスゲーわ。やっぱこういうのはお前に頼むのが1番だなマジで」
「……いや、ホント大した事ないから……。ていうか、アンタならこういう針仕事やってくれる娘、周りに幾らでもいるでしょ!?」
俺はベストの出来に満足し絶賛するのだが、すると川崎は何故かちょっと機嫌が悪くなり、しまいには妙な誤解を口走る。……いや、確かにやってくれそうな奴はいる。しかし――
雪乃の場合――やってくれるだろうしクオリティも川崎に負けないレベルで仕上げてくれそうだけど、忙しいので頼むのが心苦しい。
結衣の場合――快諾はしてくれそうだが料理の前例を測るに針仕事も怪しい。
一色の場合――そつなくこなしてくれそうだが、見返りを要求がキツそう。
小町の場合――『彼女さんにやってもらいなさい!』とかそういうウザい事言いそう。
という感じになるのは想像に難くない。
なので俺にとって1番頼みやすく、出来映えの期待が持てるのは――
「こういうのはやっぱ、お前が1番頼りになるんだよ川崎」
という結論に至る。
まあ、コイツからすりゃ迷惑なのかもしれんが……。
「……フン、まあ私も良い気分転換にはなったし、暇だったらまたやったげる。シャツでもジャケットでも」
――あり? とか何とか考えてる内に何か悪かった機嫌が戻ってね?
何か隣のけーちゃんもニコニコ顔だし、いや……ご機嫌ならいいんだけどさ。
「ねぇはーちゃん、この文字ってはーちゃんが大学で研究してるんだよね? 何て意味なの?」
「ん? ああ、この文字は“戦士”、戦う人って意味だな」
「えー、はーちゃんが? 似合わなーい」
「フッ……確かにね」
けーちゃんの質問応えると、姉妹は揃って笑う。
「……やっぱ似合わんよな」
俺に戦士は似合わない。
そんな彼女達の失笑を見て、何故かちょっと嬉しい自分がいた。
年齢を重ね原作以上にオカン気質が強くなった三浦さん、断じておばさんくさいってわけじゃないんです。信じて!(爆)
因みに今回二人がランチ食べた店は天の道を往く人が常連になってるフレンチの店です。
今回書いてて気づいたのですが何気にこの作品、十代の女の子ってけーちゃんだけなんですよね?
ラノベのヒロインといえば基本十代がお約束なの(笑)
ヒッキー25歳に対しけーちゃん14歳、彼女をヒロインとして扱うかそれともヒロインの1人の妹として扱うか、微妙に悩んでます(爆)
それでは次回もお楽しみに!