伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
けどもう誤らない!
多分それがこのスタンスに理解を示してくれるありがたい読者様への誠意だから!
EPISODE:28の裏側、一条さんの独白です。
――【注意】この話はEPISODE:28と29の間に位置するお話です。――
「雪ノ下雪乃警部補か――フ、確かに噂通りの頑固者だったな」
取り調べじみた聞き取りに対しても一歩も引かず、時に逡巡しながらも未確認生命体第4号――友人を自ら守ろうとする姿勢を貫いた若手刑事の奮戦に警備部本部長 一条薫は、公の場では滅多に見せない穏やかな笑みを受けベていた。
――そう、こうして態々彼女を呼びつけるまでもなく、彼は未確認生命体第2号及び第4号が九郎ヶ岳遺跡で起きた惨殺事件被害者に関わりを持つ城南大学院生・比企谷八幡である事などとっくに把握していたのだ。
3日前からの雪乃の足取りや城南大学の考古学研究室に現場の書庫品鑑定を依頼した記録。
それらの資料を精査した上で聡明な彼女らしからぬ昨日の行動の経緯を辿れば『第4号の正体』を知るのは比較的容易だった。
それでは何故その上で態々プレッシャーをかけてまで彼女の口から語らせようかとしていたかというと、それは彼女が1人で抱える事情を自らに開示させることで今後第4号の取り扱いに於いて雪乃が覆うリスクを自分が肩代わりしようという目論見があったからに他ならない。
警察学校をここ15年でトップの成績で卒業(因みに自覚はないが“設立以来”のトップは彼自身)し、現在そこで教官を務める同期が『昔のお前にタメはる頑固な優等生だ。ありゃ出世するぞ』と酒の席で絶賛した才媛。
理知的な眼差しの中に正しくあろうとする情熱が滲み出たその面立ちはには志の高さも感じられた。
しかし嘗ての自分がそうだった様に、どの様な組織にあっても出過ぎた真似をするに者、確固たる信念を持つ者は叩かれる。
まして、彼女の実姉・雪ノ下陽乃は今、何かとよからぬ噂もある現・防衛大臣の
予てから自衛隊の権利拡張などタカ派的思想が見え隠れする彼が、今回の未確認生命体事件や第4号という言わば超人の存在を知った場合、どの様な行動に出るか?
得体の知れない怪物と戦う彼を救国の英雄として祭り上げる?
生物兵器として彼の自由と権利を剥奪し、実験動物として扱う?
SFじみた妄想と一笑されてしまうかもしれないが、そんなフレーズが具体的に浮かび上がってしまう。恐らく彼女も同じ様な考えに至り、だからこそ黙秘したのだろう。
そしてその気持ちが判るからこそ、一条は彼女の意を汲み当座の黙認――否、事実上の承認を許諾した。
理想を言えば、この場で自分を信じて話して貰い『彼女の行動はあくまで“上司である自分の指示で”行った』という体裁を整えたかった。
そうすれば万が一の事態に対しても自分が泥を被れば済み、彼女のキャリアに傷が付くことはない。
しかし今にして思えば、それもまた傲慢だったのかもしれないと、一条は自省した。
『その時は…………私が彼を、射殺します』
そう言った彼女の言葉、その眼には第4号――比企谷八幡が起こす行動に対する一切の責任を背負うという決然としたものを感じた。
彼の起こす行動の全てを背負い、最後まで共に戦うという確固たる意志を。
――“相棒”
彼女と比企谷八幡たる青年の関係性について思考を巡らせた時、真っ先に浮かび上がったのはそんなフレーズだった。
そして自分に取ってそう呼べる人物の姿が脳裏を過ぎり、一条は机にしまった絵はがきの束を取り出した。
ネパール、キューバ、オーストラリアetc.
世界中の山や海、そしてどこまでも広がる青空を背景に屈託のない笑顔で
そしてその絵はがきの青空には白いマジックで『心はいつも青空!』など彼らしいフレーズが書かれている。
日頃警察官僚として激務に負われ、人の悪意や悲劇に触れる機会が多い一条にとって、空いた時間にそれらを眺めるのは心の中に溜まった穢れを浄化するひと時だ。
――あれからもう、20年近くになるのか。
彼との出会い2000年1月、当時出向していた新潟県の山中だった。
偶々現地で知り合った彼の第一印象は『いい歳をして定職にも就かずフラフラしているいい加減な奴』だった。そのひょうきんな振る舞いやしまりのない笑顔にもイラっとした記憶がある。
しかし現地で起きたテロリストによるホテルジャック事件が起きた際、彼は人質にされた宿泊客らを救う為、運良く事件直後にホテル内に潜伏できた自分と共に立ち向かった。
無論、民間人である彼を巻き込むなど警察官として言語道断だったが、五代雄介という男が笑顔の下に隠した強い意志と、非常事態という状況もあって半ば成り行きで行動を共にした。
正直、五代という相棒が居なければ一条は人質を救うことが出来なかっただろう。
……しかし一方で、当時の事を思い返す度に、湧き上がるのは後悔の念だ。
――彼は、五代雄介は自分と共にテロリストに立ち向かう中で、最終的に3人の命を奪ってしまったのだから。
相手は全て武装したテロリスト、無論それは、自分や人質を守る為に起こした正当防衛として処理された。
しかしだからといって簡単に折り合いを付けるには五代雄介という男はあまりに優しく、そしてその悲劇を状況や誰かの所為に出来る程、弱くなかった。
事件解決後、彼は人質にされた友人や妹の安否が確認できるや否や一人その場を去り、以降数年間、誰にも行き先を告げず旅に出た。
当時彼に出来たのは――奇しくも今の雪ノ下雪乃が行おうとしているのと同様――事件後のマスコミなどの追求から彼や彼の身内を守ること位だった。
そして5年の月日が流れ、一条の中で当時の事が苦い記憶の1つとして過去の事になりつつあった時、彼は再び姿を現した。
出会った当時と変わらない。少年の様な屈託のない笑顔で、『お久しぶりです一条さん!』と、まるであの日の悲劇など無かったかの様に。
無論、それは五代雄介の強がりだった。
誰かを守る為に別の誰かの命を奪った事、その傷はきっと、優しすぎる彼の心に一生残り続けるだろう。
しかしそれでも、彼は笑って旅をし、出会った人々を笑顔にし続ける生き方を続けている。
辛く苦しい想いだけは自らの胸の内にしまい込み、喜びや幸せを全ての人と分かち合う。
強過ぎて、優しすぎる……しかしだからこそ、誰よりも尊敬できる青空の様な男。
その再会以来、一条と五代は数ヶ月ないし数年に1度顔を合わせ、互いの近況や他愛のない話などをして交友を深めている。
ある夏は共に富士山を登り、ある冬は一条の行きつけの居酒屋で酒を酌み交わした。
年がら年中世界を飛び回る冒険家と、大都市の治安を守る為に日夜激務に追われる警察官僚。
真逆の生き方をし、普通に生活する中では決して交わらない生き方をする2人だったが、それでも彼らはお互いにとって唯一無二の相棒。――比企谷八幡が嘗て口にした言葉を使うなら『本物』と呼べるもので結ばれた関係だった。
そしてその交流は今日に至っても当然の様に続き、彼から送られる『青空』は、一条が誰もが認める清廉実直な警察官であり続ける支えになっている。
――五代、お前が次に帰ってきた時、話したい事が1つ増えたよ。
――嘗ての君の様に己を傷付けても大切な人を護ろうとする不器用な青年と、そんな彼を支えようとする。自慢の部下の話だ。
そして彼に対し胸を張ってその話をする為にも、彼らを――不器用で一途な若者達を守らなければならない。
警察官として、1人の上司として。
という訳で実はゆきのんの事を守ってあげたかった一条さんでしたw
本作の一条さんは立場上当然現場に出れないので射撃とか不死身っぷりを披露できない分、「責任を取るのが上司」を地で行く感じでゆきのんや八幡にちょっかいかけようとする不穏な動きと人知れず戦っていきます。
そして、今回ちらっと名前がでてきて誰かさんのお姉さん……彼女も近々登場予定ですw
次回は葉山にスポットが当たる番外編です!