伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。   作:烈火・抜刀

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前回のあとがきでいよいよペガサスフォーム編と書きましたがその前に番外編!

いや、まあ正確にはこれもその一部といいますかTV版クウガの7話冒頭をベースにしているのですが(苦笑)

今回はある人物の視点から見た警察側の風景の一部を書きました。

俺ガイル成分が薄めですが、そこは次回にという事で(汗)


EXTRA EDITION:04 ベテラン刑事は後輩達を暖かく見守る。(EPISODE:42.5)

2月12日 警視庁 07:23 a.m.

 

世間一般では土曜日からの3連休となっているが、安定した週末の休日すらとれるのが稀な警察官――それも今、最も危険で多忙な『未確認生命体関連事件』に担当する杉田守道にとって、そんな事は関係ない。

 

昨日も小学4年生になる娘が眠りについた時間に帰宅し、目覚める前に妻が早起きして用意してくれた朝食を摂って静かに家を出た。

 

周囲には『そういう仕事だ』と言って割り切った風に振る舞ってるはいるが、実際の所、家族には心苦しさを覚える。

 

特にこうした連休時は、遊び盛りの娘を旅行どころか、近所の公園にさえ連れて行ってやれないのは、父親としては不甲斐ない。

 

――まあ、五体満足に家族の所へ帰れるだけマシって思わなくちゃな。

 

昨日まで未確認生命体に殺害された被害者192名の内、警察官47名――その内7名は杉田と同じ合同捜査本部のメンバーだ。

 

市民の命と平穏を守る為、自ら進んで最前線で戦う覚悟を決めた戦友達は、最も守りたい家族や友人、恋人を遺して逝ってしまう。

 

仕方がない事、この仕事の宿命とは言え、因果な話だ。

 

特に第5号に目を潰されて殺された、自分と同じ捜査一課から出向した鏑木など、数ヶ月後には結婚も控えていたというのに……。

 

そしてそれは何時、自分の身に降りかかってもおかしくない事態だ。

 

それこそ第5号に殺されていた筈の命だ――あの時、自分が銃口を向けた第4号が駆けつけてくれなければ……。

 

――全然効いちゃいないとはいえ、自分が銃口を向けた相手に助けられちまうとはな。

 

まるでそうする事が当然とばかりに自分を救った4号と――どういう経緯かは検討もつかないが――いち早く彼を協力者と断定し、リスクを承知で試作車を与えた雪ノ下。

 

自分が今もこうして妻子に思いを馳せることが出来るのは、その彼らのおかげだ。

 

本心を言えば2人には面と向かってその時の感謝を述べ、出来るなら雪ノ下には改めて彼のことを紹介して貰い、銃を向けてしまったことを詫びたかった。

 

しかし現状、第4号に対する警察のスタンスは――実情は限りなく容認に近いとはいえ――黙認、様子見。

 

明らかに彼と繋がっている雪ノ下雪乃の独断行動も『公然の秘密』として見て見ぬフリをしている。

 

そうする事が結果的に彼女の立場を守る事に繋がるというのが捜査本部の現在の方針だ。

 

少なくとも、“今はまだ”自分達と第4号は、肩を並べて戦う事は出来ないのだ。

 

「杉田さーん!」

「ん? おお、桜井か。そう言えば今日から復帰だったな。怪我の具合はどうだ?」

 

杉田がそうして思案にふけっていると、背後から声をかけて来たのは同じく捜査一課から今の丁場に召集された後輩の桜井剛だ。

 

第6号との戦闘で雪ノ下を庇い負傷し入院していたが、昨日退院し、今日から復帰したとの事だ。

 

「いやぁ、病院ってのは大げさですよねホント、俺はもう全然痛くないから早く退院させてくれってずっと言ったんですけど中々許してくれなくて。長いこと現場を離れてしまい、ご迷惑おかけしました」

 

「ハハ、まあ元気そうで何よりだ。それより朝イチの会議にはまだ早いが、お前も射撃場か?」

「はい、丁度今日から支給されると聞いたので、リハビリも兼ねて」

 

自身も同じ目的で早めに登庁した杉田の問いに桜井は同意し、共に支給品を受領してから地下にある射撃場へと向かう。

 

自分達が1番乗りだと思っていた2人だが、エレベーターを降りれば、先客が待ち受けていた。

 

「おはようございます杉田さん。桜井さんも、退院おめでとうございます」

 

「おう、早いな雪ノ下。お前も“パイソン”待ち遠しくて早起きした口か?」

 

化粧気がない癖に女優の様な美貌を持ち、花を生けるのが似合いそうな細く白い指先で大型拳銃に(たま)を込める後輩――雪ノ下雪乃警部補。

 

杉田にとっては第4号と並ぶもう1人の命の恩人であり、頼もしい後輩である。

 

「ええ、6インチなんて使ったことありませんからね。何時使うとも分かりませんし」

 

自分が後5歳若くて且つ女房と出会ってなかったら割と本気で口説きにかかり、玉砕していたかもしれない美人の後輩に冗談めかした挨拶を交わしつつ、杉田は隣にいる暑苦しい後輩が急に無口になった事にめざとく気付く。

 

――そういえば先週見舞いに行った時、花が飾られていたがそういう事か……。

 

刑事歴十余年の洞察力が、同僚の間で起きた関係の変化を密かに捉え、苦笑する。

 

同僚に対してそういう感情を覚えるのは正直良し悪しだ。

 

しかし一方で、杉田はこの仕事に於いて最も大事なのは『守るべき者の存在』を意識し、常にそれをモチベーションとする事という持論としていた。

 

自分の様に妻子でも、親兄弟でも、友人や恋人でも良い。

とにかくまた会いたいと思える人間が居れば人は追い詰められた時に思わぬ底力を発揮出来るものだし、一方で死に対して良い意味で臆病になる事も出来る。

 

キャリア組の割に、良くも悪くもエリートらしさを感じない。誠実だがやや熱くなりやすいきらいのある桜井の様な若者には特に、そういう相手がいることは決して悪い事ではない。

 

――とはいえ、まあ難しい相手だとは思うけどなぁ……。

 

杉田から見て桜井剛という人物は気骨溢れ、中々に見込みのある良い男だとは思う。

とはいえ相手はあの『一条薫の再来』とまで言われる才媛だ。

いくら同じキャリア組だとしても、刑事として実力を見せるのはそう容易ではない相手だ。

 

そして何より――これは杉田の根拠のない直感であるが――、雪ノ下は既に『そういう相手』がいる様に感じられた。

 

それが家族か、恋人か、或いは友人か定かではない(多分、聞いたらセクハラになるし)。

 

だが、少なくとも自分に取っての妻子の様な、『身命を賭してでも守りたい相手』がいるのは確かだろう。

 

『目を見れば分かる』何てドラマやマンガでも使い古されたフレーズではあるが、中々どうして真理である。

 

特に善人にも悪人にも、悪意に泣かされる被害者にも悪意を撒き散らす加害者に遭う仕事をしていれば望む望まないに関わらず『人の深層を読む力』というのは身についてしまうものだ。

 

――まあ要するに……アレだ。ドンマイ桜井、今度キレイなお姉ちゃんが酌してくれる店に連れてってやるから!

 

と、関心はそれたが、そういった面も含め杉田守道はこの雪ノ下雪乃と言う若い刑事を女性としてやキャリア組という色眼鏡を抜きにして、信頼している。

 

老若男女立場を問わず守るべき者を持つ人間は強い。

だからこそ余計に思うのだ。

何も守るべき者を持たず、まるで己の欲求や自尊心を満たす為だけにそうしたモノを奪っていく未確認生命体に、これ以上好き勝手されてはたまるかと。

 

そうした意志を根幹に据えながら、その為に支給された

 

「357の6インチマグナムか……まさかコルトパイソンなんて映画やマンガでしか見たことねえ銃を使うことになるとはなぁ……」

 

1980年生まれ、多感な少年時代を週刊少年ジャンプの黄金期と共に育った杉田としては、思わず名作マンガ『シティーハンター』を思い出す。

 

そのマンガの主人公が作中で最もよく使っていた銃が他でもない今自分が持っているコルトパイソンなのだ。

 

因みに彼が警察官という職業に憧れた根幹は、同じく少年時代に見た『アブない()()』立ったりする。

 

それが今はどんな犯罪者より危険な怪物と戦う事になったのだから、皮肉な話と言えるだろう。

 

今まで使用してきた制式採用型のニューナンブ60とは比べものにならないずっしりとした重さを感じながら弾を込め、的に向かって構え、撃鉄を挙げて引き金を引く。

 

ドッ――!!

 

「っ!! ……ハァ、コイツは相当撃ち込む必要があるなぁ」

 

ある程度覚悟を決めた上なお、初めて射撃訓練を行った時の様な衝撃に息を呑む杉田。

それは右隣で同じく射撃訓練を始めた桜井も同じらしく、共にその弾丸は円形の的紙の端を辛うじて掠めただけ。

 

扱ったことのない大口径拳銃を使っているのだから当然の事だが、これでは効果の有無以前に実戦では使用できない。

 

まかり間違っても第4号に誤射するなんて真似をしない為にも、早期に精度を向上しなければならない。

 

そう決意して再び銃を構え直す杉田だが、自分や桜井が戸惑う横で1人淡々と射撃を続けていた雪ノ下の的を見て、絶句した。

 

1射目こそ自分達と同じ様に紙の端を掠めるだけだった弾丸が、2射目3射目と重ねる内にその弾痕は着実に円の中心へと近づき、20発も撃ち込めばその弾丸はほぼ的の中心のみを射貫くようになった。

 

しかし何より驚愕すべきは、その集中力と言えるだろう。

 

「―――――ふぅ。……どうかされましたか?」

「あ、いや……大した腕前だって感心してただけだ。その細腕でよくもまぁ……」

 

訓練用に用意した弾を撃ち尽くした所でようやく視線に気付き振り返る彼女に、呆気にとられながら答える。

 

大の男でも扱いに難儀するマグナムを――それも今日初めて撃ったにも関わらず――早々に狙った所に当てるなど、単純にセンスがあるというレベルではない。

 

ましてや腕力ではどうしてもハンデを抱える女性、それも一見して華奢な彼女がやってのけるなど、それこそフィクションじみた光景だ。

 

そんな風に驚く杉田に対し、雪ノ下はフ、と笑みを浮かべ答えた。

 

「体幹を鍛えて姿勢さえ崩さなければ案外どうとでもなりますよ? ……必要以上に厳つくなると友人に文句を言われてしまうので」

 

まだ警視庁に入庁したての折に取った休暇で海に行った際、最も仲の良い友達から『ゆきのん折角綺麗な体してるんだから腕にこぶとかつくっちゃダメ! 6つに割れた腹筋もNG!』と割と無茶な事を言われた記憶を思い出し苦笑する雪ノ下。

 

実際、彼女の様に肉体の強靱さが求められる仕事に就く若い女性にとって、それらは存外、デリケートな問題だ。

 

強くはありたい。

しかしだからといって美しさは犠牲にしたくない。

 

人によって『プロ意識に欠ける』などと苦言を漏らすかもしれない考えだが、一方でそれは彼女が『女である事を蔑ろにしたくない』という矜持の表れでもあると杉田は捉えていた。

 

まして彼女の場合そうした筋力の不足を技術や基礎の研鑽でキッチリ補っているので文句の突けようなどある筈がない。

 

思うのはただただ、『スゲエ奴だな』という感心のみであった。

 

 

◇◇◇

 

 

合同捜査本部会議室 09:33 a.m.

 

早朝の射撃訓練を終えた3人は少しの休憩を挟んだ後、定期的に行われる捜査会議に参加。

 

昨日までの未確認生命体による犠牲者数の確認、市民からの通報などによる奴らの拠点の捜索状況。新たに支給される装備品の説明など、未だ多くの謎を秘めた未確認生命体の謎を解明する為の各捜査員による綿密な情報交換が行われる場でもある。

 

その中でも今回は、奴らに関する情報で1つ衝撃的な報告が長野県警からの調査結果により、伝えられた。――それも飛び切りの、バッドニュースだ。

 

「最低でも200体、か……。俺達と4号が今日までやっとの思いで倒したのがまだ全体の5%程度ってのは、なんつーか……気が遠くなる話だな」

 

「そうですね……」

 

九郎ヶ岳遺跡周辺を調査した結果発見された『集団の墓と思しき遺跡』に関する資料を読み返し、会議後も脱力した様に椅子に身体を預け、溜息を零す杉田。

 

復帰早々に心をへし折るような悲報を耳にした桜井もそれに同意し、他の捜査員の大半も反応は様々ながら大なり小なり、憔悴した表情だった。

 

捜査本部が結成され約3週間。

それは丁度、蓄積した疲労や不安などを自覚する頃合いだった。

 

得体の知れない怪物を相手に今日まで命懸けで戦ってきた彼らの警察官としての矜持は、紛れもなく本物だ。

 

しかしそれでも生身の人間である以上、心身共に疲弊はするし、銃弾もロクに効かない化物との対峙には常に恐怖が伴っている。

 

奴らの唐突な出現により急遽集められ、とにかく目の前の脅威から市民を救う為に我武者羅に戦いの日々。なまじ捜査本部としての体制も整い始め、装備などの充実も図られた事で現状を俯瞰して見れる余裕が出来たことも、或いはその徒労感に拍車をかけているかもしれない。

 

それでも、この悪夢の様な戦いがまだまだ続くと知って尚、捜査員の中から誰一人として異動願や退職願が出なかったのは、彼らの根本がどこまでも真の警察官であるが故だろう。

 

逆に言えばそれ程強靱な精神力を持った彼らをしても、へこたれざるを得ない話だった。

 

だが、そんな中にあっても唯一、表情を崩さず会議が終わると早々にコートに袖を通す屈強な精神の持ち主が1人いた。

 

捜査本部の結成当初からその中核として誰よりも動いている雪ノ下雪乃警部補だ。

 

「すみません杉田さん、私これからちょっと――」

「ん? ああ、“いつもの”か。分かった。何かあったら俺からスグ連絡入れる」

 

“いつもの”――それは今回の様に未確認の捜査状況について善きにせよ悪しきにせよ何かしらの進展があった後には必ず行われる雪ノ下の『行き先不明のお出かけ』だ。

 

それは本来、迂闊に外に漏らしてはならない捜査内容を、“ある外部協力者”に伝えるものだというのは、彼に限らず捜査本部の大半が暗に察している話ではあるが、誰も追求はしない。

 

所謂一つの暗黙の了解、公然の秘密とも言える第4号との会合だ。

 

「ええ、昼までにはこちらに戻るのでそれまでよろしくお願いします。では――」

 

他の捜査員が肩を落とす中、凜とした面立ちで颯爽とその場を去るうら若い捜査官の背中を見送る杉田。

 

――全く、見た目はまんま良家のお嬢様なのに、ターミネーター並にタフな奴だ。

 

干支がひと回りも違う若手にそんな背中を見せられればおちおち消沈もしていられない。

杉田は重くなった腰を上げて他の捜査員にわざとらしく聞こえる様に大きな独り言を口にした。

 

「さーて、んじゃまあやりますか。と、桜井、行くぞ」

「あ、はい!」

 

隣で雪ノ下の颯爽とした後ろ姿に目を奪われていた後輩の背中を叩き、彼女に続いて会議室を後にする。

 

そんな彼らの姿に心動かされるものがあったのか、他の捜査員も1人、また1人と退室。

 

相手が何であれ、市民の命と平穏を守る。

 

誇り高き現代の戦士達は今日も気高き誇りを胸に、蛮行を繰り返す古の狩人に抗い続ける。

 




桜井さんのゆきのんへの好意についてはついつい忘れがち(?)になりますが彼女が本来、誰もが振り返るような美人であることなんかを再認識する措置です。

無論成就は絶望的ですが頑張れ!(爆)

(八幡の存在を知らず)傍から見る分にはどちらも若手のキャリア組で熱血&クールとお似合いな面もあるんですけどね(苦笑)

因みに本作のゆきのんはジョギングやトレーニングをしっかりやってる一方、何とか外見上筋肉がつかないぎりぎりの分水嶺を意識してインナーマッスルを中心に鍛えています。

何故か? と聞くのは野暮ってもんですね(笑)

次回からこそガチで新展開突入!
新たなグロンギも登場しますよ!
色んな意味でw

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