伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
今回からいよいよ、新たな強敵メ集団が登場となりますが何やら見たことない影も……。
詳しくは本編をお楽しみください!
EPISODE:43 邪悪な遊戯は新たなステージへと進む。
2月12日 都内某所 06:34 a.m.
約3週間前の復活からより多くの“獲物”が集まる狩り場に身を潜めて以来、彼ら――グロンギの当座の拠点となっている休業中の水族館。
世間ではB群1号、或いは『バラのタトゥの女』と呼称される
ある者は逆立ちした状態で意味もなくその場を練り歩き、ある者はどこからかくすねた度数の高い酒を煽る。
またある者はリントの文化の中で取り分け己の琴線に触れ、やはりどこかから盗んだ骸骨のシルバーアクセを日がな1日眺め続けていた。
人の趣味嗜好が千差万別である様に、その余暇の過ごし方にも個々人の性格が反映されている。
そんな中、現状で“唯一のゲゲル成功者”――ズ・ガルメ・レは隅の水槽にもたれ掛かりながら、件のゲゲルの思い出を頭の中で何度も何度も反芻し、悦に浸っていた。
「フ……フフ、クク……ヒヒッ!」
自分の接近に気付かず、間抜け面を晒して死んだ40人余りのリント、その1人1人の顔や死に際を思い出しながら頭の中で何度も何度も殺す。
それはより難易度の増す次のゲームに向けてのイメージトレーニングでもあり、最低最悪の自慰行為。あくまで彼の脳内の話だが、殺された45名の犠牲者は死して尚、何度もその尊厳を踏みにじられていたのだ。
――ハァ、早く次が
――そして、出来る事なら“あの女”を、この手で、クウガの目の前で!!
そんな悪趣味な妄想の中で取り分け気に入っているのが前回、雨とクウガの介入で殺し損ねた46人目の獲物――黒髪の若いリントの女の事だ。
目の前で仲間を殺され、その死に泣き叫ぶ一方で己に迫る死を拒む、あの恐怖に歪んだ顔を思い出すだけで、彼の中の嗜虐心はこの上なく昂ぶった。
残念ながら個人の情報や住処などを特定するには至らなかった為、次のゲゲルでまた鉢合わせ出来るかは運次第……まあ、あの時の恐怖に負け自ら命を絶つ可能性もあり得たが。
ゲゲルには時間制限がある為、必ずしも遭遇できるとは限らないのは惜しい。
昔に比べ劇的に――虫の様にわらわらと――増えたリントの中で1人を探すのは超人的な力と高い知能を持つ彼らにとっても容易ではない。
しかし、それでも、出来る者ならこの手で殺したかった。
たっぷり、嬲る様に、この自慢の舌でその人格と尊厳全てを否定しぬいた上で、出来るならクウガの目の前で……殺し抜きたい!
リントという種族そのものにではなく、その中の1人に対する特別な固執。
それはある意味――どこまでも歪みきっているが――恋心の様に熱く、燃え上がっていた。
「ゼギギン ガヅラセ(全員、集まれ)、ザバギ グ ガス(話がある)」
そんな中、朝から姿を見なかったバルバが姿を現し、招集をかける。
基本的に普段彼女は、次の
つまりこれはこの場での生活が始まって以来初めての事だ。
そしてその大凡の意図は、集まって者全員が理解した。
黒衣の裁定者が、その後ろに引き連れた数名の“上位者”の姿を目の当たりにした瞬間に。
――有り体に言って、それはある種の死刑宣告だった。
「バルバ!! ゾグギグボドザ(どういう事だ)!?」
多くの“ズ”が唐突に突きつけられた破滅への宣告を受け止めきれず困惑する中、いち早く前に出たのは集団の長=“ズ・ザイン・ダ”であった。
半裸に革のベストを羽織ったレスラー体系の偉丈夫は、血走った目で妖艶な黒衣の神子へと詰め寄る。
だが後数歩という所で、その足下手前の床に打ち込まれた、数本の針がその行く手を阻んだ。
「バルバが決めた以上、仕方のない事だ。“ラ”の判断は絶対だからな」
一切の淀みを感じさせない流暢な日本語でそう言い放つのは、ダークグリーンの体色をしたサボテンの特徴を持つ“メ・ボザン・デ”。ザインに向けて放った針は、彼の口から射出されたものだ。
「リグスギギ ラベ パ ジョゲ(見苦しい真似はよせ)、ザイン」
更に息を荒くして今にもバルバに飛び掛かろうとする彼の前に立ち塞がるのは剃髪の、鍛え抜けれた格闘家の様な体躯の巨漢“メ・ガニザ・ギ”が人間態で立ち塞がる。
「ボザン! ガニザ! グゥウウウウウウ!!」
鼻息を荒くして両者を睨み付けながらも、それ以上の行動には踏み切れないザイン。
下級とは言えその集団で最強を自負する彼にも相応の矜持はある。
例え上級に位置する“メ”であっても、早々遅れは取らない自信はあった。
だが、それはあくまで一対一ならば、の話だ。
ましてや、こうして立ち塞がる2体の後ろには、更にその上を行く“メ”の長――“メ・ガリマ・バ”が酷薄な笑みを浮かべて己の挙動を見守っているのだ。
まるで、『暴れるならさっさと暴れろ、即座にその命を狩ってやる』と煽る様に。
さながら死神の鎌を首にかけられた心境で、身動きが取れなくなるザイン。
そんな彼を前にバルバは冷淡に、自らの所感に基づく結論を言い渡す。
「ボセガ ゲンジヅ ザ(これが現実だ)。――この時代のリントと、新たなクウガを相手にして、“ズ”にゲゲルは成し遂げられない」
「!!」
理不尽に権利を奪われた上、抗う事も叶わぬ封殺状態でザインはただ、怒りに震える事しか許されない。
「さあ、君達も思案のし時だよ“ズ”の諸君? 聞いてた通り、“君達には、もう未来はない”。精々、遺された時は有意義に使うと良いさ」
一方、呆然とその様子を見守っていた他のズ集団に対し、ボザンと同様に流暢な日本語で語りかけるのは、吟遊詩人の様な出で立ちをした一見して穏やかな物腰の青年――ウサギ型のグロンギ“メ・ザギー・ダ”。
声音は爽やかな優しさを感じさせるが、要約すればそれは『ここに居ても無駄だからどこへなりとも失せろ』という、余りにも無慈悲な宣告だった。
その言葉の意味を理解し、また『惨めな弱者に彷徨かれても鬱陶しい』と暗に棘のある視線を向けるガニザやガリマの威圧感に気圧されて1人、また1人と、今日まで順番待ちをしていたズのグロンギ達はその場から立ち去った。
残ったのは集団の中で唯一のゲゲル成功者であり、近々“メ”への昇格が内定しているガルメ。
手出し出来ない状況に追い込まれて尚、この判決に異議を唱えるザイン。
……そして、自分の取り巻く絶望的な状況をまるで理解しておらず、このままバルバに暫く
以上3名のみであった。
◇◇◇
文京区 ポレポレ 09:55 a.m.
「200体規模の墓に発掘された正体不明の破片、か……。やっぱ
店の開店準備から抜け、店先で雪乃と合流した俺は、朝方に行われた合同捜査本部の会議で新たに判明した情報を彼女から教えて貰い、胸焼けしそうな事実と向き合っていた。
「ええ、1度大がかりな調査は必要になってくるわね。……出来れば貴方の研究室からも参加して貰いたい所だけど……」
「連中が潜伏している可能性も考えると、結衣に頼むのは気が引けるな……。俺が行くのが1番安全なんだけど」
「貴方は
何しろ総勢200超の集団だ。
これまでの殺戮から奴らの行動の主軸が東京に移ったのは確かにしても、何体かがま遺跡周辺に潜伏していたとしてもなんら不思議じゃない。
熊や山賊なんて可愛く思える連中と山奥で遭遇なんて事になったら……想像するだけでゾッとする話だ。手前勝手なエコ贔屓だとしても、やはり
――夏目教授の研究室から発見されたっていう謎の金属片については、考古学者としてはかなり惹かれるんだけどなぁ。
「まあ、調査員についてはチベットに居るオッサ……教授と連絡取ってみるわ」
「ええ、お願いね。それじゃ私はこれで」
「え、もう行くのか? 折角だし寄ってけよ」
伝えるべき事は伝えたと踵を返そうとする俺は呼び止めるが、雪乃は苦笑しながら『一応勤務中だから』と首を振る。真面目か。
別に酒飲むわけでもないんだし、コーヒーブレイクくらい全然良いと思うんだけどな。
まあ、昔から一度決めたら早々考えを変える奴じゃないしな……。
「あっ、ゆきのんも来てたの? やっはろ~!」
「結衣? あ、いえ私はこれで……」
「先輩~そろそろ店開きますよーって、あっ、雪乃先輩に結衣先輩じゃないですか~! いつもご贔屓にしてもらってありがとうございます♪ ささ、そんな寒い所で万年懐が寒い先輩なんてほっといて入ってくださいよ♪」
「い、一色さんまで……ハァ、少しだけね」
――とか思ったら、狙い澄ました様なタイミングで現れた結衣と一色の見事な連携に引っかかりアッサリと店の中に入る。
アレレ~? おかしいなぁ~? 真面目な雪ノ下警部殿はどこ行っちゃったのかな~?
相変わらず自分を慕う同性にはチョロいお姉様気質というか、男相手にはガードが固そうだけど、ガチ百合とかに迫られたら割とあっさり一線越えちゃいそうで、お兄さん心配!
◇◇◇
「はい、ブレンドとホットココア2つ、お待ちどうサマンサタ~バサ。ゆっくりしてってね~」
「あ、ありがとうございます……」
「あはは、ゆきのん相変わらず親父ギャグのスルーが苦手だね」
「基本無視しちゃっていいんですよ雪乃先輩? 反応されると調子乗りますから」
「あはっ、いろはすってば辛辣なんだからぁ☆」
1年の中でも特にクソ寒いこの時期に身も凍る親父ギャグをかましながら温かい飲み物を出すおやっさん。
コーヒーや料理の腕は良いんだから、黙ってりゃダンディ路線もいけるってのに勿体ない。
まあこの愛嬌が店の売りの1つになってるんだろうけど……。
因みに一色は休憩の体で雪乃や結衣と同じ席に座って和気藹々とテーブルに広げたこの辺の不動産情報に目を通している。
最近は手伝いサボりまくってる俺が言うのもなんだけど、自由な奴である。
「うーん、やっぱり条件に当てはまる物件って中々ありませんねぇ。もうちょっと駅から離れた奴も候補に入れるますかぁ?」
「予算的な問題なら私がもう少し負担しても大丈夫だけど?」
「え~ダメだよそこはキッチリ半々じゃないと!」
「そうですよ。それに限られた予算でどれだけ条件に合うのを探すかが部屋選びの醍醐味じゃないですか? あっ、結衣先輩ここなんてどうです? ちょっと古いですけど」
「えっ、どこどこ? ……うーん、ちょっと微妙かな?」
3人は現在、雪乃と結衣が一緒に暮らすこの近所の手頃な物件を探している。
そもそも結衣が朝一番で店に来たのも俺や一色の意見を聞きたかったかららしいが、そこでバッタリルームメイトがいたという事で一緒に話し合う流れになった。
しかしまさかコイツらが同居する流れになるとはな……。
まあ、お互いの情報交換が密になるのは効率的だし、込み入った話をする時は俺がコイツらの部屋に行けばてっとり早い……いや、違うからね? 女の子2人の秘密の花園を覗きに行こうとか、そういうのじゃないからね!?
「ゆきのん的には何か要望はないの? てか、あたし勝手にこの辺で絞っちゃってるけど大丈夫?」
「ここからなら本庁まで然程かからないし問題はないわ。基本的に結衣の要望が優先でいいけど……そうね、駐車場は必要かしら。登庁用に近々プライベートのも買おうと思ってたから」
「あっ、雪乃先輩自家用車買うんですか!? いいな~」
当初は勤務中の心苦しさを感じていた雪乃も二人のテンションに押され(というか毒され?)、意見を述べ始める。
そんな様子をカウンターからそっと見守る俺とおやっさんは、ふと一瞬視線が合った後、グッとお互いサムズアップする。
そう、古代ローマで納得のいく仕事をした者に送るあのサムズアップ、本編初登場である。
(付き合いが長くなると色々アレな部分が浮き彫りになるとは言え)タイプの違う20代の美女3人がキャッキャッウフフと会話に花を咲かせる――尊い。
「いや~いいよねぇ~ああいう光景ってさ、見てるだけで癒やされるって言うか、若返る感じになるっていうか」
「ああ、全くッスね……」
アイツ等に聞こえてないのを良いことにうっかり全力で同意してしまった。
実際、悟りを開いたような表情でそう語るおやっさんの横顔は、心なしかいつもより若く感じる。酒は百薬の長ならぬ『百合は百薬の長』と言ったところだろうか?
――うん、適当に浮かんだフレーズだけどいいなこの言葉。
もし今後、万が一にも俺がまかり間違って歴史に名を残す偉人になった時は名言として後生に語り継いでいこう――百合は百薬の長である。と、
そんな尊くも華やか女性陣と、それを眺める気持ち悪い男達(某喫茶店マスターと未確認生命体第4号)という奇妙な構図の店内にカラン♪ とドア前のベルが鳴る。
「あっ、いらっしゃ――――留美?」
「…………うん、久し振り……八幡」
それは2週間前、目の前で親友を消える未確認に殺されて以来実家でふさぎ込んでいた大学の後輩――鶴見留美であった。
と、いう訳でかねてからアンケートで皆さんからいただいたオリジナルグロンギの登場です!(まだ顔出し程度ですが)
メ・ボザン・デは名もなきA・弐さんから
メ・ガニザ・ギは、カブトロンガーさんからいただいた“ゴ・ガニザ・ギ”の設定を一部変更した上で登場させてもらいました。
改めまして二人とも、魅力的なグロンギのアイデア、ありがとうございます!
グロンギのアイデアは引き続き募集してますので思いついたらどしどし送ってくれると嬉しいです!
勿論、既に送ってもらったものの中にも現時点で出てきてませんが登場する可能性もあるのでご安心を!(確実に出るとは限りませんが)
これからもよろしくお願いします!