伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
仕事が忙しくなったのに加え、ボチボチ次の一次創作の執筆にも着手するのもあり、今後は大幅に投稿ペース落ちると思います(出来たら週1、ヘタすると月に1,2本)が引き続き付き合っていただければと思います。
文京区 ポレポレ 10:23 a.m.
「――――留美?」
「うん、久し振り八幡。……ゴメンね。家に何度も来てくれたのに……ずっと、出れなくて……」
忘れたくても忘れられない。
およそ2週間前の雨の夜以来、顔を合わせられなかった大学の後輩――鶴見留美はそう言って俺にまず頭を下げた。
その表情は一見して普段と変わらない。
物静かで影はあるが、落ち着いたものだが、目元には化粧で隠した隈の痕が見えた。
毎晩眠れぬ夜を過ごし、泣いて、泣いて、泣き続けた末に涙腺が枯れ果てた。
そんな風に見えた。
「……気にすんな。けどどうしたんだこんな朝から? 今日は祝日で講義もないだろ?」
「うん、実を言うと……日付の感覚なくなっててついさっき気付いたんだ。最近はずっと家の中にいたから……」
「そうか。……まあ、折角来たなら何か飲んでけ、奢る」
「……じゃあ、キリマンジャロで」
「はいよ!」
ぎこちなさを理解しながら何とか会話を成立させ、俺は留美にカウンターに座るように促し、おやっさんも努めて普段通りの態度でコーヒーを淹れる。
お互い、赤坂の死を引きずりながらも何とか折り合いを付ける為、なるべく普段通りを取り繕うとする。それはある意味で薄ら寒い欺瞞であり、現実逃避なのかもしれないと思いながら、それでも、やはり、人は順応しなければならないのだ。
「ほい、キリマンジャロ、これでええんジャロ? なんつって~」
「いや、そういうの今いいからおやっさん」
「えっ、あ、そ、そう?」
どこか気まずい空気が蔓延する中で少しでも場を和ませようと親父ギャグを繰り出すおやっさんを適当にあしらい、コーヒーを留美の前に出す。
彼女はそれに口を付けた後、ふぅ、と溜息を零し、不意に店内を見渡して――視線こそ向けていないが――自分の方に意識を向けていた雪乃らの存在に気付く。
これは全くの偶然なのだが、3人が座っている窓側のテーブル席は、よく彼女や赤坂が向かい合って座り、講義の事や遊びの約束、恋の話などで盛り上がっていた場所だった。
「る、留美ちゃん……」
「鶴見さん……」
視線を向けられたことに気付きぎこちなくも挨拶の言葉を口にする結衣。
嘗て、親友と語り合ったその席で、彼女達が楽しそうに住宅情報誌を開き、未来の話に花を咲かせていた。そしてその中の1人である雪乃に鋭い視線を向け、留美は吐き捨てる様に言った。
「…………意外と暇なんですね? 未確認担当の刑事さんって」
愛想はないが基本的に聡明な彼女らしからぬ、悪意の伴った皮肉を。
「……っ!」
「ち、違うの留美ちゃん! これはあたしが無理に引き止めたからでね!」
俺同様、赤坂の一件で留美に負い目を感じる雪乃は、普段の彼女らしからぬ狼狽えた様子を見せる。
結衣は咄嗟に両者の間に割って入ろうとするが、ここで更に留美や雪乃以上に『らしくない一面』を見せたのは、一色だった。
普段――特に営業時間中の店内では――基本的にニコニコしてるポレポレの看板娘(再来月25歳)は、冷ややかでどこか鋭さを感じる視線を向けて留美の前に立った。
「…………やめてくれません? そういう八つ当たりみたいなこと。――雪乃先輩が毎日、どれだけ頑張ってるかもしらない癖に」
まるで『敵対者は徹底的に叩きのめすでお馴染みの、高校時代の雪乃(今は大分丸くなったけど)』みたいな静かだが攻撃的な声音で威圧する一色。
普段は使える物は先輩だろうが叔父だろうが客(戸部)だろうが使い潰すを信条とするいろはすであるが、一方で自分が慕う相手には義理堅い。
軽いノリで言った『ちょくちょくお店に来てお金下ろして言ってくださいね♪』というお願いを律儀に守り、こまめに顔を出す実は後輩にめっちゃ甘い雪乃への批難は、度し難いものを感じたのだろう。しかしこれは――
「……っ!!」
「あっ! 留美ちゃん待っ――」
名を呼んで止めようとする結衣の言葉を耳にも入れず、留美は半分だけ残ったコーヒーの横に千円札を置いて店から飛び出した。
「………………なんですか先輩?」
その場に居た全員が留美の去った店の扉に視線を向け、何とも言えない気まずい空気に支配される中、昔から空気を読まない事、空気を悪くすることに定評のあった俺が向けた視線に気付いた一色がドスの効いた声で尋ねる。やっぱ素は怖いんだよなぁ。
だが俺の視線にいち早く気付いて反応する辺り、コイツはコイツで留美の事を気にしてはいるのだろう。
こういういざという時は容赦ない物言いをする割に、根は冷徹になりきれないとこはどこのゆきのん先輩に似たのかしらねぇ?
「いや、別に」
「ふん、言わなくても分かりますよ。年下好きの先輩は、1コ下の可愛い後輩より5コ下のピチピチの女子大生の後輩が良いんすよね?」
そしてちょっと面白くないことがあると俺に口撃して八つ当たりとかも似てるよねうん。
というか、お前はなに人を勝手に年下好きに設定してるのかな?
後、何気に自分を可愛い後輩にカテゴライズしてるとことか、ホント君さぁって感じである。
「今の発言には色々ツッコミたいトコあるけど、別にさっきのお前の言い分にケチつけるつもりはねぇよ。
どこか拗ね気味な態度のいろはすを宥めつつ、俺はこないだ塗って貰ったクウガマーク付きのベストを羽織る。まあ、方便である。いい歳した童貞は女の後を追いかけるのにもいちいち口実が必要なメンド臭い……もとい
「八……比企谷くん、私も」
「お前はそれこそもう捜査本部戻っとけ、サボり扱いされるのは遺憾だろ? ――何かあったら連絡頼むわ」
相変わらず一色の前だと俺の事を苗字呼びにする度胸があるんだかないんだか分からん警部殿の同行を固辞しつつ、俺は冷たい風の吹き荒ぶ外に出る。
正直、モテたことなどない俺にはアイツを見つけたところで何と言葉をかければ良いかなんて分からんが、だからって放ってはおけんわな。
◇◇◇
品川区 東大井 10:55 a.m.
「お疲れ様です杉田さん」
「おお、来たか雪ノ下、悪いな出先から直接」
「いえ、それより状況は?」
八幡が鶴見さんを追いかけて店を出てすぐに私もまた捜査本部へ戻ろうとしたがその途中、無線で未確認生命体の犯行と疑われる奇妙な遺体の発見情報が入り、現場へと直行した。
既に現場には杉田さんをはじめ数名の捜査員や鑑識が検証を開始しており、その中心には横転した自転車のすぐ傍で、遺体が布に覆い隠されていた。
「それがサッパリだ。鑑識の話じゃホトケさんの頭頂部から何かが心臓を通過して挙句大腿部から抜ける。要するに空から“垂直に飛んできた何か”に射貫かれたって事らしい」
「空から、垂直に……?」
言葉にするのは簡単だが、それは銃を撃ったことがある人間なら即座にあり得ない事だと分かる事象だ。もし仮にそれが可能だとしたら、それをやってのける対象は――。
「飛行能力と狙撃手段を持つ、未確認生命体……」
真っ先に脳裏を過ぎった存在は第3号だが、蝙蝠の能力を持つあの個体が日のある時間帯に行動するのは考え難いし、何度かの遭遇では狙撃能力など持っている風でもなかった。
そう考えると新たな未確認生命体第14号という事になるが、もし仮にそうだとしたら――。
「もし仮にそうだとしたら、これまでで1番厄介な敵になるかもな……」
「……ええ」
天を仰ぎ、或いは今この瞬間も自分達を高見から見下ろしているかも知れない新たな敵の脅威を口にする杉田さんの言葉に、私もまた同意せざるを得なかった。
◇◇◇
台東区 御徒町 11:12 a.m.
衝動的に店を飛び出した留美を探すにあたり、俺はアイツが行きそうな場所に目星を付けて可能性のありそうな場所を順に巡り、幸いにも2箇所目で彼女の背中を確認できた。
俺が言えた義理ではないが交友関係が狭く、必要以上に遊び歩かないボッチは得てして行動が絞り込み易い。……ホントに俺が言えた義理じゃないなコレ。
「こんな所1人で突っ立てると風邪引くぞ。ホレ、先輩からの奢りだ」
「…………八幡」
俺は先程近場の自販機で2つ買った温かいMAXコーヒーの内1つを留美に差し出しながら彼女の隣に立つ。
三方を壁に阻まれた。昼間でも薄暗く人気の無い行き止まり――そこは、赤坂が透明化の能力を持つと思われる『名もなき未確認生命体』によって殺された場所であった。
「どうしてここに?」
「渡し損ねたつり銭を返しに」
「いや、なんで来たかじゃなくて…………どうして此処が分かったのって」
「別に。最初はお前のバイト先行って、居なかったからまあここかなって当たりを付けただけだ。――正直、ここであって欲しくはなかったどな……」
同じ場所でも夕暮れ時の雨だった当時と今とでは大分印象が違うが、そこは紛れもなく、留美が1番大切な友人を喪った場所であり、赤坂を守ってやれなかった俺にとっても悔しさと無力感が込み上げてくる場所だ……。
「――――すまん」
「どうして謝るの? 八幡はあの時、私を守ってくれたのに」
不意に出た謝罪の言葉は――先程留美が衝動的に雪乃に向けた悪意と同じく――頭で考えるより先に、口から出たものだった。
だが実態は違うのだ。
俺はただ、救えた筈の力を持っていたのに救えなかった。
不甲斐なくて、その癖それを明かすことも出来ない卑怯者でしかないんだ……。
「…………甘い」
そんな俺の心中など知る由も無く、だけど何とはなしに言えない事だと察した留美は、俺から受け取ったマッ缶に口をつけ、並のスイーツなど相手にならない甘さに顔を歪めた。
苦味にではなく甘さに顔を顰めるコーヒー、だがそれがMAXコーヒーなのだ。
「喫茶店に住み込んでる癖にこんなの好きなの八幡?」
「フ、それこそMAXコーヒー並に甘いなルミルミ、マッ缶と店のコーヒーは最早別モンだ。焼きそばとカップ焼きそばが別モンなのと同じ様なもんだ」
つーかカップ焼きそばって全然焼いてなくね? って話であるのだが、それらに限らず名前や一見して見た目が似てても実態は全く違うものっていうのは世の中には割とある。
アマゾンライダーと、アマゾンズに出てくるライダーがまるで別モンなのと同じだ。
「何ソレ……フフ」
俺のウィットに富んだジョーク(いや、別にジョークじゃねえな?)が受けたのか、留美は口元を緩めて微笑を見せてくれた。
「……さっきはゴメン。自分でも何であんな事を言っちゃったんだろうって、店を出てから後悔した……最低だよね、私」
「ん、まあ……確かに褒められる事じゃねえのは確かだな。――けど、実際誰でもあんだろそれ位。哀しかったり腹立たしかったり頭ん中ぐちゃぐちゃになって周りに八つ当たりしちまうなんて時とか。自分で良くないってちゃんと分かってんなら、必要以上に気にすんな。――まあ、雪乃にはお前が謝ってだけ俺が伝えとく」
「怒らないんだ? やっぱり変わってるね、八幡って」
「そうか?」
「そうだよ。彼女さんが責められてそんな態度とか、寧ろマスターの娘さんの方が反応として当然だと思う」
「娘? あー、よく勘違いする人いるけど一色とおやっさんは親子じゃなくて叔父さんと姪な。後、雪乃は彼女じゃねえ」
「そうなの? 千葉村で初めて会った頃から付き合ってるのかと思ってた」
「何で女子って生き物は男女で仲良くしてるとそう勘ぐる……って男も似た様なモンか。アイツは……まあ、相棒みたいなもんだな。今は」
とりとめのない会話をしながら、俺は留美が先程の発言を自身で暴言と理解し、後悔しているのを知って安心した。
言われた雪乃には申し訳ないと思うが……いや、アイツもアレはやり場のない怒りから来る突発的なものだとは理解してるだろう。それでも真摯に受け止めてしまうのがアイツの長所で、短所でもあるんだが……。
「相棒? ……そっか、じゃあ八幡ってもしかしてまだフリーなの?」
「まだもクソも、生まれてこの方ずっとフリーランスな独り身だよ。ついでに金もなくて友達も少ない。人生の負け組要素てんこ盛りの逆パーフェクト超人だ。どうだまいったか」
ついでに最近、真っ当な人間ですらなくなったから、マジで人生色々詰んでるまである。
「フフ、大変だね。――けど、いいじゃん。何にも持ってなくたって、分り合ってる大切な人が傍に居るならそれだけで勝ち組だよ。……私の“相棒”は、もう傍に居ないんだもん」
「留美……」
俺のくだらない自虐ネタに苦笑したかと思えば自嘲手的な笑みを浮かべ、留美は親友――相棒が命を落とした現場を見据える。
ともするとその物言いは同情を求めたり、哀しみの同調を求めている様にも聞こえるがそうじゃない。単純に、こいつは未だ、赤坂の死に囚われ、動きたくても動けずに居たのだ。
「……さっきお店で『祝日って忘れてた』って言ったけどさ……実は嘘。ホントは、今日1日使って茜と過ごした場所を回って、踏ん切りつけようって思ったんだけど……やっぱりダメ。何処に行ったって、あの
身体を震わせながら訥々と自分の中の気持ちを語った後、留美は俺の胸の中に飛び込み、すがりついてきた。あの雨の日の様に……。
「留美っ!?」
「大切な、1番大切な友達との時間なのに、思い出すだけで辛い! いっそ全部忘れられたら! 最初から仲良くならなければって思っちゃう自分が凄く嫌で! 苦しい!! ねえ八幡、私どうしたらいい? どうしたらこの気持ちを忘れられる? どうしたら……前に進める?」
まるで救いを求めるように縋り付き、目に涙を溜めながら俺に答えを求める留美。
内向的だが芯があり、物事を達観して捉えられる彼女らしからぬ態度……なんて枠に収めるのは傲慢の極みだろう。
目の前で理不尽に親友を奪われ、挙句その犯人は正体不明の怪物で、今ものうのう生きている。
そんな理不尽な状況に陥って尚、平時と同じ様に振る舞える人間なんてそうそういはしない。
いたとしてもそれは、必死に痛みを堪えて周囲にそう見えるように振る舞ってるだけだ。
コイツは、留美は、自分でもどうしようもない苦しみを抱えて藻掻き苦しんでいるのだ。
何も悪い事などしていないのに……喪った友人との思い出を振り返ることすら出来ない程に。
――俺が、後1分早くあの場に駆けつけられていれば……。
あの日から何度となく思い、その度に無意味だと結論づけながら、それでも俺は縋り付く留美を抱きしめながら、心の中で謝罪した。
――ゴメンな。本当にゴメンな、留美。
俺は本当に卑怯な男だ。
雪乃が責められてても、留美がこんなに苦しんでいても己が4号だと明かすことも出来ず、まるで理解者を気取って彼女に寄り添っている。
赤坂を救ってやれなかった癖に、本当の自分も晒すことも出来ない癖に……!
胸ポケットしまっていたトライフォンの着信音が鳴ったのは、そんな時だった。
俺は抱き寄せていた留美を引きはがし、通話ボタンをタップする。
「――俺だ」
『第14号が動き出したわ。所在は現在捜査中だけど、恐らく第3号と同じ飛行能力を持った個体。対策を含めて話し合いたいから、科警研で合流できる?』
「……分かった。すぐ行く」
鳴った時点でおおよそ分かっていた事だが、内容はやはり、新たな殺戮の始まりを告げる物だった。そしてその連絡があった以上、俺は何を置きざりにしても行かねばならない。
例えその場に、泣いている誰かを置き去りにしても……。
「…………留美、すまん」
「ん、用事が出来たんでしょ? 私は大丈夫だから行って……話聞いてくれてありがとう」
電話のやり取りを傍から聞いて何とはなしに俺が行かねばならない事を理解した留美は、先程までの激情が嘘の様に――しかしその目元に涙の跡だけ残し――俺から距離を取った。
「…………ああ、じゃあ。また連絡する」
それが彼女の精一杯のやせ我慢である事も、縋る自分を置いて行く俺に対する落胆も察しながらそれに気付かない様に振る舞い、俺は止めていたトライチェイサーに跨がり、トライフォンをコンソールパネルにセットし、走り去った。
――ああ、全く本当に最悪だ。何が戦士クウガだ。何が未確認生命体第4号だ。
泣いている娘の傍に寄り添う事も出来ず、まるでそこにしか居場所がない様に戦いの場に向い、害する者を殺しに向かう。
そんな自分の不甲斐なさを噛みしめながら、俺は科警研へと向った。
誰もを救える力があるからこそ、大事に思ってる人の傍にいられない時もあるっていうのはヒーローが抱えるジレンマの1つですね。
尚、もう悟ってる方も多いと思いますが本作の夏目実加ちゃんは原作と異なり、本郷教授に悲しみの涙を受け止めてもらったことで色々ため込まず、長野で前を向いて生きてます。例の『馬の鎧の欠片』も本郷教授に譲渡したって経由です。
いやー、これでプロトクウガが誕生せずに済む……かな?(意味深)