伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
「ハン! ズギヅンド、リジバギズボザバ? クウガ!(ハン! 随分と、短い角だな? クウガ!)」
突然現れ目についた人間に片っ端から殺戮の牙を向けた蜘蛛男に追い詰められた所、胡乱な映像に賭けてベルト状の装飾品を装着した俺は奴らと似て非なる白い異形に変身することで首の皮一枚繋がった。
――が、どうやら『ここからが逆転』というご都合主義にはならないようだ。
銃弾よりは幾分ダメージを受けた様だが何発も殴られて尚、蜘蛛男はピンピンしていた。
「おおおおらああああああああっ!」
俺は辺りを見回し停車していた犯人搬送用の車両に目を付け、常人の十数倍はあるだろう怪力で蜘蛛男に向け力任せに押し出した。
正面から受けて立った蜘蛛男は車両ごと押し出され、建物の壁に押し込まれる。
が、突如車両は微動だにしなくなった。
「ゾンデギゾバ、クウガ?(その程度か、クウガ?)」
俺の必死の抵抗を鼻で笑い、奴は車両を押し返してきた。
完全に力負けした俺は何とか押し返された車両を躱すが、すると今度は胸の白い装甲に、奴が口から吐き出した糸が付着する。――気持ち悪っ!
「アアアアアアアアッ!!」
「だああああああああああああっ!」
蜘蛛男は糸を介して繋がった俺を首を振り上げることで持ち上げ、俺を宙へと投げた。
「ぐっ!」
投げ出された俺は近くにあった建物の屋上に叩き着けられる。
普通なら確実に死んでるだろうが幸いにも生きてる。
けど死ぬほど痛ええ!
なんなら死んだ方がマシ級にキツいまであるぞコレ!?
体中痛くて呼吸も苦しく、ついでにこの姿になってから尋常じゃなく体力が消耗されている。
俺が最悪の状況で悶え苦しんでいるとそこに、ビルの壁をよじ登ってきた蜘蛛男が迫る。
「ビガガンゾ、ボソデジャス!(逃がせんぞ、殺してやる!)」
どうやらどうあっても俺――ベルトの所有者を逃すつもりはないらしい。
何とか歯を食いしばって立ち上がり、奴に向かって抵抗の拳を叩き込むがはやり効果は薄い。
常人より遥に強い力と頑丈な肉体を手に入れてるのは間違いないはずなのに、想定された敵であろう蜘蛛男を相手にして戦闘能力が中途半端過ぎる! 壊れてんじゃねえだろうな!?
そんな風にベルトに対する不信感を抱きながら必死に抗うもやはり地力の差は明白で、俺は屋上の角に追い込まれマウントポジションを取られる。
クソ……!
正体不明の怪物と戦う為に変身した矢先に返り討ちとか、らしくもなくヒーローみたいな真似した結末がこれかよ……。
俺が自分の命を諦めかけた時、激しいローター音と共に銃声が響き、一発の銃弾が蜘蛛男の頭に着弾した。
見上げるとその先にはヘリコプターからライフルを構える雪ノ下雪乃の姿があった――!
ダン、ダン!
彼女はその後も二発目三発目と発砲し、蜘蛛男の背や頭に当てる。
って、あんな不安定な場所からバシバシ当ててくるとかゴルゴかアイツは!
非現実的な状況下、殺されかけた所で知人の顔を見て僅かに気力を取り戻した俺は、狙撃で注意が散漫になった蜘蛛男を押し退け窮地を脱する。
一方、後一歩という所で横槍を入れられた蜘蛛男は怒りの矛先を雪ノ下に向けヘリに跳び乗る。
って、おい!
「待てっ!」
俺も後に続いてヘリに乗り込み、今まさに雪ノ下を殺そうと迫る蜘蛛男を羽交い締めにして抑える。
雪ノ下の死という想像しただけで心臓が押しつぶされそうになる恐怖が一度は死を受け容れそうになった俺に再び力を与えた。
俺と蜘蛛男で積載重量が一気に300kg近く増したヘリのバランスが不安定になる中、俺と蜘蛛男は壮絶に揉み合い、互いに互いをヘリから叩き落とそうとする。
「……っ!」
得体の知れない二匹の怪物が超至近距離で暴れる異常事態に戸惑う雪ノ下の姿が視界にチラつく。それでも決して悲鳴を上げたり動じたりせずしっかりと俺達を見据えている。
これが刑事としてのコイツの顔なのか……。
嘗て、彼女の中にあった強さの中の弱さを知る俺の胸に、場違いながら不思議な感慨が過ぎる。
だから……だからよ――!
「やらせるかよ! コイツだけは、やらせるかよ……!!」
「!! ……貴方、まさか……!?」
――ってヤッベ!
つい気持ちが溢れて口に出た!!
得体の知れない怪物の一体から漏れた聞き覚えのある日本語に雪ノ下が反応する。
「ゴヂソクウガァ!(落ちろクウガァ!)」
「るせええっ!!」
雪ノ下に正体がバレそうになって気が動転した俺は、真正面から迫る蜘蛛男の胸を咄嗟に右足で蹴りつける。
「うっ! アアアアアアアアッ!!」
それまで俺の攻撃が悉く効かなかった蜘蛛男は思い掛けない衝撃に吹き飛びヘリから落下、一方、俺の右足の裏には不思議な熱が灯っていた。
しかしどうあれ、当座の危機を脱する事は出来た。
「貴方……やっぱり、比企谷く――「チガウヨ」って待ちなさい!」
次いで俺は雪ノ下の言及という次の聞きから脱する為、自主的にヘリから飛び降り近場のビルの屋上に着地。
気がつけばすっかり日が沈み、空は茜色に染まっていた。
こうして俺の人生を転換させる激動の日々、その一日目は終わりを告げるのだった。
次の話は多分日曜かと思います。
一週間で原作1エピソード書けたら上出来かな?
それと活動報告にアンケートを出したのでよろしかったらご協力願います。