伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
それとオリジナルグロンギに関するアイデアですが、ここ最近皆さん気合いの入ったアイデアが続々と投稿して頂いて本当にありがとうございます! めっちゃ嬉しいですwww
相も変わらずペースは送れますが、これからもよろしくお願いします!
文京区 ポレポレ 00:20 p.m.
祝日とは言え昼時ともなれば忙しくなるのは住宅地の喫茶店の宿命。
カラン♪ 店の扉に着けたベルが、既に8割方席の埋まった店内に響く。
「いらっしゃいませー!」
「おっ、今日は結衣ちゃんが出てるんだ。ブレンド1つよろしくねー」
「はーい!」
然程大きな店ではないとは言え、満員近くなった店内の接客や空いた席の片付けなどを1人で捌くのはそれなりに大変だ。
家賃代わりに働くという契約で店の二階の部屋を借りているどっかの腐った目をした居候に代わり、今は結衣さんがその持ち前の人好きする笑顔で常連のおじさん達を魅了している。
……なんならどこかのどこかの先輩よりよっぽど店に貢献してくれてる位だ。
「いろはー、カレー2つ上がったぞー……ってコラ、仕事中に仏頂面はNGNG! いくらはっちゃんが居ないからって機嫌悪くするのはどうかと思うぞ? エレベストの様に大きな心でいなさい」
「いや、それを言うならエベレストだから叔父さん。ていうか全然怒ってませんから――“カラン♪” あ、いらっしゃいませー♪」
調理に追われる叔父さんに心情を見透かされた様な事を言われ、私はいつもより5割増しのあざと……愛らしい笑顔で新しいお客さんに笑顔を振りまく。
結衣先輩が気立ての良い美人さんなのは揺るぎない事実にしても、私にも看板娘としての矜持というものがある。
「ウィーっス! ってアレ? 結衣ってばまたここで働いてんの? てかヒキタニくんってばまたサボり?」
そしてその直後、無駄に気合いを入れた笑顔をお客さん=戸部先輩に向けてしまった事を後悔した。しかも何気にスルーされたし。
「……先輩なら女子大生のお尻追っかけてどっか行っちゃいましたよ。分かったらとっとと出てってください。今忙しいんで」
「いやいや俺普通にお客さんだからねいろはす!? ていうかどした? 何か嫌なこととか悩みがあったら相談乗るぜ? 頼もしい先輩として!」
うわー、相変わらずウザいなーこの人。
多分、普通にいい人なんだろうけど何というか如何せん口も人間も軽そうというか、悩み事の相談をするのに致命的に向いてなさそうというか、この人に弱みを見せるのは何だか癪というのが本当の所だ。
「おおっ、誰かと思えばとべっちじゃん。チョリチョリチョリッス。チョリソース!」
「チョリースッスおやっさん♪ 相変わらずお歳の割にノリノリっすねぇ! 何時までも若さを忘れないその姿勢とかマジリスペクトっすわ!」
私はそんな戸部先輩の戯言をスルーしつつ、カウンター席に誘導。
こんなんでも一応常連の1人という事で調理の片手間に叔父さんが挨拶をする。
因みにこの2人、共に頭のネジが緩んでるっぽい同士の為か妙に仲が良かったりする。
というか実は会話が噛み合ってなくてもその場のノリと勢いで成立させてる場合まである。
「あー、いろはす~俺ランチセットね。よろしくぅ! っつーか相変わらず賑わってるねーこのお店。てか客足増えてない?」
「あー、まー……結衣先輩効果かもですね。増えたのって殆ど男性客ですし」
「へっ、あたし!?」
名前を呼ばれて『まさか自分が!?』というリアクションをする結衣先輩。
普通なら『知ってる癖にわざとらしい』とか『はー、知らないフリとかあざといあざとい』思うのだけれど、この人の場合は天然っぽい性格も相まって全然嫌味がないのがスゴい。というかズルい。
計算してリアクションを決める私みたいなタイプとして天然モノと養殖モノの素材の差を見せ付けられた気分になる。アルファとオメガなら
余談になるけどお店に男性のお客さんが増えた原因は、結衣先輩に加えて最近ちょくちょくお店に来てくれる雪乃先輩の影響も大きい。
この2人がお店に顔を出す要因になっているのが、最近すっかり働かなくなったロクデナシと考えると、やっぱり色んな意味で複雑な気持ちになる……。
「はー、しっかし最近のヒキタニくんってばどうしたのかね? 研究室で作業しててもいきなり電話取ったかと思えば急に飛び出してそれきり戻ってこなかったりだし。かと思えば次の日はすんげーぐったりした顔だったりするし。マジミステリアスなんスよね?」
「あー、ウチに居る時も似た様なもんかなー。今まではかったるそうにしても店の手伝いとか買い出しバッチリやってくれたのに、ここひと月位はびっくりする位慌ただしいんだよなー。……まあ、言いたくない事だっていうなら、言いたくなるまで待つけどさ、おやっさんは」
最近謎の外出を繰り返す先輩に対し、まるでお年頃を迎えた息子に対する父親の様な表情で思いを零す叔父さん。……普段おちゃらけてる癖に偶にこういう大人の顔をするのは正直、姪としては戸惑う。普段からそうしてれば素直に尊敬してあげるのに……。
「うーん、…………彼女が出来たとか?」
ガシャーン!
「ハッ! ご、ごめん! スグ片付けるから!」
戸部先輩の不用意な一言に、これ以上ない程に分かり易いリアクションをする結衣先輩。
――私? 全然ですよ? だって先輩がそんな余所に女とか、ねえ?
「結衣先輩が割ったお皿代は戸部先輩にツケときますからね。荒唐無稽な戯れ言で結衣先輩を惑わさないでください」
「ウェエエ色んな意味で酷くね!? まぁ、確かにヒキタニくんに限ってそれはねえわな? 偶に合コンに連れてってもずーっと隅っこの席でちびちび飲んでるだけだし」
ガシャーン!
「……とべっち、ヒッキーを合コンに誘ったの? ねえ、何時? あたし聞いてないんだけど?」
2枚目のお皿の破片を床に飛び散らせながら、光りの消えた瞳で静かに戸部先輩を問い詰める結衣先輩。――ていうか怖っ! 何か夫の浮気現場を目撃した奥さんみたいになってる! 本妻感がおっかない!
…………前から薄々分かってたけど、やっぱり元奉仕部3人の中で怒らせると1番怖いのってこの人だよなー。詰め寄られた戸部先輩、すっごい汗かいてるし。
「いや、その、どうしても面子が集まらなかった時とかに人数合わせ的な? ヒキタニくんってば基本誘えば断るけどアレで押しに弱いっつーか、頼み事されると弱いからさー」
そんな結衣先輩の強烈なプレッシャーを一身に受けながら、必死に弁明する戸部先輩。
まあ、確かに先輩といい雪乃先輩といい、所謂“ボッチ”と呼ばれる人(或いは自称する人)達は、人に頼られると非常に弱い。というか案外チョロい。
そして何を隠そう、そういうスペック高い割に脇が甘い人達を使い潰す勢いで頼りにした事で2期に渡る生徒会長業務を楽して乗り切ったのが私だったりする。
……まあ、奉仕部お三方が居なくなった2期目の後半はお陰で随分苦労しましたけど……。
しかしだからこそ――人の良い愛すべき先輩達を振り回す先輩達を振り回す戸部先輩に私はスパイスの効いた笑顔を向けて、釘を刺した。
「戸部先輩-? 今後ウチの働かない居候を誘う場合は目的と日時なんかを事前に私か雪乃先輩か結衣先輩のいずれかに申請して承認得てからにして貰えます? それから合コンの人数が合わないなら私に言ってください。代わりにウチの叔父さん派遣しますから。ね?」
「おう、おやっさんに任せなさい!」
「うぇええ……ヒキタニくんってばもしかして人権ない系? てかおやっさんの超ノリ気な感じがマジヤバイ!」
女子大生との合コンを夢想して鼻息を荒くする叔父さん(今年45歳)と色んなモノにドン引きしている戸部先輩を残し、私は再び折角に戻る。
因みに結衣先輩は私の出した『先輩貸し出し申請案』に納得し首を縦に振っていた。
ですよねー。
『番組の途中ですが、ここで未確認生命体関連の緊急速報をお伝えします。現在、新たに現れた飛行能力を持つ未確認生命体第14号が都内上空を飛び回っています――』
そんな折、お昼の情報番組を映していた店のTVから聞こえたのは、最近すっかりお馴染みになった未確認生命体関連のお知らせだ。
今最も注目度が高くて、且つ身近な話題。
それまで各々歓談雑談をしながら食事をしていたお客さん達が一斉にTVに注目し、その表情を曇らせた事からも、この事件に対する世の中の関心度が覗える。
「かー、また出ちゃったのかよ未確認~。最近コイツらが出る所為でロクに飲み会とかも開けなくてマジ迷惑してんだよなー」
「まあまあ、そう辛気臭い顔しなさんなとべっちや、きっとスグにバイクに乗った4号が颯爽と現れて“悪さする仲間”をやっつけてくれるからさー」
「ホントそれっスねー」
そんな、どこか暗鬱とした空気になる中、際立つのは叔父さんと戸部先輩のお気楽っぷりだ。
まあ、それがこの2人の取り柄みたいなものですし、私的にも店の中が暗くなるとかイヤだからいいんですけどね。――本当、早くいなくなって欲しいですよ未確認とか。
「…………」
「ん? どうかしました結衣先輩?」
TVから視線を外して空いた食器を片付けようとした先、私の視界に不安そうな表情を見せた結衣先輩がいた。……未確認関係の事件を担当してる雪乃先輩のこと心配してるのかな?
「えっ!? あ、ううん何でも無いよ! アハハ、寝不足がきてるのかなー?」
私が尋ねてみると、結衣先輩はこれまたあからさまに平静を装いながら笑って誤魔化す。
まあ大方、外出中の先輩の心配でもしてるんでしょうけど。
……ていうか、あの人前は筋金入りの出不精だった癖に、それこそ未確認とか出始めて物騒になったくらいからお出かけ好きになるとか、本当に捻くれてますね?
――全く。どこほっつき歩いてるか知りませんけどとっとと帰ってきてくださいよ先輩。
――間違っても、未確認がいるとこに行ったりしたら、ダメですよ?
◇◇◇
葛飾区 00:23 p.m.
「うぉおらああっ!!」
「グッ!」
――うし、いける!
3号を追いかける雪乃と分担して14号と交戦を始めた俺は、何発かの拳を叩き込んだ末に蹴りを叩き込んだ所で確かな手応え、勝機を感じ取っていた。
と、いうのも今戦っているこの14号、どうやら殴り合いが不得手の様なのだ。
殴った感じの手応えとか、赤のクウガの打撃を受けた上でのタフネスを見るに、単純なフィジカルの強さはこれまでの奴に劣っている訳でもない様だが、如何せん近接戦に於ける動きがなんともぎこちない。
有り体に言えば、単純に喧嘩慣れしていないのだろう。
まあ、反撃不可能な数千m上空から一方的に相手を狙える飛行と狙撃なんてチート能力持ってる奴が態々地べたに降りて殴り合いをする道理などないのも当然か。
バトル漫画なんかでも特殊能力特化系とか格闘能力低い奴多いし、『とある魔術の』
対して俺は、何だかんだこれまで10体以上の未確認を相手に拳を振り上げ続けてきたのだ。練度が違う。……そう、違ってしまうのだ。
「……?」
「………………ハッ! ちっ、バカか俺は!?」
戦闘中に場違いな感傷に浸ってしまい一瞬敵から意識を逸らしてしまった己を戒めつつ、俺は吹き飛んだ14号に再び接近して殴りかかる。
このままこっちが優位な距離を保ちつつ飛べなくなるくらいダメージを蓄積させる。或いは背中の
これが現状最も確実な倒し方であり、また現時点で成功率の高い勝ち筋だ。
今更ながら地上に降りてきた奴を再び空に
「フッ、ハアア!」
「グゥ、アァ……」
苦悶の声をあげる14号に引き続き拳を叩き込みながら、俺は奴の右腕から生えた突起物に気がつく。
全長こそ未だ10cm程度だがあれは恐らく、科警研で見たもの同じ物――即ち、今回の犯行で用いた奴の凶器だ。
しかしそれが判明した事で、俺の中に新たな疑問が生まれた。
ソレは何故奴がここまで一方的にボコられながらも切り札である針を放たないのか?
それは恐らく、1度針を射出すると次の針を生成するのに一定の時間を要するからなのだろう。そしてその生成完了時間は、恐らく15分。
ここまでの奴の殺人パターンからしてそう考えるのが自然だ。
ならば尚のこと、この場で仕留める他ない。
昼は力を発揮出来ないとはいえ、3号を追いかけている雪乃にも早々に合流したいのも含め、俺は畳み掛ける。
一刻も早く決着を着ける。
奴が飛び立つ前に仕留める。あの変態臭い蝙蝠野郎と戦う雪乃に合流する。
とっとと片付けて、留美を探す。
――後々になって考えれば、この時の俺は、様々な雑念に気を取られ、意識が雑になっていた。
「うぉらああ!」
飛び掛かる様に右拳を14号の胸に叩き着け、後方に吹き飛び2度目のダウンをとる。
怒濤の攻めが功を奏し、大分動きが鈍くなってきている。そろそろ頃合いか?
俺は14号を視線から外さない様に注意しつつ、右足に意識を傾ける。
赤のクウガの決め手『封印キック』は相応の勢いを込めた跳び蹴りが望ましく、確実に叩き込む為には先に敵を弱らせて動きを鈍くさせるのが望ましい。
今の14号の状態ならば、恐らく当てられる筈だ。
ダウンから立ち上がろうとする14号と5m程距離を置き、俺は間合いを計りながら奴に向かった踏み込む。
「グゥウ……! “メ” ゾ バレスバァ(“メ”を舐めるなぁ)!」
「っ!!」
だが俺が跳び上がろうとした瞬間、奴は思いも寄らぬ行動に出た。
まだ伸びきっていない針が生えた右腕を俺に向かって構えたのだ。
――まさか、15分の針生成は俺の誤認!? いや、或いは不完全な状態でも射出出来るのか?
いずれにしても数千m離れた距離から人体を射貫く射撃だ。
至近距離で受けたらこの身体でも無事か怪しいし、アナフィラキシーショックを起こす危険性もある。跳躍したら回避も出来ない。
俺は跳び上がろうとする身体を強引に制止させ、その反動でバランスを崩しかける。
「フッ」
そんな大勢を崩しかけた俺の姿を嘲笑しながら、14号はあっさりと構えを解いて上空へを飛翔する。
――やられた。今のは
勝負を焦った俺は奴の易い手にまんまと引っかかり、飛び立つ隙を与えてしまったのだ……!
「クソ、行かせるかよっ!」
己の間抜けさを内心で批難しつつ、俺は咄嗟に飛び上がる14号に続く様に跳躍。
「バギッ(何っ)!?」
青に変わる余裕すらなかったので跳躍距離は15mそこらが限界だったが、幸運にも最高高度に到達する前に14号の右足首を掴む事に成功した。
片足にだけ100kg近い荷重が加わった事で14号はバランスを崩して思うように上昇できない。
俺の名は比企谷八幡。高みを目指す意識高い奴を自分と同じ底辺に引きずり落とす男。
このまま地面に、引きずり落としてくれるわ!
「グッ! ザバゲ(離せ)!」
しかし当然ながら14号もそんな俺のぶら下がりを放置したりはしない。
2人分の荷重に耐える様に翅を懸命に羽ばたかせ浮力を維持しつつ、右足にしがみつく俺を左足で何度も踏みつける。
「
反撃も回避もままならない状況で何度も踏みつけられる状況は殊の外キツい。
しかしここで手を離せば奴は青でも届かない高度に飛び上がって完全に手が出せなくなる。
何とかもう1度、コイツを地面に。
「チッ、ギヅボギ ゾ クウガ(しつこいぞクウガ)!」
と、そんな俺のしつこさに苛立った14号は踏みつけから右手の針の照準を俺に合わせた。
ヤバっ! ――と、一瞬怯んでしまったが気付いた時には後の祭り。
硬直した所でひと際力を込めた踏みつけを受けた俺はとうとう14号から手を離してしまい、近場にあったビルの屋上に叩き落とされてしまった。
クソ、二度も同じハッタリに引っかかるとかバカか俺は!?
俺は自分の間抜けさを再び呪いつつ、即座に起き上がって周囲を見渡すが、既に視界に奴の姿はなかった。最悪だ……!
――――どうする?
いろはす:先輩はどこで何してんですかね?
八幡:未確認とド突き合ってます。
原作において殺伐とした戦いの合間のポレポレパートって癒しでしたよね?
本作でも多少それが再現できてるなら幸いなのですが……。
バヂスが空に上がる前にフルボッコにして仕留めようという合理的だけどえげつない戦法を取りつつ、2度も同じハッタリに引っかかっちゃう八幡クウガ(笑)
変態を追いかけるゆきのんとか、今も悲しんでるルミルミの事とか、ラブコメ主人公の頭の中は女の子の心配でいっぱいです(笑)
この辺の詰めの甘さというか精神的な未熟さは五代雄介との人生経験値の差と解釈してくれればと思います。
次回もお楽しみに!