伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
一次創作の難航やら仕事やらで中々こちらに手が出せませんでした。
書きたいことはいっぱいあるのに無念orz
来月からは仕事が繁忙期でこれまで以上に投稿が滞るかと思いますが気長にお付き合いいただければ幸いです。
それでは最新話どうぞ!
14号と戦う
しかし今まさにとどめを刺そうとしたその時、突如3号は『見えない何か』に引っ張られ不自然に動き出し、持ち上げられた。
「フッ、けど確かにリントにしてはいい女だな? この間殺し損ねた娘に雰囲気が似ているのも悪くない」
舐る様な声音の中に嘲りを含んだ流暢な日本語で語りかける“居るはずなのに見えない未確認生命体”。
鶴見さんと八幡から聞いた通り、まるで人間を扱き下ろす事を心から楽しむ、悪意に満ちた性根が文字通り透けて見えた。
――言葉の通じないそれまでの奴ら以上に、不快感を覚えた。
「…………そう、お褒めに預かり光栄ね。虫酸が走るわ」
相手は不可視化という非常に厄介な能力を持つ未確認生命体。
それも意思疎通が図れる個体ならば、慎重に言葉を交わすべきだろう。
だけどそれを理解した上で私は、敢えてありったけの毒を込めて返事をした。
脳裏に甦るのは、親友を亡くした鶴見さんの涙と、『もし仮に、私が目の前で結衣を殺されたら?』という血の気の引く想像。――そしてあの一件をずっと自分の所為の様に捉えている
何故彼が、彼女が、多くの犠牲者がこんな奴らの為に苦しめられなければならないのか?
それを考えれば、例え駆け引きだとしてもまともに言葉を交わす気にはなれなかった。
私は首を持ち上げられている様に浮かぶ第3号の様子から見えない未確認の大凡の立ち位置を予測し、そこに銃弾を撃ち込む。
確実に当てる為に僅かずつ狙いをずらして放った6発の弾丸の内、2発が何かに壁や床でなく何かにぶつかった。
「……フン。姿の見えない相手に怯むどころか矢を射るとはな。見た目の割に勇ましい」
「そういう貴方はさぞや醜悪な容貌をしているのでしょうね。人目に姿を晒せない程に」
「ハハハ、安い挑発だな? だがやめた方が良い。――俺の姿を見た奴は必ず死ぬ」
私の挑発行動に対しその意図を理解し嘲笑した後、威圧的な声音を発する透明未確認。
その物言いからは、奴の、引いては奴らの殺人行為に対するある種のこだわりが垣間見られる。
必要以上に自己主張が強く、態度は軽薄で性根は残忍。
何から何まで本当に、吐き気がするほど嫌いなタイプだ。
「コソコソと姿を消さなければ女性も襲えない臆病者が恫喝したって滑稽なだけよ? 私を恐怖で怯えさせたいというなら、姿を見せて殺しに来なさい。その度胸があるならね」
私は幾ばくかの打算と私的な怒りを胸に、挑発行動を取る。
1つ間違えればただリスクを高くするだけの愚行だが、奴がこの物言いに対しどの様な反応を見せるかで、見えてくるものがある。
「……ヒヒ、本当に面白い女だ。だが生憎と今は相手してやれないそれが
「ルール?」 さ
奴の口から発せられたのは思いも寄らぬ単語だったが、一方で思い当たる節は随所に見られた。
暴力的に第3号を窘めるあの『バラのタトゥの女』の様子。
他の個体と交流を持っている様子が見られる一方で、何故か1体ずつしか殺人行動を行わない奇妙な習性。
45人を殺害したこの見えない未確認が、その後一切殺人を行わず他の個体に入れ替わった理由。
身も蓋もない言い方になるがそれら全てが『彼らのコミュニティ内で定められたルールだから』で説明がつかないこともない。
仮に奴の言う事が真実だとするなら、少なくとも奴らの中には集団を形成し、その中で定められた一定の掟に従うという概念があるという事だ。
「――フ、少し喋りすぎたかな? 俺はこのクズを連れて帰る。お前は精々、あの“未熟で出来損ないのクウガ”とバヂス……ジュウヨンゴウか? 奴を相手に足掻くんだな」
「待ちなさ――「って、またこの
姿を見せない中で首を締め上げ気絶させた3号を担ぎ立ち去ろうとする見えない未確認。私は撃ち尽くした銃に弾丸を再装填し追撃しようとするが、そこで八幡の悲鳴と、何かが落下する音が聞こえた。
数瞬意識がそちらに向いた隙を逃さず見えない未確認は素早く離脱した。
気絶した第3号を担いでいる今なら追撃も可能だったがしばし迷った末、私は
◇◇◇
突如として新たな姿――“彼方より邪悪を捉える緑の戦士”に変化した
……つーか俺、こんな風に高所から落とされるの何度目だ?
死なないだけでメッチャ痛いんだぞちくしょう!
「ぐぅうううう……あ、あたまが……割れ……る……!」
背中から地面に叩きつけられた俺は衝撃で悶えそうになるが直後にそんな肉体的なダメージ気にならない程の衝撃が襲い掛かった。
常人の数千倍にまで強化された超感覚がもたらす情報の激流。
14号を捉えようと1度は制御に成功したが、物理的な痛みで意識が散漫になった事で再び五感に強制的に流れ込んでくる音や匂いに頭が破裂しそうになる。
「八幡! 大丈夫!?」
そんな流れ込んでくる多くの情報の中にあって、聞き慣れた女性のらしくもない慌てた声と、香水など使ってない筈なのに香る良い匂い(あくまで緑のクウガによる超感覚による物です。断じて
「ゆ、雪乃……来るな……また、
自分の元に駆け寄ろうとする彼女を止め、何とか再び14号の羽音を捉えようとした刹那、自身の中に流れ込む感覚の情報量が著しく減少した。
同時にまるで重力が一気に倍になったのかと錯覚する様な倦怠感が襲う。
この全身から生命力が搾り取られる感じに、俺は2度心当たりがあった。
約3週間前、今では一体化したベルトを装着し、第1号や第3号と戦った時の不完全体――“白いクウガ”のものだ。
「マジかよ……クッ」
そしてその事を自覚した直後、俺はそんなまともに戦えない半端な状態すら維持出来ず、比企谷八幡の姿に戻り、気を失った。
◇◇◇
文京区 ポレポレ 00:53 p.m.
「ごっそさん、んじゃ結衣、またなー」
「うん、とべっちはこれから研究室?」
「だべ、レポートマジで滞りまくりだからなー」
昼時の忙しさがまだ続く店内、お会計を済ませたとべっちに軽い挨拶を交わした所で、あたしはポケットにしまっていたスマホの着信音が鳴った。
発信者はゆきのん。
さっきのニュースから今頃新しい未確認を追いかけている筈の親友からの連絡に仕事中なのを忘れて通話ボタンをタップする。
「もしもしゆきのん? ――うん、大丈夫。ニュースで大体分かってるから。――うん、うん……。――えっ、今度は緑!? それでヒッキーは!? ――ホッ、うん。分かった。今ポレポレだからすぐに大学戻って調べてみるね! ――大丈夫だよ。言ったでしょ? もっと甘えてくれていいってさ! 任せて!」
時間にして30秒前後の通話を終えたあたしはスマホをしまうと共にエプロンを外し、丁度目の前に居たとべっちにそれを衝きだした。
「ごめんとべっち! 大至急やらなきゃなんない事が出来たからちょっと手伝い代わって!」
「うぇえええ何どしたの急に!? えっ、えっ?」
「お願い! 後で事情は説明するから! ――いろはちゃんもマスターもゴメンね!」
「あっ、ちょっ……結衣先輩!?」
当然の様に困惑するとべっちにエプロンを強引に渡して、お店を飛び出すあたし。
1時前でピークは過ぎてきたとはいえ滅茶苦茶心苦しいけど、気に病んでいる暇はない。
あたしは頭を切り換えて歩いて10分程の場所にある大学の研究室に向かって駆け出した。
待っててねゆきのん、ヒッキー。速攻で解読するから!
◇◇◇
葛飾区内 01:03 p.m.
「あー……クソ……あったまイテェ……」
14号に突き落とされ緑から白を経由して元の姿に戻った俺は現在、雪乃が乗ってきた車の助手席にもたれ掛かり、捜査本部への連絡や結衣への協力要請などの連絡を取っている彼女を待っていた。
不甲斐ない話だが、現在頭痛と倦怠感でまともに身体も頭も動かない。
一週間ぶっ続けで徹夜した様な、常軌を逸した疲労感に襲われていた。
「待たせたわね。取り敢えずコレ飲んで糖分を補給しなさい」
そして程なく、近くのコンビニのレジ袋を持った雪乃が戻り、俺にその中身の1つMAXコーヒーを渡す。
「おお……サンキュ」
腕を上げるのすら億劫に感じながらこういう疲労が溜まった時にうってつけの我が愛しのマッ缶を手に取り、プルタップを開けると同時に一気に喉の中に流し込む。
酷使した脳に糖分が染み渡り、カフェインが意識の覚醒を助長。
更に戦闘で渇いた喉も潤う。今の俺にとってMAXコ―ヒーは完全無欠の
「ふぃー……」
「はい、もう1本。火傷しない様にね」
あっという間に飲み干した俺に雪乃はすかさず2本目のマッ缶を渡す。
冷たい1本目とは異なり今度は温かい。
喉が渇いていた俺が1本目を一気に飲み干すと読んでいたのか、最初は飲みやすい冷えた物を出し、2本目はゆっくり身体を温める為に温かい物を出すとか、お前は
「貴方に言われた通り『彼方より邪悪を捉える戦士』の碑文の未解読部分の解読を結衣にお願いしたわ。――彼女、貴方の代わりにお店の手伝いしてくれてたみたいよ?」
「……そうか。最近アイツにはホント頼ってばっかで心苦しいな。一色にはまた嫌味言われそう出し」
「確かに彼女の目線で言えば最近の貴方は店をサボって結衣に押しつけるロクでなしだものね。……一色さんやポレポレのマスターにはやっぱり話さないつもり?」
「ん? ああ、まあ、今の所はな。おやっさん何かは割と4号よりだし多分受け容れてくれるだろうけど、一色とか多分、絶対止めろって言いそう出し。ある意味お前や結衣以上にがっつり」
「でしょうね」
俺が4号だと知った場合の一色のやかましさを考えるとやはりカミングアウトを躊躇してしまう。何よりおやっさん含め、俺なんかを家族同然に扱ってくれるあの人らにいらん気遣いをさせたくはない。
結果的にそれさせてしまってる結衣のことを考えると尚更だ。
第14号に対抗する為には件の『緑のクウガ』の力を一刻も早く把握しなければならないとはいえ、俺も雪乃も、あいつの優しさや献身に対し公私に渡って一方的に甘え過ぎている。最近は特にそれが顕著だ。
「八幡。私が持つからあなた今度、結衣をホテルのディナーにでも誘いなさい。フレンチが美味しい店を知ってるわ」
「は? いや、どこかメシに誘うのはともかくなんでお前持ちでそんな身の丈に合わん所に? そういうロイヤルな店はお前がアイツ誘っていけば良いだろ?」
運転席に腰を掛け、恐らく俺と全く同じ事を考えていたであろう雪乃が、突拍子もない提案をする。
というか女に金を出して貰って別の女と高級ディナーにありつく男とか、控えめに言って中々のクズだろ?
俺なんぞどんなに頑張ってもロイヤルはロイヤルでもロイヤルホストとかが限界。基本はサイゼだ。
「私は……捜査で忙しいから時間が作り難いから。それに私より貴方との方がきっと彼女も喜ぶもの」
「いや、研究室でしょっちゅう顔つき合わせてる俺よりお前との方が絶対楽しいだろ? アイツ、お前のこと超好きだし」
「だからそれも貴方の方が…………あ、いや、今のは忘れなさい。そろそろ真面目な話をしましょう」
「お、おう……」
話の方向がお互い気まずい方向に進みつつあったので素早く方向転換する。
ゆきんののヘタレ! とかは言わないし思わない。
何故なら俺も気まずいからだ。
「コホン。――第14号についてだけれど、今の所は次の犯行には及んでいないみたいね。貴方との戦いで受けたダメージからか、この腕輪型の装飾品を失ったからなのかは分からないけれど。恐らく、次に行動を起こす場合は犯行場所も仕切り直されると思うわ」
「だろうな…………すまん、俺の手落ちだ」
次の犠牲者がまだ出ていない安堵と、倒せた筈の14号を仕留め損なった遺憾を漏らす。
すると雪乃は一瞬横目に俺を見据えた後、呆れた様に溜息を零して尋ねた。
「それを言ったらあの状況で戦力の分断を提案した私にも責任があるわ。3号の特性を考えるならあの場では一先ず無視して、2人で14号を追い詰めれば或いは倒せていたかもしれないしね。――――あなた最近、1人で色々背負い過ぎよ?」
「背負い過ぎてる?」
そんな事を言われるとは思いもしなかった俺は首を傾げ尋ね返す。
すると雪乃は『自覚がないのね……』と呆れた様に、その主観に基づく俺の様子を説明した。
「まるで全ての未確認生命体を倒す事が自分に与えられた当然の義務……気取った言い方をすれば使命、かしらね? そんなふうに捉えている様に見える。……例の見えない未確認の一件から」
「………………まあ、今まで以上には気を張るようにはなったかもな?」
「気を張る、ね。知り合いが犠牲になったんだもの、気に病むのも気負うのも理解は出来るわ。けれどね八幡? だからといって貴方が全ての犠牲者に対し責任を感じるというのは、傲慢よ」
「っ……別に責任とか、そこまで自惚れちゃいねぇよ。そもそも命なんて、背負いきれるものじゃねえだろ」
雪乃の指摘に心当たりを感じながらも俺は彼女の見解を否定した。
いや、違うな。図星を衝かれて咄嗟に反発したというべきだろう。
――分かってはいる。偶々奴らを殺せる
それでも多分、人は良くも悪くも適応してしまうのだろう。
奴らを殺す
だから無自覚の内に履き違えて、間違えそうになるんだ……。
「……進歩がねぇな我ながら。痛々しい事この上ない。自意識高い系男子のままかよ」
自覚すると己が猛烈に恥ずかしくなり、俺は左手で顔を覆い項垂れた。
「貴方の考えの全てを否定はしないわ。悔しさとも不甲斐なさも、共感できるつもりよ。けれど……1人で背負うなんてつまらない真似を止めなさいとだけは、言わせて貰うわ」
すると雪乃はサイドブレーキ手前に置いた俺の右手に自分の左手を重ねた。
その名のように透き通る様に白い彼女の掌、しかしそこには確かに温もりがあった。
「背負う痛みも哀しみも、不安も憤りも責任も共有する。――それが
「…………前から思ってたけどお前、刑事になってから男前になってない? いや、昔から結衣とか一色と絡んでるときは王子様然としてけどさ……」
羞恥に身悶える相手の手をそっと握ってそんな言い回しとかもう完全に連ドラのイケメン主人公の振る舞いじゃないっすか雪ノ下警部殿。
ただでさえ高学歴高収入高スペックなエリート公務員とか最強フォームじみたチートなのにもうなんつーかまあ……カッケェなぁオイ。
一方、当の本人はそんな俺の評価に対し、やや不満な様子だ。
「何だかあまり褒められている気がしないわね……。確かに昔から『白馬に乗った王子様が迎えに来て何時までも幸せに暮らしましたとさ』という結末は好みじゃなかったけど」
あっ、やっぱそうなんだ?
シンデレラとか白雪姫とか『寧ろ
「……まあ、美女と野獣は嫌いじゃないわね。自分の醜さを言い訳に卑屈になった王子を真っ当に調教するという話は、何となく共感を覚えるわ」
「ちょっとー、何で人の顔を見てちょっと嬉しそうにそういう事言うのやめてくんない? 確かに精神的にも肉体的にも色々真人間から外れてる自覚はあるけどさー」
腐った目、捻くれた性根ときて日々人外じみた能力に目覚める身体。
まあ確かに、“元王子”の肩書きを引き算した野獣みたいだけどさ。
「あら、別に貴方の事だなんて一言も言ってないわよ? けどまあ、そうね。だとしても安心しなさい。――近くに
「え――――?」
さり気なく雪乃が言ったその言葉の真意を理解し、こっ恥ずかしい気持ちになるのはそれから暫くしての事だ。
余談ではありますがゆきのんは今回のガルメとの接触は八幡に話してません。
作中で述べた通り、八幡にとってガルメの事件はある種のトラウマになってる部分があるので、ただでさえまた使い方の分からない緑の扱いやバヂス対策とやること目白押しなのにこれ以上精神的な負担を背負わせたくないという考えなのですが、自分は「相棒なんだから背負わせろ」とか言いつつそういう隠し事しちゃうのがこの二人の関係です(笑)
なお、ゆきのんがシンデレラや白雪姫があまり好きではなく美女と野獣が好きというのは作者のねつ造ですのであしからず(笑)
次回もお楽しみに!