伝説を塗り替える英雄は唯一人(ボッチ)でいい。 作:烈火・抜刀
本作のコンセプトの1つとして『五代雄介が笑顔の下に隠した暴力を行使する苦痛』を八幡の独白を通して表現したいと思っています。
戦場に遊びなど不要!
悲しみを仮面に隠して拳を振るう様こそライダーの本懐!
八幡には今後も存分に苦しんでもらいたいと思います(笑)
長野市 中御所 サン・マルコ教会前駐車場 08:36a.m.
南長野のレストランで比企谷君達と別れた後、私は警備部の先輩からの要請に従い亀山君を連れて明け方に通報があった事件現場を訪れた。
「お待たせしました海老沢さん。けど警備部の我々がどうして殺しの事件に?」
「おおっ、来たか雪ノ下。いやな、被害者の仏さん見れば分かるだろうが、どうにも只の人間の犯行じゃないっぽいんだコレが」
そういって恰幅の良い壮年の先輩刑事――海老沢さんが遺体の置かれた状況を説明してくれる。
まず被害者の死因。衣類などは多少抵抗の後が見えたものの目立った外傷は見られず、ただ首筋に小さな穴が2つ。詳細は司法解剖待ちだがそれ以外に考えられないとの事らしい。
そしてそんな不可解は変死体が近場で5人、発見された。
「極めつけにこの近くで朝まで呑んでた酔っ払いが空を飛ぶ化物を見たとか言いやがるんだ。……昨日の奴の犯行じゃないのか?」
最後の証言については半信半疑なのだろうが、海老沢さんはこの仮に人間のものなら稀に見る猟奇的犯行と言える一連の殺人を昨夜の未確認生命体1号ないし2号の犯行ではと考えており、彼らと至近距離で接触した私の所感を聞きたがっているようだった。
「第1号も第2号も、口の形は人間と大きく異なっていましたし、空を飛ぶといった能力は無い様に見えました。……けどもし仮にこの事件がそうだとするなら――」
「オイオイオイ! まさか第3号が存在するなんてそんな冗談じゃないこと言うんじゃないだろうな!?」
昨日の惨劇を知る海老沢さんは冗談じゃないといった表情で戸惑うが、私は自分でも驚く程、そんな己の推察を俯瞰できていた。
それは多分、県警本部は『同一の個体』と捉えている遺跡調査団を全滅させたビデオの怪人と昨日市内で暴れた蜘蛛の怪人が異なる存在と直感した故だろう。
ビデオの怪人――分類するなら“未確認生命体第0号”といった所だろうか? と第1号。
確かにどちらも人智を越えた力を持つ怪物に違いない。だが第1号と接近し襲われるという経験をして尚、身体の芯から感じる恐怖はビデオの中の第0号の方が上だった様に思えたのだ。
数千数万年の時を超えて復活した怪物、1体いるなら2体以上いても不思議ではない。
未だ第1号の足取りも掴めない状況で更にもう1体、そして第2号となってしまった“彼”は果たして自分の言う事を聞いて素直に帰っただろうか?
◇◇◇
「っぶねぇ~。まさかいきなりアイツと出くわしそうになるとは思わなかった……」
由比ヶ浜と別れてすぐ、スマホを頼りに長野市内で昨日から起こった事件事故にまつわる情報を漁り、その中で特に目を引いた『教会前に吸血鬼現る!』というB級映画感漂う記事に目を付け現場と思しき中御所まで移動した。
しかしいざ現地に着いていれば先程『東京に帰れ』と釘を刺して別れた雪ノ下が既に捜査を始めていた。俺は慌ててスキル『ステルスヒッキ―』を発動。
武術の達人らに匹敵する領域に達した気配を消し、近くに居た地元の野次馬達と同化した。
あんな事を言われた後でまた現場で再会しようものなら果たしてどんな罵詈雑言が待ってるやら……。
しかし警察――それも雪ノ下のような警備部の人間――が目を付けるという事は情報に信憑性が伴った証左でもある。
ヘタに周囲を嗅ぎ回ったり聞き込みをしたりすると雪ノ下に捕まるか、逆に俺が『腐った目で彷徨く不審者』として通報される可能性は極めて高い……どっち道ご用だね。うん……。
なのでまずは一先ず、懺悔にでも訪れた体を装ってまだ警察がマークしてないサンマルコ教会に話を聞こうと扉を開けた。
―――が、礼拝堂の中には異様なまでの怒気を纏い無言でこちらを睨み付ける中年の神父がいた。有り体に言って、超怖ええ……!
えっ、何? もしかしてこの神父様ったら俺の腐った目を見て、悪魔か何かと勘違いしてない!?
誤解だ! けど通報だけは色んな意味で勘弁して欲しい俺はそのままきょどり気味に会釈し、慌てて教会の外に出て行き、結局その後、めぼしい情報を得るには至らなかった。
「――ギジャバビギボグスジャズザ(――イヤな匂いのする奴だ)」
◇◇◇
長野市 小柴見 17:04 p.m.
事態に変化が起きたのは、それから9時間近く経過し、薄暗くなってからだ。
警戒態勢でいつもより目につく警察官を避けつつスマホを頼りに情報の収集を行っていた俺の前をけたたましいサイレンを鳴らすパトカーが通り過ぎた。それも1台や2台ではなくだ。
奴らだ絡みだと直感した俺は急ぎそれを追いかける。
ここで車かバイクでもあれば問題なく追いかけられるんだが、生憎新幹線で来たから足頼み。
我ながら締まらねえなぁ!
しかし幸い……と言うには抵抗があったが、パトカーはスグに停まった。
人気の無い路地裏では、1つの方向に銃を構え発砲する数名の警察官と動かなくなった何人かの警察官……。
そしてその中心ではまるで獲物を前に舌舐めずりする様に手で口元を拭う、蝙蝠の様な怪人――≪未確認生命体第3号≫の姿があった。
「やはり夜行性なのね……!」
そんな休むことなく銃弾を放つ警官らの中にはライフルを構える雪ノ下の姿もあった。
しかしそれだけの砲火を浴びて尚、第3号は平然とを歩を進めて近場に居る警官から端から薙ぎ払っていった。
「ジャザシ バルバサ、ゴンバ ン ブヂグジ ザバ(やはり噛むなら、女の首筋だな)」
「くっ……! 下がってろ雪ノ下!」
「比企谷君!? どうしてここに……!」
動揺する雪ノ下を余所に俺は第3号の元へ駆け抜け、奴に殴りかかる。
「っらああ!」
「っ!」
すると昨日と同様、俺の身体は振り下ろした右腕から順に
驚愕する彼女を背に、俺は勢い任せに第3号に拳打と蹴りを浴びせ続ける。
気持ち悪い……。
手や足に残る後味が悪い感触に本人の意思とは関係なく昂ぶる感情、痛みという手段を用いて他者を屈服させる事そのものへの吐き気のする様な嫌悪感。
そして状況を言い訳に頭の片隅でそれを正当化してしまう自分の卑しさ。
TVで見るヒーロー達はまるで鮮やかなショーの様に同じ行為を華やかに彩るが、現実はこんなにも、違うモノなのか?
本当に――何もかもが気持ち悪い。
それが人生で始めて体験する『誰かを殴る』という行為に対する俺の率直な感想だった。
「ふっ! ぐっ! アアアアアッ!!」
そんな不快感を紛らわす様に雄叫びをあげ拳を古い続ける。
だが、十発近い拳を受けて尚3号は僅かに後ずさるのみで、まるでダメージを受けた様子がない。
昨日の蜘蛛男――第1号の時と同様に
「マンヂデデンパ、ボググンジャゾ(パンチってのは、こうするんだよ)ハン!」
「ッアゥク!」
そんな俺の微力を嘲笑う様に第3号はひとしきり攻撃を受けた後、加虐的な本性を現すように口角を上げ反撃してきた。
僅か数発の拳と蹴り、しかしその威力は俺の放ったモノとは比較にならない威力を前に俺は数m吹き飛ばされ、元の姿に戻ってしまった。
「くぅ……い、痛ぇええ……!」
地面に這いつくばる姿勢になった俺は起き上がろうとする痛みで力が入らない。
このままでは殺される。
頭ではそう理解している筈なのに肉体が脳の出す危険信号に応えてくれない。
第3号はそんな俺を地べたで藻掻く虫を見るような目で嘲りながら、とどめを刺そうと歩み寄ってくる。
プゥウウウウウウウウ!!
「キッ!」
その時、奴に向かって1台のパトカーが“ライトを付けず”奴を轢こうと突進する。
しかし昨日の第1号は俺が力任せに転がした大型車の突撃をものともしなかったんだぞ!?
誰が運転してるか無謀過ぎるぞ……!
「キキッ」
第3号も問題ないと判断してるのか避けようとせず正面から立ちはだかる。
だが接触する直前、運転手はそれまで消したいたライトを点灯。
「キィイイイ!?」
本物の蝙蝠と同様、光りに弱い特性を持つらしい
目を潰された所で少なからざる車体の質量を直撃に数m吹き飛んだ所でそのまま上空へ飛翔。
そのまま闇夜に消えていった。
……助かった。
「比企谷君っ!!」
当座の危機から脱したことに安堵して意識が遠くなる俺の名を、パトカーから降りた雪ノ下が呼ぶ声が聞こえ……た……。
原作との相違点で、この場でのゆきのんは一条さんと違い、肋骨が折れていません。
流石に彼女にあの不死身な刑事さんと同じタフさを要求するのは無理があると思いますので(汗)
代わりにヒッキーの方に、気持ち多めのダメージを受けてもらいました(笑)