昼は刀鍛冶、夜は酒場   作:kouga

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祈りを叶えた少女 結

ずっとこの時を待ち望んでいた。あの日、あのボス部屋での言葉があの剣が頭から離れることなんて1度もなかった。月日は流れた。もう踏ん切りは付けているつもりだ。それなのになんで…なんで…

 

 

「なんで…届かない…」

 

「……」

 

 

 

――――――――――――

 

 

「ユウキが…負けた…?」

 

「嘘でしょ…だって…っ!こんな一方的に…」

 

 

観客席だけではない。その中継を見ていたもの全てが驚き目を見開き、動揺していた。決勝戦が開始され3分が経過した頃、既に決着は着いていた。あのキリトをも圧倒した絶剣の少女、その強さは瞬く間に広まりこの世界に名をとどろかせたそれなのにその少女は何もすることが出来ず、ただ一方的に責め立てられ地に伏していた

 

 

「負けんな!」

 

「負けないで、ユウキ!」

 

 

スリーピングナイツのメンバーの声だけがこのコロシアムに響く、皆が涙を浮かべ今にも戦地へと踏み入りそうな勢いだ。それでも、それをしないのは自分達のリーダーを信じているからだろう。すると、その少ない声は次第に大きくたくさんの声に変わっていく。

 

 

「…アスナ…」

 

「うん…!」

 

「「立て\立って!ユウキ!!!」」

 

 

その声はきっと届いたのだろう。少女はボロボロの体にムチを打ちその地に再び足をつける。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

遡ること数分前。熱狂の渦に飲み込まれる観客達。まさに今がピークと言わんばかりに会場は活気に溢れていた。そんな会場、コロシアムの中心に2人の剣士が立つ。

 

 

「……」

 

「おほぉ〜すっげ〜…ミーハーな連中ばっかだなぁ。お前さんもそう思うだろ?絶剣の少女、ユウキ…だっけ?」

 

「別に、生憎と集中してるからさ…周りの声は聞こえないんだ。」

 

「おいおい、そんな悲しい事言うなよ。楽にやろうぜ〜ここにはお前目当ての客の方が多いんだ。だから―――殺気くらい、もうちょいしまえ。」

 

 

いつまでのも舐めたような態度を取り続ける男に対し、ユウキは殺気を剥き出しに牽制する。だが、そんな事までも見透かしたような薄ら笑いの絶えない男。こちらの沸点はますます上がる。

 

 

「…ボクさ、こんな体だから…結構人の視線に敏感なんだ。だから、今の仲間達と出会うのも難しくなかった。そのせいかな…見ただけで分かっちゃう。どっち側の人間なのか」

 

「……」

 

「でも、貴方を見た瞬間。区別ができなかった…それどころか、初めてあなたを見た瞬間…殺さなきゃ、って思ったんだ。

ねぇ、お兄さんは―――どっちなの?」

 

「どっち、か…そうだな〜俺に攻撃当てれたらヒントを出してやるよ。つっても、お前さんの剣じゃ…―――俺は殺せないぜ?」

 

「!」

 

 

本の数十秒の会話。それなのに、たった最後の一言で全身の毛が逆立ったかのようにボクの体は一直線に男の懐へと走り出した。

 

 

「…へぇ…」

 

 

確実に仕留めたはずだった。しかし、男は無表情のまま、さも当然のように顔を傾け刺突をかわし不敵に笑った。その顔を見て、一瞬だけ恐怖が身体中を駆け巡る。

 

 

「スゲーな。初速まで副団長殿と同レベルか…いやはや参ったねぇ〜…かすり傷も付けられたことだし…こりゃ…―――加減できそうにねぇな」

 

「!ごっ?!」

 

「耳の穴かっぽじってよく聞け〜ヒント1、どちらかと言うとそっち側…だなっ!!」

 

 

後方へと大きく飛び跳ね下がろうとした時、男の拳が容赦なく腹部へと突き刺さり吹き飛ばされる。地に背をつけ倒れていると、目前に迫る片刃の剣。それを何とか避けつつ、またも距離をとる。

 

 

「はぁ、はぁ…!」

 

「驚いたなぁ…確実に首は取ったつもりなんだが、未だについてやがる。それどころか完璧に避けるたぁ、目がいいだけじゃなく感もいいらしい。でも…」

 

「?!い゛っ!?」

 

「こいつはどうかな?」

 

 

先程まで装備していた長刀が瞬き一回のあいだにいつの間にか弓へと変わっていた。次の瞬間には肩に矢が深く突き刺さり上半身が仰け反りそうになる。痛みに耐えながら相手を見てやると前方から視認できる数ではあるが数十を超えた矢が目前まで迫る。

 

 

「ふっ!」

 

「まだまだぁっ!」

 

「!はぁぁぁっ!」

 

 

既に50もの矢を切り落とした。それでも止む気配はない、勢いは収まるどころかどんどん上がっていき、数本の矢が体に突き刺さった後にようやくそれは終わりを迎えたかにみえた。

 

 

「!」

 

(属性付きの、魔法?!)

 

「終ぇだ。」

 

 

最後に放たれた2射。一方を躱し、もう一方を剣で弾くとそれは爆弾のように激しく辺りを荒らし、僕の体を浮かす。すると、後方の壁に突き刺さったもう一本の矢が爆発し浮いた体を男の元まで運ぶ。

 

 

「っ!え…?」

 

「まぁ、楽しめた方か…」

 

 

空中とはいえ、完全に体制を立て直したはずだった。相手に合わせて完璧なカウンターを放ったはずだった。それなのに、肩から腹にかけてばっさりと斬られていたのは僕の方だった。

 

 

片膝を付き、そのダメージ、その痛みに言葉をなくす。そうして、改めて男を見た時、ボクの中は恐怖で埋め尽くされた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

「リザインしろ。見当違いだ…お前さんは、それじゃねぇ。ただ、過去に捕われ、祈ることしか出来ない無垢な少女だ。」

 

「!」

 

「おぉ…怖い怖い。そんなに睨むなよ…確かに強い…でもよ〜

 

 

―――その祈りは、誰のためのものだ?」

 

「……」

 

「その祈りは、誰に捧げてんだ?」

 

「……」

 

「神様に、いるはずのないものにすがってるようじゃ…俺には届かねえよ」

 

「っ!」

 

「その剣は―――あの世界に届かねえよ」

 

 

その瞬間、恐怖に怯えていたはずの少女の目に憎しみがこもる。自分の行いを否定されたことにだろうか?否。この強さを認めてもらえなかったからか?否。それは少女のたったひとつの希望。姉とかわした最後の祈り。それを否定されたからだ。

 

 

「マザーズ…!」

 

「はぁ…」

 

「ロザリオっ!!!」

 

 

最強のOSS。この技の前に倒れたものは数多い。この世界における、絶技。彼女はその祈りを信じて止まない。だからこそこれを使ったのだ。しかし、砂埃から現れたのは…

 

 

「なんで…届かない…」

 

「言っただろ?その祈りは誰のためのものだ?」

 

「…嘘、だよね…」

 

「いーや、現実だ…」

 

「マザーズ・ロザリオを…模倣した…?」

 

「はぁ…勇者は―――お前じゃなかった」

 

「!」

 

 

男こと主はピンピンしていた。何故?そんなものは絶剣の少女が言ったのと同じだ。主は、あの絶技、OSSでの11連撃を見ただけで模倣し、スキルとしてでは無く己の技術のみで放ち相殺したのだ。

 

 

「……」

 

「とっ!たぁっ!」

 

「よっ…こら、せっ!!!」

 

 

先に動いたのは絶剣の少女、主の剣を足で踏みつけ前進しながらまたも刺突を繰り出す。だが、それを見越していた主は上半身を仰け反らせ躱した後、全力で手元を蹴りあげ少女の手から剣を奪った。

 

 

「 っ…!」

 

「しっ!ふっ!そらぁっ!」

 

(やばい…意識が…)

 

「返すぜ?」

「…あ……」

 

 

そこからは少女に反撃の予知などない。イエローからレッドまで減ったHPバーなどお構い無しに、ただ一方的に体術を繰り広げられ重い一撃が入ったとともにその華奢な体を吹き飛ばし、トドメと言わんばかりに宙を舞っていた剣の柄を蹴り飛ばしその体を壁へと縫いとめ、矢の消失とともにその体は地面へと倒れ伏せる。

 

 

「取り越し苦労、だな…眠れ、絶剣の少女。借り物の祈り、借り物の願いと共に―――消えろ…」

 

 

そうして俺は、最後の1射をその体へと打ち込む。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

強いなぁ…ホントにものすごく強いや。今まで戦ってきた人よりも、苦労して倒したボスなんかよりも、誰よりも何よりも強い。もう、疲れちゃった…いいよね。ボクはこの世界に名前を刻んだ。ボクはこの世界で生きた。それだけで、もう満足だよね。

 

 

「負んな!」

 

(無茶言わないでよ…)

 

「負けないで、ユウキ!」

 

(無理だよ…ボクじゃ、到底及ばない…)

 

 

声が聞こえる。ボクを励ます声が聞こえる。でも、もう無理だよ。強すぎる。次元が違った、格が違った、覚悟が違った。今ならわかる。男の背負ってるものはボク何かとは違いすぎる。男はこの世界を背負ってるんだ。今だから、絶望してしまったこの目だからみえた。そして自覚した。この人には勝てないと。それでも…

 

 

「「立て\立って!ユウキ!!!」」

 

(キリト、アスナ…ごめん…)

 

「消えろ」

 

 

迫り来る矢をボクは見届ける。これが刺さればボクは負け、この世界から完全に消える。何となくそんな感じだ。でも、なんでかな?体が勝手に動いちゃった。

 

 

「!」

 

「ユウキ…」

 

「……」

 

「…ふぅ〜…貴方の言った通りだ…」

 

 

死ぬのが怖いとかじゃない。今更、何か未練があるとかじゃない。ただ、最後にボクは祈るのではなく、願ってしまったのだ。ボクは最後に受け継いだ祈りではなく、自分自身から零れ落ちた最後の願いを叶えたいと、思ってしまった。

 

 

「この祈りは、きっとボク自身のものじゃない…誰かに与えられた借り物の祈りだ…だからこそ…―――ボクはボク自身のためにこの剣を握る。」

 

「!……覚悟はあるのか?」

 

「うん!だって、これは…誰のものでもない。ボクの―――最初で最後の願い、最初で最後の希望だ!」

 

 

駆け出す足取りはなんでか軽い。ここまで、ダメージを蓄積し、技術任せの戦いをしてきたというのに、なんでだろう。ずっと、家族でやっていた祈りを捨て、私欲のために走り出しているのに、なんでだろう。ボクは今、ボク自信をさらけ出している。

 

 

「マザーズ・ロザリオ?!」

 

「違う…これは…」

 

 

アスナから驚きの声が上がる。無理もない、最初の剣戟を見るからにそれは先程、完璧に封じられた、マザーズ・ロザリオのはずだった。だが、少女はそれを皆の想像をはるかに超える力、技を生み出す。

 

 

「!」

 

(11連撃なんて優しいもんじゃねぇ…)

 

「片手剣のみの16連撃?!」

 

「―――セルフ・ラストホープ!」

 

(これが、ボクの全てっ!)

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

砂埃が舞い上がる。想像しがたいほどのエフェクトを上げながら、二つの人影はそこから現れた。

 

 

「……」

 

「そんな…」

 

「いや…この勝負、あいつの負けだ。」

 

 

倒れそうになる小さな体を抱きとめ、支える男。主は驚いていた。人間の力というものの素晴らしさに、そしてたった今出来た土産話に。

 

 

「見事。」

 

「―――」

 

「誇れ。絶剣の少女…―――ユウキ」

 

 

最後の一撃、それは物の見事に主の刀を砕き、その首筋へと深く鋭い傷を付けた。それも、砕けれたのは守りを象徴とする小太刀。戦闘経験の豊富な坊主だからこそ勝敗が分かってしまった。

 

 

「お前さんのその剣は、確かに届いた。お前もまた…―――あの世界の、もう1人の勇者になりえた。」

 

「―――」

 

「誰も理解出来なくとも、俺が認めよう。喜べ、お前さんの祈りは…形を変え願いとなり、自らの力でそれを叶えたんだ。」

 

 

 

言葉はない。気を失っている少女。正直すぐにでも消えてしまうものなのだが、今は憶測に過ぎないが両方の少女が一瞬だけ意識を失っているのだろう。だからこそ、自分はこの勇者を認めよ、心から祝福しよう。

 

 

 

「リザイン…俺の負けだ。

 

坊主、副団長殿。大切にしてやれよ?お前さんたちのお仲間だ。」

 

 

デュエルトーナメント、優勝者は絶剣の少女―――ユウキという事で、会場はまたも歓声に満ち溢れる。自分はと言うと、その少女を2人へ渡し欠けてしまったお面を外し会場をあとにする。

 

 

「ふぅ〜つっかれたぁ〜…でもまぁ…土産話はできたぜアッキー。

しこたま、聞かせてやるよ―――俺(魔王)が出会った勇者の話を」

 

 

誰もいない青空へと言葉を漏らす。ここ数日鍛冶屋をサボっていたため不安になりながらも今日も今日とてこの世界は正常運転

 

 

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