昼は刀鍛冶、夜は酒場   作:kouga

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祈りの先

(ボク、ボク…頑張って生きた。ここで、生きたよ…―――姉ちゃん。)

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「!

……ここは…?」

 

 

目を覚ました時、そこははるか上空。アインクラッドは愚か世界一面を見渡せるほどの絶景。翼では到底たどり着けないほどの美しい景色が広がる空の上だった。

 

 

「そっか…死んじゃったのか…」

 

 

理解するのに時間はいらない。見渡す景色、自分が置かれている現状を確認するに、ボクはようやく終わりを迎えてしまったらしい。それでも、目の前の美しい景色に自らの意思で感情をあらわはに出来るのは素晴らしいことだ。

 

 

「綺麗だな〜」

 

「だろうな。」

 

「え?」

 

 

日が沈み始めた頃だった。様々な疑問が自分の中にあるが、そんなことはどうでも良くなるくらい…黄昏てしまう自分がいた。最後の最後、ボクは証を残せたのだ。あの剣をボクの意思を受け継いでもらえたのだ。本当にもう思い残すことは無いはずだった。だが、そこに聞こえた声は聞きなれたもの。自分が今、聞きたかった声だ。

 

 

「おめでとう。絶剣の少女よ…君はこの世界で生きた。名を刻んだ。祈りを叶えたのだ…」

 

「はは…」

 

「そこで、君に問いたい。最上階…勇者の宿敵とも言えるこの魔王とサシで勝負が出来る。」

 

「はははっ!」

 

「さぁ、君はどうしたい?」

 

「こんなのズルいや…貴方が…―――マスターがそれだったなんて…」

 

「できたシナリオだろ?」

 

 

おかしな話だ。笑いながらボクは涙を流していた。そこに居たのは普段とは全く違う姿をした1人の男だった。鍛冶屋の時の作業服に頭に巻いたタオル姿や酒場の時のエプロン姿とも違う。男は真っ白な袴に朱のラインが刻まれた服。そして、顔を覆っていたフードを脱ぎ捨てその場に現れた。

 

 

「ねぇ、マスター…ボクは今、どういう状態?」

 

「そうだなぁ…ま、死んだは死んだ…でも魂だけがこの世界で彷徨ってる…って感じか?」

 

「だよね〜」

 

「だからこそ…お前さんをここに招待したんだ。勇者様には特別待遇!ってのが、歴代の魔王からの教えなんだよ」

 

「?マスターでも適わない人がいたの?」

 

「あたぼうよ!俺じゃ、到底適わない…誰よりも合理的でありながら、誰よりも人間でいた…それでいて、誰よりも夢を追い続けた…そんな、少年がな…」

 

 

正直驚く他ない。自分の知る中でこの男は手も足も出ない程に強い人だ。それでいて未だに誰にもその底を見せていないような人なのだ。そんなマスターを実力で負かした人が気になってしょうがない。でも、そんな事よりも巡り巡って来た最後のチャンスにボクは興奮を抑えられずにいた。

 

 

「それで、もう一回聞くけど…絶剣の少女…いや、勇者ユウキ。お前さんはどうしたい?」

 

「…決まってるでしょ…この剣を、この祈りをあなたにぶつける!」

 

「承った。全霊をもって、来い。勇者ユウキ…!!」

 

「!」

 

「!」

 

「やぁぁっ!!!」

 

「はぁぁっ!!!」

 

 

 

互いの剣が交差する。響き渡る空間は広いはずなのになぜが耳に届くほどに大きく金属音を鳴らす。

 

 

「!」

 

「視線を外すな!」

 

「くっ?!」

 

「無闇に手ぇ出すな!相手をよく見ろ!」

 

「っ!はぁぁっ!」

 

「…………」

 

「…ねぇ、マスター…」

 

「あん?」

 

「ボクは、この世界で生きた…この剣で名を刻んだ、願いを叶えた…だから今だけ許して…」

 

「……」

 

「最後の願いは…最後の希望はもう叶った…だから、この祈りを…受け継いだ祈りを、借り物で終わらせたくない!」

 

「……」

 

「…っ!!」

 

 

戦いながら敵であるはずの自分に的確なアドバイスを与えつつ、それでも剣戟を防ぎ、反撃の隙さえ疑う余裕。彼の言葉、彼の剣にボクは救われてきた。だからこそ、彼の否定した祈りで…この戦いに終止符を打ちたい。

 

 

男の懐へと駆け出す。距離にしておよそ5メートル。剣を構え、ソードスキルの発動を準備する。距離にしておよそ2メートル。そして、目を瞑り剣戟を受け入れようとしていたマスターの懐へと届いた。

 

 

「マザーズ・ロザリオっ!!!」

 

「……」

 

 

おびただしい量のエフェクト、ありえないほどの砂埃が舞う。ボクの祈り…最強の11連撃。それを打ち放とうとした時…残酷にも時間は訪れた。それらは全て―――空を切っていた。

支えられる体、目を瞑りながらもボクを抱きとめたマスターの腕。

 

 

「……」

 

「…悔しいな…やっと、届くと思ったのに…」

 

「届いたさ…きっと…」

 

「……」

 

「これは…お前さんが受け継いだ…多くの意思を受け継いだ、最高の…祈りだった…!」

 

「!」

 

 

その言葉に安堵してしまった。安心し身を委ねてしまった。聞かされていた通り今のボクは魂だけの存在。そう長くは居られないと分かっていた。だからこそボクを真正面から受け止め、受け入れてけれた人の言葉に安心しきってしまった。

 

 

「…ねぇ…マスター…」

 

「あぁ?」

 

「ボクの剣は…ボクの祈りは…ボクの願いは……本当に届いたかな…?本当に…残せたかな…?」

 

「当たりめぇだろ…みんなが忘れても…俺だけはずっと…ずっと!覚えててやる…その名を…《絶剣》の少女…いや、《勇者ユウキ》の名を…!俺はこの世界に刻み続ける…!だから…」

 

「…うん…ぅん…!ありがと…ぉ…マスター…」

 

「…あぁ…ゆっくり、眠れ。

 

―――ボクっ娘…お前は、俺(魔王)が認めた最高の…最強の勇者だった。」

 

 

 

 

 

その日、男の部屋にもう一振の剣が飾られた。

 

 

―――一本目は泣き虫の少女が懸命に生きたあの世界での証(槍)

 

 

 

 

―――二、三本目はあの世界を、初代の魔王を打倒した親愛の証(剣)

 

 

 

 

―――四本目は、夢を抱き続けた少年の思い描いた理想の証(剣/盾)

 

 

 

 

 

―――そして、五本目は…この世界で生きた…この世界に名を刻み、誰よりも、何よりも懸命に生き続けた少女の証……

 

 

そう、祈りを叶えた少女の証(剣)だ。

 

 

 

 

今日も今日とて鍛冶屋は正常運転。

 

 

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