ダンジョンで幸せを探すのは間違っているだろうか   作:モーリン

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14話

濛々と立ち込める土煙を背景に、リューは貴族に髪を乱雑に掴まれ、強引に顔を上げられた。

その痛みを受け入れながら、コウが死の暴風に晒された事実に光が籠ってない瞳から涙を流した。

 

リューのその弱々しい姿に嗜虐趣味がある貴族の男はゾクゾクとした興奮を覚え、その下腹部は恐ろしい程膨張していた。

男の中ではリューをこのまま裸にしながら男達に死なない程度に延々と嬲らせる姿を思い浮かべ、口からよだれを垂らす。

 

傷つく女の鳴き声を早く聞きたい

今も呻く彼女をみて男はそう思う。

 

無様に這いつくばるこの女を早く犯したい

傷が付き、衣服が所々破かれ、その卑猥な姿をみて男はそう思う。

 

苦しむ女に自分の一物を咥えさせたい

既に下半身の一物はこれまでにない程、このエルフを犯すために膨張していた。

 

この興奮を全てぶつけたい

この猛りを全てぶつけ、泣き叫びながら嬌声で懇願する彼女を幻視した。

 

そして目の前のエルフが息も絶え絶えになり自身の白濁に全身が染まる姿を早くこの眼で見たい

全ての猛りをぶつけ、虚ろな目で虚空を見つめるこの女の姿を幻視して、その後も犯し尽くしたいと男はそう思った。

 

そんな下賤な想いが頂点になり、貴族がリューの衣服を取ろうとし、絹が裂ける音が聞こえたと同時に、聞こえる筈がない声が彼らの鼓膜を打った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――汚い手で彼女に触るな

 

 

 

 

その声が届いた瞬間、リューの髪を掴んでいた貴族の腕が宙を舞った。

 

 

「へ?……あ、ああ、あがあああああああああああああああ!!」

 

腕を斬られた痛みを自覚し、溢れる血を抑え転がる貴族。そしてリューは引っ張る力が無くなった事でその体が力なく床へと投げ出される刹那に、優しく温かい手が、彼女の冷たい手を握ってくれた、あの暖かい手が腰に回された。

 

そしてその回された暖かい手の持ち主を見て、リューはその涙を溢れさせた。

生きててくれたと。認めてくれた人が、自分の居場所を作ってくれた人が、生きててくれたと。

自分のせいで傷つき、それでも自分を助ける事を諦めなかった男が、自分の全てを奪うと宣言した男が、端整ではないが、その優しい顔でリューを捕らえていた。

 

「リューさん。……貴女の全てを奪いに来た」

「コ、コウ……さん……っ」

 

そうしてコウはリューのその傷ついた体を労わる様に、腰と膝の裏に手を回し、涙が溢れているリューへ向かってニヒルに笑う。

 

「て、てめぇ!! 何故生きてやがる!」

 

全ての魔剣が折れ、その出力を最大限に発揮した痕跡がディティトの瞳に写っている。それはつまり、誰もが死んでもおかしくない状況を生き延びたという事実。それはレベル6でも困難な程の状況を生き延びたという事。

故に何故生きて居るのか、その驚きの胸中を吐露するかのようにディティトはコウへ叫ぶ。

 

「いえ、実際賭けでしたよ。……ただ、彼女が残してくれた物のお陰で、俺は生きて居る」

 

リューを自分の後ろへ立たせ、ディティトの問いにリューの方を向いて答えるコウはまるで、彼の存在に意を返さない様な、そんな態度でリューが流している涙を血で汚れていない指で優しく拭った。

 

「あっ」

 

ふわりと優しく拭われたその指がリューにとって暖かく、何時までも感じて居たい感触であった。

 

「リューさん。少し、ここで待っていてください」

 

そうして貴族の顔を近づけられた箇所のそのエルフ特有の耳に顔を近づけ、吐息が感じられる程の距離でコウはリューにそう伝えた。まるで、汚された箇所を自分の物だと上塗りする様に、俺の物だとマーキングするように。

 

「っあ……はい」

 

しおらしくそう返事するリューを残し、バルコニーでのたうち回っている貴族の体を壁に縫い付ける様に、されど傷を付けない様に精密な剣の操作で服だけを縫い留め、磔にした。

 

「――――投影(トレース)開始(オン)

 

ぽつりと詠唱するコウはその手足に金のラインが幾何学的な法則で流れる漆黒の西洋甲冑をその身に顕現させ、リューの視界から音を置き去りにする速度でその地を蹴った。

 

「ぎゃああああ!」

「ぐあああああ!」

 

魔剣を持って居た警備兵達を次々と消える様な速度で壁へと弾き飛ばし、今度こそ再起不能な程の傷を与えながら彼らは苦痛で悲鳴を上げ、その体を横たえる。だが、彼らはまだ死んでいなかった。

 

そこに命を刈り取る者が彼らに情け容赦なくその牙を突き立て、その力を我が物とした。

 

「ぐぅ……あ……」

「へへ、あー……これこれ、この感覚たまんねぇな」

 

そうして生きて居る警備兵を全て自分の力になる様にその命を刈り取り、スキル、【人食い人】(マン・イーター)で自分の力へと変えていく。その力は殺した相手のステータスを半分自分の力へと取り入れる事だ。故に、レベル6の力を手にし、今はレベル7に迫る勢いの力を手にした。

 

今の力では絶対に勝てないと分かったからこそ、コウと思われるその漆黒の騎士が情けを与えた相手の命を刈り取り、自身の糧にしたのだ。ぶわりと迸る魔力の奔流がディティトを包み込む。その強化された身体能力はかの【猛者】にすら届きうる牙となった。

 

そしてディティトはその魔力の心地よさと強くなったという快感で笑い声を上げた。

 

「はははは! これだ! この全能感! さぁて、どうやってころ」

「遅い」

 

ディティトは最大限の警告に従い即座にその鎌を横へと構え、そしてその途方もない力を受け、破裂音とも爆音とも取れる激しい音と共に勢いよく吹き飛ばされた。

 

「ぐううううううううう!?」

 

肩の骨が外れそうになる程の衝撃を受け、ディティトは驚愕に顔を彩らせた。

 

あり得ない。あり得てはならない。

 

その胸中を抱きながら、既に地面になっているメインホールがあったであろう場所へと足を付け、その衝撃を殺しながら地面を滑って行く。が、その後ろから途方もない衝撃が加わり、前方へと吹き飛ばされる。

 

「がああああああああああ!?」

 

地面をバウンドしながら館のバルコニーの下の壁に激突し、崩壊しかかっていた階段を崩しながら、ディティトはそのレベル7に迫る身体能力を遺憾なく発揮し、空気の壁をぶち破る速度、いや実際矢と同じ様な速度でディティトのその様を未だ佇んで見ているコウへと疾走する。

 

リューの眼には既に追えない速度を出すディティトのその死の閃光をコウはその蒼い刀身の剣を用いて片手で受け止める。

 

未だ舞っていた土埃がその場を中心にまるで衝撃波が迸る様に一気に霧散し、遅れて来た轟音が館を揺らした。

コウが立っている地面は大きく蜘蛛の巣上に蜂起し、その一撃が如何に重く、鋭いか物語っている。

しかし、それを意に返さないようにコウは漆黒の兜越しからディティトをただ見据えていた。

 

「なぜ! 何故これほど力がありながら、今まで出さなかったぁ! てめぇ! 俺で遊んでいたなああああああ!」

 

その慟哭ともとれる怒りの叫び声を上げながらディティトは黒い騎士へと様変わりしたコウの今までの出し惜しみに対して、その現実を否定するかのように、その大鎌を瞬く間に数回もの軌跡を走らせる。

その死線を断絶するように、コウは剣を割り込ませ金属の不協和音をその周囲に衝撃波と共に響かせていた。

 

「滅相も無い。あれは本当に本気だった。ただ、切り札の一つを切っただけだ」

 

その死の暴風に晒されながらもコウは眉一つ動かさずに全て右手の剣で遮る。

時に躱し、時に遮り、その一撃一撃の剣風を、リューですら目で追えない霞む様なその軌跡を全て見切り、更に予測し、捌いているコウの、いや、ランスロットの技量はどれ程なのか。

 

その身に『投影』しているコウですら、戦慄を覚える程だ。

 

ランスロットの『投影』をしているコウはその切り札の一つ。アーサー王伝説の中に存在しているとある小さな白い円盾「白き十字盾(アリマタヤ)

祝福されたその盾は襲い掛かる猛威を防ぎ、行使者の魔力へと還元させる伝説の盾。

白い半透明な、どこか幾何学的な面を幾重にも繋ぎ合わせたその白い円盾を支える様に顕現された血の十字架。

 

その血の十字架により魔力が蓄えられ、盾の効果が消える際に蓄えられた魔力を行使者に魔力炉として付与するという破格の力。内包された魔力が空になるまで、魔力炉として機能する宝具である。そして、これこそが宝具。防御力は宝具の中ではそこまで無いが、事、その実用性に関しては宝具の中でもトップクラスだ。宝具ランクはA。但し、投影品なので厳密に言うとランクはBだが。しかし、コウはそれで十分だと断じた。これこそが宝具なのだと。

 

魔剣の雨の暴威に全く揺らぎなくその全てを受け切り、膨大な魔力がコウの中に迸る。その自分の身に不相応な魔力を受け入れた代償の激痛で血管や神経が千切れそうな感覚を覚えながら、コウは手にしている剣の持ち主の膨大な経験とその圧倒的な身体能力をその身個人では許容しきれない程の魔力で強引に再現させているのだ。

 

今のコウの動きは湖の騎士、ランスロットと全く同じだ。その判断も、その戦闘技能も、ヴィヴィアンの剣から読み取った彼の記憶、経験と全く同じなのだ。

 

円卓の騎士で最強と謳われた騎士の動きと。恐らくヴィヴィアンがこの場に居れば、コウとランスロットのその姿が重なったように見えただろう。それ程の動きだ。

 

「ふざけんなああああああああ!! 切り札一つでレベル4程度の身体能力だったお前が、レベル7に迫るこの俺の力に対抗できるわけねえだろおがよおおおおおおおお!」

 

ふざけるな! ありえない! そうディティトは胸中で叫ぶ。

自身の切り札は人の命を用いるからこそ、破格の能力を発揮する。殺した者たちのアビリティの半分を吸収できる破格の能力。勿論永遠ではない、しかし、未だに最初に殺した男の能力が蓄積されているのだ。そして吸収した中にはレベル3が二人も居る。その命を使っても尚、届かないこの理不尽。

 

そもそも、ディティトがここまでこれたのはこの能力のお陰であったのだ、人々を殺し、自身を討伐に来た冒険者を殺し、レベル5へ至り、貴族に雇われその貴族のコネでディティトの情報はギルドから無くなったのだ。そしてそれを機にオラリオを出た。

 

そして貪ってきた。命を、女を。快楽を。主神を見限り、この世の贅を貪ってきたのだ。

 

今までこのような理不尽は無かった。誰もがディティトにひれ伏し、殺され、犯された。

 

こんな理不尽はあってはならないのだ。自身の絶対の切り札が、易々と超えられる事に。

 

「くそ! くそくそくそ! くそがああああああ!!」

 

まるで暴風。その剣速は空気を切り裂き、音を切り裂きながらコウへと襲い掛かるが、その全てをコウは捌き切っていた。切り上げ、切り下げ、足元、袈裟斬り、横薙ぎ、その神速に達する剣撃をすべて、剣も射出せずに受け切り、受け流し、躱しているのだ。まだまだ余裕がある所作を残しながら。

 

「……すごい」

 

胸に手を当て、感嘆の言葉を零すリュー。

まるで神話の演武。英雄譚(オラトリア)にでてきても可笑しくないその激しい戦いは、見る物を魅了した。

如何にリューであろうとも、あの死線は超えられない。それ程濃密な颶風が満たしていた。

煌めくその一筋一筋にディティトの怒りが込められているのがはっきりと分かる。

 

しかし、コウのその剣はまるで大きな湖。その怒りすら包み込むように柔らかく、且つ、その猛威を振るう自然の様に豪胆も兼ね備えた剣であった。

 

ディティトはコウの鉄壁の剣捌きを崩せない事に苛立ち、まるで地団駄するかのように、四股を踏んだ。

地割れを起こし、間合いを強引に変え、その踏み込みと同時にコウの頭上から串刺ししようと鎌を煌めかせる。だが、悪手だ。剣先を柄に合わせ、その揺れる地面を物ともせずに、剣先で火花の線を作る様に滑らせながらディティトの鎌をやり過ごし、懐に入ったコウはそのままディティトの空いた胴体を宙へ浮くように強引に回し蹴りの要領で蹴り上げた。

 

「ぐっがああああああ!?」

 

上空に打ち上げられるディティトに向かい、その剣を構えた途端、蒼く煌めく魔力の奔流はその剣を【無毀なる湖光】(アロンダイト)を中心に先ほどの魔剣群とは比べ物にならない程の力が渦巻く。

まるで宙へ揺蕩う魔力を強引に吸引し、その蒼く輝く剣の力へと変えているかのように、輝きが増していった。

 

その圧倒的な光景を驚きの表情で見るリュー。

 

「コウさん……あなたは、一体……」

 

神話の光景に、リューは目を奪われ、この現象を引き起こしているコウは何者なのだと、そう純粋に思った。

 

「うおああああああああああ!!」

 

ディティトはその冷たく輝かせる煌めきに自身の死をはっきりとイメージし、それを振り払うように空中で回転しながら、コウへと落下していった。それが最後の悪あがきと知らずに。

 

 

「これで、終わりだ……!」

 

 

 

 

 

 

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)

 

 

 

 

 

全てを絶ちきる様な自身の怒りも込めた叫びと共に、ディティトの鎌を掻い潜り、否。その超高速で回転する鎌諸共、そして宙に浮かぶ彼の身体を空間さへも断絶するように、その極光を伴った膨大な魔力を唯一人に向けて解き放った。

 

「あああああああああああ!?」

 

ディティトの断末魔を飲み込むその圧倒的な魔力が耐え切れずに爆発し、断末魔が消えた方向へ大きな一筋の蒼い軌跡が生まれ、衝撃波と共に抉られる様に広がり、全てを掻き消す程の風圧が周囲を襲う。

まるで世界が啼く程の引き裂くような、悲鳴にも似た轟音が響き、天高く聳えた極光の光は大地の傷跡を沿うように流れ、太陽のそれよりも輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二手に分かれたリヴェリア達はレベル3二人にレベル2が複数、そしてレベル1の多くが襲い掛かっていた。

裏手からこっそりと侵入したリヴェリア達は、裸で拘束具で拘束されたエルフがうつろな表情のまま連れていかれるのを発見した。

 

レフィーヤが驚きで声を出しそうな所でリヴェリアがその口を押え、涙目のレフィーヤへ向かって首を振る。

そして静かにするようにとジェスチャーを送り、レフィーヤが頷いて、後を付けた結果、地下へと繋がる牢獄への道が判明した。

 

リヴェリアが一気に制圧しつつ、レフィーヤが怒りと彼女たちが受けた悲しみを見て沈痛な面持ちになった。

明らかに性的な暴行がされている事に、リヴェリアも内心怒りを灯していた。

 

そして開放される奴隷に、ありがとうと声を掛けられたレフィーヤは、もう絶対にこんな事を許してはならないと決意を抱いた。だが、悪意はそう簡単に振り切れるものではない。

 

地下から出ると、広い渡り廊下からレベル3とレベル2の集団が彼女たちを襲った。

リヴェリアは正直一人でどうとでもなると思っていたが、今回はレフィーヤにその最後の一手を託していたのだ。

慣れない壁をその圧倒的な身体能力で彼らを抑えつけるが、それでも壁を利用され、レフィーヤへと襲い掛かるレベル2。ギリギリ魔法が間に合い、それを撃退するレフィーヤだが、明らかに動きが鈍い。

 

そこに目を付けたレベル3はスキルを発動し、リヴェリアに猛攻を掛け、その隙にレベル2がレフィーヤの身柄を確保するという行動に移った。リヴェリアはそれを防ぐように動くが、レベル1の捨て身の攻撃でレベル2が突破し、未だ詠唱中のレフィーヤへと襲い掛かった。

 

そして斬られるレフィーヤだが、ギリギリ身をかわし、薄皮一枚で何とか回避したが、その煌めく刃を向けられ、恐怖してしまったのだ。そして容赦なく振り下ろされるその刃をギリギリ杖で受け止めるが、同じレベル2の力。歯を食いしばりながら、徐々に自分の首へと延びる刃に諦めが脳裏を過った瞬間に、助けた奴隷がその身を挺してレベル2の体に体当たりをして、斬られる。

 

その光景がレフィーヤは目を見開きながら倒れ伏すエルフの女性を見送る。

だがレベル2の男はそのレフィーヤへと更に追撃を掛けるが、地下から一気に奴隷がレフィーヤの盾となりレベル2に切り伏せられる。一応死んではいないがその夥しい血を顧み見ずに、レフィーヤの盾となる彼女達はレフィーヤの何で……という言葉に笑顔を向けながらこういった。

 

「貴方たちのお陰で解放された。貴方たちが居なければここには立てなかった。ならば、今こそこの勇気を奮う時ですよ」

 

そうしてその彼女も切られ、肉壁となっている彼女たちを呆然と見るレフィーヤにリヴェリアがレベル3二人とレベル1の多数を相手にしながら叱咤した。

 

「ここで負けたらアイズにも会えないのもおろか、今目の前で切られている彼女たちが全員死ぬ。いいか、レフィーヤ。冒険者とはただ、強さを追い求めるだけが冒険じゃない。時に人を導くために、見えない道を冒険する事もあるのだ。それを自覚し、前を見据えろ! 決して目を逸らすな! その暗闇から希望の光を見失うな! お前が諦めたら、後に残された者はどうなるんだ!」

 

その言葉と彼女たちの笑顔の裏にあった決意を見て、私は何をしているのだ。と自分に怒りを込めて震えていた体を強引に抑えつけ、刃を振るわれそうになった奴隷の前に起ち、その刃で片手が貫かれても、その双眸に浮かんだ輝きを解き放つ様に、杖で殴打し、詠唱を開始した。

 

それに満足気に頷くリヴェリアは詠唱しながらレフィーヤの壁となった。

 

レフィーヤに見せるのは、大切な人を守る為の大魔法。そのいかなる攻撃も通さない強力な結界を張る魔法。【ヴィア・シルヘイム】を発動し、その全てを遮断した。そして一拍遅れ、レフィーヤがその魔法を完成させた。

 

「……妖精の火矢。 雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】! ヒュゼレイド・ファラーリカ!」

 

無数の魔法陣を宙に展開し、そこから発射されるのは炎属性が伴った魔力の軌跡。まるで無数のレーザーが相手に向かって雨のように降り注ぐその絨毯爆撃の魔法は、彼らを飲み込んで行った。

 

残ったのは呻く男たちが地へ伏している光景。しかし奇跡的にも誰も死んではいなかった。

 

そうして全員を縛り、一応ポーションを半分ずつかけ、死なない程度まで回復させた。無論、レベル3の者は関節を外したが。さすがに暴れられたら困るのは明白だ。まぁ尤も暴れられるような体力は残っていなかったが。

 

そして、殆どの事が終わった頃にレフィーヤに言葉を送り、庇い、切られた奴隷の女性がその手を優しく包み込み、そして花咲くような笑顔で口を開いた。

 

「ありがとう。助けてくれて、ありがとう……!」

 

笑顔の中に涙が浮かび上がり、感極まる様に泣くその姿にレフィーヤは自分の行いは、少なくとも、彼女たちにとって救いになった事を自覚し、その女性を抱擁しながらレフィーヤも泣いた。

 

それを回復魔法で彼女たちの傷を癒しながら、レフィーヤの殻が破られた事を実感したリヴェリアは胸中でレフィーヤに称賛を送りながら、その顔を緩ませていた。

 

そうして傷を癒し、すぐそこの一室にレフィーヤと一緒に隠れる様に指示した瞬間に、リヴェリアの魔法と同程度の魔力を孕んだ魔法が炸裂し、館全体を揺らしている事を自覚するリヴェリアは、この間断なく響く轟音は間違いなく上等な魔剣を連射している音だと判断し、脳裏にコウとリューの姿を思い浮かべる。

 

そして安全を確保し、ポーションを置き、レフィーヤを護衛として残し弾かれた様にリヴェリアは駆け出した。

今この広い館に対し、何故こうも広いのだと呪詛を吐きながら間に合ってくれと、魔力の奔流があった方向へと走って行った。

 

まさか魔剣を用いて相手を撃滅するとは思いもよらなかったのだ。

その前に蹴りが付くと思っていた。コウで一人で十分だと言っていた戦力だし、事実レベル5であればレベル3を駆逐した後に二人で掛かればそれほど苦戦する程の敵ではない。

 

コウもリューもレベル4上位の実力。更にコウはまだ手札を残しながらその実力なのだ。安心して任せられると思っていたのだ。切り札を切ればレベル5上位でも勝てると豪語したコウとレベル4上位のリュー。

 

「何が、あった……!」

 

苦渋に満ちた表情でリヴェリアはコウに着けばと今更ながら後悔した。自分ならコウを完璧にサポートでき、且つレベル5の相手を下せる自信があった。しかし実際に着いたのはリューで自分はレフィーヤのサポートであった。

油断の一言。フィンに任せておけと豪語しながら彼らを死なせたら、ロキ・ファミリアに顔向けは出来ない。

 

脳裏に浮かべるロキなら笑ってよく無事だったと迎え入れてくれるし、恐らく他のメンバーもそうであろう、しかし、リヴェリアの秩序がそれを許さないのだ。

 

「無事で居てくれよ……!」

 

不安な気持ちを振り払うようにその広い館を走って行ったリヴェリアが見たのは、濛々と沸き立つ土煙が、世界が悲鳴を上げる程の魔力と衝撃波とそして轟音で掻き消え、辺りを照らす極光が世界を覆う錯覚を抱くほどの光が、リヴェリアの視界と体へ強烈に飛び込んできた

 

「な、何だこの魔力は……!?」

 

いかなリヴェリアであろうともこの魔力を顕現できる力はない。いや、リヴェリアの全魔力を賭した魔法だとしても、これ程の圧倒的な魔力は体感したことが無かった。かのクロッゾの魔剣の一振りを見ても、その魔剣の数百倍は魔力があると確信が持てる程の圧倒的な冷たく、リヴェリアでさえも死を感じさせる膨大な魔力。

 

その魔力が発現した場所の中心に起っている漆黒の騎士、いや

 

「……コウ?」

 

全てが終わったことを悟ったコウはその漆黒の鎧を解き、元の血だらけの姿を現した。

ぐらりと体を傾けるコウに疾風の速さで彼を支える傷ついたリュー。

 

土煙が無くなったリヴェリアに映った視界には無残な館の後、あれほど大きかった館の半分は崩壊し、その月夜が巨大な魔力の放出で作られたのであろう、ある大きなクレーターの中心で寄り添う彼らを照らしていた。クレーターの先には何処までも続く大きな大地の断裂。その光景を見てリヴェリアは自身が予想しない程の大きな戦闘があったことを理解し、そして二人が立っている事に、安心するかのように頬を綻ばせた。

 

「ぐ、ぐうう……き、貴様達! わ、ワシが誰だがわかっておるのか!」

 

片手を失って壁に磔にされている小太りの男が、月の光に照らされているコウとリューへと吠えるが、一瞬で飛んできた剣が彼の頬を裂いて、壁に貼りついた。

 

「ひぃ!?」

 

頬に冷たい感触を感じながら、恐怖に声を漏らす男は、漸く人影が居る事を認識して声を張り上げた。

 

「おい! 早くワシを助けんか! 奴隷のぶん……ざい……」

「ほう、私がお前に雇われた給仕に見えるか?」

 

幾らもぐりでもリヴェリアの姿は世間に通っている。エルフの王族、アールヴの血筋。

その彼女を見て、自分は完全に詰みの状態だったと思い知り、力なくその体を脱力させた。

彼女が姿を現したことで奴隷達が救出され、それらの証言で自分の末路が良く理解できたからだ。

 

そして、レベル6を圧倒する男にレベル4上位とレベル6のエルフの女性。

だが、男は脱力された思考でリューを思い出し、最後に一矢報いてやろうと、声を張り上げた。

 

「は、ははは! 馬鹿め! 【疾風】が! お前だけはギルドに通報してやる! ワシと一緒に滅びるのだぁああああ!」

「ふん。その程度の対策をこの私が取っていないとでも?」

 

だがそれをリヴェリアはその絶対零度の視線で男を射抜きながら口を開いた。

 

「いくら奴隷達がワシの事実を言おうとも、ワシが疾風が生きて居た事実を言えばそいつも、お前らも犯罪者と手を組んだ事を暴露されれば、終わりだろうが!」

 

ビクリとコウを支えていたリューが肩を震わすが、リューを安心させる様に、ポンと軽く肩を叩くコウ。

 

「大丈夫ですよ、リヴェリアさんが無策な訳がない」

 

にやりと男に向けてまるで意趣返しの様に笑うコウ。

そしてリヴェリアはまるで男に死刑宣告を言い渡すように事実を突きつけた。

 

「誰も、お前をギルドに渡す何て一言も発していない」

「……は?」

 

呆けた様にリヴェリアを見る男。

それに視線を向けずにコウ達の傷を癒すようにポーションを優しく投げた。

 

「討伐と捕縛だ。勿論捕縛すればギルドへ運ばねばならんが……お前は我が同族たちを弄び過ぎた」

 

リヴェリアはその秘めたる怒りの矛先を小太りの男に向け、威圧した。

その威圧感はまるで竜を背負っているかの如く、激しい物であった。

 

「ひぃっ!? こ、殺すのか!?」

 

ここで殺せばリューが居た事の事実が公にならずに、依頼は達成になるだろう。

だが、リヴェリアの怒りは……いや、エルフの里の者たちの怒りはその程度で終わらない。

 

「いや、直ぐに殺しはしない。だが、お前が持って居る情報を全て吐き出すような尋問は覚悟して置け」

 

ここで奴隷商と繋がりが大きいこの男を殺すのはナンセンスだ。

しかし、ギルドには討伐したという報告をするつもりである。もう、彼は生きて外の空気を吸う事は無いだろう。恐らく、その尋問……いや、拷問に掛けられ骨の髄まで苦痛を味わい、全ての情報を吐き出しても発狂するまでの責め苦を味わうだろう。そして、最後には投石での処刑だ。それほど彼らの怒りを買っているのだ。

 

尋問という単語で、にやりと笑う男だが、エルフの里に連行され現実を知る事となる。その死んだ方が良い地獄という物を。

 

何処にでも暗部という物は存在している。そしてリヴェリアはそれらを動かす権利があるのだ。

里を飛び出したとしても、その権威は存在しているし、里も許している。何より、他のエルフがそれを許容しているのだ。つまり、リヴェリアにはまだ他のエルフを動かす王族としての権利が残っている証左であるのだ。

 

そうしてリヴェリアにいつの間にか手配されたエルフの暗部に一応傷口を癒され連行される小太りの男はリヴェリアの美貌を焼き付ける様に凝視しながら連行されていった。いつかその身を汚してやるという俗物的な想いを抱きながら。

 

だがそれはただ絶望を刻まれる時間が長くなるだけだという事に、男は最期まで気付けなかった。

 

コウとリューの傷をリヴェリアの魔法で癒し、レフィーヤの元へ赴く三人だが、奴隷達が裸だという事を思い出し、リヴェリアはリューだけ付いてくるようにと言って、兎に角下着を探し出して、彼女たちに着用させ、一応際どい服が合ったので、裸よりはマシだろうという事で着用させた。

 

その状況でコウは一人廊下で待つ。

 

一人で来たら、人質を盾に自分は殺されていたのかもしれないと。

今回は上手く事が運んだから良かったものの、これが一歩でも間違えば死亡するという綱渡り状態だった。

 

レベル5であったとしても、相手の情報が無い状態で挑み、結果的に勝ったのは良いものの、下手したらリューは悪漢の手に落ち、奴隷としてその人生を終わらせたかもしれないし、自分は死んでいたのかもしれない。

だからこそ理解した、冒険者はその情報を他者へと公にしない理由が。

 

これ程まで数値だけで見るのが危険だとその身に刻み込んだコウは、自嘲するように笑みを浮かべた。

一人で討ち入りしようとしていた自分は本当に大馬鹿野郎だと。しかし、この判断を取って良かったと心から思った。

 

残念なことにリヒトの母は既に亡き者になっていたが、しかし、仇は討てた。その貴族ももう、表舞台には姿を現さないし、蜘蛛の巣の様に張り巡らされている、か弱い子女を狙う糸はこれを機に少しでも多く絶たれれば、リヒトも、リヒトの母も浮かばれるだろう。

 

だが、間に合わなかったのは事実だ。

 

「……また、零れ落ちた」

 

今になって悔しく感じるコウ。しかし涙は見せない。ただただその事実を粛々と受け止めるだけだ。

 

そして背負う。その事実を。

 

「強く、もっと強くなりたい……」

 

もっと魔力があれば、もっと動ければ、もっと相手を圧倒出来る程強ければ、リューを危険な目に合わせなかったし、あんな選択を取る事も無かった。全て、自分の力不足。それを痛感した。

 

結局の所、湖の騎士とヴィヴィアンから貰った力、そして神から貰った力を使っているだけで、コウ本人の力なんてなかったのだ。

 

そう自覚するコウは強くなりたいと切望した。もう取りこぼさない様に、強くなりたいと。

 

そして一息ついたところで、がちゃりと扉が開かれ出てきたのはリューであった。

それを確認し、コウはリューに言った事を今更ながら思い出し、少し顔を朱に染めた。

あれはその場ののりとテンションと、何かムカついたからその胸中を吐露しただけなのだ。

 

あれ、それって本心じゃね? という思考は明後日へと投げ捨てた。

 

「あの……ありがとうございました。そして申し訳ありません。私が足を引っ張ったせいで、貴方を喪う所でした」

「いえ、誰にでも聞かれたくない過去はありますし、リューさんは彼らと違う。その事に自信を持ってください」

 

その言葉にリューは俯き、フルフルと首を横に振る。

 

「いえ、私は……彼の言っていた事は本当です。復讐に身を捧げ、人を殺めてきました。そんな私は貴方の物になる資格がない程、汚れている」

 

悲しそうな顔でコウにそういうリューの力ない笑顔に、コウは少しだけむっとした。

 

「何を言っているんですか、リューさん。貴女は綺麗な女性(ひと)だ。それにその罪を私が……俺が奪い取ったんだ。そしてそれをリューさんは一生懸命に背負ってここまでやってきたんです。その事実を誰かが否定する事なんて出来ないんですよ。……だからもう一度言います。リューさん、貴女は綺麗な女性(ひと)だ」

 

にかりと笑うコウはリューが安心するように、笑う。ヴィヴィアンが自分を支えてくれたように、自分も誰かの支えになれれば。そう思ったのだ。いや、今度こそ自分が誰かを支える番なのだと、コウはそう思っている。

 

何故なら、今にも倒れそうな昔の自分によく似たその姿をリューから連想したのだ。

だから支える。これがヴィヴィアンが残してくれた想いである。そう、コウは思った。

 

「……私は、貴方の隣に立っても良いのでしょうか?」

 

恐る恐るコウに問うリュー。

 

「勿論」

 

笑顔で頷くコウ。そして一歩近づくリュー。

 

「私は、貴方の物になれるのでしょうか?」

「もち……え? も、物?」

 

 

 

―――――リューさん。あんたを奪いに来た

 

 

ちょっとまてええええ! あれは、そういう意味じゃない! その場のテンションとかがあって、何かムカついたし、可愛くて綺麗な女性が居たら普通助けるじゃん!? しかも戦闘中で思考がすこしずれてたというか、短絡的になってただけだって!

 

そんな思考が高速で展開された。

 

コウはその事を言う為に口を開こうとリューに視線を落とした。

そこには瞳を濡らしてその端整な顔をほんのりと朱に染めてコウを見るリュー。

 

なんていえねえええ! ヴィヴィアンで散々学習したんだ! 俺の自惚れじゃ無ければ期待してる! だがいえねえええ! いや、そりゃ色々俺も期待したよ! 全てを奪うって、でもそういういみじゃねえええ! どうする……!? どうするんだ、コウ!

 

一瞬の思考でそこまで考えるコウ。だが、畳みかける様にリューはその熱い吐息が感じられる程近づいていた。

 

「やはり、穢れた私では貴方の物には成れないのでしょうか?」

「い、いや! なれるさ! なれるとも! うん。でもちょっと落ち着こうか。あと穢れとか汚れてるとか禁止で」

 

そこまで言ったコウはぽすりと柔らかい何かが体にあてられている実感が襲った。ぎぎぎとまるで錆びたブリキ人形の様に視点を下に向けると、リューがコウの胸の中へと体重を預けている姿。それを認識したコウの鼻腔をふわりとリューの匂いが脳を刺激した。

 

その直後、コウの脳裏に良い笑顔でヴィヴィアンがエクスカリバーを構えている姿が浮かんできた。

 

「ま、まだ段階があるんだ! あれだ、そのー……」

「ふふ……ふふふ……」

 

そうしてふわりと距離を取るリューの表情はまるで花咲くような笑顔であった。

 

「申し訳ありません。コウさん。……ふふ」

「か、揶揄ったんですか!?」

 

助かったーという気持ちと、結構ショックな気持ちがコウを襲い、あわあわとリューへ問いかけた。

リューから映るコウの姿は先ほどまでの凛々しい姿とは打って変わって、年相応のあどけなさを残す青年であった。

 

「いえ、揶揄ってませんよ。本当に私は、私の全ては貴方の物になって良いと思ってます」

「待って! 期待しちゃうから! 健全な男子は期待しちゃうから!」

「期待してもいいのですが?」

「うおおおおお! 煩悩退散!!」

 

釈迦説法を適当に唱えるコウに、クスリと笑うリュー。しかし、その表情が少しだけ悲しみが浮かんだ。

 

「私は何時でも貴方の物になる事は出来ますが、コウさんの心には大切な人が住んでいらっしゃる」

 

ぴたりとリアクションを止めるコウはバツが悪そうにリューを見る。

そうなのだ、コウの中でのヴィヴィアンのウェイトはまだまだ大きい。そこに誰かが入れる間隙は存在していないのだ。それほどまで、愛していたと、断言できる。

 

「……すみません。思わせぶりな言葉をリューさんに宣誓してしまい」

「謝らないでください。コウさんの言葉で私は救われた部分があったのは間違いないです。それに、嬉しかった」

「けど、今は貴女の気持ちに応える事は出来ない」

 

そうして頭を下げるコウにリューはふっと表情を軽くした。

彼みたいな誠実で少しスケベな所がリューは好感を持てると思った。異性が性的に自分を見る事に不快感があったがコウに限って言えばそれが全くない。むしろもっと見ててほしいと思う程、リューは心がこの短期間に動かされていた。

 

吊り橋効果ではない。純粋にコウを尊敬できる部分があれば、尊敬できない部分もある。

リューはそこが彼の魅力だと思ったのだ。完璧な人間などいない。だかこそ、支え合い、理解し合えるのだと。

 

「ええ、今は……ですが、将来は?」

「へ?」

 

どういうこっちゃ? という表情でリューを見るコウであるが、そのコウに応えることなく、綺麗な、コウが見惚れるような笑みを浮かべながらコウに宣言した。

 

「コウさん。……私はいつもやり過ぎてしまうのですよ?」

 

ウィンクの形を取りながら、コウに挑発的な視線を向けるリュー。

そのリューの胸中では昔の仲間の言葉が木霊していた。

 

「そ、それって、んむぅ」

 

慌てた様にコウはその意味を聞こうと口を開くが、リューの白魚の様な人差し指で口を閉ざされ、そしてその人差し指を自分の口へと、まるでキスをするかのように優しく、慈しみながら自分の唇へと愛おしそうに押し付けた。

 

その光景をパクパクとまるで鯛の様に顔を真っ赤にさせながらリューを見るコウに振り返らず、リューはリヴェリアに指示されたのだろう案件を片付けるために、軽い足取りで他の部屋へと入って行った。

 

それを呆然と見るコウは部屋から出て来たリヴェリアに声を掛けられ、奴隷達を……いや、エルフの女性達を故郷に返す様にギルドへ赴き、手配しろと指示を受け街のギルド支部へとその朱に染め上げられた顔の熱を冷ます様に、駆けて行った。

 

コウにとって今が夜で本当に良かったと、この冷たい風が心地よく少し火照った体を包み込んでくれる事に感謝しながらその身を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ギルドに一番弱い魔剣を渡しそれを対価にエルフ達を故郷へ返す様に馬車を手配した。

繋がりがあった奴隷商を吊り上げ、その莫大な賠償金や慰謝料を貴族の金庫及び、吊し上げられた奴隷商の全財産から捻出され、金を捻出した奴隷商は更に足を洗う条件でその罪が非常に軽くなった。

 

悪事を働かないよう、ギルド管轄の店舗や加工工場で働く事となる。その後勤務態度等を省みて自由にするかどうかを判断するのだ。

 

まぁ、費用を低く抑えられる人材をギルドが手放すわけがないのだが。

 

そしてコウは約束通り、金庫にまだまだ眠っていた魔剣を全てリヴェリアに譲渡した。

億から数百万の魔剣の数々はそうそう手に入れられるものではない。クロッゾの魔剣は無かったが、それでも一級品から揃っているのだ、文句なぞあるはずも無かった。

 

一応取り返したという体なので瞬間的な所有権はコウであったが、直ぐにリヴェリアに譲渡したため、その権利はロキ・ファミリアへと移された。しかしリヴェリアは、コウが魔剣を要らないという本当の意味を少し理解してきた。

 

魔剣を魔法で作り出せる

 

確信はない。だが、あのこの世の魔法や魔剣という枠組みでは決して届かない程の魔力の奔流をその身で感じ取ったリヴェリアだからこそ、そう予想している。いや、魔剣よりも上。正に伝説や伝承に出てきても可笑しくない程の破格な武具を魔法で作り出せる。そんな気がしてならないリヴェリアは、しかし、今回は自分の読み違えで迷惑を掛けてしまった部分があると自覚しており、それを突っ込むことはしなかった。

 

レフィーヤはこの件でレベル3となり、晴れてアイズ達と一緒にダンジョンへと潜り込んでいた。

その培われた度胸はアイズ達をもってしても驚かされることもあり、その妹的な存在が成長したことに心を喜ばせた。ダンジョンに潜る事は相変わらずだが。

 

コウは半年位空けた自分の故郷に直接戻ると言って、オラリオの前で一同から離れた。

その際にはまた必ずオラリオに来ると、そう宣言して。コウはこのオラリオこそ自分が強くなれる色々な要因が眠っていると感じ取っていた。というのは表向きで普通にダンジョンに興味があるからなのが大半だが。

そして、リューが居る豊饒の女主人があるという事もここで加味しよう。

 

 

そしてリューはというと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははは! やっぱここの店の女の子はみんな可愛いなー!」

 

夜。豊饒の女主人の店内は他の店よりも一際賑わっていた。喧騒が至る所から発せられ、今日も一日ご苦労さんという声が所々上がっていた。その喧騒に嫌味などなく、皆気持ちよく酒を飲んで笑っていた。

 

そんな活気あふれる店内を舞う一人の妖精。

 

「しっかし、リューちゃんってば何か最近綺麗になったよなー……色っぽくなってきたっていうか」

 

ジョッキを傾け、舞うように動く妖精を見ながらそう呟く男。

 

「おいおい、リューちゃんは元から可愛いし綺麗だろう?」

 

摘まみを食べながらジョッキを仰ぐ男に今も舞っている妖精を見てにやりと笑う。そこに厭らしさはない。

 

「そうなんだが……」

 

何処か納得いかない様にもう一口、酒を喉へと流し込み、ジョッキをテーブルへと置いた。

 

そんな折、ふわりと男二人に女性特有の甘い匂いが鼻腔を刺激した。

 

「お待たせしました。リジェの葉のベーコンソテーです」

 

薄緑色の綺麗な髪をしたエルフの女性が透き通る様な綺麗な声でその二人の冒険者に、注文された料理を二人分置いた。そして席を離れようとしたその妖精に……リューに向かって声を掛ける男。

 

「なぁリューちゃん。あんた、もしかして……恋してる?」

「はっ! おいおい、何日かいない日があったけど、そんな短期間に何かある訳ないだろ? な、リューちゃん」

「……」

「リューちゃん?」

 

少し困ったような、されど嬉しそうな顔でリューは二人の冒険者にその笑顔を向けた。

その綺麗な笑顔にドキリとする二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ……恋、しているかもしれませんね」

 

 

 

 

 

 

 

リューの脳裏に浮かぶ黒髪のちょっと冴えない青年の姿。

しかし、彼女のヴィジョンでは輝いて見える。そんな男の姿。

 

そうしてふわりと来た時の様に、軽い足取りで舞うように、男達から去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豊饒の女主人の妖精は、誰かに恋をしているとオラリオ中の噂になったのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奪った業 fin

 

 

 






誠に勝手ながら未完とさせていただきます。
仕事と趣味で追い詰められ心が折れました。詳しくは活動報告でしてます。

最後に、拙い作品を閲覧いただきありがとうございました。
設定を深く考えられないのと人の機敏にも弱いので、上手く書けないのでしょうね。でも、ただ楽しみたかっただけなんだけど、やはり公共の場を借りるという事は悪意にも晒されるのだなぁ……と思った。

自分が良かれと書いても相手には良かれと思われていない事は現実でも多々ありますが、正しくその通りなのだと実感しました。

ただ、まぁ多角的な視点から見られる厳しさや、考え方等の勉強にはなりました。

もう疲れてネガティブにしか捉えられないので、これ以上書きませんが、感想、批評、批判、罵声、指摘、コメント、ありがとうございました。

復活するとしても自分には小説が向いてないので割とフリーダムなチラシの裏に移動してから投稿すると思います。
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