衛宮士郎とエミヤが押しなのでこの話を書けて最高に楽しみです。
地獄の底で息を吐いた。
現状を変える方法があるのなら、誰か教えてほしい位だ。燃え盛る都市に名残はない。懐かしむものはない。彼は涙を溢した。もしも、己が二人、いや、四人いたのなら。この喜劇にも似た悲劇を止める方法があったんじゃないのだろうか。
黒い天の穴、ヘブンズホールから降りてきた手が正義を志す己に問い掛ける。
お前はそれを願うのかと。
少年はようやく笑みを浮かべたのだった。
「ああ、願うさ」
全てを失って、尚。
全てを救いたいと。
***
雀の声で目を覚ました。赤褐色の肌の同い年の少年がこちらを覗いている。
「・・・」
「……貴様、またろくでもないことを願ったな」
その少年の言葉に衛宮 士郎は見に覚えもなくただただ首を傾げたのだった。
「……ふん、忘れたふりか。まあいい。どうせ、貴様が忘れていないことくらい把握済みだ」
このやたらイライラする子供は何なんだろうか。
「…………お前は、誰、だ?」
その言葉に子供はようやく、本気で落胆したように見えた。そして、自分の顔を見て何かを納得したらしい。溜め息を着く。
「……今までの押し問答は忘れてくれ。悪かった。人違いをしたよ。あー……」
その悩み声にようやくだんだんと意識がハッキリしていく。ああ、そうか。彼は
何故こんな大切なことを忘れていたのだろう。
「兄さん、それで何か用かな?」
兄さんと呼んだときに苦虫を擂り潰したかのような顔を兄がしたのを衛宮 士郎は見逃さなかった。だがその顔が今日見たばかりの物ではなかったので尚更首を傾げた。兄は愛想のいい人だ。
「……何でもない、士郎。食事だ」
その言葉に衛宮 士郎は矢張り違和感を感じる。この家に自分以外に調理のできる人間はいただろうか。
「まー、やっぱりアーチャーくんったら料理上手いわよねー」
藤ねぇの猫撫声に士郎は苦笑した。
「それほどでもねぇよ、藤ねぇ」
それに、何だか兄のことを褒められるのは癪だった。兄が嫌いと言う訳ではないのに。頭が痛い。頭痛がする。士郎が頭を抱える様子をアーチャーは冷たい目で見つめていたのだった。
***
喚ばれた。
明確な意思をもってそれを体感し、己を呼ぶ細い糸を無理矢理手繰り寄せたのは座に帰ってすぐの事だった。
聖杯戦争の終わりを見届け、皮肉にもオレは自分殺しをしくじった。それでも、答えは得たと。得るべき事があったと思った。だからこその帰還だった。そして帰還直後のヤル気満々な召喚の出端が挫かれたとは正しくこの事だった。
目の前に転がる衛宮 士郎の幸せそうな寝顔にたぎる殺意を抑えるので精一杯。何故か小さな器に閉じ込められてその不満を抑えるので精一杯。意味も理由も分からない召喚のせいで四六時中イライラする。
その時だった。事情を知りそうな目の前のクズが目を覚ましたのでついいつも通り意気揚々と畳み掛けてしまった。
「……貴様、またろくでもないことを願ったな」
こう言った理由は簡単で、この時空での聖杯戦争は完結していて然るべきだと私の直感が告げていた。それならばやらかしたのは凜かコイツだ。凜の方なら私が呼ばれる道理が分からない上にここにいたのだから理由は百発百中コイツなんだろう。
だが目の前の男は小さく首を傾げるだけだった。
「……ふん、忘れたふりか。まあいい。どうせ、貴様が忘れていないことくらい把握済みだ」
こちらは完全に出任せたった。ついつい口先から嫌味が衝いて出てしまう。
「……お前、誰、だ?」
その言葉に立てていた虚勢が崩される。誰だ。誰だと来たか。それならば、ああ、なるほど。忘れているのか。その後、目の前の衛宮 士郎と二三言交わし蔵から出る。その後の応答でわかったこと。それは
ここでオレは衛宮 アーチャーという戸籍を持っているただの人間で、切嗣に士郎と共に拾われた誕生日が士郎より少し早いだけの……人間。
アーチャーという名前に関しては自分でももっと上手いやり方があったんじゃないのだろうか、と吐息を吐く。そして、何より明確な違和感があった。
霊基の欠落。座にある本体との接続が切れているという事だ。それから、オレ自身の能力の弱体化。これから分かることはつまり、
「……もう一人オレが召喚されている」
だが、クラス違いでなければ同じ英霊の召喚などできないはずだ。そして、オレにはアーチャー以外の適正クラス等無い。あったとしてもキャスターだが、意図的に呼ぶのはほとんど不可能だ。何せオレは未来の英霊。
とりあえず、と思考を中断する。こうなったのなら、もう完全に士郎を、弟分となった己の過去の姿をどうにか勝ち残らせるなり負かせるなりして、その人格に矯正を加えよう。
今からなら矯正も間に合うはずだ、と希望的観測に言葉を濁しながらもこの世界での暮らしが幕を開けたのだった。