何故こんなことになったのかも分からないので大人しく学校へと向かう。
「アーチャーは進路どうすることにしたんだ?」
訊ねてきたソイツを睨もうとして止めた。少なくとも記憶にない今まで通りを演じるのならばこの嫌悪感はどうにかしなければならない。
「……決まっていない」
「ふーん、藤ねぇに怒られるぞ?」
一瞬、彼女の怒る姿が目の裏に浮かんで吹き出しそうになった。あまりの懐かしさに泣きたくもなる。
「衛宮くん、おはよう」
声をかけられたのに無視するエミヤ シロウに首を傾げる。こいつはそう言うことをするような
「あんたよあんた!アーチャー!」
……私だった。
思わず取り乱した凛の方を振り替える。
「ああ、すまない。少し考え事をしていた。おはよう、凛」
今度はエミヤシロウが吹き出した。……なんだ、失礼すぎないか、コイツら。
「ちょっ、あ、アーチャー?な、なんで急に呼び捨てなのかしら」
・・・。
拝啓 昨日までの私。
貴様のせいでやりにくい。
己殺しの対象が増えた所で学校に辿り着いた。
「じゃあ衛宮くん、士郎。またね」
「うん、また遠坂」
私は何も言わずにげんなりとした気持ちで手を振った。なんだろう。今更記憶喪失とかそう言う設定にしたい気分になってきた。いや、そんなことを言っている訳には行かないんだ。
「どうしたんだよ。朝からちょっと調子悪くないか」
「……貴様の癖に鋭いな」
やや八つ当り的にそう言って席に座った。
「よう、アーチャー」
ッ……次から次へと面倒なのがゾロゾロと。
机の前に立つ慎二(確かそんな名前だった)に溜まり始めていた苛立ちと殺意が爆発しそうになる。
「なんだよ、無視かぁ?相変わらず連れないなあ、ウンヌンカンヌンソンナカンジデワカメワカメワカメワカメワカメワカメワカメワカメワカメワカメ……」
話が長かった。普段ならもう少し冷静だったかもしれないが、今のオレは苛立っていた。
「お前みたいなのがいるからエミヤシロウが面倒になるんだろうがぁああああああ!!」
……暴力は良くなかった。反省している。
***
「どうしたんだ、アーチャー。普段はあれくらい無視して流せるだろう」
一成の言葉に黙る。彼なら何を話しても受け止めてくれそうな予感がするがさすがに話すわけにはいかない。
「……話せない、か。それなら別に良い。俺も普段から間桐には少しばかり、な」
濁された言葉。まあ別にアイツが悪いやつと言う訳では無いのだろう。それは、ぼんやりと前世の記憶からも読み取れる。最も、ほとんど覚えていないが。
「……すまんな、一成」
「いや、いいさ。ほれ、手当ては終わった。痛いところはないか」
「平気だ」
あちこちの痣に貼った湿布に苦笑する。我ながらよくやったものだ。だがその対価も決して安い物ではない。
まさか自分が冬木で穏やかに暮らせるなどと誰が予測しただろうか。……だからこそ。この聖杯戦争はきっと凄惨な結末を迎える。誰も幸福になれないような、な。
「アーチャー。鞄と、これ、鍵」
「助かる。では士郎。先に帰っている」
「ん、リョーカイ。俺は一成のこと手伝ってから帰るから。晩飯は任せた」
私は鞄と鍵をもって商店街へと足を向かわせたのだった。
***
日本 冬木市。
駅前にある大きな観光ホテルの前で一人の男が職員に罵倒をしていた。
「ふざけるなぁー!!離せアル!!予約していたのに止まらせてくれねぇとはどーいう了見だこのクソヤロウ!!」
「申し訳ございません。ですがセレンス様名義でもアルフ様名義でも予約は入っていないので……」
「ふざけんな!!どうすんだよ!こちとらわざわざイギリスからお前達の生活を助けるために来たっていうのによぉ!!」
「まあまあ、落ち着けよ、エディ。そんな風に暴れても仕方無いから……」
どちらかと言えば困っているのは職員だ。仕方無い。太刀打ちに向かうか、と買い物袋をぶら下げたままホテルの方へと踏み出す。すると、奥から黒髪のセーラー服の少女が現れた。
「エディったらおーとなーげなーい!良いじゃない、私、野宿っての気になるわよ?」
「……はい、エドワルドさん。そこまで私達に気を使わなくて大丈夫ですよ」
女性二人の意見に、白髪の神父らしき人物は一気に大人しくなる。
「……せめてこいつらだけでも泊めてもらえないのか?女性の野宿ってのはあんまり賛成できない」
「申し訳ございません……当ホテルは今、空きが」
うん、今だな。
とぼとぼとホテルから歩き出す彼等にやや駆け足で近寄る。
「あー、そこのお兄さん?白髪の?」
そう呼ぶと先程の白髪のお兄さんはこちらを向いた。胸のところにかけられた十字架。うん。やっぱり神父だな。
「さっきのやりとり見てたんだけどさ、泊まるところ無いんだって?」
その言葉に神父は少し考える。
「ああ、無いな。この町の教会は諸事情により泊まりたくないし今夜はこのままだと俺達は確実に野宿だが、それがどうした?」
「うん、兄さん達が良いならウチに来なよ。まあ、アーチャーがそれを許すかは聞いてみないとわかんねぇけど……多分、連れてけば許されると思うな」
神父達はお互いに目を会わせる。その時だった。
「兄さん達ラッキーだな!士郎の坊主のとこに泊めてもらえるなんて」
「士郎ちゃんったら本当にお人好しね」
神父はその言葉に何かを察したのか、先程までとは違い、穏やかな笑みを浮かべた。
「成る程ね。じゃあ、世話になろうか、少年。俺の名前はエドワルド・セレンス。しがない神父だ。こちらはアルフ、ノエル、アリシア。同僚なんだ。よろしく」
彼の手を握る。
「はい、俺は衞宮、衞宮士郎です。エドワードさん、よろしく」