突然だが、あなたは仮面ライダーが好きだろうか?
私は好きだった。そう、好き
テレビで見ている分には全然いい。だってテレビの向こう側から怪人やモンスターは出てこない。
おまけに俳優さんたちはイケメンだ。うん、それが何よりだよね。
だから安全圏で娯楽として楽しめる。でも、残念な事にモンスターが実際に襲ってくるなら笑い事じゃない。
出てくるんだ、鏡の向こうの世界から。
おまけに正義のヒーローの仮面ライダーもこの世界では主観的には全員敵。
だって、キャッチフレーズは『戦わなくては生き残れないっ!!』なんだから。
もう判るでしょ、仮面ライダー
寝て起きたら何時の間にかこの世界の住人だった。顔も姿も年齢も仕事も完全な別人でいるのに、記憶だけはしっかり引き継いでいる。
これは夢だったらいいんだけど、今のところ醒める様子は無い。
そして私はライダーの一人なんだ。と言っても実は仮面ライダー龍騎の事はそんなに詳しく覚えてないんだよね。特に最後の方。
色々忙しい時期で見れて無かった事もあってラスト数話なんて全然わからない。
それにそこまできっちり設定も覚えてはいなくて、ミラーモンスターと契約してライダーが殺し合うとか大まかな事しか知らない。
メインキャラクターとその役者さんとかは割と覚えているんだけどね。
そんな私が契約したモンスターは口から種を吐くだけの超ザコモンスター。
そしてそれを補う様に数だけは異常に多い。
一体と契約したら他のまで纏めてついてきた。
つまり、解るだろう? エサ代がかかるんだ。それも酷く。
種の他にも糸も吐けるんだが、それでも単体では最弱のモンスターだと思う。
これなら最初の方で出てきた蜘蛛のモンスターの方が良くないだろうか?
きっと同じようにデッキの中に敵を拘束する糸を吐く技があるし、ネット状の糸のトランポリンでライダーキックとかもファイナルベントでありそうだ。
因みに何故かシアゴーストはファイナルベントが使えない。大ハズレだ。蜘蛛の方が良かった。
ただ種と糸を吐くだけのザコモンスターのシアゴースト(名前は契約した時に知った)より強いし、数多過ぎてエサ代に困ることないし。
で、そんなザコキャラと契約した私がどうやってエサを調達しているかというと、……ごめんね、人間なんだ。
言い訳させて貰っても良いかな。
だって契約モンスターがザコすぎて戦っても勝てないのが目に見えてるんだよ。
シアゴーストなんてモンスターが元々の龍騎に出てきたかどうかはわからないけど、とにかく弱いんだ。
勝負にならない。
それにこの悪行を咎めそうな正義っぽいライダーなんて、主人公と、秋山蓮と占い師と教授だけだよね。
後はみんな自分勝手だったり犯罪者だったり異常者だったり正義とは無縁だし。
基本的に浅倉みたいな変身しなくても殺人鬼なキチガイじゃ無ければミラーワールドからモンスターが人間を襲いに来る事と、
私が直接手を下さない事を加味すれば、私が警察のお世話になる事は無いと思うよ。
だから私は今日もモンスター達を放牧しているの。全ては私が戦う事無く生き残るために。
そんな私はライダー達が恐らく殺し合っている間も、優雅にインスタグラムを更新している。
パフェを如何に映える様に見せるか。
私はライダー同士の戦いとか、神崎さん(妹)の事とか、モンスターの被害を頭から追い出すために、
そういう日常の部分を強く意識させる行動が凄く大事に感じるんだ。
「ねえ、ちょっと時間ある?」
そんな私に声を掛けてくる男の子がいた。
うん、凄くイケメンな大学生だ。まるで俳優の一じょ……芝浦淳じゃないですかー。
ヤダー心臓が止まるかと思った。
…いや、待つんだ私。
まだ、ライダーとまでバレたわけじゃない。
「ええっと、ナンパ…ですか?」
苦し紛れにそう返すと、普通にナンパだった。
ああ、ホッとした。いや、ナンパされてホッとするってどういう状況かわからないけど。
精神衛生上、他のライダーと一緒に居るのはきついけど、まだガイなら付け入る隙はありそうだからマシかも知れない。
まあ正直楽しくはあった。普通のデートしてアイスクリーム食べて。ちょっとアクセ買って貰って。
モトクロスの話とかで盛り上がって。ついでに選手目指しちゃおうかなとか言ってる彼を煽てて笑い合って。
でもね、これ戦争だし。とはいえ一度戦うと他のライダー達に見られてバレたりしたらヤバいし、そもそも戦ったら勝てないし、
同じく数が多くてシアゴーストより強いモンスターと契約している佐野満よりは相性的にマシかもしれないけど、それでも勝てないよね、きっと。
そんな私はこの日を上手くやり過ごした。
まあ、こちらからミラーワールドに行ったりとかカミングアウトしなければ何とかなるかな。
そう思っていたら、次の日はまた別のイケメンに会った。
ウルトラマン俳優の占い師ぃっ!?
この人は駄目だ。私がやってる事バレそうだし、バレたら許さないだろうし。
そう思って踵を返してしれっと逃げ出したら、またもイケメンに遭遇。
うん、実はこれ仮面ライダー龍騎の世界を元にした乙女ゲーとかじゃないよね? 違うよね?
寧ろ、そうだったら良いんだけどな。
断罪のマリアみたいなヒロインが悲惨な目に遇うやつじゃなくて、ご都合主義のハッピーエンド系のやつね。
でも、違うんだろうな。この人には絶対私がライダーだってバレてるもんね。
ねえ、仮面編集ライダー菊…もとい神崎士郎さん。
「たたかえ…」
いや、いきなりそれですか?
直球シンプルで良いですけど。流石にいきなりそれは無いです。
「たたかえ…」
…でも正直この人に反論して生き残れる気がしない。
「なぜ、たたかわない…」
「私、ザコキャラなので無理です」
そう正直に告げると、神崎士郎は私に一枚のカードを渡してこう告げた。
「たたかわなければいきのこれない…」
多分、ミステリアスさを出すためにわざと行われている少し棒読みみたいな喋り方で渡されたのは、
「SURVI…サバイブ?」
あれ? そういう事なの?
期待されてるの? まだ一度も戦ってないのに?
いやいやいや、でもサバイばってもベースがシアゴーストだよ?
と言う訳で、神崎さんのお兄さんが何処かに行った後は、私は喫茶店にでも行くことにした。
戦いなんてノーセンキューです。
そうやって時間を潰していると、案外カフェ巡りも楽しい気がしてきた。
そんなこんなで丁度一週間がたった時に、カフェ巡りをしていると凄く遇いたくなかった人物に遇ってしまった。
えっ、神崎妹って喫茶店の店員さんだったっけ? 言われてみればそうだった様な。
ああ、私痛恨のミス。とはいえ、秋山と険悪に話している優衣ちゃんは私にそこまで気が向いていない様子。
マスターの女性にコーヒーを深煎りで注文しながら会話に耳を傾けると、
何処かのゲーム感覚でライダーバトルを愉しんでいる大学生に城戸真司がアドベントカードを奪われたりして、色々あって、
挙句に助けに入ろうとした占い師もその手段がなくて助ける事が出来ずにショックを受けている様子。
えっ、確か城戸真司って主人公だったよね。仮面ライダーで主人公が死んじゃうなんてありえないよね。
子供向けの番組で主人公が死ぬとか、そんなの絶対ありえないよ。
確かこの時期ってサバイブのカードで、ライアの代わりに生き残ったりしてた気がしたけど、私のせい?
サバイブのカード貰ったし。
でも烈火の方じゃなくて疾風の方のサバイブ何だけどね。だから関係ない…よね?
正直コーヒーの味も判らないまま店を出たけど、これ以上くよくよしてても仕方ないので、
スカッと切り替えて私が生き残れる方法を考えて置く事にする。
と言っても基本方針は変わらない。勝手にシアゴーストに人間を襲わせるだけ。厳密には襲うのを黙認するだけ。
サバイブの持ち腐れとでも何とでも言うが良い。
そんなポケモンで言う育て屋さんで育てるだけの放置プレーヤーな私にもちょっとラッキーなイベントが起きましたー。
何とシアゴーストが一斉に進化したの。
今のレベルがどれくらいで進化したのかはよくわからないけど、龍騎のミラーモンスターって進化してたっけ?
まあいいか。
進化して蒼くなって翅が生えたレイドラグーンは鏡の中でなくて外側の世界で動く事と、空を飛ぶことが出来る様になりました。
やったー強くなった。
…って喜べませんよね。そうですよね。こんなあからさまな事しまくるモンスターがいたら目立ち過ぎて色んな所から狙われますから。
仕方ない。本当に仕方ないけど、ここで初めてのライダーとの戦いをやってみる事にする。
目標は佐野満。理由は大量のモンスターで偵察とかしてくるから、私が動くなら最初に潰さないといけない相手だから。
と言う訳で、強化したレイドラグーン軍団をレイヨウ型モンスター軍団にぶつけます。
何時も全軍突撃の軍隊で戦う相手への対処は簡単です。数で勝る私の軍隊の質を上げてしまえばそれだけで良かったんですよ。
そしてその混戦状態の中で一瞬だけ私も参戦。いきなりサバイブで一気に片を付ける。
目標はレイヨウモンスターのリーダーのギガゼール。
そして直ぐに離脱。
結果は見えてるよ。佐野満は直接ゼール達全員と契約したのではなく、その大元のまとめ役ギガゼールと契約したに過ぎないから。
なので、それを討ち取れば契約モンスターのいないザコライダーとなり、自身を護るモンスターの群れは敵になり、
そして私のモンスターにも襲われる。
大量のモンスターを養うデメリットは私もよ~く理解しています。今、彼もそれを身を持って体験しているでしょうね。
可哀想ですね。でも仕方ありませんね。
全ては最優先事項の私が生き残る為だから。
ですが、私の平穏も長くは続きはしなかった。
「お姉ちゃんっ!? 嘘、どうして…?」
そう言って私に話しかけてきた霧島美穂という見覚えの無い女の子がいました。
その子と話していると、私がその子の姉と極めてよく似ているという事が解った。
だから代わりに姉のように思ってくれても良いと伝えました。
そして仲良くなった私は、彼女に秘密を打ち明けられた。
でもね、それを私に打ち明けるなんて、少し相手が悪かったかな。
鏡から抜け出られるようになった私のモンスターに襲われた彼女は行方不明となってしまいましたとさ。
寝る時は光を反射する物の無い場所で眠らないとね。
ごめんね。正直とても心が痛むけど、これも仕方ないんだよ。
私は、生き残りたいんだ。
このやり方に味を占めた私は、普段は極力鏡からレイドラグーン達を出さない様にして、
ここぞという時に鏡から出して直接変身前のライダーを襲わせることにした。
相手の居場所が解れば問題は無いよね。
そして普段はひたすら鏡の中で偵察させる事…としたいのだけど、
進化したせいでレイドラグーンの食事量が増えてしまったので、そうもいかない。
仕方なく、野良モンスターを集団リンチで襲わせることもある。
これは倒されたレイドラグーンの分だけ食費が落ちるし、倒せたら生き残ったレイドラグーンのエサが確保できるし良い案だと思う。
群れになっても他のモンスターには勝てなかったシアゴーストではできなかった戦略だ。
私がそうしている間に、ガイがタイガを倒しちゃった。
確か、タイガの変身者ってある意味まじめ過ぎてキチガイな人だったっけ?
どこか善人なインペラーの人とは違って、他人を操るのが好きな芝浦には相性が悪かったみたいだね。
最初から人を玩具としか思っていない芝浦を裏切るなんて、そもそも信頼もされてないから無理だろうしね。
昨日、前に教えた電話番号で呼ばれて5回目のデートした時には少し変わったかなと思ったけど、やっぱり芝浦淳は芝浦淳だったね。
彼と別れた後に、ライアの占い師を見つけたので、鏡から飛び出させたレイドラグーンに襲わせたけど、何故か気付かれた。
占い当たるにもほどがあるよ…。
仕方が無いからほぼ総力で襲わせたけど、それでも良い勝負していたから、私自身も鏡に飛び込んで開幕サバイブファイナルベントするしかなかった。
でも、それ見られてたんだよね。
「ライダー、だったんだ」
「…言って無かった。ごめんね?」
そう言って仮面ライダーガイの姿で私を見つめて立ち呆ける淳の背後から、乱戦に含ませていなかった一体のレイドラグーンに糸を吐きかけさせた。
糸に絡まって動けなくなった彼に他のレイドラグーンも糸を次々と吹きかける。
でも、このまま喰われて死ぬのを見るのも忍びなかったので、
『ファイナルベント』
―――その命は私自身の武器で断つことにした。モンスターの進化のお蔭か、漸く使えるようになったファイナルベントで。
さよなら。少し良いかなって私も思ってた。でもね、やっぱりさよなら。
私は此処で吹っ切れたと思う。
レイドラグーンから更に進化したハイドラグーンを従え、私は生身の浅倉威を襲わせた。
この時は隠蔽よりも確実に浅倉を殺し尽くす事を意識した。どうしてかは解らないが、とにかく確実に殺そうと思った。
後になって理由付けをすれば、生身が一番ヤバいのが王蛇とシザースだからだろう。
ほぼ動けなくなった王者からデッキのカードを奪ってから、私はその身体を薙刀の形をした武器で貫いた。
残るライダーは多分あと一人。
淳が死の間際に言っていたからだ。
淳の親の会社の繋がりで知り合った仮面ライダーベルデの正体である高見沢逸郎と組んで、
弁護士と刑事のライダーは鏡の世界に呼び込んだ後、元の世界に帰る鏡を現実世界で壊して騙し討ちにした、と。
そしてその後淳が高見沢と戦って勝利した、と。随分と誇らしげではあった。
あと一人、あと一人倒せば私はこの戦いから解放される。
そして平穏を取り戻せる。
そんな私の前に、現れたもう一人のサバイブ保持者、秋山蓮。
彼の烈火のサバイブを用いたナイトはその色合い故に、何処か主人公の変身したライダーを思い出させた。
でも、勝利したのは私。
そしてそれで終わりでは無くて、エキシビションマッチみたいに最後のライダーとやらがやって来た。
仮面ライダーオーディン。黄金の最強ライダー。
でも私は生き残りたい。
だからナイトサバイブに使ったのと同じ最大火力で一気に攻める。
『ユナイトベント』
無数のハイドラグーンを一匹に纏めて、食費を軽減するとともに一体当たりの戦闘力を極限にまで跳ね上げる。
致命傷を与えた所で、何やらカードを使われそうだったので、ハイドラグーン集合体に糸を吐かせてそれを奪い取る。
時計の絵のカード。でもその効果が何であれ、私には関係ない。
そうしていたら変身者がミラーワールドから逃げ出そうとした。
私は躊躇う事無く、サバイブのファイナルベントを使用する。
私の契約するハイドラグーンはミラーワールドの外側でも自由に動き回れる。
これが意味する事は、私のファイナルベントの攻撃範囲は、鏡の中の世界だけに留まらない。
巨大な西洋竜の様な姿のモンスターに乗り上がった私は、
鏡の向こう側の世界へ変身を解く事無く変身が解除されたオーディンの中身へ吶喊して磨り潰した。
「おまえがしょうしゃだ」
突如現れた神崎士郎が言う通り、これで、私がこの戦いの勝利者。
「ねがいをかなえてやろう」
何だか、ランプの精みたいなことを言い出した男に、私は最初から決めていた譲れない願いを言葉に乗せて送った。
「もう、戦わなくていい? それは良かった。
じゃあ、私の願いは…私は、――――――生き残りたい、ただそれだけ」
この後願いが叶ったかどうかは未定とします。
お読み頂き有難う御座いました。