風来坊で准ルート【本編完結】   作:しんみり子

15 / 37
《楽しいデート》V

『そうだね。人じゃないよ、小波さんは』

 

『誰かを守るだけじゃ生きていけないよ。そんなの、疲れちゃうよ』

 

『疲れちゃうから、貴方はまたどこかへ行っちゃうんだよ』

 

 

 

 

 

「虫退治、ですか」

「そうなんだよ。地下の貯蔵室に大量発生してね」

 

 商店街を行く当てもなくぶらついていた俺を呼び止めた会長は、困り果てた表情で頷いた。礼金は出すから頼まれてくれないか、とまで言われたら、引き受けない理由もない。どのみち、今日は特に何をする予定もなかった。

 強いて言うなら、河原に戻って食料の確保か。

 

 とてもじゃないが……喫茶店に行くわけにもいかないし。

 

『ごめん、小波さん。荷物持ってくれてありがと。お店に置いといて』

 

 リフレインする彼女の言葉。

 あの後、なんとなく店に入ることもせず、マスターに彼女の荷物を預けて帰った。

 なんだか准と顔を合わせるのも気まずくて、今日も足を運ぶのは躊躇われる。

 

 だから、ちょうどいい。

 人助けになるんだから、いいじゃないか。

 

「ええ、いいですよ。じゃあ殺虫剤を焚けばいいんですか」

「それが、かなり凶暴なやつでね。まあ、とりあえず来てくれたまえ」

 

 会長と共に歩くこと数分。

 やってきたのは、とある酒屋の地下倉庫。

 ここなんだが……と会長が微妙な表情を浮かべて俺を見た。

 何だろうか。開かれた地下の扉の中を覗き込んで……思わず顔をしかめた。

 

「……あの、あれって本当に虫なんですか」

「ワシに聞かないでくれよ。でも、形はゴキブリに似てるだろ?」

 

 大きさはネコくらいあるんだが。

 それが何十とひしめき合う様は、正直見ていてとても気持ちのいいものではない。

 

「これは保健所…いやむしろ自衛隊に連絡したほうがいいんじゃないですかね」

「ダメだダメだ、商店街の評判をこれ以上悪くするわけにはいかない。そこで君に頼みたいんだよ」

「なる、ほど……?」

 

 まあ、やっつけられないことはない、か。

 殺虫剤の類が効けばの話ではあるが。

 

「殺虫剤を何度か炊いてみたんだが、どうやら、外に巣があって壁の穴から入って来るみたいなんだ」

「はあ。じゃあ、壁の穴をふさぎましょう。ちょうどそれに使えそうな荷物もあるみたいですし。で、壁を塞いだら、あとは地下室の外に殺虫剤を噴射しましょう。それで全て解決です」

 

 見た感じ、ちょうど壁を埋められそうな台座や石の置物が……ここはいったい何の倉庫だったんだ?

 

「それじゃあ、頼めるかい。一番強い殺虫剤を持ってきてある」

「分かりました。じゃあ、始めましょうか」

 

 外套の取り、……汚れるのも躊躇われたのでストールを外して会長に手渡した。

 よし、虫退治開始だ。

 

 

(そして・・・)

 

 

「ふう、やれやれ」

「ありがとう、助かったよ」

 

 なんとか害虫駆除に成功した。しかし奴らめ……てこずらせてくれたな。パワーありすぎるだろ。でかいし。

 

「これは報酬だ。受け取ってくれ」

「ああ、ありがとうございます」

 

 封筒に入っていたのは、三万円くらいだろうか。ありがたく受け取って、懐へ仕舞う。ついで預けていた外套を羽織ると、次いで受け取ろうとしたストールを、会長が何故か手放さない。

 

「……会長?」

「いや。小波くん、なんだか調子が悪いのかい?」

「あはは、そう見えますか?」

「少なくとも、いつも動じない君らしくもないというか」

「動じない、ですか」

 

 そんなことはない。確かに野球をしている時は、動揺は死活問題だ。

 それに、助っ人としてやってきたのに無様を晒すわけにはいかないから、一応感情には気を遣っているが。……それでも、俺は無感情な方じゃない。

 いつだって、例の喫茶店では振り回されてばかりで……。

 

「……やっぱり調子悪いのかい? 明日の練習は休んだ方が……」

「いえ、大丈夫ですよ。このくらいの不調は慣れてます。最近じゃ栄養不足に悩まされることもないほどで」

「そうかい……? なら、良いけれども」

「あ、それから会長。体調とは全く関係ないのですが、明日だけ練習は休ませてください」

「あ、ああ分かった。何か用事なんだね」

「ええ」

 

 軽く、会長に頷いて。

 ストールを首に巻き付けて、酒屋を出た。

 少し、普段と変わらないはずの首もとを息苦しく感じた。

 

 

 

 

 

 

《楽しいデート》V――ひとりの人――

 

 

 

 

 

 町と町とを結ぶ幹線道路を行く一台の車があった。

 助手席に武美を乗せて、権田から借りた車で俺は一路ある町へと向かっていた。

 

「何度かもう試してるんだけどね、あたしの能力じゃぜーんぜんダメ。これ以上は足が着くと思って、もう諦めてたんだ」

 

 ウィンドウを少しだけ開けて、風を感じて目を閉じる彼女。

 不安げなその口調とは裏腹に、言葉尻に込められた希望は本物だ。

 俺はそんな彼女を横目に、軽くアクセルを踏む力を強めた。え? 免許? ははは。

 

「泣いても笑っても一回勝負というわけか」

「……不安だよね」

 

 街道を通り抜けて、やってきたのはミルキー通りとかいう繁華街。

 その裏道を通っていくと、ちょうど駐車できそうなスペースが見つかった。

 ここまで全て武美ナビのおかげというから流石と言う他ない。

 すごくないか? カーナビから彼女の声で、「あ、次の信号右だよ♪」とか聞こえてくるんだぜ?

 

 それはそれとして。

 緊張を孕んだ彼女の言葉に、ふと思う。

 一回勝負。勝てなきゃ死ぬ。絶対に逃せないチャンスと、絶対に手放してはいけない居場所。失いたくない人に手を伸ばすたった一度の機会。

 

「もう慣れたさ」

「かっこいいなぁ。ロマンだねえ。頼って、良いの?」

 

 横目で見た彼女の頬が緩んだ。

 緊張が解けたのなら何より。調子づいて、俺も笑みを返す。

 

「当たり前だろ。そのためにこの町へ来たんだから」

「……そっか。えへへ」

 

 車を回して、スペースに止める。

 武美ナビによれば、ここの目の前にある裏路地が一番良いポイントらしい。

 

 スーパーまる生と、大通りを挟んで高層ビルが立ち並ぶこの街を選んだ理由は結局まだ聞いていなかったが。

 機材を抱えて助手席から飛び降りた武美に先導して貰い、やってきたのはスーパーの裏側。ちょうど、小さな立て看板がネオンを輝かせているその背中だ。

 

「で、ここか」

「そ。あっちのビルに大神グループの会社が入ってるんだ。この位置なら看板用のコンセントも利用できるし」

 

 なるほど確かに、大神の会社の近くならそれほど好都合なこともない。

 それにこの位置なら上手く隠れることもできるだろう。

 ……昔はサイボーグ同盟の連中がこうして路地裏に潜んでいたっけ。今と変わらないか。

 

 ついこぼれた笑み。サイボーグというとどうしてもあいつらを思い出してしまう。

 元気かなあ、小波と友子は。

 

 そんなことを考えていると、しゅるるると足元にコードが伸びてきた。

 元をたどっていくと……武美さん、貴女のスカートの下から伸びているのですが、これは……いったい、どこから……?

 

「このプラグ、そこのコンセントに挿して。生体電源だけじゃたぶん足りないから」

「あ、おう。しかし、便利なもんだな。喫茶店のフリー電源も使えるじゃないか」

「見られたら何て言うつもりなのさ」

 

 コーヒーも電気も美味しいですね、とか?

 ダメだメイドに何を言われるか分からん。

 

 ……。

 

 

やめよ、考えるの。

 

 まあ電源ならこの看板の電気供給元を一緒に使わせてもらおう。

 ちょうど一個空いている壁のプラグに差し込んだ。

 

「うひゃあ、ひっぱっちゃダメ!」

「ご、ごめん」

「もう、なんて声出させるかな」

「これ神経通ってたり…? なあ武美、大変興味が」

「うるさい。はいこれ被って」

 

 若干頬を赤らめた武美が、ぐいっと押し付けてきたのは彼女が持っていた機材のうちの一つ。ゴーグルのようなそれは、確か最近開発されたVRとかいう技術に使うような代物と見た目が似ていた。

 

「ああ」

「あ、メットはプラグに挿して」

「了解。仮想世界から戻ってくる方法は?」

「ほっぺたをつねると仮想世界から現実に戻るように設定しておいた。……そうだよね。一応貴方を連れて行くとあたしの処理能力は落ちちゃうんだ」

「なら俺は自分の仕事を終えたら先に戻ることにしよう。もし君が戻って来れなさそうなら担いで逃げるさ」

 

 ほっぺた、ね。覚えた。

 ミッションとして、俺がする仕事は決して多くはないだろう。

 なら、やることは先に決め打ちでいいはずだ。

 

「……どっちみち、セキュリティに捕まったら脳を破壊されて死んじゃうからあんまり意味ないけどね」

「なるほど。友子が、俺も危ないみたいなことを言っていたがそういうことか」

「うん。……だから、ちょっとでも異変を感じたら逃げてね?」

「ああ、分かった」

 

 最後に周囲を見渡し、きちんと死角になっていることや人気がないことを確認して。

 武美と顔を見合わせた。

 

「じゃあ、行くよ」

 

 

 ……。

 …。

 ……なんだ? まるで夜空みたいだな。

 

 ふと意識が沈んで、浮かび上がった。視界一面を暗い世界が満たしている。

 まるで宇宙儀の中に閉じこめられたような場所だ。と、隣に居た武美が袖を引く。

 良かった、彼女も俺も、この世界でも普通に人型を保っているらしい。

 

「ちなみに、星がゲートで流星がデータ移動だよ」

「こんなタイミングでなかったら、のんびり即席プラネタリウムも乙なもんだが」

「そうだね。戻れたら、やりたいね。――大神の研究所はこっちだよ。ああ、不自然に見えるものには触らないで」

「不自然……?」

 

 どれが自然でどれが不自然かもいまいち判別できてないんだが……お?

 

「たとえばこの派手な星とか?」

「あ、それワクチンソフト!」

 

 ってことは触ったらまずいのか。げ、こっちに来るぞ?

 

「はやくこっちに来て!」

「いきなりやられるところだった……」

「あれは市販のワクチンソフトだよ。警報が出るか、追い出されるだけ」

「ということは、この先さらに危険なものだらけってことか!」

 

 これは気を引き締めてかからなきゃいけないな。

 そう、取り直して進むことしばらく。

 武美の先導で歩いてきたはいいが……。行けども行けどもこんな風景か。

 ちょっとめまいがしてきたぞ。

 

「ストップ! ……深紅さん」

「どうした?」

「目の前に赤い星が並んでるでしょ? あれはこっちから手を出せないの。この先には進めない……いわゆるファイヤーウォールなんだ。これまで何度か試したけど、やっぱりここもダメなのかな」

 

 何か、貴方には分かる? と。

 半ば縋るような目つきで見上げられたら、俺も何かしないわけにはいかない。

 俺に精神的な干渉が効いていないと仮定したうえで、何か抜け道のようなもの。

 あるはずだ。自分たちがデータを弄れないんじゃ意味がないんだから。

 

 ……お?

 

「どうして右から三番目だけ白いんだ?」

「え、どこ?」

 

 あれあれ、と指を差すと。彼女はしばらく「え、赤いよね……?」と悩んでいた風だったが。

 

「あ、そうか!貴方の向いてる方向がありえない値になってる。そうか、これがあたしの脳の心理トラップなんだ」

「プログラムされた、対サイボーグの仕組みってことか!」

「大神の重役が作ったプロテクトが、このネットに対しても同じ処理がされてるわけ。セキュリティの穴を見つけても、あたしには認識できないんだ」

「だが、俺には見ることができる。……友子が言っていたのは、そういうことだったか」

「そうと分かれば……よしっ、中に入れた。とりあえず、手あたり次第にデータをいただくぞ♪ 食べ放題タ~イム!」

 

 時間がないかもしれない。

 彼女は白い星をすり抜けて中に入ると、目を閉じて何かしらぶつぶつ言いだした。……おそらくこれで俺の仕事は終わりだろう。データに罠が貼られていなければの話ではあるが……っ!?

 

「待て、あたりの様子がおかしくなった! 武美!」

「やば、セキュリティソフトに見つかった! こうなったらぎりぎりまで!」

「俺の仕事は!?」

「大丈夫!」

「……外で待つ」

 

 これ以上いても彼女の邪魔になるだろう。

 軽く頬をつねった瞬間、また脳が揺さぶられるような感触とともにホワイトアウトした。

 

 ……う、頭ががんがんする。とりあえず、俺が居なくなれば武美の負担は減ったはずだ。これでいいんだよな。

 

「武美?」

 

 声をかけても返事がない。

 しばらく様子を見た方がいいか……っと!?

 

 車のブレーキと、タイヤが派手に地面を擦る音。

 看板の裏側――大通りの方に止まった車の窓から伸びる黒光りするマズル。

 

「クソッ……!」

 

 意識がない彼女に覆いかぶさると同時、鳴り響く銃声の雨嵐。

 はっ……痛くなんかねえよ。幾らでも撃つがいいさ。

 

 ただ武美に一発でもあたるとまずい。

 身体を覆いかぶせるようにして彼女を守ること数秒、一度弾丸の雨が止んだ。

 

 同時、武美が目を覚ます。

 

「うわ、何がどうなって、って大丈夫!?」

「なに、心配は要らないさ。かすり傷だ。急いで逃げよう」

 

 誰かを守れないことに比べたら、欠片も痛くはない。

 そうだろ? 俺。

 

 

 

(そして・・・)

 

 

 

 

「危険な任務成功にかんぱーい!」

 

 車に乗って、遠前町への帰り道。

 立ち寄ったコンビニエンスストアで彼女が買ってきたのは、二本のペットボトルだった。助手席に乗り込んでくるなり、今まで以上に快活なその満面の笑みで俺にボトルを握らせる。乾杯ってもっとこう、アルコールとかじゃないのか。

 

「帰ってから酒じゃダメだったのか?」

 

 エンジンをかけて、再度車を出発させる。

 頃合い的には、あと数分もすれば遠前町に入れるだろう。

 

「あたし、まだ九歳なんだよ。11年後まで待たないと」

「……寿命タイマーはどうにかなったのか」

 

 ウーロン茶をちびちびやりながら窓の外をぼんやりと眺めていた武美に声をかける。

 すると、こくんと頷いたのが見えた。こちらを向いてくれはしないが、俺だって運転中にずっとよそ見をしているわけにもいかない。

 

 彼女が助手席から景色を眺めている間も、ぐんぐん遠前町は近づいてくる。

 

「データを解析してみないとわかんないけど……たぶん大丈夫」

「そうか。よかったじゃないか」

「うん」

 

 良かった。ああ、本当に良かった。

 武美が助かってくれて本当に良かった。

 俺自身、心からそう思う。

 

 ……俺が、嬉しいんだ。助けられたことが。

 

『そうだね。人じゃないよ、小波さんは』

 

 ……だとしても。人が幸せになれることは、喜べる。

 それじゃダメなのかなあ。

 

「深紅さん」

「ん?」

 

 赤信号に、ブレーキを踏む。

 ぼんやりと目の前を行きかう車を見ていると、武美からぽつりと声が漏れた。

 

「なんていうかさ。あんまりうれしくてその、実感がわかないんだ。でも……あたし、助かったんだよ」

「おめでとう」

「ありがとう。……ありがとう。貴方のおかげで、あたし救われた。本当に、なんて言っていいかわかんないけど」

 

 相変わらず彼女はこちらを見ない。

 けれど、窓ガラスに反射して、彼女が今どんな顔をしているのかは分かる。

 

 泣いているんだって。

 

 

 信号が青になった。

 ここからは遠前町に入る。

 

 そう、帰ってこられたんだ。

 

「深紅さん、ありがとう。本当に、ありがとう」

「お礼は、小波と友子にも言ってやってくれ。あいつらが居なかったら、きっと遠前町に来ることもなかったさ」

「あはは。友子には、借りを作りっぱなしだね、あたし」

 

 

 ああ、本当に。

 俺も、あいつらには借りを作りっぱなしだ。

 

 

 

(そして・・・)

 

 

 

 

 権田に車を返して、俺は武美と別れた。

 泊まっていきなよ、と武美が誘ってくれるのは嬉しかったが、なんだろう。

 なぜか、断ってしまった。人の善意には、未だに慣れない。

 少し、一人になりたかったのかもしれない。彼女の好意に甘えるのは、少し申し訳ない気がした。貸しを作ってしまった、ようなものだからだろうか。

 なんというか、そうやってお礼を言われて。感謝されて。

 その場にいると、いつの間にかぎくしゃくしてしまって。俺もどうしていいのか分からなくなって。

 

『うわあやったあ~!』

『逆転サヨナラでやんす!!』

 

 ……そこで離れておけば、関係も壊れなかったのかなって。

 

 

『誰かを守るだけじゃ生きていけないよ。そんなの、疲れちゃうよ』

 

 

 ……。

 疲れていたのだろうか。俺は。

 

 分からないな。分からないから、こうして探して旅しているんだけど。

 

 ぽつぽつと考え事を巡らせながら。

 歩いて河原まで帰ってきたところで気が付いた。

 

「あれ? テントが無いぞ?」

 

 いつもなら、河川敷近くまでやってきたら憎めない黄色い三角さんが見えていたはずなんだが見えたらない。暗いから? もう夜が近いから? いやいやそんなことはないはずだ。

 川の急な増水? 流された? んなバカな話はない。

 

 慌てて駆け寄って、近くまで来て。気づいた。

 

「人助けの帰り?」

 

 そこに、誰かが立っていることに。

 

「……准?」

「はい、ご主人様の頼りになるメイド出張版、夏目准です♡」

「いやここ店でも何でもないんだけど」

「確かに何もない寂しいとこだね」

「なんだと!? ここは住みやすくて見晴らしのいいベストスポットなんだぞ!?」

「住むところじゃないんだってば」

「っとそれで思い出した。俺の家を知らないか?」

「ああ、あれ貴方のだったの」

「知ってたはずだろ!?」

「バーベキューしようと思ったんだけど燃料がなくて」

「くべたのか!? 人の家バーベキューなのか!? 何故そんな、この悪魔メイド!」

「冗談に決まってるじゃない」

「お前の冗談は笑えないんだよ……」

 

 なんてヤツだ。けど、何故ここに准が居るのか。そして俺のテントがどこに行ったのか分からないままだ。

 

 こいつが何かを知ってるかは分からないし……。それに、少し気まずい。なんだかぎくしゃくしてしまっていて、普段のような軽い受け答えもあまり思い付かないというか。よくない、感じがする。

 

 と考えていると。夕日も沈みかけで逆光になっていてよく見えないが。

 准が、なにか言おうとしているような気がした。

 

「……今度は、広川さんを助けてきたの?」

「えっ? なんで知ってるんだ?」

「知ってるも何も、あのお店でデートがどうのって……小波さんにまともに人とデートできるとは思えないし」

「し、失礼じゃないかね君!?」

「それと、その穴だらけの外套と……私があげたストールもちょっと焦げてるし」

「……」

 

 それは。

 

「なに、してんだか」

「……准?」

「昨日、色々考えたんだ。勝手に帰ってごめんなさい。荷物、ありがと」

「いや、それは別に良いが。考えたって何を? 俺の暗殺方法?」

「ヤッテイイノ?」

「真顔でそんなこと言うのやめてください」

「ごめん。貴方とこうして話す時は先に言っておくべきだったね。今、真面目な話」

「……」

 

 そんな気落ちした顔するなよ。

 

「……きっと今日、広川さんを何かから助けてきたんでしょ?」

「俺が言っていい話じゃない」

「いいよ別に。それは分かってるから。でも……なんで助けたのに一人でここに帰ってきたの?」

「いや、失敗したわけじゃないぞ?」

「分かってる」

「……?」

「ほんとに分かってないみたいだから言うけどさ。もう、見ていられないよ」

 

 眉根を寄せて。悲しそうに。

 なんで、俺をそんな痛々しいものを見るような目で見るんだよ。

 真面目な話なんだろ? 俺をからかうんじゃなくて。

 

「疲れちゃうから、貴方はまたどこかへ行っちゃうんだ」

「……」

「私、言ったよ。きっと、今もそうでしょ。……みんなを守る、貴方を。貴方を守る人は、居るの?」

「必要ないさ。俺は、誰かを――」

「……小波さん」

「ん?」

「……はい、これ」

 

 つかつかと、近づいてきて。

 彼女は、俺に手を差し出した。

 

 夕日に反射してちらっと光ったそれは、――鍵?

 まさか、押し入り強盗をすることによって、俺の善悪を相殺させようと。

 

「……それは犯罪だ」

「バカなの? 私の家に決まってるじゃん」

「は?」

 

 ……は?

 

「だから、私の家」

 

 ぐ、と押しつけるように俺に鍵を手渡して。

 彼女は、そっぽを向いた。

 

「……状況が上手く呑み込めないんだが、俺は何をされるんだ? 私刑なのか?」

「まあ、ある意味、そうだね」

「ある意味!?」

 

 どういうことなのか。何ひとつ分からない俺に振りむいた彼女の笑顔は、今までにないくらいに綺麗で。

 

「この町を出ていくまで、貴方には私と一緒に住んで貰うことにしたんだ。貴方の物は全部、うちで人質になってるから」

「な、なんだってーーーー!?」

 

いや、マジで意味が分からない。なんで? なんでそうなったの? 俺に選択権は?

 

困惑している俺をよそに、彼女は笑って指を突きつける。

 

「小波さん!!」

「はい!?」

「貴方には、これから人になって貰います!!」

「どういう意味だよ……」

 

 

 

(住んでる場所が准の家に変わった!)

(准と遊びに行く コマンドが使えるようになった!)

ハンサムが5上がった!

バンザイが4上がった!

 

 




住む場所変わるまで長かった……。
10万字近くってもう文庫一冊じゃねえか。
おまけ含めて構想のだいたい1/3が終わりました。おかしいな、20話くらいで〆るつもりだったんだけど。

あとちょっと今日はパソコン触れないんで感想返信出来てないと思います。今回の更新でいただけた分と合わせて明日返します。いつも戴く皆さんのパワポケ愛溢れる感想は、読むのも返すのも楽しいんでこの場を借りて一度お礼しておきます。ありがとう!!!

次回からバーサクわっしょい!

ええじゃないかええじゃないかええじゃないかええじゃないかバンザーイ! バンザーイ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。