Are you レディ?   作:先詠む人

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最初に言っておきます。
ぱっと見繋がってないように見えたとしてもこの「Are you レディ?」で投稿される全ての話は一つの点で繋がっています。


「時雨」と「探偵」

「あぁうん。大丈夫さ。僕もそっちに今向かっているからね。」

 

『………』

 

「そうだよ、僕の提督と一緒さ。資料はこっちでまとめているし、ちょうどそっちの方に用事があったからね。気にしなくていいよ。うん。それじゃあ後で。」

 

 そう優しい顔で電話相手に告げると俺の相棒は持っていた俺のスマートフォンを操作して通話を終えた。そしてこちらの方を向くと……

 

「それで、提督?これはいったいどういうことかな?」

 

 さっきまで見せていた柔和な笑顔をどこに置いてきてしまったのか。般若のような顔を見せながら俺に持っていたスマートフォンの画面を突き付けてきた。

 

「いや…それは……その……だな。」

 

 俺はしどろもどろになりながらも必死に答えようとするが、

 

「僕よりも君はこんな大きな胸の艦娘の方が好きなんだね?」

 

 そう言いながら相棒は街中で正座している俺の周りをゆっくりと回り、俺の前で止まる。そして

 

「君には失望したよ。お胸が大好きなハードボイルド気取りの探偵さん。」

 

 耳元でそう囁いて悪魔のような笑みを浮かべた。その笑顔を見て俺は

 

『…………やっぱあの日突き放すべきだったか……』

 

 と2か月前の大雨のあの日、本職である探偵業がうまく行ってなかったときにたまたま受けた依頼で出会ってしまった時、そしてそのあとのことを思い出して憂鬱にならざるを得なかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時雨」と「探偵」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 2か月前、俺は事務所に久しぶりに来た依頼主(クライアント)の話を聞いていた。

 

「それで、礼子さんのご依頼としてはこっそり飼っていた猫を探してほしいということでよろしいでしょうか?」

 

 俺は少しばかり気障ったらしく手元で帽子をいじりながら目の前の椅子に座るきれいな少し碧がかった銀髪の少女(おじょうさん)に尋ねた。

 依頼主の名前は夕張礼子、艦娘市に本社を置く夕張重工の関連企業の社長令嬢だ。

 もちこまれた依頼は一昨日、親の目を盗んでこっそり飼っていた猫が行方不明になったのでそれを探して連れて来て欲しいとのことだった。

 

「えぇ。この猫を探し出してくれたのなら成功報酬としてさらにこれだけ上乗せさせていただきます。」

 

 そう言って目の前のお嬢さんは小切手に0が4桁書かれた紙を渡してくる。

 

「もし成功した暁にはそちらに好きな金額をお書きになってくださいな。私が責任をもってお支払いいたします。」

 

「わかりました。それではこのご依頼お受けしましょう。」

 

 俺はその小切手を受け取り、懐に納めてから立ち上がって入口の扉を開いた。

 

「猫が見つかり次第ご連絡いたします。」

 

「えぇ、お願いしますね。」

 

 そう俺の言葉に答えてお嬢さんはこの建物から出て行った。

 

「………」

 

 持っていた帽子をちょっといじってから被り、鏡の前で位置を調整する。

 

 被る帽子はソフト帽、これは男のたしなみだ。

 身に纏うのは黒のベストにスラックス、それもきちんと整える。

 

「さて、行こうか。」

 

 俺は鏡の前でそう自分に言い聞かせるように告げてから事務所から出た………が

 

「やっべぇカギ閉めてなかったやばいやばい。」

 

 数秒後に事務所の扉を閉めていなかったことを思い出して慌てて事務所に戻ることになった……

 

 

 

 今度はきっちり鍵を閉め、受け取った写真を片手に行きつけの喫茶店へと向かう。

 この喫茶店には色んなやつがいる。若いころに警察に何度もお世話になったような奴やそれこそ麻薬に過去に手を出したがそれを克服するために頑張っているものまで様々だ。

 その中でも俺が用があるのは…………いた。

 

「おい、情報屋(へんたい)。」

 

 オープンテラスになっているこの喫茶店の窓の近くの席に新聞紙を見ているように見えて実はカフェの前の通りを通る女学生をスマホのカメラで盗撮するのが趣味の一つであるこのピンク色の髪のぼろぼろの制服を着た変態はこの街というか、この近辺のありとあらゆる情報を持っている情報通なのだ。

 

「ん?なんですか探偵、私の趣味の邪魔をしないでください。」

 

「仕事の話だ。この猫についての情報をくれ。何でもいい。」

 

 俺はそう文句を言いながらこっちを見てくる情報屋にお預かりした猫の写真を見せた。見せたのはスマートフォンのカメラで撮ったと思わしき少し画質こそ荒いが何色の毛並みのどのぐらいの大きさの猫なのかがはっきりとわかる奴だ。

 

「う~ん、これじゃあ画質が荒すぎてはっきりと断言できる情報を集められないかもしれませんねぇ~。ちょっとデータ回してくれます?」

 

「あぁ。いつもの通り頼むぜ。」

 

「もー、私は面倒ごとは嫌いなんだけどなぁー」

 

 そう文句を言いながらデータとして取ってある方の画像を情報屋に渡す。

 

「うん、おっけぃです。補正ソフトで補正とかかけてから調べるからそうだなぁ……30分ください。それまでに今その猫が居そうな場所を調べてリストアップしておきます。」

 

「すまねぇな。手間を掛けさせる。」

 

「いえいえ~、最初に失敗したときに私を助けてくれたのは探偵さんですからその辺は気にしなくてもいいんですよ~。面倒ごとは嫌いですが。」

 

「ハハハ。それじゃあ、30分後。またこっちに来るから頼むわ。」

 

「了解です!」

 

 そう言って情報屋は喫茶店の裏の方へと電話を片手に歩いて行った。

 

「さて、今度は……」

 

 俺はそれを見送ってから喫茶店を後にして裏路地の方へと足を延ばす。

 

 裏路地の方に入り、少し歩くと目的の女性が子供たち相手にデレッとした顔を向けながら竹製のおもちゃなどを配っているのが見えたので声をかける。

 

「お~い、ナーガ。」

 

「ん、なんだ探偵か。私は今忙しいのだが……」

 

「そこを押して頼みがある。そこの公園で待ってるから手が空いたタイミングで来てくれ。」

 

 俺はそう女性、ナーガに告げてからすぐ近くの公園のベンチに座った。

 

 数分もしないうちにナーガがこちらへと歩いてくる。その手には竹製のおもちゃなどがたくさん入った袋を持っており、着ているのは幼稚園の先生とも言えそうなエプロンを動きやすそうな上下の上につけている。

 

「それで探偵、用事とはなんだ?」

 

「あぁ、お前がこの3日以内に関わった子の中で捨て猫とか迷い猫のことを言っているような子っていたか?」

 

 俺がそう尋ねるとナーガは唸り声をあげながら口元に手を添え、

 

「そう言えば……」

 

 と切り出した。

 

「そう言えば昨日、〇〇町の裏手辺りを今日みたいに竹製のおもちゃなどを配って歩いているときに子供に交じって艦娘らしき子がいたのだが…」

 

「お前手を出してないよな?前に艦娘なら第一次性徴期前に襲っても問題ないといって警察の朝さんにお世話になったの忘れてないよな?」

 

「無論、手は出さなかったさ。我慢したからな!」

 

「そこ威張るところじゃねーだろ!!……それで、その艦娘がどうかしたのか?」

 

「うむ、実はその子がな。どうも親に虐待されていたっぽいのが目に見えて分かるほどだったのだが……」

 

「おい、関係ない話になっている気がするけれどどっちにしろ朝さんにその子の保護頼まないといけないから迅速に必要事項だけさっさと話せ。」

 

「私と目が合ったとたんに逃げ出してしまってな。それでその子が途中で転んだのだが……見たこともない毛並みの猫がその子に近寄って行ってな。その子と一緒に最終的にどこかへ行ってしまったのだ。」

 

「その方角は?」

 

「〇〇町から内地の方だから……南東だな。」

 

 そう言うとナーガは手をこちらに向けてひょいひょいと動かしてきた。

 

「わかった。情報感謝する。そんで、これが駄賃とおまけだ。こないだお前〇〇保育園の中に勝手に入ってその中に紛れ込んでいたまだ親と子供本人に自覚のない艦娘の少女を愛でただろ。」

 

 俺が手の上に情報量代わりの数千円を入れた封筒を渡しながらそう言うと

 

「そ……そんなのしらないなぁ…?」

 

 と、ナーガはどこからどう見ても不審な様子で震えだした。

 

「それでしばらくあの付近は警察が巡回するようになったらしいからほとぼりが冷めるまであの辺に近づくのはやめておけ。そんだけだ。」

 

 俺はそう言ってベンチから立ち上がり、喫茶店の方へと歩いた。

 

 

「……あ、探偵さん。お待ちしてましたよ~!!」

 

 喫茶店に入ってすぐに2台のノートパソコンを机の上に広げ、3台のスマートフォンを並べている情報屋が俺に気付き声をかける。

 

「待たせたな。そんで、何かわかったか?」

 

 俺が椅子に座りながら情報屋に尋ねると情報屋は笑顔で

 

「はい!全然わかりません!!」

 

 というものだから俺はガクっという音が聞こえそうな勢いで椅子の上で崩れた。

 

「……おいおい。お前あんなに自信満々だったのにそれかよ…」

 

 崩れた際にずれてしまった帽子の位置を直しながら情報屋に苦言を漏らす。しかし情報屋は

 

「いやぁ~、この街の監視カメラにハッキング仕掛けましたけど最近腕のいいプログラマーでも雇ったんですかねぇ~。セキュリティーウォールが厚すぎて突破なかなかできませんよ~。」

 

 と俺の苦言をさらりと流しながらキーボードの上で指を走らせた。

 

「ま、それも私の手にかかればちょちょいのちょいなんですけどね!」

 

 そして笑顔のまま情報屋はエンターキーを押し込み、PCの画面をこちらに向けてくる。

 

「できました!」

 

 そう言ってフンすと胸を張る様子は確かにかわいらしいのだが、

 

「はよせぇや。」

 

 流石にイラっと来たので急かした。

 

「うっわこわ……わかりましたよ分かりました!!ただ、猫だけじゃあ時間かかりますけど何かほかにありますかね?」

 

 キーボードに指を走らせ、文句を言いながら情報屋はこちらに手をひらひらと振ってくる。

 

「……そうだなぁ…」

 

 追加のキーワード。それを俺は考えに考え……

 

『見たこともない毛並みの猫がその子に近寄って行ってな。その子と一緒に最終的にどこかへ行ってしまったのだ。』

 

 

「虐待されているのが目に見えて分かる駆逐艦の艦娘ってキーワードにできるか?」

 

 と、ふと思い出したナーガの言葉を情報屋に聞いてみた。

 

「えぇと……たぶんできると思いますよ?ちょっと待ってくださいね?」

 

 そう言うと情報屋は画面に数点キーワードを打ち込んでプログラムを走らせる。

 

 

 

 時間は二十秒もいらなかった。

 

「あ、見つけました。この場所ってことは多分埠頭の近くの橋の下でホームレスしてますねこの子。猫ちゃんも一緒みたいです。」

 

「おっし、サンキュっ。それじゃあ行ってくるぜ。」

 

 画面に映っているのは確かに探している猫を抱きかかえたまま歩くズタボロの服というか、最早布切れとでもいえそうなものを身に纏ったぼさぼさの黒髪の少女。

 俺は画面上に表示されているその場所をメモしてからすぐに動き出す。

 

「あぁクッソ。雨が降りそうだなこれは……」

 

 店から出ると西の方の空が真っ黒になっているのが見えた。

 

「……一応、傘持っていくか。」

 

 そう誰に言うわけでもないが呟き、俺は近くのLAWS〇Nに入った……

 

 

 

 

 

 

 目的地に着くと、そこは鼻が曲がりそうになるほどの異臭が立ち込めていた。

 

「なんだこれは……」

 

 口元にハンカチを添えて簡易のマスク代わりにし、そのまま奥に進んでいく。周囲にはうめき声が聞こえ、そちらも気になるのだが依頼を優先するためにどんどん奥へと進む。

 

 一番奥の方、まだ比較的臭いが薄いところに漂流物か何かで作り上げたと思わしきぼろぼろの物体が半壊した状態で転がっていた。

 

「なんだよこれは……」

 

 ハンカチを口元に添えたままつい呟いてしまう。

 半壊した物体のすぐそばには赤い線が走っており、その先には細い少女の腕らしきものが転がっているのが見えた。

 その腕は半壊した物体の下へと続いている。

 

「……!!」

 

 そのことに気付いてすぐに俺は物体の方へと駆け寄り、声をかけた。

 

「大丈夫か!!」

 

 しかし……

 

 ニャー……

 

 弱弱しい猫の鳴き声しか聞こえない。

 

「クソっ!!」

 

 俺は急いで携帯を開き、119番通報をしながら半壊した物体の一番大きな破片を取り除く。

 破片の下には赤い海ができているのが見え、俺は最悪を覚悟しながら積み重なった破片を放り投げ続けた。

 

 携帯のGPSをもとに救助隊が来てくれるらしい。それを聞きながら俺は少女の上に積み重なったであろう最後の破片を放り投げる。

 

「……」

 

 破片の下には腹部を血まみれにしたあの画像に映っていた少女と、そのすぐ横で少女の顔を舐めていた依頼者が捜していた猫がいた。

 

「おい大丈夫か!!今救急車呼んでるからな!生きるのをあきらめるなよ!!」

 

 動かすのは専門知識のない俺がやるべきではないと判断した俺は少女の手を握って必死に声をかけた。

 

「……だ……れ…?」

 

 少女の目がうっすらと開き、そうかすれ声でつぶやく。

 

「俺は探偵だ!今に救急車が来る!だから頑張れ!」

 

「……僕……は……時雨……だよ?だか……ら……大丈……夫……」

 

 俺の必死な呼び声に少女はそう答えて再び目を閉じた。

 

「時雨?……っておい!!」

 

 手首に手を添える。脈拍がどんどんゆっくりになってきている。おまけに危惧していた雨が降り出してきた。

 

「クソっ!!」

 

 もってきていた傘を時雨と名乗った少女が濡れないように設置し、俺は少女の手を優しく握り続ける。

 

 周囲が赤く照らされ、水色の服を着た救命士たちがストレッチャーをもって駆け寄ってくる。そして彼女はそのまま白い車に乗せられて走り去っていく。

 

 これからの彼女の運命を示すかのように真っ暗な空から雫は振り続けていた………

 

 

 

 

 

 

 

 彼女のそばを離れなかった猫を胸に抱いて一度事務所に戻る。事務所に戻るとそこには依頼者が入口の前で待っていた。

 

「あら探偵さん?実は事情が変わったので依頼をキャンセルしようかと思ったのですが……もしかして見つけてくださったのですか?」

 

 お嬢さんはそう言って俺の方に近づいてくる。

 

「あぁ、迷子になっているところを見つけてくれた人がいましたので。その人は今救急車で運ばれたところですが…」

 

「そうですか……。ですが、もう結構です。その猫はうちのものが見つけてくれるということになりましたので依頼はキャンセルさせていただきます……と言いたかったのですが見つけてくださったのも事実ですし……」

 

 お嬢さんはそう言って左手の人差し指を顔に添えて考えるそぶりを見せた。そして

 

「では、あの手付金だけはお渡ししますね。あとで口座の方にでも振り込んでおきます。」

 

「分かりました。それではこの猫は…」

 

「あ、黒服の方にでもお渡しください。」

 

 とお嬢さんが言うと後ろの方に控えていた黒服の男が猫を受け取り、そのまま一礼して先に去って行った。

 

「…………」

 

 俺がその立ち去っていく様子を見ているとお嬢さんが

 

「それでは失礼しますわ。」

 

 そう言って一礼してから去って行く。俺はそれを見送ってから事務所の鍵を開けて中に入り、シャワーを浴びた。

 

 

 

 

 数日後……

 

 

 

 

 

「ふぁぁ~」

 

 眠気覚ましのコーヒーをいくら飲んだところで醒めない頭を抱えながら俺は客を待っていた。

 事態が動くのはいつも突然だ。

 

 ピーンポーン

 

 少し抜けたチャイムの音が鳴ると同時に玄関の扉が開く。

 

「ここで……あってるのかな?」

 

 慌てて玄関の方へと向かう俺を無視してそう遠慮がちな様子で扉の隙間から顔をのぞかせたのは数日前に病院に運ばれたはずの少女だった。

 

「お前……」

 

「やっぱり君は僕の提督だね。」

 

 唖然とした様子で指をさす俺に少女はそう言って病院の患者服越しに伝わってくる柔らかい物体二つを俺に押し付けた。

 

「な……や……」

 

 突然のことに完全に固まる俺に少女は近寄り

 

「待ってたよ。」

 

 そう言って俺に縋りつくかのように意識を失った。

 

「お……おい?」

 

 声をかけるも帰ってくるのは寝息のみ。

 

「どうすりゃいいんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 結果から言うと、そのまま突き放せなかった俺は最終的に事務所を完全に塒としてしまった時雨にべったりと依存されてしまっている。しかし、依存されているとはいっても今みたいに俺が他の女性に興味を持ったりとかするとこんな風に場所をわきまえず怒られるわけで……

 

「ねぇ、聞いてるの提督?」

 

 とりあえず目の前の時雨(はんにゃ)をどうにかしないと話にならないかもしれない。そう思った俺はますますヒートアップしてきている時雨を落ち着かせようと立ちあがろうとして…

 

「あ!?」

 

 正座させられていたせいで痺れていた足がまともに動かずにそのまま時雨の胸にダイブしてしまう。

 時雨の胸にダイブしたことで時雨が持っていたファイルケースが手元から離れ、その中身が一部飛び出す。

 

 飛び出した中身は書類であり、見える範囲だけでも『……の父親である北崎浩司は駆逐艦娘『電』の提督であることが判明し』と書かれていた……




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