どうも、先詠む人です。現在、個人的な諸事情で白目剥きながら大忙しです。
なので、一話一話が短い作品しかかけてないんですよねぇ……
「主任!精製装置の起動において上層部から承認を得るために必要なデータがそろいません!!」
「構わん!俺が責任を取る!早く装置を起動して新薬を生成しろ!」
「主任!その薬品の人体実験はまだ許可されていません!まだその薬品はマウス実験の時点で失敗しています!」
「しかし、やるしかないだろう。このままでは間に合うものも間に合わなくなる!」
そう言ったかなりグレーな経緯で作られたある病気への特効薬となる
「……ア……ナタ……」
狂気によって真っ赤に染まっていく瞳、裂けていく口端、そして白く染まっていく身体。
その人体実験となってしまった臨床試験は注入に立ち会った私の目の前で最悪の結果を引き起こしてしまった。
真っ黒に染まった巨大な爪が近くにいた研究員を引き裂きながら私に迫ってくる……
「ハァっ!!」
そこで目を覚ますのと同時にガバッと言う大きな音を立てながら布団から弾き飛ばされるように飛び出し台所へと走り、水道の栓を開ける。
ザー!と大きな音を立てて水が一本の筋となってステンレス製のシンクに当たる。その筋に私はすぐ横にあった食器乾燥機から湯飲みを取り出して当てた。
湯飲みの中にすぐに水はたまり、水の栓を閉めてから私は湯飲みを煽る様にして水を飲む。
「……大丈夫なのですか司令官さん?」
そんな私の様子のせいで目を覚ましたのか、隣で寝ていたはずのまだあどけなさを残す茶髪の少女はシーツでそのきれいな裸体を隠しながら部屋の入口で私に問いかけた。
「あぁ済まない。あの日のことを思い出してしまってね……」
私はそう言いながらも自らの情けなさが嫌になる。あの日、死ぬと思った私を助けてくれたのはたまたま艦娘としての健康診断で病院に来ていた目の前のこの少女だった。
あの日、私は人を殺してしまった。上の方には臨床試験の結果被検体が死亡したということになってしまっているが、その大元を辿れば私のエゴのせいとなる。
あの日死んだ研究員も、そして彼女も。
ある日、海に行った帰りに未知の病気を発症した彼女。
肌の所々が白く斑点状になり、きれいだった黒髪が急激に真っ白に変わり果ててしまった。
まだ小学2年生ぐらいの子供もいたというのに私たちにできたのはその子供と彼女を隔離して会えないようにするのと同時に彼女の症状を少しでも抑えようとすることだった。
しかし、いくら抑えようとも原因がわからないのならば手の出しようがなく、対症療法を行っていたもののその結果はあまり芳しいものではなかった。
時間とともに彼女の症状はどんどん悪化していき、最終的に視覚、聴覚以外の感覚の損失、血中酸素濃度の急速な低下、記憶の欠落、そして見たことのない細胞への体細胞の変化などの症状が出てきたために私は決断し、そして大失敗に終わった。
「司令官さんのせいじゃないです。あれは私たちの責任でもあるのですから……」
少女は駆け寄ってくるとシーツ越しにかすかにわかる程度に育った胸を押し当てながら私を慰める。
「そうだとしても無理やり行動した結果最悪の事態を引き起こしたのには変わりがない。アイツにも私は顔向けすることができない……」
そう言いながら私は電話台の方を見る。
近くに置かれた電話台のすぐそばには私と妻とそして当時小学校1年生の息子の3人が写っている唯一の家族写真が額に入れられていた。
「息子さんに会おうと思わないのですか?」
私の苦悩を察知してか少女はそう言いながら私の背中を摩る。
「……いっただろう、顔向けできないと。私は親失格だからな……」
あの日以降、一度も私は家に、というよりも外地にすら帰っていない。
今住んでいるこの家は現在進行形で背中をさすってくれている内地にある彼女の家だ。
研究所から近いこと、そして彼女の司令官となったこと。この2つの理由から私はあの日以降一度自分の荷物を取りに帰って以来この街から出ようとしていない。
私の時はあの日からずっと止まったままなのだ。いつもつけている時計と同じように……
ふらふらとしながらも私は立ちあがり、少女を抱き上げる。
「さぁ、明日も早い。今日はもう寝よう。」
「はいなのです。」
私はそのままベッドルームに入り、少女と体を重ね合わせながら眠りに落ちた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「北崎主任、今日も顔色悪いな。」
「まぁ、提督になったらしいから案外夜はお盛んなんじゃないのか?艦娘って性欲強いって前に同期から聞いたことあるし。」
「あ、其れデマらしいぞ。同級生の村雨の艦娘の子がそれで困ってた。」
「お前まさか……」
「いやいや、俺は提督なんかじゃないって。むしろ提督だったら今頃こんな待遇悪い会社辞めて別の職についてる。」
「だよなぁ……」
研究所の私のデスクで部下の数人がそんな会話をしているのを尻目に仕事を続ける。
あの日の事件で大失態を犯す形になった私は研究の一線から外され、こうして各部署の書類をさばく窓際部署の主任となった。
窓際部署ということが分かっているためか同じ部署の部下たちの士気ははるかに低く、しかも複数部署の書類が回ってきているのも相まって書類の山が所々に乱雑に詰まれている。
研究データを纏めるのは各部署でして欲しいものだと思うのだが、其れすらも面倒だとこちらに放り投げてくる部署がいるため、どうしようもない。
仮にこちらが抗議したところであちらは私の事件をやり玉に挙げてやれよと脅してくる。
第一線を走っていたころはまだふさふさとしていた私の髪も、そうしたストレスによって薄くなってしまった。
そうして仕事は無くなることなくどんどんと積み上げられていくばかりで今日も終わった。就業時間に人事に呼び出され、「いい加減休め。部下に仕事をさせておけばいい。」と怒られた。
私一人が頑張ったところで間に合うわけがないのだがしかし部下がまじめにやらない以上私がやるしかないのだ。仕方がないだろう。
そう言うと人事はあきれた表情を浮かべながら強制的に明日から1週間私が有給を取る様に処理をし、その書類を私に手渡した。
書類をカバンに入れ、自分の部署に戻って再び私語を始める。部下たちは皆、すでに帰っていた。
ある程度仕事を終わらせた状態で深夜に彼女が待つ家に帰ると、彼女は薄着で私が帰ってくるのを待っていた。
「あ、お帰りなさいなのです司令官さん。お夕飯は今日も遅くなると思ったので簡単につまめるものにしておきました。お酒はどうされますか?」
「日本酒を一合だけ頼む。私はシャワーを浴びてくるよ…」
そう言って荷物を預けてから私はシャワーをサッと浴び、日本酒を一号をちびちびと飲みながら彼女が作ってくれた夕飯を食べた。
簡単に歯を磨き、ベッドに入ると彼女は
「今日も優しくしてくれますか…?」
チラッと肌を見せながらそう言って蠱惑的に誘う。
「……会社の意向で明日から1週間は有給だから今日は寝かせられないかもしれない。」
私がそう言うと、少女はうれしそうに笑った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「………」
叫び疲れたのか、それとも脳が刺激に耐えられずに気絶したのか。そのどちらなのかはわからないとはいえ心なしかうれしそうな顔で横で眠る少女を前に私は考える。
「……再婚。考えた方が良いのかもしれないな……」
彼女とは死別という形で分かれてしまった。息子が納得してくれるかはわからないが、どちらにせよ今中学生という年頃だ。一人暮らしなど本来できる年でもないが私がお金を渡すことで無理やりさせている。
そう言う歪な生活をさせるよりは私が再婚して彼女と籍を持ち、いつか生まれるであろう少女の子供と一緒に兄として成長させた方が良いのではないか。
私は手元に携帯を引き寄せ、アドレス帳から選んだのは龍我の2文字が書かれたアドレスタブ。
アイツにスマホを持たせるときに義母に頼んで教えてもらったものだった。
「………」
数秒ほど何を打つか考え、私は文面を打ち始めた。
感想、評価を楽しみにしています。