いつか見た理想郷へ(改訂版)   作:道道中道

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 投稿が大変遅れてしまい、申し訳ありません。


勿忘草は蛇に抱かれて

 

「ククク、是非楽しんでください。木ノ葉崩しを」

 

 風影に扮していた大蛇丸のその言葉と同時に、彼の傍にいた二人の男の内、一人が白い煙幕を発生させた。それが、明確な合図。

 

 猿飛イロミが身勝手に会場を混乱させた時よりも。

 薬師カブトが幻術を発現させ大名らを眠りに落とした時よりも。

 

 はっきりと迷いなく、会場に居た部外者たちはアクションを起こした。

 

 真っ先にアクションを起こしたのは、音の忍たち。彼らは、大名らを護衛する者に扮し、あるいは召使として、はたまた木ノ葉の里を出入りする商人などに扮して、会場へと辿り着いていた。だが数は、五十と超えない。質より量などという曖昧なものを嫌う大蛇丸の思想が反映されているのか、それとも大蛇丸の部下の数がこの程度だという事なのか。

 

 どちらにしても、単なる寄せ集めというチープな雰囲気を持っていないことは確かだった。彼らはじっと、観客席最前列の背の低い壁に立っていた。

 

 彼らが睨むのは、木ノ葉の忍。カブトの幻術を易々と破り、眠りに落ちなかった者たちだ。その中には当然、はたけカカシ、マイト・ガイ、猿飛アスマ、夕日紅などといった者たちもいる。

 

 数秒の間。

 

 音の忍たちは、力量を推し量るように木ノ葉の忍らを睨み付ける。逆に木ノ葉の者たちは、殺意に溢れた視線を受けても、大樹のようにどっしりと構えていた。

 

「こいつは、ちょっとマズいな……」

 

 カカシが小さく呟くと、隣のガイは返した。

 

「大名らを守りながら戦うというのは面倒だな。数は同じくらいだが……」

「まあ、相手さんも一から大名を狙うつもりじゃないようだけどね」

 

 音の忍も分かっている。忍同士の争いは、決して長続きするものではない。最速で一瞬、遅くても数分だ。それは逆に、互いの一つ一つの動作が、致命に繋がる事を意味している。大名を殺そうとする、たったそれだけのモーションでも、命取りになるかもしれないのだ。故に彼らはまず、障壁である木ノ葉の忍を狙う。

 

 勿論、それはあくまで可能性に過ぎない。もしかしたら、音の忍の中で大名を殺す側と木ノ葉の忍を相手にする側で、役割分担がされている事も否定できない。

 

 大名が殺される可能性。

 

 それがあるだけで、木ノ葉は不利だった。

 しかし。

 カカシが言った、マズい、という表現の主語は、その部分ではなかった。

 

 視線をちらりと横に逸らす。

 

 離れた場所。

 

 音の忍たちではなく、その奥に佇むイロミをじっと見つめるイタチの横顔があった。

 

 遠目からだが、彼の頬に小さな汗が浮かび始めているように見える。もし汗ならば、それは寒気を招く嫌な汗に違いない。

 

 普段の彼ならば。

 

 知性的で規律を重んじる彼ならば、物見櫓に煙幕が出現した時点で、その場へと向かったはずだ。しかし、現場へと向かったのは他の暗部の者のみ。耳に付けたイヤホンからは、彼の部下の指示が入ってきていないのか、それとも聞き逃しているだけなのか、イタチの口元は少しも動くことは無かった。

 どちらにしろ、この状況で誰よりも動こうとしない彼に、カカシは危機感を抱かざるを得なかったのだ。

 あまりにも、良い状況ではない。

 

 ―――下手な事だけは、するなよ。

 

 カカシの内心の呟きとほぼ同時に、音の忍と木ノ葉の忍は、眠る大名たちの頭上で激突した。

 

 次にアクションを起こしたのは、砂の忍であるバキだった。物見櫓の煙幕を見るや否や、彼はすぐに、自分の部下である我愛羅、テマリ、カンクロウの元へ移動した。しかしそれは、鮮血が飛び交う戦場の最中の部下を慮っての行動ではなかった。

 

 あくまで彼は、木ノ葉隠れの里を崩壊させようとする大蛇丸の協力者だ。

 

 彼らの元へ移動したのは、むしろ……。

 

「どうした?! なぜ動かないッ!」

 

 と、バキは三人に向けて怒声を放った。既に三人には、砂隠れの里は木ノ葉隠れの里との同盟を破棄し、そして戦争を仕掛けるという事は伝えている。三人の―――正確には、我愛羅の―――役割も伝えた。

 

 しかし。

 

 明確な合図が出されたにもかかわらず、三人は観客席最前列から動こうとはしなかったのだ。たとえ下忍であっても、本来ならばアクションを起こしてもおかしくはないはずなのに。

 テマリとカンクロウが、戸惑いの表情でバキを見上げた。

 初めて触れる戦争の雰囲気に恐怖を抱いている―――という訳では、無いようだった。二人はそれを示すかのように、同じ方向を見る。

 

 バキも追いかけ、そして、息を呑んだ。

 

 血と汚臭が漂い始める会場の空気。

 

 狂気が駆け足で近寄ってくる雰囲気であるにも関わらず。

 

 我愛羅は。

 

 そう、我愛羅は。

 

 真っ先に暴れ始めてもおかしくはない、我愛羅は。

 

 ただじっと、険しい表情を浮かべたまま……会場中央に立つイロミを見ていた。

 今すぐにでも殺してやろう、という殺意に溢れた表情ではなく。

 理解できない存在への不快感、という戸惑いの表情でもなく。

 見定めるような、評価するような。

 初めて見る表情だった。

 

 ―――我愛羅は、あの女を知っているのか……?

 

 鷹のように突如として姿を現し、暗部の遺体を連れ、暗部の遺体を生み出した、謎の少女。大蛇丸との連絡係であるカブトからは、イロミの事を聞かされてはいなかった。中忍選抜試験に、半ば殴り込みをかけるように現した姿からは、自分らと同様に木ノ葉を滅ぼそうと考えている者にも見えなくはないが、雰囲気が、他の音の忍とは異なっている。殺意ではなく、別の感情を身に宿している。

 

 得体の知れない少女と、我愛羅。かけ離れているはずの二つの点の繋がりの経路を一切予想出来ない。しかしながら、周りの状況は変化しつつある。

 

 バキは背後からの殺気を察し、後頭部を狙おうと投擲されたクナイを振り向き様に叩き落とした。カラン、と音を立てるクナイを投げたのは、木ノ葉の忍。相手の目線は、明らかにこちらを訝しんでいる。

火影と風影が座っていた物見櫓での煙幕。

 

 つまり、風影がアクションを起こした事に、砂隠れの里の者を敵対勢力と判断したのだろう。相手の敵意はバキのみならず、後ろの三人にも向けられている。それでも我愛羅の様子に変化は無かった。

 

 辺りの殺意や死に、興味がないかのように。

 

「……テマリ、カンクロウ、お前らは我愛羅を連れて退け」

 

 というバキの指示に、テマリは困惑した。

 

「でも、先生………任務が……」

「いや、状況が変わった」

 

 バキは一瞬だけ視線を逸らした。

 うちはイタチ。

 木ノ葉隠れの里における、火影に次ぐ最大戦力。

 本来ならば、我愛羅が相手をしなければいけない相手なのだが……。

 

「今はあの女が、イタチに用があるようだ。まだ我愛羅の力は必要ない。一度引き、機を見てうちはイタチを殺せ」

「先生は―――ッ!」

 

 その時。

 

 最後のアクションが起きた。

 

 物見櫓の煙幕。そこへ向かった幾人かの暗部らは、煙幕の手前に突如として現れた一人の少年に殺されていた。

 健康的な骨のように白い髪と白い肌。丸い眉毛と、切れ目の眼の下瞼には赤い化粧が。袖が長く、鎖骨を広く見せたゆとりのある白い服装は、イロミのような不気味さはなく、現実から消えいりそうな儚さがあった。

 

「大蛇丸様の邪魔はさせない」

 

 中性的な顔立ちだが、その冷酷な声は男のものだった。両掌から皮膚を突き破っている骨は鋭く、殺した暗部らの血を振るい落とした。その姿には、ナルトやサスケと近い歳である体躯であるにもかかわらず、暗部を殺してみせた事に恐れも疲れも見せなかった。

 

 彼―――君麻呂は、他に大蛇丸へと近づく者がいないか、視線を泳がせ、危険がない事を確認してから、小さく視線を下した。彼もまた、イタチや我愛羅のように、イロミを見たのだ。

 

 しかしその眼には、暗部を殺した冷徹さよりも、あるいはイタチや我愛羅のような読み取りが難しい混在とした感情はなく、はっきりと明確なものだった。

 

 ―――あれが、イロミ……。僕の身体に、力を戻してくれた人……、大蛇丸様の娘…………。

 

 彼女を見る眼には、羨望の色があった。

 

 君麻呂は本来、木ノ葉崩しに参加する予定ではなかった。できる身体ではなかった、と言った方が良いだろう。

 

 大蛇丸の片腕として、特に人体の構造や医術に関する知識のエキスパートである薬師カブト。彼を以てして、症状の進行を遅らせるのが限界だと断ぜられた病に、君麻呂は侵されていた。

 神聖視する大蛇丸の役に立てるどころか、落胆と諦観を与えたまま、緩やかに薬のチューブに身を繋げて穏やかに死を迎えるだけだった身なのだ。

 その現実を否定してくれた細胞。カブトがアジトに持ち帰った細胞。それを元に、半ば試験的な速度と手続きで開発された新薬によって、君麻呂は木ノ葉崩しに参加する事が出来たのだ。

 肉体を蝕んでいた病を、君麻呂自身の細胞ごと食む、諸刃の薬。完治というよりも、病の代替えに近い効果なのだけれど、病を持った細胞を食べつくしたイロミの細胞はそのまま、君麻呂の細胞へと成り代わったのだ。そして成り代わった細胞は、今も尚、彼の細胞を楽しむ様に食べ続け、成り代わり続けている。

 自身の骨の形や強度を自在に操る彼の血継限界は、イロミの細胞のせいで精度は欠いてはいるが、大蛇丸の呪印を身に宿した彼にとっては小事でしかない。

 

 背後の煙幕で動きがあった。ヒルゼンの首を後ろから、クナイを頬に押し付けるように腕で抱えるような形で、物見櫓の屋根へと飛び移った。

 辺りを警戒しながらも、君麻呂は心の中で、強くイロミを求めた。

 

 もはや自分の役割は九割方終わっている。たとえ今から木ノ葉の忍が大蛇丸に近づこうとしても、大蛇丸の持ったクナイの方が先にヒルゼンの命に届く。無暗に近づける者はいない。

 

 ならば、イロミの元へ。

 

 声を聞きたい。

 触れてみたい。

 何より、感謝を告げたい。

 

 君麻呂の中で、イロミへの評価は、この世において大蛇丸に次ぐものになっていた。それは、大蛇丸の力にまたなれるという喜びを与えてくれたという事と、大蛇丸の娘であるというカブトの冗談を半ば本気で信じてしまっている事が起因している。

 

 勿論、そんな願望を君麻呂は口にはしない。

 今重要なのは、大蛇丸の木ノ葉崩し。

 故に優先順位として、必然的に君麻呂はイロミへ近づくことは許されず、大蛇丸の計画がある程度までに進行するまでは自由が無い。

 

 しかし。

 

 君麻呂の願望はすぐに、叶うことになる。

 それは、物見櫓に降り立った大蛇丸が、風影に変装する為に被っていた笠と、口元の布を取り去った瞬間の事だった。

 警戒を怠ったわけではないが。

 君麻呂のすぐ真横を、うちはイタチが通り過ぎようとし。

 その尋常ならざるイタチの速度に追いつくイロミが、咄嗟にイタチへ攻撃をしようとした君麻呂の腕を掴んだのだ。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 

 時折、脳細胞が歓喜したかのように頭全体から背筋にかけて痺れるような衝撃が走る時がある。好奇心と呼ばれる、原始的な感情だ。人間の最も奥深くに根付いているはずなのに、どの感情よりも激しく身体を動かし、時には他の感情をも巻き込んで暴れ回る。大人になればなるほど、それを飼いならす術を身に付けてしまうのは、気が付けばとても寂しいものではあるが、だからこそ、もはや老齢と言っても過言ではない年月を過ごしてきた今となっては、その衝撃は久方ぶりに垂涎してしまうほどの感動を思い知らせてくれる。

 

 全く期待していなかった、失敗作。

 

 丹念に考えた計画に、微かに纏わりついてくる埃を払う程度くらいには役に立ってはくれないだろうかと、特に深く考えずに唾を付けておいたそれは、想像を超える動きを見せてくれたことに、大蛇丸は昆虫の身体を解剖する子供のように瞼を大きく開いた。

 

 うちはイタチ。

 

 木ノ葉の神童と呼ばれる彼を、大蛇丸は最も警戒していた。他の木っ端な上忍や暗部ら、果てには火影であるヒルゼンすらも凌駕してもおかしくはない才覚を持つ男。風影として会場に入ってから今に至るまで、気付かれないギリギリのところで警戒をし続けていたにも関わらず、彼の移動速度を捉えきれてはいなかったのだ。

 

 唯一、はっきりと彼を視認できたのは、たったの刹那。君麻呂のほぼ真横。物見櫓の縁の部分で、ようやくイタチの動きを視認できた。その前までは、会場の観客席にいたというのに、時間が切り落とされたかのように、それこそ一瞬で、イタチは移動してきたのだ。

 

 観客席から物見櫓までは、高低差がある。同じ高さの観客席内を移動するのに速度は変わらないが、どれほどの脚力とチャクラコントロールを以てしても、重力が一定である以上、跳躍する瞬間、あるいは着地の瞬間に速度にズレが生じる。イタチの姿を視認できたのは、そのズレによるものだった。

 

 神童と謳われるにふさわしい才覚。ただの移動でさえも、圧倒的に思い知らされる。

 しかし、大蛇丸は大きく戸惑う事は無かった。

 その程度の事はやる。

 何せ、うちはイタチなのだから。

 なによりも、大蛇丸は一度だけ、うちはフウコと戦っている。

 滝隠れの里で、一度。

 あの当時の彼女の速度を目の当たりにすれば、たとえ曇天から降り落ちる雷の速度でさえ可愛く見えてしまうくらいなのだから。

 

 創設した音の忍。そして、それなりに育ててきた手駒たち。しかしそれでも、イタチを止めるには役不足だとは、木ノ葉崩しの計画段階で既に想定は出来ていた。

 

 故に、策は用意してあった。

 

 うちはイタチという傑物を殺す事は出来なくとも。

 足止めをする程度には役に立つ役者を。

 しかしながら、その手札を使うことなく。

 

 君麻呂の真横にフラッシュバックのように姿を現したイタチを捕えたのだ。

 

 イロミが。

 

 浄土回生の術の唯一の成功例で。

 人間としては致命的な失敗作が。

 

「イタチくん……私は、ここだよ?」

 

 反射的にイタチへ攻撃を仕掛けようとした君麻呂の右腕と、君麻呂の脅威を全く意に介しないまま移動を続けようとしたイタチの左腕を、イロミは中空で逆さのまま、掴んだのだ。

 

 イタチも、君麻呂も、ヒルゼンも、そして大蛇丸も。

 

 彼女の移動速度に驚愕した。

 未来を予知しない限り、動き出しはイタチの方が速かったはず。そしてイタチを見る限り、彼は全速力で、無駄なく移動してきたのだろう。つまりは、最高速を維持し続けた。

 その速度に、イタチの後から動き出したイロミが、追いついた。

 

 つまり。

 

 同時に動き出した場合を考えれば、イロミはイタチの速度を追い抜いたという事になる。

 予想も想定も、大きく飛び越えた、イロミの力。

 好奇心が刺激されない訳が無かった。

 

 イロミは顔を微かに、君麻呂へ向けた。彼の表情は、驚愕から、感嘆へ。目元を包帯で覆われているが、イロミの顔を見れたことに、小さく息を吐いた。

 

「私の邪魔をしないで。イタチくんに用があるのは、私なの」

 

 言い終わるや否や、黒いコートから、大量の札が解放される。

 起爆札。

 自身をも爆風に巻き込むことを厭わないかのように、イタチと君麻呂の周りに舞い散った。

 札が、小さく火花を発し始める。

 爆発の兆候。

 イタチは咄嗟にイロミの腕を引いた。

 彼女が爆発に巻き込まれないよう、助ける為に。

 

 しかし、間に合わなかった。

 

 爆発の寸前。

 

 イロミの後方から急速に接近した砂の塊が、イロミを呑み込むのに、間に合わなかった。

 

「砂漠棺―――」

 

 その砂は、観客席にいた我愛羅のものだった。

 砂に呑み込まれたイロミは、イタチと君麻呂から強制的に手を離されてしまう。

 途端に、札が爆発する。

 発生する爆発の連続は辺りの空気を硝煙と共に外側へと吹き飛ばし、突風を巻き起こし、物見櫓の煙幕を吹き飛ばしながら、今度は灰色の煙が、煙幕の時よりも広範囲に視界を覆い尽くす。それは、大蛇丸とヒルゼンの位置にまで広がった。

 

「―――ッ! 全くあの子は、力は付けても不器用ねえ」

 

 砂に呑み込まれたイロミを心配する様子もなく、淡々と大蛇丸は呟いた。彼女の成長に、砂程度で死なないと思っているからなのか、彼女の事をやはりどうでもいい存在と思っているのか。

 

 分かる事は一つ。

 

 うちはイタチには、ダメージが入った。

 完璧なタイミングと、完璧な範囲だっただろう。たとえイタチの速度を以てしても、広範囲に広がった爆風と熱から避け切る事は出来ない。死にはしないだろうけれど、右か左、どちらかを重度に火傷したことは確実だ。爆発するその瞬間までイタチは、イロミが広げた起爆札の中にいたのだから。

 

「クク、これで役者を正しく登場させられそうね」

 

 と、大蛇丸は小さく笑うと、ただ無言に灰色の煙の中を見るヒルゼンへ目を向ける。

 

「折角のご対面なのだから、もう少し情緒的にしないと―――」

 

 そこで、背後から殺気があった。

 凍えるような冷たさと、燃やし尽くしそうな熱さを同居させた、矛盾した殺気が。

 振り返る。

 灰色の煙。

 その一部分が、不自然な揺らぎを見せると同時に。

 クナイを握った無傷のイタチが、目前に迫っていた。

 これは流石の大蛇丸も、恐怖を感じない訳にはいかなかった。

 無傷のまま、彼が背後に迫っているのは、ありえない。

 印を結べる程の瞬間的な余裕すら無かった。どれほどのチャクラコントロールを行っていた所で、無傷はありえない。ましてや彼は直前に、イロミを助けようと腕を引いている。砂にイロミが呑み込まれた瞬間、微かにだが、彼は体勢を崩していた。

 

 ダメージが無いのはおかしい。

 

 しかし、その疑問の答えを導き出す前に、大蛇丸は動く。ヒルゼンの首を抱えている右腕とは逆の、空いている左腕。それを、風影の変装で着ている白い着物のの袖の中へと引っ込ませる。

 だが間に合わないと、大蛇丸の経験が分析してしまう。

 ダメージが入っていれば、おそらく間に合っただろう。

 隠し玉を取り出すのに。

 イタチの瞳が写輪眼に変わっていた。

 思い出す。

 滝隠れの里で見た、うちはフウコの瞳を。

 あれと全く同じだ。

 いや、今度は間違いなく避けきれないだろう。

 クナイが、大蛇丸の喉元を―――。

 

「……ッ!?」

 

 イタチの瞳が大蛇丸から、その横へと、移動する。大蛇丸から見て、右側だ。

 最初に見えたのは、細い足だった。黒いタイツを履いているのか、黒いブーツから膝上にかけて真っ黒の足が、視界の端から侵入してきた。

 

 そしてその足はそのまま、イタチの腹部を蹴り飛ばす。

 

 イタチのクナイは大蛇丸の喉元に、あと一寸の所で阻まれ、彼は身体ごと横に横転してしまった。

 足がイロミのものだと分かったのは、イタチが灰色の煙の向こうに消えてからすぐのこと。先程まで着ていた黒いコートはどこかへ行ったのか―――我愛羅の砂の拘束から力尽くで脱出した際に、蛹の殻ように脱ぎ捨てたのだが―――、イロミは一枚のシャツだけの姿だった。袖は無く、肩から先は健康的な肌を見せ、襟もない。ピッタリと彼女の肌に貼りついた、窮屈そうな黒いシャツだった。

 

 煙はやがて、晴れる。

 

 物見櫓の屋根には、イタチ、イロミ、大蛇丸、ヒルゼンの四人だけしかいなかった。

 

「……クク。流石、私の子ね」

 

 と、大蛇丸は安堵に笑みを浮かべる。

 

 確信した。

 総合的な判断は難しいが。

 少なくともイロミの速度は、イタチを凌駕している。

 反応速度も、移動速度も、索敵速度も。

 イタチという脅威を完全に防いでくれるという安心が、心に居座った。

 

「親の危機を救うなんて、娘冥利に尽きるでしょう?」

 

 言葉に出したせいか、微かに彼女への愛着が沸き始めてきたことを自覚する。自分の予想と想定を飛び越えてくれる存在に、いつだって彼は関心を持つのだ。

 袖の中に引っ込めた左腕を、すぐ傍に佇むイロミへと伸ばした。小さな頭を引き寄せ、長い舌で彼女の頬を舐める。

 

「愛しているわ、イロミ」

「気持ち悪いので、止めてください」

 

 イロミは素っ気なく腕を払うと、頬に付いた唾液を忌々しく、グローブをはめた手でさっさと拭い落とした。

 

「貴方の計画なんて、私には関係ありません」

「クク、そうね」

「私はただ、知りたいだけなんです」

 

 と、イロミはヒルゼンに顔を向ける。ヒルゼンは逃げるように、盲目のはずの彼女から顔を逸らしてしまった。その姿が滑稽過ぎて、大蛇丸の笑みはいよいよ狂気に変わり始める。

 

「おやおや、猿飛先生。彼女から目を逸らすなんて、随分と冷たいじゃありませんか。彼女は知りたがっているんですよ? うちはフウコの真実を」

「大蛇丸……貴様…………ッ!」

「まあ、イロミ、こんな老いぼれに聞いたところで、世迷言しか出てきやしないわ。真実を知りたいのなら、彼に聞きなさい」

 

 よほどの力で蹴られたのか、腹部を手で抑えるイタチの口元からは血が零れていた。大蛇丸は彼を顎で示してみせると、イロミはゆっくりとイタチに顔を向けた。

 

「彼なら知ってるはずよ。いいえ、知っていなくてはおかしいのよ。何せ彼は―――」

 

 天才なんだから。

 木ノ葉の誰よりも。

 うちは一族を代表する一人なのだから。

 

「ねえ? イロミ。だからアンタは、下で彼と楽しんでらっしゃい」

 

 イタチの視線が、イロミから大蛇丸へ。

 大蛇丸は写輪眼からの幻術から逃れるように視線を下げながらも、彼の口元はギリギリ見えるように視線を下げた。

 それでもはっきりと伝わってくる、怒りを隠さない怒気。だが、今だけは心地良い。

 何せ、睨み付けるという行為は。

 ぶつけたい感情をぶつけることが出来ないという示唆でしかないからだ。

 イロミが一歩、前に出た。

 

「イタチくん。私ね、今はまだ、君のこと、友達だって思ってるよ」

「イロミちゃん……俺は…………」

 

 残酷な言葉をぶつけると同時に、彼女は移動した。

 誰よりも速く。

 食べてきた者たちの身体能力と、呪印をも呑み込んだ彼女自身の細胞と、それらを総合した、化物のような速度で。

 イタチが反応できない程の速度で。

 写輪眼の予測を遥かに置いてきぼりにする速度で。

 彼の眼前に顔を置き。

 彼の顔を優しく、両手で包み込んだ。

 

「だから、ね? しっかり、答えてね?」

 

 イロミは再び、イタチを蹴り抜いた。

 骨が折れる音。

 肋骨が折れた音だった。

 そのままイタチは、イロミは。

 会場の中央へと、降り立った。

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

「ちょっとアンタさぁ、イタチくんやシスイくんにベタベタし過ぎじゃない?」

 

 わざとしているのか、それとも自然体なのか、判別の付かないような巻き舌な女の子だった。もしわざとなら、本人はカッコいいと思っているのだろうか。少なくとも、カッコよさはあまり感じ取れはしなかった。ただただ、よく分からない恐怖を押し付けて来るだけ。怒っているという感情を伝えるのには、十分ではあったけれど。

 

「そうそう。成績悪いのを良い事に、イタチくんやシスイくんに勉強教えてもらってるんでしょ。少しは自分で努力してみなさいっての」

 

 と、別の子が言う。喋り方は普通ではあるけれど、あまりにも無責任な言葉ではあった。最初の子は怒っている感情をぶつけてきたから怖くて涙目になってしまったけれど、こっちの子は無情な現実と理不尽な考えを押し付けてきたせいで、目端から涙が零れそうになってしまう。

 

「君みたいな子がいるとさ、他の子が困るの。変な髪の色してるし、気持ち悪いしさ」

 

 最後の子は、脈絡なく暴言を言ってきた。変な髪の色をしているのは分かっているけれど、気持ち悪いと思われているかもしれないとは思っていたけれど、それとイタチやシスイと関わっている事が悪であるという評価にどう結び付くのか理解できず、呼吸が不規則になってしまった。

 

 アカデミーの放課後の事だった。

 

 日はオレンジに変わり、半分以上が影に覆われる教室。校庭からも生徒の声は聞こえてこなくなり、もう殆どの生徒は帰ったのだろう。自分も早く帰って、色々と支度をしなければいけない。晩御飯の買い物も、晩御飯の用意も、それに明日の朝ご飯や昼食の用意もしなければいけない。そうしなければ、家主に怒られる。怒られたら、疲れてしまって、夜な夜な一人で修行なんて出来ない。

 

 もう、彼女は卒業してしまったんだ。

 

 一人で頑張るって、決めたんだ。

 

 だから、少しでも時間が惜しいのに。

 

 どうして、こんな事になっちゃったんだろう。

 

 イロミは、些細な不運に泣き出しそうになってしまった。

 

 教科書を忘れたのだ。最後の授業で使った教科書。授業の内容が分からなかったから、家に帰って復習しようと思っていたのに、イタチやシスイが「学校の裏側で投擲訓練するけど、一緒にどうだ?」と声を掛けられ、慌てて一緒に修行しようと教室を飛び出してしまったため、机の中に忘れてしまったのだ。

 修行が終わり、教室に戻った先にいたのは、女の子が三人。三人とも、家に帰るわけでも、勉強するわけでも、校庭で遊ぶわけでもなく、ただ教室で喋ってたんだろう。だが、イロミが一人で教室に戻ってくると、急に近寄ってきて、文句を言ってきたのだ。

 

 第一声はこうだった。

 

「イタチくんとシスイくんと、三人で修行してたんでしょ? 私たち、話聞いたんだから」

 

 であった。そこから、三人の圧力に押されるように、壁際に押しやられてしまい、囲まれたのだ。

 

 三人の主張はこうだった。

 

 イタチくんやシスイくんの事が好きなんでしょ?

 いい気にならないでよね。

 

 イロミには、全く身に覚えのない文句だった。

 たしかに、二人の事は好きだ。大切な、友達だ。だが、三人が抱いているような、恋愛的なニュアンスは全くない。これっぽっちもだ。一瞬だって、そんなことを思ったことが無い。そんな事を想えるほどの余裕は、自分にはないのだ。

 

 イロミは素直に三人にそう言ったのだが、返ってきたのは、

 

「好きな人に限って、必ずそういうのよね」

 

 だった。じゃあ何と言えばいいのか、途方に暮れてしまった。

 

 そこからはただ延々と、理不尽な文句と主張が連続するだけ。

 ただの言葉なのに。

 ただの言葉だからか。

 身に覚えのない事を言われるだけで、涙が溢れそうになる。

 しかし、イロミは必死に耐えた。

 

 ここで泣いてはいけない。泣かないと、誓ったんだ。涙が零れなければセーフ。

 

 それに、逃げたくもなかった。全力で逃げてしまえば安心して泣いてしまうかもしれないし、大切な友達だったらこんな場面でも平然として言葉を返してるに違いない。

 

 負けちゃいけない。

 彼女に追いつくって、決めたんだから。

 だけれど、言葉を出そうと思っても。

 喉が震えてしまっているせいで、何も出せない。

 言葉を出してしまったら、涙が零れそうになるのを経験で知っている。

 

「あのさ、はっきり言うけど」

 

 と、巻き舌の女の子が言う。既に何度もはっきりと言われてると、イロミは小さく鼻を啜って思った。

 

「アンタさぁ、もうアカデミーに来ないでくれない?」

「……え?」

「来てもいいけど、イタチくんとシスイくんに、近寄らないで」

 

 どういうつもりで、彼女は言っているのだろう。

 言っている意味が分からない。

 イタチやシスイの両親に言われるならまだしも。

 同級生に、どうしてそんな事を言われないといけないのだろう。

 

「忍として才能無いんだし、努力もしないんでしょ? だから、あんなに成績悪いんでしょ?」

 

 才能が無いのは知ってる。

 でも、努力はしているんだ。

 実らないだけで。

 他の子が凄いだけで。

 悔しいけど、頑張ってるんだ。

 とにかく。

 そんなの、友達の関係には必要なのだろうか。

 イロミはただ肩を震わせ、下顎を震わせるしか出来ない。それを見かねたのか、別の子が言った。

 

「とにかくさ、私たちに謝ってよ」

「な……なんで……?」

「君のせいで、もうこんな遅い時間だし、嫌な気分になったから」

 

 遅い時間。

 教室の時計を見る。

 まだ夕方だ。それで遅い時間なのだろうか。勉強も、修行もして、寝るまでにはまだ、八刻以上、あるではないか。

 

「や、やだよ……」

「はあ? どうしてよ。アンタ、自分の立場、分かってる?」

 

 イロミは唾を大きく呑み込んでから、必死に腹に力を加えて、言った。

 

「イタチくんや……シ、シスイくんに……、その……、好きっていうのは、私には、無いの……。み、みんな……が、二人のこと……、どう思ってるか……分からないけど、私は、その……邪魔をしたりするつもりは……、ないし……。告白とか……、好きなら……しても……、いいと思ってるんだけど…………」

「なに嘘ついてるの?」

「えぇ……?」

「色んな子が、二人に告白してるの。でも、イタチくんもシスイくんも、フってる。どうせ、アンタが二人に変な噂流して、邪魔してるんでしょ?」

「そんなの……知らないよ…………」

「とにかく謝ってよっ! 土下座して、土下座!」

 

 頭を上から抑えつけられる。

 

 意味が分からないまま、けれどイロミは、決して床に膝を付こうとも、謝ろうともしなかった。抵抗するイロミに、三人がかりで頭を押してきたが、それでも、腕を振り回したり、頭を振り回して、抵抗し続けた。

 

 泣きたくない。

 

 負けたくない。

 

 頑張りたい。

 

 彼女のように、強くなりたい。

 

 その一心で、頑張った。

 瞼をぎゅっと閉じ、零れそうになる涙を抑え込む。

 耳から罵詈雑言が入ってくる。頭を叩かれたりもする。

 それでもイロミは、抵抗を続けた。

 すると―――。

 

「いやぁ、まさか弁当箱を机ん中に忘れる日が来るなんて思ってなかったな」

 

 と。

 明るく快活な声が耳に届いた。

 聞き慣れた声。

 教室のドアが開く音と同時に聞こえてきた。

 遅れて。

 

「弁当箱ぐらい、しっかり持て」

 

 と。

 今度は落ち着いた声。

 こちらも聞き慣れた声だった。

 一瞬の安心。

 けれど同時に、心の中で思う。

 マズい、と。

 

「だって仕方ねえだろ? まさか弁当に納豆が入ってるなんてよ。んなもん、持ちたくも―――」

 

 そこで、シスイの言葉は止まった。

 頭を上から押してきた女の子たちの手の力が消える。

 空気が凍ったように、静まり返った。

 一人の子が、怯えた声で呟いた。

 さっきまでとは違った、可愛らしい声だった。

 

「あ、あのね、イタチくんにシスイくん……これは…………」

「―――ッ! お前らッ! イロミに何してんだッ!」

 

 ドタドタと近寄ってくる乱暴な足音が聞こえてくる。瞼は開けれない。泣いてしまうから。

 すぐ近くまで、シスイが近寄ってきたのが分かった。そして、一人の子「きゃッ!」と叫ぶ声も聞こえる。

 イロミは大きく鼻水を啜った。涙が幾分か引っ込み、頭をあげて瞼を開けてみると、女の子の胸倉を強くつかみ、今まさに殴りかかろうとしているシスイの姿が、そこに。

 

「待て、シスイ。暴力は良くない」

 

 振り上げた拳を、イタチは寸での所で掴んだ。しかし、彼も怒っているという事が分かる。冷たい目線で、女の子たちを見たのだ。

 

「これは、いったいどういう事なんだ?」

 

 女の子は誰も応えない。三人が三人とも、まるで責任を押し付け合うように視線を泳がせた。

 その姿に呆れたのか、イタチはため息をつくと、イロミに顔を向けた。すぐに彼の表情は変わり、心配してくれる優しい笑顔になる。

 

「大丈夫か? イロミちゃん」

 

 必死に、イロミは考える。

 とにかく、イロミは笑顔を浮かべた。

 

「あ、あはは。だ、大丈夫も何も、うん、何もないよ」

 

 と言うと、イタチは小さく瞼を大きくした。

 今度はシスイがこちらを見る。納得がいかないような表情だ。

 

「嘘つくなよイロミ。お前、またイジメられてたんだろ。安心しろよ。今すぐこいつら、俺がボコボコにしてやるからよ」

「だ、駄目だよ、シスイくん。本当に、何もないんだから」

 

 無理やりイロミは、胸倉を掴んでいるシスイの手に身体を割り込ませ、女の子を解放させた。

 ここで二人に助けられては駄目。

 彼女みたいに、なれない。

 

「二人とも、えーっと、心配し過ぎだよ。本当に、本当に、うん、何でもないから」

「何でもないって、頭押されてただろお前。何言ってんだよ……」

「あれはちょっと……私が転んじゃって……」

「はあ?」

 

 イロミは必死に考えた。

 言い訳を。

 

「その、転んだ拍子に、三人にぶつかっちゃって。だから、私が、うん、悪いの……」

「お前……俺たちに嘘ついて―――」

「あ、シスイくん、忘れ物したんだよね?」

 

 イロミは強引に話題を変えて、さっさとシスイの机から弁当箱を取り出した。

 

「ほら、これだよね?」

「だから、イロミ、そんな下手な嘘ついたって―――」

「帰ろ? じゃ、じゃあね。あ、ぶつかっちゃってごめんね」

 

 二人の背中を無理やり押しながら、イロミは教室を出た。

 

 その日の夜、イロミは必死になって考えた。

 

 あの三人に説明しよう。

 誤解を解こう。

 そうしなければ、いけない。そうしないのは、逃げる事と一緒だ。

 強くなるんだ。頑張るんだ。

 翌日からイロミは、イタチやシスイの目を盗んでは、三人の子たちに話しかけた。

 何度も、何度も。

 誤解だと。

 その証拠に、三人を応援したいと。

 だが三人は聞く耳どころか、イロミに言葉すらぶつけてくることは無かった。

 それでも諦めず、声を掛けた。

 

 しかし、一週間経った、昼休み。

 

 いつもなら教室にいるはずの三人がいないことに気付いたイロミは、三人を捜す事にした。昼休みならじっくりと、話し合えるのではないかと思ったからだ。シスイの目を盗み、ちょうどイタチは教室にいないタイミングで教室を抜け出す。

 

 アカデミーの校舎を捜しまわる。すると、とある空き教室で三人を見かけた。そしてそこには、イタチの姿も。

 

「しばらく、彼女には近づかないでくれ」

 

 そう呟くイタチに、イロミは息を呑んでしまった。

 

「だ、だけど……イタチくん…………私たちは……」

 

 巻き舌で話していた女の子は、目に涙を浮かべていた。他の二人も同様だった。イタチの姿は後ろからしか見え

ない為、どんな表情をしているかは、分からない。

 

「俺からも、イロミちゃんに言っておく。何があったかは聞かないし、無理に謝ってほしいとは言わない。ただ、お互いにしばらく、関わり合わない方が良いと思っているだけだ。お願いだ。これ以上、彼女をイジメると、シスイが今度こそ暴れる。フウコの耳にも入るかもしれない」

 

 フウコの名前に、三人は恐怖の色を示した。

 彼女の成績や忍としての実力、そして、あの石像のような無表情は、今でも同級生の間では恐怖の象徴なのだろう。三人は小さく、うん、と頷いた。

 

「もし、もう一度、彼女をイジメたら、今度はシスイを止められる自信がない。俺も、我慢が出来ないかもしれない。それだけは、しないでくれ。いいな?」

 

 分かった、と三人は同時に呟いた。

 

 それ以降、イロミの周りで三人の女の子が近づくことは決してなかった。体術の授業で同じ班になっても、何も、起きはしなかった。

 

 イタチがたった一人で、終わらせたのだ。

 

 あっさりと。

 いとも容易く。

 

 その時。

 

 イロミは―――。

 




 次話は、今月中に投稿したいと思います。

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