そして、投稿が大幅に遅れてしまい申し訳ありません。
目を覚ました時、真っ先に思い浮かんだのは、どんな夢を見ていたのだろうという、間の抜けた錯覚だった。白く、けれど薄暗さを残した天井が、より寝起きの思考を重くした。
「……ここ…………は……?」
意識もせずに呟いていた言葉は、そのまま自分自身への問いへとなった。
首が硬い。痛みと、そして疲労のせいだろう。いや、全身がその状態なのだと、感覚が起き始める。血液が急速に駆け回っているのか、体全身が熱かった。喉も乾いて、剥離のような痛みが。関節の殆どが包帯で固定されているのは、不愉快以外の何ものでもなかった。
どうして、身体が痛いのか。こんな状態なのか……。
そして、ふと、眼球に痛みが走り。
思い出した。
「──あの、ウスラトンカチッ!」
脳裏に焼き付くように現れたフラッシュバック。
それは、ナルトの背中。
顔じゃなく、遠ざかっていく背中だった。
慌てて上体を起き上がらせる……が、筋肉の筋が切れるような感覚が腹部と背中から、同時に吹き上がる。肉体の反射が、寝かされていたベッドの上でサスケの動きを止めた。
汗が湧き上がってくる。肉体からの危険信号だ。お前は碌に動けない、そんな当たり前の事を指し示してきた。
「……ッ! おいッ! 誰かいないのか!」
怒りなのか、悲しみなのか、暴れ回る感情を言葉にして吐き出した。自分が寝ていた場所が、病室だというのは瞬時に理解できた。そして、どうして自分が病室にいるのかというのも。
自分の記憶には、ナルトを連れ戻した光景は無い。
だが、自分ではなく、カカシか自来也、ヤマトが連れ戻した可能性は十分にある。それに──フウコも、あの場にいた。
見間違いじゃない。願望が映し出した幻視でもない。鮮明に、覚えている。
もしかしたら、という希望が全く無いとは、サスケの胸中に無いとは言い切れない。フウコが、ナルトを木ノ葉隠れの里に戻してくれたのではないだろうか、と。
木ノ葉隠れの里の為に血と泥と汚名を被った姉ならば、あり得なくはない、と。
そんな希望的観測に応えるように、静かに、ドアが開かれた。
現れたのは──。
「よ、起きたか」
はたけカカシだった。
いつもどおりの、気の抜けた声。意図して、そんな声を出している訳ではない事は、分かっている。ただ、普段通りの彼の声や様子が、苛立ちを湧き上がらせる。だが、そんな様子を歯牙にも掛けないように、カカシは呟いた。
「どうだ? 身体の調子は」
彼は言いながら、ベッドの横のパイプ椅子に腰掛けた。
「命に別状はない、というのが医師の診断だ。後遺症も特に無し。だが、全身の筋肉がズタボロ。無理なチャクラの使い方をしたな。経絡系ごと、筋繊維が壊れかけているらしい。まあ、つまりだ。しばらくは休養、だな」
「……おい、カカシ」
「なんだ?」
「ふざけてんのか?」
目が、激高に震える。
もしも、身体が万全だったならば、写輪眼を無意識に発現させていてもおかしくはない程の怒り。睨めるサスケを前に、カカシは飄々と、けれど言葉の裏を察したかのように、深い溜め息を、口元を隠すマスクの下から吐き出した。
「里に運ばれてから、およそ、三日だ」
出された、三日、という数字。
やや一瞬だけ遅れて、意味を理解する。
「お前が、眠っていた期間だ。もう四の五の言ったところで、全てが手遅れだ」
と、重すぎる事実が、背中から押し寄せてきた。
「ナルトは、おそらく──いや、十中八九──大蛇丸の元へと行った。任務は……失敗だ」
「……失敗だろうが、何だろうが…………あのバカが消えていなくなった訳じゃねえ。探せば見つけ出せるはずだ」
「今も、火影様が情報を集めている。が、たとえ見つけたとしても、すぐには動けない。ナルトは……ナルトに封印されている力は、他里、そして他国からすれば、それこそ戦争を起こしてでも手に入れたいものだからだ。もし、不用意に情報が外に漏れれば、ナルトを巡って、水際での小競り合いが起こる可能性も十分にある。情報収集も、捜索も、そして奪還にも、それ相応の根回しと準備が必要だ。今回、俺達がナルトを追いかける事が出来たのは、まだ情報が外に漏れていないことが確実だったから、そしてナルトを追いかける事が確実に出来たからだ。見失ってしまった今、また別の動き方をしなくちゃいけない」
「だから……関係ねえだろうが…………」
理屈も、意味も。
そんなものよりも。
「あのバカが、血迷った事してるってのに、当たり前なこと言うんじゃねえよッ!」
フウコを追いかける為に、里を抜け出した。
里がフウコに、全てを負わせたから。
痛いほど分かる、その感情。だからこそ、連れ戻して、言ってやりたい。
そんなのは、姉さんは望んでねえって。
だから、ナルトが、姉が自ら進んだ暗い道を完全に踏破する前に。
「兄さんは……どこにいる」
「会いに行ってどうする?」
「テメエに言うつもりはねえ。失せろ」
カカシは、何も言わなかった。驚きや、感情に任せているサスケへの怒りなどでは無い。まるで見定めるように、あるいは、何かを考えるように、こちらを見据えている。
そして、タイミングを見計らっていたかのように、病室のドアが開いた。
「ありゃ? 何だ、サスケくん起きたんすか。カカシさんもいたんすね」
入ってきたのは、フウだった。
「どーしたんすか? 二人して、睨み合って。サスケくんは怪我人で、カカシさんは大人なんですから、穏やかにしてくださいっすよ」
わざとらしく重苦しい空気を出す二人を横目に、フウは抱えていた花を、病室に備え付けられている花瓶へと移し替える。
「フウ。兄さんはどこにいる?」
「知らないっすねえ。用事があるとか言って、どっか行っちゃったっす。最近、忙しいんすから。火影様は、下忍や中忍とは違って、今後の為に色々としなくちゃいけない事があるっすからねえ」
サスケは荒々しく舌を打った。
仕方ないと、ベッドから重い身体を降ろそうとすると、フウが真正面に立ちはだかる。
「サスケくん。火影様に会いに行くのは自由っすけど……順序があるっすよ」
言葉の意味を理解できないままに、フウは視線で病室のドアの方を示した。
そこに立っていた二人の人物に、カカシや、淡々としていたフウへの怒りが急速に静止する。
「……サクラ…………それに、ヒナタか……」
二人と視線が重なったが、すぐに逸らされてしまった。無意識に、サスケも視線を下へ向けてしまった。
互いが互いの感情を瞬時に読み取ってしまったのだ。
おそらく、二人がここに来たのは、偶然なのだろう。フウと一緒に、見舞いにでも来た。その時に、自分は目を覚ましたのだ。
「カカシさん」
と、フウはカカシに話しかける。それだけで、カカシは「そうだな」と応えてみせて、立ち上がる。二人は退室するようだ。
「サスケ、少し頭を冷やせ」
「………………」
「お前が焦るのは分かるが……焦って、思い通りの結果を出した忍は、俺は知らないな」
「……テメエが知らねえだけだろ」
「一人で何かをやろうとしても碌な事は起きない、という事は知っている。お前はまだ、恵まれているんだ。協力してくれる仲間がいるからな」
重々しい言葉を残してカカシと、
「君の気持ちは分かるっすよ。勝手にいなくなられると、ムカつくっすよね……」
そして、フウは出て行った。
代わるように、ヒナタとサクラがベッドの横にやってくる。備え付けの椅子に座ったのは、ヒナタの方だった。彼女の顔の位置が、やや自分よりも低い位置に来たせいか、距離感が近い錯覚を与えられる。
無音、無言。
やがて、サスケは呟いた。
「悪い、ヒナタ。アイツを、止める事が出来なかった」
「ナルトくんは……その、何か………」
そう尋ねてくるヒナタの言葉は、悲しみを必死に抑えたものだった。
どうして連れてこれなかったのかと、きっと、言いたいはずなのに。いや、もしかしたら、既に言っているのだろうか? 今回、ナルトを追ったメンバーの誰かに。
そこまで考えて、ふと、ヒナタの目元が赤く成り始めているのを見てしまった。
サスケとヒナタの関わりは、これまでまるで無かった。そもそもサクラやナルト以外で、同期の中に関わりがあった者はいない。
けれど、それでも分かってしまう。
今、まさに涙を零しそうになっている彼女が、一体どれほどの感情を抑え込んでいるのかを。
「……木ノ葉を再興する。そう言ってたな」
「どういうこと?」
尋ねてきたのは、サクラだった。驚きの表情。それは、ヒナタも同じだった。
「少し、話が長くなる」
どこからだろうか、とサスケは考えながら話した。
果たしてどこから、どこを始まりとして、今の現実へと繋がったのか。
フウコという姉の事。うちは一族の事、そしてフウコとナルトの事。話しながら、今ながらようやく、ナルトとフウコの繋がりに疑問を持った。ずっと、恨みが頭に在ったからだ。
そもそも、二人の接点が生まれる共通項というのがまるで思い当たらない。
年齢が近いという訳ではない。姉がアカデミーの教師である訳でもなく、かといえばナルトにうちは一族との接点も無い。
答えが見出だせないまま、話は終わった。と言っても、うちは一族がクーデターを企てようとしていた、という事実は敢えて伏せていた。もしも、うちは一族が自分一人ならば、素直に話していたかもしれない。兄であるイタチが火影である以上は、自分一人の判断では語るべきか判断できなかった。
ただ、うちは一族と木ノ葉隠れの里との不和が問題だった。その事柄は、そう、濁したのである。
「……ナルトの言う、木ノ葉の再興っていうのは、姉さんに罪を着せた人間の排除なんだろう。その為に、里を抜けた。木ノ葉の中じゃあ、アイツはもう、自由に動けないだろうからな」
話している間、ヒナタもサクラも言葉を発しはしなかった。話し終わってからも、しばらく、歪んだ静けさが室内を圧迫した。
「再興……なんだ」
ふと、言葉を漏らしたのは、ヒナタだった。涙を目端に溜めて紅潮している顔だったが、まるで驚きに固めてしまった肩を撫で下ろすような安堵を含んだ声だった。その声のトーンに、サクラとサスケは不思議そうに彼女の顔を覗き込んでいた。
ヒナタは「あ、えっと……」と、どこか慌てたように視線を上下させた後に、小さく微笑んだ。
「ナルトくんが、木ノ葉を出て行ってから、ずっと、不安だった。ナルトくんにとって、木ノ葉は、もうどうでも良くなっちゃったのかな……って。今まで、ナルトくん、すごく、頑張ってきたのに、サクラちゃんやサスケくん、キバくんやシノくん、他の人たちとの繋がりが、アカデミーやイルカ先生とか、無くなっちゃったのかなって………」
ヒナタは続けた。
「でも、再興ってナルトくんが言ったなら……無駄じゃなかったんだなって…………少し、安心しちゃって。だけど……やっぱり、ナルトくん……………」
無駄じゃなかった。
その言葉の主語を、ヒナタは語らないまま、溜めていた涙をとうとう零してしまった。
もしも、ナルトが本当に、木ノ葉隠れの里を見放したのならば、再興などという表現は使わなかったはずだ。
フウコを見つけ出してから、例えば、遠くの地へと足を運ぶ事の方が行動としては当然だ。あるいは、強烈な怒りを抱いているのならば、滅亡と言った表現を使うだろう。
再興。
それは、ナルトなりに描いた理想的な時間がどこかにあったという事。きっと、彼にとって多くの繋がりがその基礎になっている。自分も、中に入っているのだろうと、サスケは漠然と考えてしまった。
それが、ヒナタは安心したと語った。心のなかでは、嬉しさもあるのかもしれない。
だが、サスケには怒りがあった。
再興なんて紛らわしい言葉を使わないで、単純に、手を貸してくれと言えばいいじゃないか。
そう思うだけで、今まさに怒りが爆発してベッドから飛び降りてやろうとさえ身体が震えてしまうが、同時に、その衝動は自分だけではないということを、サクラとヒナタから無意図に伝えられてしまった。
彼女たちも、あるいは、他の誰かも。
自分が意識を失っている間に、訴えていたはずだ。
諦めるなと。ふざけるなと。
それでも今、彼女たちが木ノ葉隠れの里に留まっているのは、現実的な手段が見当たらないことによる諦観と──。
「サスケくん。私ね……ううん、私だけじゃなくて、ヒナタや、他の人たちも、ナルトの事を諦めてる訳じゃないの」
俯き涙を零すヒナタの手を握りながら、サクラは同じように目を腫らし、気丈にサスケを見据えた。
「正直、今すぐにでもナルトを追いかけて、思い切り顔をぶん殴ってやりたい。だけど今動けば、今度は私達が命令違反で拘束されちゃうかもしれない。最悪の場合、ナルトに近付けてさえくれないかもしれない」
カカシとの会話を聞かれていた……いや、聞こえてしまっていたのだろう。
こちらを見るサクラの瞳、そして静かに顔を上げている見つめてくるヒナタの表情。二人の鬼気迫る顔が、物語っていた。
ナルトの味方が、この里にはもう、数少ないと。
そうだ。
ナルトが木ノ葉隠れの里を抜けたこと。それを、今まで、フウコに固執していたせいで、狭い範囲でしか理解していなかった。
多くの者が、大蛇丸の木ノ葉崩しの際に、ナルトが暴走しているのを目撃している。
そのナルトが里を抜けた。それが、どれほど木ノ葉隠れの里の信頼を裏切った事か。
サクラとヒナタが病室に来たのも、偶然じゃない。彼女たちはずっと、様子を伺ってきたんだ。
もう、里ではナルトが抜け忍となったことは知られてしまっている。様々な言葉や視線が、いないはずのナルトに向けられているはず。それを前に、少しでも、ナルトを連れ戻す為の味方をと。
「お願い、サスケくん。今度こそ、ナルトを連れ戻すために、耐えて………」
☆ ☆ ☆
「はい、今日の晩御飯。豚骨ラーメン」
自慢げな声で目の前に置かれる湯気立つ丼ぶりをナルトは見下ろしていた。
「今日は自信作だよ。我ながら、凄い苦労した」
「……一応聞くけど、イロミの姉ちゃん。どこで豚骨取ってきたんだ?」
「知らない。カブトさんに聞いたら、どっかからか拾ってきたみたい」
不安で仕方がなかった。本当に、大蛇丸のアジトでは食料というものはどこで確保しているのか、想像が出来ない。豚骨をあっさりと出せる程の食料供給路があるのだろうか。
「食べないの?」
と、イロミが顔を覗き込んでくる。
彼女の顔は、包帯で覆われていた。大蛇丸の研究の一環の影響だと、彼女はいつも笑って語るが、包帯の隙間から覗かせる皮膚は、枯木の樹皮のように醜い凹凸が浮かんでいた。
「食べるってばよ」
「うんうん、お腹が空くと修行もままならないもんね」
そう言って、イロミはテーブルを挟んで対面のソファに座る。ナルトも座り、低めのテーブルに載った丼ぶりに手を付けた。
味は相変わらず旨い。箸が進んだ。
対して、イロミも食べようとしているが、上手く箸で麺を掴めないのか何度も麺をスープに落としては再度掴むという事を繰り返していた。
今、彼女の身体は機能不全を起こしているらしい。
包帯は顔だけではなく、体全身を、それこそ指の先まで巻かれている。特に、右腕は重点的に分厚くされていて、肘でさえも曲げるのに一苦労している様子だった。
それでも彼女は食事を用意し、普段と何も変わらない雰囲気で生活している。
「九喇嘛……くん? さん? だっけ。どう? 仲良くやれてるの?」
「全然」
と、ナルトは応えた。どこか不満げに唇を尖らせる。
「アイツ、俺の事、やれ餓鬼だの馬鹿だの弱いだの、事あるごとに言ってくる。仲良くなれる気がしねえってばよ」
「でも、力は貸してくれるんでしょ? それで、ここに来た時、大蛇丸の頭潰してたじゃん」
「まあ、そうだけどよぉ……」
言われたくない事を言われて、つい唇を尖らせてしまった。
大蛇丸がイロミとナルトを受け入れた日、彼は確かに言ったのである。バケ狐、と。だから、その日の内に頭を潰してやった。大蛇丸は当然のように生きてはいる。そのせいもあって、正直なところを言えば、今すぐにでも殺し尽くしてやりたい衝動は僅かにある。
しかし、大蛇丸の言う、殺す力。
暴力では止められる。それは、自分が暴走した時に思い知っている。二度も、止められているのだから。
研ぎ澄まし、力を付ける。
そのためには、大蛇丸を殺す訳にはいかなかった。
「イロミの姉ちゃんは……身体大丈夫なのかよ」
「ん? うん」
「本当?」
「朝と昼と夜に毎回、吐くくらいだよ。あと時々、体中がバラバラになるくらいに痛いくらいだよ」
「大丈夫じゃねえじゃん」
「大丈夫だよ」
と、イロミはコロコロと笑った。
「自慢じゃないけど、今の私は首を切られても復活出来るくらい生命力に溢れているからね。まあ、眠かったり一日中お腹が減っていたりするのに不便だけど。それでも……ちょっとずつ、力が身体に染み付いている感じはするよ」
おいナルト、と。
内側の九喇嘛が声を出した。
『どうしたんだってばよ。急にいきり立ちやがって』
【この女──ヤバいぞ。あの男の匂いがする。あの、千手の匂いだ】
何を言っているのかは、ナルトの知識では及ばない。
ただ、今にもチャクラを放出させてイロミに害を与えんばかりの圧力を諫めた。
『イロミの姉ちゃんは、そんな人じゃねえってばよ』
【ワシ等を止めに来た訳じゃないと? 本気でそう思っているのか?】
『その事については何回も話し合ったじゃねえか。イロミの姉ちゃんが俺たちを止めようとしてるなら、ここに着いてねえってばよ』
サスケと戦い、その末に気を失っていた自分をここまで運んできたのは、イロミ自身だ。もし、イロミが友人であり火影であるイタチからの内通者だったのだとしたら、目を覚ました先は木ノ葉隠れの里でなければならない。
それに、大蛇丸のアジトに来てからイロミが自由でいられる時間が極端に少ない。大蛇丸の実験に付き合わされるのが殆どで、他は眠っているか、今のように食事を作ってくれるか、それだけだ。自分から見ても、彼女が不審な動きをしているのを見たことが無い。
【あくまでフウコを追いかけるという所で合致しているだけだ。お前の言う、木ノ葉の再興というものに賛同してはいないだろう】
『言ってねえからな。それに……賛同してねえのは、お前も一緒だろ? 九喇嘛』
ふん、と九喇嘛は小さく嘲笑ってみせた。
【ああ、そうだな。ワシは最初から木ノ葉の再興などと、半端な事は望んでおらん。ワシを封印してきた木ノ葉の滅亡だけが望みだ】
『相変わらずお前は物騒で、無愛想だってばよ』
【お前は脳天気な餓鬼だろう】
サスケとの戦いの際──いや、それ以前にも何度か、九喇嘛からはチャクラを貰っていた。両親であるミナトやクシナが、九喇嘛から取り上げたチャクラを用いている訳ではなく、直接、チャクラを貰っているのだ。
それは、互いの歪な協力関係を継続する為にナルトが九喇嘛に提案した形態だった。
木ノ葉隠れの里を滅ぼしたい九喇嘛と、木ノ葉隠れの里を再興したいナルト。
近いようで、実態としては真逆の事を考えている互いではあるが、起点としては同じ。
木ノ葉隠れの里。
どちらも、ここを起点としている。
そして今やどちらも、木ノ葉隠れの里から遠ざかった身だ。
『……ま、俺達には馬鹿みたいに時間があるんだ。木ノ葉隠れの里をどうするかなんて、ゆっくり考えようぜ』
だからこそ、そんなナルトの気楽な提案が、成立している。
【ふん、餓鬼が】
そう言い残して、九喇嘛はチャクラを収めた。
「ねえねえ」
と、イロミはようやくまともに箸で摘めた麺を口から垂らしながら言う。
「もぐもぐ……。もし、もう十分に力が付いたって……ごっくん。感じたら、ナルトくんはフウコちゃんのところに行くの?」
ナルトはすかさず頷いた。ちょうど、麺をたらふく口に入れていたせいで、言葉で返事が出来なかったのだ。そっかぁ、とイロミは困ったように溜息を零した。
「じゃあ、私も頑張らないとね」
ようやく麺を呑み込んで、尋ねる。
「どれくらいで、大蛇丸の実験っていうのは終わるんだ?」
「さあ、どうだろう。あの人の好奇心は、なんというか、病的だから。1つの実験が終われば、また次の実験とかさせられるかも。でも、まあ、いよいよってなったら
今は自分の事だけを考えて。
そう言って、イロミは笑ってラーメンを食べようとして、箸を落とした。
次話は今月中に投稿致します。