待っていた方は本当にすみません!
「海っ! 見えたっ!」
トンネルを抜けたバスの車窓から見える海にテンションを上げるクラスメイト達。
臨海学校の初日は天候にも恵まれ、絶好の海水浴日和だった。
「皆テンション高いね~」
お菓子を食べながら本音はそう言う。
「だね」
「つっきーはそうでも無いんだね」
「子供の頃海の近くで暮らしてた事もあったからね」
「へえー、何時くらいの事?」
「えーっと…十年くらい前かな。お母さんとお兄ちゃんの三人で伊豆の方に二年くらいの間暮らしていたよ」
『そうなのか』
突然ルルーシュが会話に割り込んできた。
『どうしたの、るーるー』
『いや、俺が日本に来た時の止まっていた枢木神社も伊豆にあるんだ』
『ひょっとしたら、どこかですれ違っていたかもね』
『…桃』
ルルーシュが呟く。
『桃がどうかしたの?』
『ああ。俺がスザク…友人と妹の為にフルーツを買いに行った事があったんだが、その時桃を一つ落としてな、それを拾った女の子が居たんだ。歳は同じくらいで赤い髪の』
『へえー、でその後どうなったの?』
『たしか…』
ルルーシュは続きを言おうとしたが、それは別の人間に遮られる。
『バスが来たから、その子に桃を渡して、いやあれは半ば押し付けてそのまま行っちゃったんだよね』
『つっきーが知ってるって事は…』
『その赤い髪の女の子って言うのは私だよ。そういや、あの時ルルーシュって呼ばれていたね』
『へえー、不思議な縁もあるもんだねー』
『だね。…というより、ルルーシュはどうして、そこまで覚えていて、アッシュフォードとか黒の騎士団の時に聞いてこないの?』
『いや、一体どうやって聞けと言うのだ。「桃の事、覚えてますか?」か? それとも「どこかで会いませんでしたか? 例えば…小さい頃伊豆で」か? 下手なナンパじゃあるまいし』
『まあ、そうだったから良かったけど、見当違いだったら赤っ恥だよねー』
『たしかに』
『だろう? そろそろ、バスも着くみたいだな。俺は今日一日出てこないつもりだ。好きに楽しんでくれ』
ルルーシュがそう言った所でバスは旅館に着いた。
四台のバスからわらわらと降りてきた生徒たちは整列する。
「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないようにしろ」
「「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」」
織斑先生の言葉の後、全員が挨拶をする。
そして、各自の部屋へと移動となり、動き出す。
「紅月、布仏」
動き出そうとしたカレンと本音は織斑先生に呼び止められる。
「なんですか、織斑先生?」
「…それとなく、専用機持ちが問題を起こさないように見ていてくれ。学園内ならまだしも、ここでの起動は流石に…な」
「…分かりました。見ておきます。疲れますね織斑先生」
「元気があるのは良いんだがな。…はあ。すまないな、止めてしまって。行っていいぞ」
「お疲れ様です」
そう言って、二人は部屋に向かった。
ちなみに、部屋は三人部屋で、カレン、簪、本音の三人になっている。
「…織斑先生に呼び止められていたけど、何だったの?」
合流した簪が聞いてきた。
「それとなくでいいから専用機持ちを見張ってくれってさ。流石に自由時間に何かをするって事は無いと思うけど」
「まあ、流石にねー」
「…たしかに。それより荷物を置いて、海に行こう」
三人は部屋に必要な物以外の荷物を置いて更衣室に向かう。
「つっきー、やっぱり胸大きいね。まやまや位あるんじゃない?」
「どうだろ? って、本音も十分大きいじゃない」
「そうかな~、…えいっ」
掛け声の後、カレンの胸を触る本音。いや、触るなんて生易しい物じゃない。ガシッっと鷲掴みにしている。
「ちょっ、何してんの!?」
「お~、私の手じゃ収まりきらない~」
「きらない~、じゃない!」
「よいではないか、よいではないか~」
「どこのお代官だ! ていうか簪も止めて~」
二人のやり取りを見ているはずの簪は反応が無い。気になった二人は簪の方を見る。
すると…
「まだ大きくなるもん…」
と自分の胸をペタペタ触りながら呟いていた。
そんなこんながあった後、三人は海に繰り出す。
「…本音、暑くないの?」
「だいじょ~ぶ」
着ぐるみ型の水着のだぼだぼの袖を揺らしながらそう答える本音。
「さて、何する?」
「…海だし、泳ぐ?」
「海の中だと暑くないしね~」
「「やっぱり、暑いんじゃん」」
なんて、三人が話していると、
「姐さん発見! おおっ、想像以上のナイスボディ。…じゃなくて、織斑君とデュノアさんが強いの! 助けて!」
と言いながら近づいてくるのは『三つの1を持つ女』こと、相川清香だった。ちなみに、この異名は本音が適当に名付けた物で由来は1年1組の出席番号1番から来ている。
「どしたの、清香?」
「皆でビーチバレーをしてるんだけど、織斑君とデュノアさんが強くて」
「ああ…なるほど」
IS学園に所属する生徒は能力的に優れた生徒が多い。それは勉強、知識面だけでなく、身体能力でもだ。
だが、それは普通の女子高校生に比べてというレベルであって、性別の差をひっくり返せるものではないし、厳しい訓練を受けている代表候補生相手には厳しい。
「それで、織斑君と遊べるから皆挑んだんだけど、どんどんなぎ倒していくから、人海戦術になってきてねー」
「…楽しみ方間違えてる」
思わずツッコむ簪。
「おお、我らが日本の代表候補生、更識簪さん! 姐さんと一緒に組んでもらおうと思っていたけど、一緒に居るなら丁度良い。二人でお願いします!」
「ん、良いよ。簪も良いよね?」
「もちろん」
「頑張ってね~」
「ありがとう! それじゃあ、行こう二人とも!」
清香の後ろをついて歩いて行く二人。
「次の相手は…カレンと簪さんか。丁度いい、この前のトーナメントの借りを返そうぜシャル!」
「そうだね! 頑張ろう、一夏!」
「…やる気満々だね」
「疲れてハイになってるだけじゃない?」
テンションが両極端な二チーム。さて、勝敗はいかに…。
「いや~、盛り上がったねビーチバレー」
日も暮れて夕食の時間、夕食を食べながら本音はそう言った。
「お遊びルールのはずなのにいつの間にかタイブレークに突入して、30点くらいまで行ってたね」
「周りに凄い人集まってたし。…疲れた」
「疲れはご飯と食べ物で癒そうよ~。夕飯美味しいよ~」
「流石国立だね」
三人はのんびり箸を進める。
またまた、一夏の方が騒がしかったが、気にしない。理由は「「「織斑先生が居るから、別に行かなくても大丈夫でしょ」」」だそうだ。
「「…なにしてるの?」」
夕食を終えた後、二度目の温泉(一度目は海から戻ってきてすぐ)からの帰りのカレンと簪は教員室と書かれた紙が貼ってある部屋の前で何故か聞き耳を立てる四人―篠ノ之箒、凰鈴音、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴッヒ―がいた。恐らく、誰が見てもこう声を掛けるだろう。もしくはそのままスルーするか。カレンと簪は前者を選んだ。
「おい、聞き耳を立てている4人。そろそろ入って来い」
中にいる人、声からして織斑先生がそう言うが誰も扉を開けようとしない。
「…入らないの?」
簪が聞くが誰も動かない。
「ああっ、もうじれったい! 織斑先生、紅月です。入ります」
そう言ってドアを開けるカレン。
そして、一言。
「一夏、マッサージでもしてたの?」
「おう。千冬姉とセシリアをな。しかし、二人連続でやると汗かくな」
「手を抜かないからだ。少しは要領よくすればいい」
「いや、それは折角時間を割いてくれる相手に悪いだろ」
「真面目だね」
「いや、愚直だな」
「カレンはともかく、千冬姉はたまには褒めても罰は当たらないって」
「どうだかな。…というより、紅月どうしてここに?」
「いや、簪と温泉に入った帰りに部屋の前にそこにいる4人を見つけて、何事かなと聞いたら織斑先生が中に入れと言ったんですけど、全員動かなかったんで、代わりに私が開けました」
「ふむ、偶然か。…なら、紅月と更識も入れ。飲み物くらいは出そう」
二人はその提案を受け入れて部屋に入った、決して飲み物に釣られたわけではなく、なにか面白くなりそうという乙女の勘が働いたからだ。
全員が入ってきた後、織斑先生は一夏を追い出し、もといもう一度温泉に入ってくるように言った。
そして、おもむろに缶ビールを開けて飲みだす。それに唖然とする全員。いや、一人カレンだけ普通に自分の持っているコーラを飲みきって2本目を開けて飲んでいる。
「やっぱ、コーラはゼロじゃない方に限るね」
「紅月、2本目からは自腹だ」
「いいじゃないですか、織斑先生」
軽口を叩いて物怖じをせず話している光景が信じられないようだ。
「ん? 全員全く飲んでいないようだが…」
「多分、織斑先生がビール飲んでいるからじゃないですか?」
「私だって人間だ。酒くらい飲むさ」
「そりゃそうだと思いますよ。厳格なイメージがある織斑先生が学園の行事の間に飲んでたら驚きますよ」
「お前はそうでも無いようだな」
「まあ、うちの研究所も自由な人が多いですから。そういう人には慣れています」
黒の騎士団は組織内の体制はしっかりしていた。が、仕事の方は最初の頃はともかく、人材に余裕が出てきた頃には、一人一人の負担を極力減らすようにしていたのでそこまで厳しくない。
なので、流石に仕事中に酒を飲む人はいなかったが、時間をうまく使って、限られてはいるが娯楽に興じる人はいた。
そう言うのを見たのでカレンは別に気にしていなかった。
「さて、いつもなら一夏に酒の肴をつくらせるのだが、今日は…お前たちの話を肴にしようか。お前たち一夏のどこが良いんだ?」
そう言う、織斑先生は凄く楽しそうだ。それもそうだろう。人の恋の話程面白い物は無い。
「わ、私は別に…以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけです」
「私は腐れ縁なだけだし…」
「わたくしは、クラス代表としてしっかりして欲しいだけです」
厳しい言葉を言うのは箒、鈴、セシリア。
「そうか。では、そう一夏に伝えておこう」
「「「言わなくていいです!」」」
三人のその言葉を聞いて笑う織斑先生。
「僕―私は…優しい所です」
ぽつりと言ったのはシャルロット。
「たしかに優しいが、あいつは誰にでも優しいぞ」
「そ、そうですね。…そこがちょっと悔しいかな」
照れ笑いをしながらそう言うシャルロット。
「で、お前はどうだラウラ」
「つ、強い所でしょうか…」
「いや、弱いだろ」
「強いです。少なくとも私よりも…」
「そうかねえ…」
ビールを飲みながらそう呟く織斑先生。
「紅月と更識はどうだ?」
「傍から見ていると面白いですよ」
「ただ、仕事が増えるのは勘弁ですね」
「なるほどな。お前らも紅月に迷惑を掛けんようにな。お前たちと一夏が理由で例年よりも生徒会の仕事量が増えているんだ」
「「「「「…分かりました」」」」」
「分かったなら良い。…まあ、一夏は役に立つぞ。家事も料理も出来るし、マッサージも上手い。そうだろ、オルコット?」
織斑先生の言葉に顔を赤くして頷くセシリア。
「というわけで、付き合える女は得だな。どうだ、欲しいか?」
「「「「「く、くれるんですか!」」」」」
織斑先生の言葉に食いつく5人。カレンと簪は苦笑いだ。
「やるか、バカどもが。女なら奪うくらい気の気持ちでこい。そのために自分を磨けよガキども」
「…結局、弟自慢ですねー」
カレンはそう呟いた。からかいの気持ちでは無く、自身も自慢の兄を持つ身としての共感の気持ちからだったのだが、織斑先生は恥ずかしかったらしく、
「…そういえば紅月、お前のISの主任研究員、ルルーシュと言ったか? そいつとはどうなんだ?」
矛先がカレンに向けられた。
「どうって…どうも、無いですよ。たしかに研究所で唯一の同い年で付き合いもそれなりに長いですけど、あくまで仕事上の関係ですよ。っと、もう消灯時間じゃないですか。もう部屋に戻りますね」
そう言って立ち上がったカレン。簪がその後に付いていく。
部屋に戻る道、簪は、
「本当の所どうなの?」
と聞いてきた。
「好きだよ。敵対した時に吹っ切れたつもりだったんだけど、再会しちゃったからね。あの場はああでもしないと、話が長引きそうだし」
「ふふ、たしかに。じゃあ、布団の中でその辺本音と詳しく聞こうかな」
「ちょ、簪!?」
臨海学校の初日の夜はふけていく。しかし、楽しい夜はまだまだ続く。
駆け足ですが臨海学校初日をお送りしました。
ちなみに、文中の子供の頃の桃のお話はカレンを主役とした小説の中に書かれているお話です。
次回は第一話目以来の天才、いや天災の登場です。