戻ってきたカレンは状況を織斑先生に伝え、軽くご飯を食べた後、山田先生に連れられ簡単なメディカルチェックを受ける。
「はー、凄いですね。紅月さん」
検査をしながらそう唸る山田先生。
「どうしたんですか、先生?」
唸った理由を尋ねるカレン。
「織斑君の怪我を見た後だと、同じタイプの機体を使っている紅月さんの怪我の無さにびっくりしまして」
「あれはどっちかというと、一夏が箒を庇ったからだと思いますよ。普通に戦っていたら、そこまで酷い怪我にはならなかったと思います」
普通に戦っていればあそこまで無防備に食らわない。
「それはそうかもしれません。でも、やはり紅月さんの技術有っての事だと思いますよ?」
「ありがとうございます。…あの、山田先生」
「どうしたんですか?」
カレンの声のトーンが下がったので気になり、彼女の方向に目をやる山田先生。
「私はあそこで退いたのは正しかったんでしょうか?」
「私は正しいと思いますよ。確かに紅月さんは作戦を受けました。でも、織斑君の負傷撤退の時点でその作戦は根本から失敗してるんです。紅月さんは自ら殿を買って出て、織斑君と篠ノ之さんを安全に退かせる事をしてくれました。それだけで十分すぎると思いますよ。それに、福音が退いた時点でエネルギーに余裕が無く、しかもISのダメージレベルがBに達していた事も考えるとあの場は退くしかなかったと思います。それに…」
「それに?」
「作戦を指示した側の私が言うのもなんですけど、無事に帰って来てくれてよかったです。…さて、検査も終わりです。紅月さんもゆっくり控室で休んでいてください。更識さんが心配していましたよ」
「はい。ありがとうございました山田先生」
カレンは専用機持ち達が居る控室に戻った。
「カレン! 怪我は!?」
控室に入って来たカレンに簪が近寄りそう言う。
「大丈夫、この通りピンピンしてるよ。私も紅蓮もそう簡単には負けないよ。私の事より一夏と箒…というより他の皆は?」
カレンが入って来た時簪を除く専用機持ち達は部屋に居なかった。
「織斑君はまだ目を覚ましてない。他の皆は織斑君の所」
「まあ、予想通りだったね。簪は何で行かなかったの?」
「私は今、それよりもやる事があると思って」
「だから今も作業中なんだね」
簪は福音の暴走事件がある前からしている火器管制システムの再構成を続けている。
「そうだよ。一人だからそこまで早いペースでは出来ないけど、それでも一人でマルチロックオンシステムの構築していた時と違って、元が有る物を使いやすいようにしているだけだから楽な方だよ」
「…いや、私からしたらどっちもどっちだと思う」
「そうかな?」
そう言う簪。卓越した技術を持つ人間の比較は常人には理解しがたいらしい。
「うーん、例えばさ、カレンが山嵐を全弾避けるのと、そのまま突っ込むのどっちが難しい?」
「そりゃ、全弾避ける方だよ。突っ込む方もできなくはないだろうけど」
「それと同じ。私からしたら、どっちも難しい事だから」
「なるほど、なんか納得がいった」
立場を逆にした簪の例えで納得の行ったカレン。
「そういや、もう夕方と言っても良い時間になって来てるね」
「七月だから日はまだ傾いていないけどね」
「今思い出したんだけど、今日って七夕だよね」
「そうだね」
「七夕って雨のイメージだよね。今年は晴れてるけど」
「まあ、梅雨の真っただ中だし。たしか去年の臨海学校は天気悪かったってお姉ちゃん言ってたよ」
今年は臨海学校と、その前後二、三日は天候に恵まれた。梅雨時期なので、転校によっては初日の自由時間が旅館待機になってしまう年もある。
「後、晴れててもあんまり天の川が出てるイメージ無いよね」
「たしかに。旧暦と新暦の差とかあるのかな?」
「「そこのとこ、教えてルルーシュ」」
ルルーシュに話を振る二人。
『…なぜ、俺に七夕などという、アジア圏の文化の事について聞く?』
「「知ってそうだったから」」
『…まあ、いい。旧暦と新暦の差で一月ほどずれる。なので、旧暦の七夕は八月になる。それに旧暦は月齢を元にして進んでいく。なので月明りの影響が毎年一定なのも理由だろう。今の暦だと天候と月齢の二つの条件をクリアしないと満点の星空にはならないのだ』
「「なるほどー」」
『まあ、これは昔世話になっていた神社の人に聞いた話なのだがな』
七夕談義をしていた三人の所に織斑先生が入って来た。
「どうしたんですか? 織斑先生」
「…お前達を除く専用機持ちが無断で出撃をした」
「「…えっ!?」」
織斑先生の言葉に驚きすぎて、一瞬間が空く二人。
「私達以外って、まさか…」
「そのまさかだ。織斑もだ」
「…あの怪我でどうやって?」
「…分からん」
『それで、何をしに来たんだ、織斑教諭?』
「全員を連れ戻して来てもらいたい」
「…それって福音を倒してこいって言っているのと同じですよね?」
「…そうだな。お前達には負担を掛ける」
そう言って頭を下げる織斑先生。
「あ、頭を上げてください! 織斑先生!」
「そ、そうですよ!」
慌てる、カレンと簪。
『…俺としては、修復の完璧ではない紅蓮やパッケージの準備が終わってない打鉄弐式を戦場に出すのは反対だが、それを決めるのは俺ではないしな。二人はどうする?』
「私は行きます。皆も福音のパイロットも助けてきます」
「私は…」
『簪、無理する事は無い。これはいつものアリーナでの試合ではない。実戦だ。いつ命の危険があるかの分からないな。それを恐れるのは当たり前だし、ここで行かなくても誰も君を責めはしない』
「…ありがとうルルーシュ。でも、私も行くよ。もう私はお姉ちゃんに、カレンに、誰かに守られるだけは嫌なんだ。その誰かの隣で一緒に戦いたい! 私も誰か助けれるようになりたい!」
「簪…」
『…はあ、二人ともバカだな』
「「バカで結構」」
『だが、そういう奴は嫌いじゃない。織斑教諭、五分間だけ時間を貰うぞ。突貫だが出来るだけ万全の状態を整える』
そう言って火器管制システムの構築を始めるルルーシュ。
「…感謝する」
『礼はすべて終わってから言ってくれ。カレン、紅蓮のエネルギーは?』
「今、自然回復で6割くらい」
『戦闘に影響が出そうな箇所への損傷やダメージは?』
「無いよ」
『ならば、織斑教諭に頼み、エネルギーをMAXにしてこい。バッテリーもだ』
「OK」
部屋を後にするカレン。
『簪、流石に短時間で完璧までは持っていけないから、少しだけ制限されるぞ。まず、すべての武器を同時に使用する事が出来ない。全武器解放の一斉攻撃での制圧という切り札が切れないからな』
「それは最終手段。使わないのが一番」
『その通りだ。後は排熱システムが甘いから、恐らく『雷華』と『轟雷』、『雷華』と『春雷』の同時使用は砲身、IS共に悪影響だ。出来る限り使うな』
「『轟雷』と『春雷』って言う組み合わせは?」
『それは問題無い。というより、これは『雷華』に問題があるらしい。すべてが終わってからじっくり調べよう』
「そうだね。…それくらい?」
『ああ。出撃まで休んでいろ。後は俺がやっておく』
「お願いね、ルルーシュ」
それからきっちり五分後に二人は出撃の準備を終えて飛び立った。
目標はここから約30キロ先の沖合。先の福音との交戦地点から20キロほど動いたところだ。
次回は福音第二回戦をお送りしますよ。