僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~ 作:荒井うみウシ
数日前
「いいわね、恨みっこなしの一本勝負よ」
神妙な顔をしながら叢雲が他のメンバーを見渡す。
この場にいるメンバーは叢雲の他に霞、満潮、潮、敷波、白雪そして曙の計7名である。
互いに目を合わせ、無言でうなずき合う。
そして全員で声を合わせながら
「「「「「「「せーのっ!」」」」」」」
ことの始まりは一通の通達だった。
内容は会議が開かれ、それに彼女らの上官も招集対象とされていることだった。
上官たる提督は稀少な鎮守府を運営するに必要な能力を保有するため、外出時には護衛を必要とする。
護衛に当たるのは信頼の置ける能力ある者であり、部下であり艦娘である彼女らが担うのは当然であった。
そこで、だれが行うのかということが彼女たちには重要となる。
仕事それも短時間とはいえ他の娘に邪魔されず、提督と二人きりになれるのだから。
誰もが希望するため、彼女たちは独自にルールを設けた。
それはいくつかあるが簡単にまとめると、
担当を決める際にはある程度練度があり、重要な仕事を他に持っていない娘たちで公平な方法によって選定する。
ということだ。
細かいところには方法を決めるのは持ち回りだとか、ずるをしたときの対処とかがあるが、割愛する。
今回の方法を決めたのは叢雲で、内容はくじ引きであった。
そして
「ぃやったあぁぁ!」
あたりを引いたのは曙だった。
自分がはずれたことを残念がったり、曙があたりを引いたことを羨む声などがしばしの間続いた。
―・―・―・―・―・―
会議当日の朝
運よくあたりを引けた私は自身の上官に声をかけた。
「今日の会議の準備、終ってるんでしょうね?」
いそいそと書類を処理していた彼は手を止め、私の声に顔を上げた。
別段優れているというわけではないが、見ていると落ち着く顔。
鍛え抜かれているわけではないが、がっちりとして包容力を感じさせる身体。
万人に問うても決してもてはやされそうもないが、
そんな彼がただ自分の声に耳を傾け、自分のことを目にし、自分のことを考えてくれる。
それを感じられるだけでも幸せだ。
「あーはい、できてますよ?昨日そこのカバンに全部つめたんで」
少しだけ気だるげにしながら、カバンを指差す彼。
それは朝早くから仕事をしているためなのか、普段の仕事の疲れが取れ切れていないのか。
どちらなのかはわからないが、ほんの少し普段よりも緩んでいるその姿に心が揺れそうになる。
「そ、ちゃんとできているか確認してあげる。あと、もっとしゃんとしなさい。まったく、私だから良いものの、他の娘の前でもそんな風になってないわよね?」
こんな魅力的な姿を他の娘には見せないでほしい。
見せるのは自分だけであってほしい。
そんな風に思ってしまう自分が抑えきれず、ついつい口がすべってしまう。
「なってない・・・すよ?」
語尾が小さくなりつつ言う彼。これは他の娘にもやっている。絶対だ。
「クソ提督。だからクソ提督なのよ。このクソ提督」
不満をぶつける。彼の立場上周りの娘と接触するなとはいえない。
でも立場を考えない私的なものは私だけに見せてほしいと思ってしまう。
嫌な気持ちになりつつも、彼の顔を横目に見る。
ほんの少し口を開け、やってしまったという顔だ。
ずるいものだ。
この顔を見ているとまったくしょうがないと思えてしまう。
その後、黙々とカバンの中身をチェックしていく。
「ん、問題ないわね。じゃあ先に持っていって待ってるから、遅れないようにくるのよ?」
そう言い残して私はカバンを手に部屋を後にした。
―・―・―・―・―・―
会議後
たった数時間でも長く感じた。
待合室で他所属の娘によるのろけ話を聞き流しながら過ごしていたから余計に長く感じたんだと思う。
すぐにでも彼に会いたい。
彼の存在を感じていたい。
そう思うと自然と早歩きになっていた。
彼はすぐに見つかった。
別の提督と会話をしているようだった。
普段めったにしないほど軽やかな表情をしている。
よほど退屈していたのだろう。
すると彼らの奥から声が聞こえる。
どうやら相手の護衛が迎えに来たようだ。
待合室では会わなかったので、別の部屋に居たのだろう。
駆逐艦・電。
うちにはまだいない娘だ。
私も提督に近づいていくと提督の表情が変わっていることに気が付いた。
すこし潤んだような、かなしそうでありながらうれしそうな妙な表情。
そんな表情で電と彼女の上官とのやりとりを眺めている。
見ているとむかむかと腹が立ってくる。
そんな顔を私の前ではしないのに、
そんな目を私には向けないのに。
提督のそばで立ち止まる。
そうすると彼はぼそりとつぶやいた。
「かわいい」
ショックだった。
こちらに対してそういう視線を向けることすら少ないのに、
今日あったばかりの娘には向けている。
そして、向けさせることができなかった自分が情けなく、悲しく、むなしい。
電たちが離れていくのを見るとつい口が勝手に動いた。
「悪かったわね、かわいくなくて」
声によってやっとこちらの存在に気づいた様子の提督。
すこしばつの悪い顔をしながら振り向き言う。
「曙さんがかわいくないはずないじゃないですかー」
棒読みである。
「棒読みになってるわよ。それに、他所の娘、それも駆逐艦に鼻の下を伸ばすようなクソ提督にかわいいなんて思われたくもないわ」
うそである。棒読みであってもかわいいといわれればうれしいし、ずっとそう思っていてほしい。
いや、本当は棒読みではなく本心でかわいいといってほしいが、そういうのは私にはむずかしいと自分でわかっている。
ふと普段の表情に戻り、提督がたずねてくる。
「お迎えありがとうこざいます。ちなみに曙さんがきてくれた理由はなんでせう?」
これに"少しでも他の娘に邪魔されずに二人になりたいから"と素直に答えられるのであればどんなに楽か。
「クソ提督でも提督は提督なんだから護衛はいるでしょう?そんなこともわからないの?私なのはくじ引きの結果よ」
機嫌悪く答えてしまう。
彼の質問だ。回答にうそはつけない。
でもすべてを話すことはできないから、一部はごまかして伝えてしまう。
「あとその変な物言いはやめて。キモイから」
二人きりならともかく、今はまだ他の提督やら艦娘やらがいる。
その人たちに私の提督が悪く思われるのは気に食わない。
だから言動には多少気を使ってしまう。
彼がこういうところにもう少し気を使ってくれたらとも思うが、そういうところも目が離せない一因なので、しょうがないとも思ってしまう。
あまり立ち話を続けるのもなんだし、そろそろ場所を変えよう。
「さっさと帰るわよ。あと寄り道なんか許さないから」
などといいつつその上で誘ってほしいと思ってしまう。
鈍感な彼だからきっとそんなことはないだろうと思いつつも、耳をそば立てながら踵を返す。
「いや、行きませんけど」
返答は期待を裏切り、予想通りの淡々としたものだった。
とりあえずクソ提督といわせたかった。