僕の艦隊これくしょん ~提督になれば艦娘とイチャラブできると思っていた~   作:荒井うみウシ

21 / 64
普段よりちょっと長めです。


潮の融解

「ほら、シャキシャキ歩く!」

 

いつもよりも気が立っている様子の曙に連れられて昼食を取りに食堂へ行く。

部屋で一人で済まそうと考えていたところ見ていないと食べずに過ごすのではないかと今日の秘書艦である曙にひっぱりだされた。

 

ここの食堂では妖精さんが料理をしてくれる。申請された食材費にしては結構おいしい食事を提供してくれてとても助かっている。とはいえタイミングが合わないときや立て込んでいるときは利用できないんだけどね。

 

妖精さんが作るのでこの味なのだから、間宮さんが来てくれたらどれだけなのだろうか?

あの娘も艦娘であるため、僕に対応する娘が現れるのを待つしかないのがもどかしい。

 

「どれにしようかしら」

 

いつの間にかメニューが書いてある掲示板前に着いた。

曙はいろいろ目移りして決めかねているらしい。

僕はどうしようか。

気分的にはがっつりと食べたいから丼物にしよう。

親子丼、海鮮丼、カツ丼。

よし、カツ丼にしよう。

 

「よし、決めた。曙さんはどーするん?」

 

「うーん、決めたわ。それじゃあ行きましょ」

 

二人で発券機に行く。

ラーメン屋とかにあるボタンを押すとプラスチック製の券がでてくるタイプのやつだ。

違いがあるとすればお金を入れずとも提供可能なタイミングではいつでも押せるようになっていることだ。

 

「で、どれにするの?」

 

曙が自分の食券を出した後尋ねる。

 

「カツ丼、セットのほうで」

 

ちなみにセットというのは味噌汁と漬物がついてくる。

単品だと丼のみだ。

曙がすぐに発券して券を渡してくれた。

 

そのまま受け取りレーンに向かう。

入り口で眠そうにしている妖精さんにお願いしますと券を渡し、トレイを持って進む。

すこし待っているとドゾーと妖精さん達が頼んだものを持ってきてくれる。

それを自分のトレイに乗せる。

曙は天ぷらうどんを頼んだようだった。

 

「さて、どこら辺に座ろうか?」

 

食堂は100人以上が座れるほど広い。

が、現状利用者は少ないので好きに座れる。

 

「あそこに潮がいるわ、そこにしましょ」

 

そういってすたすた先を行く曙。

 

「僕が行ってもいいのかな?」

 

すると少し止まってから曙が振り向かずに言う

 

「何も問題ないでしょ。あんまり潮を避けたりしないでよね」

 

どちらかというと避けられているのは僕なんだけどねぇ…

 

まぁ座る前に確認すればいいでしょう。

近づいていくと潮はこちらに気づいた様子で軽く会釈をした。

 

「ご一緒してもいいかな?」

 

一応確認を取る。

曙は潮の隣に座った。

 

「えぇと、はい、…だいじゅ、大丈夫です。」

 

そんなに怯えんでも…

まぁ大丈夫っていうのだから信じよう。

潮の正面に着く。

潮もまだ食べ始めたばかりのようで、まだ多く残っていた。

 

「焼き魚定食ですか、いいですね」

 

「ぇ、あ、は、はぃ…」

 

萎縮する潮。

やっぱりあんまり歓迎されていない様子だ。

曙は僕らにかまわずいただきますと口をつけ始めていた。

僕も続こう。いただきますと小さくいい、まずはお味噌汁に口をつける。

うん、おいしい。

 

少しの間黙々と食べる。

そういえば那珂ちゃんがこの間潮も気にかけた方が良いと言っていたことを思い出す。

わざわざ呼び出して話をしようとすると余計萎縮させてしまうかもしれない。

たまたま居合わせた今聞いたほうがまだ上手く良くかもしれない。

 

「潮さん、最近どうですか?」

 

とりあえず当たり障りのない感じにしておこう。

潮は声を掛けられて一瞬戸惑った顔になったが、すぐにおさまった。

 

「えっと、どう…とは?」

 

よし、割りとさわりはいい感じだぞ。

普段はもっとおどおどしてたり逃げられたりするし。

 

「うーん、楽しいこととか面白いことがあったりだとか、逆に辛いことや苦しいこと、気になることとかそういうの」

 

潮は軽く口を開きかけたが、そのままちらちらと曙のほうを見ている。

曙は知らんぷりして黙々と食事を続けている。

そのまま様子を見ているとあきらめたのかこちらに向き直った。

 

「…とくには…ないです…」

 

うーん、特にいつも通りおどおどしているようにしか見えないが、那珂ちゃんが言うのだ、たぶん何かあるんだろう。

でもここで突っ込んだほうが良いのか引き下がるべきか…

いや、まともに会話できている今を逃すと次がいつ来るかわからない。多少強引でもいかねばならないタイミングかもしれない。

 

「そうかい?そうならいいのだけれど、僕にはなんだか怯えている様に見えるのだけれど?どうかな?」

 

できるだけ優しく、怖がらせないように心がけて言う。

 

「提督が怖がらせたんじゃない?」

 

曙がぼそりという。だまらっしゃい。

 

「えっと、そうならあー、ごめん」

 

でもそうなら潮マジスンマセン。

潮はすごくあわあわしている。

 

「ぇと、あぅ…そうじゃ、ぅー」

 

もじもじと、でも何かを伝えようとしてくれている。

なら辛抱強く待とう。

あまり強く見つめすぎると萎縮させるかも知れない。注意を向けていることを示しつつも水を飲んだりして注目しすぎないようにする。

他所の猫を相手にするような感じだ。

すると少し落ち着いたのかぽつりと言った。

 

「みたらしに、なりたくないんです…」

 

「みたらし?」

 

何かの隠語だろうか?

 

「潮」

 

小さな声だが、しっかりとたしなめるようにいう曙。

それに反応してピクリとする潮。

 

「曙、少し控えて」

 

話そうとしていることを止められたらたまらない。

このチャンスを逃すわけには行かないのだ。

僕の言葉に今度は曙がピクリと反応し、うつむく。

彼女へのフォローは悪いが後回しだ。

 

「潮、みたらしになりたくない。どういうことか教えてもらえるかな?」

 

あやすように、警戒心を絆せるよう注意する。

 

 

「…大福に、大福になれなくても、餡蜜でもいいので、みたらしになりたくないんです!」

 

はっきりと潮が言う。今まで溜め込んでいたものがあふれるように、それは強い言葉だった。

意味もわからないその台詞に他の食事をしていた娘もこちらに注意が向いたようだった。

 

「ていとく、わたし、みたらしにならないようにするの、どーすれば…」

 

半分涙声で訴える潮。

那珂ちゃんの言っていた通り、だいぶきていたものがあったみたいだ。

だが今ならまだ対処しだいでは解放できるだろう。

本当に手遅れになる前にチャンスをつかめてよかった。

 

とりあえず、意味はわからないが、キーワードは和菓子なのだろうか?

"大福"、"餡蜜"そしてなりたくないという"みたらし"

 

…半分博打だが、賭けるしかないようだ。

 

ゆっくりと立ち上がり、潮の横まで行く。

中腰になり、目線の高さを合わせるとゆっくりと手を頭の上に置く。

小さく反応はしたが、嫌がっている様子はない。そのまま丁寧にゆっくりとやさしく頭をなでてあげる。

 

「なぁ、潮。どうして大福になれないと思うんだ?」

 

具体的な内容を聞いてもたぶん彼女は答えないか答えられないだろう。

ならあやしつつ間接的な情報を集めて対処を考えるべきだ。

しばらくぽーっとなでられていた潮がぽつぽつと言い始めた。

 

「わたし、てーとくに、その。うまく、ぅぅ…。あんまり、いい娘じゃないから。だから…」

 

追加情報は僕が関わっていること、潮が潮自身をいい娘ではないと思っていること。

やはり言葉通りの和菓子ではなく、何かを示している隠語なのだろう。

 

「僕には潮はとってもいい娘だよ。お仕事も普段からがんばってくれているし、悪いことをすることもないし。どこがいい娘じゃないっていうのかな?」

 

できる限り彼女自身を否定しないように彼女の言を否定し、情報を聞き出す。

こういう不安定なときにただ単に言を否定すると自身を否定されたと受け取られやすい。

自分を否定するこちらの言葉を受け入れたりはしない。都合よくやっぱり自分はダメなんだというところだけ切り取られて信用はなくなるのだ。

だから相手自身は可能な限り否定しないように、でも相手の言う自虐的発言を控えさせ、肯定的な方向へ意識を持っていくように心がける。

 

「てい…とく…」

 

こちらを不安な目で見つめてくる潮。

ここで引いてはいけない。やさしく頭をなで続けながらしっかりと目を合わせる。

 

「ん?」

 

彼女のペースで話はさせるが、話しやすくするために促す。

決して急かしてはいけない。

 

「その、うしお、本当に、いい娘。…ですか?」

 

「あぁ、とても」

 

自己肯定側の発言には同調を。

 

「でも、その、わたし、いくじなしだし、ちゃんとていとくとお話できないし、だめだめだし…」

 

「いくじなしかな?僕には観察力と慎重さを併せ持っているすごい娘だと思うよ?」

 

短所だと思っていることを長所だと言い換えて伝えてあげる。

 

「観察力と慎重さ…?」

 

「そう、だってキミが戸惑うときって、ちゃんと物事を見た上で、早とちりしちゃいけないってちゃんと判断できているときだろう?これはまだ必要なことが出きっていないことを見極める観察力と、進むべきでないときにちゃんと踏みとどまれる慎重さがあるってことじゃないか。これはすごいことだよ」

 

「すごい、こと…」

 

受け付けられる程度には抑えるが、多くの言葉で肯定的な意味があると思わせるよう畳み込む。

 

「それに僕とお話うんぬんは僕がちゃんと聞いてあげられなかったのが悪いんだし」

 

「そんなこと!ないです!わたしが…!!」

 

いけない。これはミスったかも。

思った以上に僕を上位の存在と認識しているようだ。

あんまり僕を卑下する発言は彼女にとってまずいようだ。

 

「そっか、じゃあおあいこにしよう。これからはもっとお話しよう?」

 

「えぅ、あ、は、はい…」

 

なでる手を少し強めて意識を会話から手のほうに移らせる。

しばらく黙ってなで続け、落ち着いた感じがしてきたら話を戻す。

 

「じゃあ早速お話してもいいかな?」

 

「は、はい。なんでしょう?」

 

落ち着いてきたのかおどおどした感じも少なくなってきている。

上手く取り成せたようだ。

 

「さっき言ってた大福になれないってどういうことか、教えてくれる?」

 

「それは、その…」

 

少しうつむく潮。

無理に聞き出してまた振り出しに戻るのは良くない。一旦引こう。

 

「言いたくないならいいんだ。ただ僕にできることがあるなら、やらせてほしいなって思っただけなんだけど、どうかな?」

 

「あぅ…。そのぅ…」

 

ぼそぼそというが、内容のある言葉が出てこない。

焦らなくていいとゆっくりと頭をなでつつ待ち続ける。

しばらくすると潮は意を決したように深呼吸をした。

 

「みたらしだと置いてかれちゃうんです。でもわたし、捨てられたくなくて…」

 

"みたらし"は置いていかれる…捨てられる?

で、それになりたくない…

つまりまだ明瞭ではないが、捨てられることを危惧しているってことか。

 

「で、餡蜜になろうって?」

 

コクリと頷く潮。

 

「ちなみに聞きたいのだけれど、みたらしだと置いてかれるのはわかったけれど、大福と餡蜜の違いって何かな?」

 

「えっ?」

 

キョトンとする潮。

そしてきょろきょろとし始める。

誰かを探している?

 

「えっと、わからない…です。ごめんなさい」

 

見つからなかったようで謝る潮。

 

「いや、わからないならそれでいいんだ。ただ、どこからそんな話になったのかなって気になってさ」

 

なんとなく潮は捨てられること、置いていかれることを恐れていることはわかってきた。

で、今まで出てきた内容をまとめると、僕によって鎮守府にいられなくされるということを示しているのだろう。

それも自分が何かしてそういう発想が出てきたのではなく、誰かから何かを示唆されてそういう危惧をし始めた。

この推理は正しそうだ。

 

「さて、お話もいいけれど、ご飯が冷めちゃったら良くないし、食べながらお話してもいいかな?」

 

とりあえず今のところはこれぐらいで一旦引き上げて、別口から情報を集めたほうがよさそうだろう。

潮はそれほど主要な立ち位置ではなかったようだし。

鎮守府にある変な空気の原因がこれだけかどうかも調べなければならない。

 

「和菓子で思ったんだけどさ、潮ってこしあんと粒あん、どっちが好き?」

 

「はぇ?えっと、物に…よります。どちらかというと…粒あん?」

 

唐突な話題に戸惑いながらも答えてくれる潮。

 

「曙さんは?」

 

「…」

 

さっきから静かにしていたけれど、黙々と食べている曙。

 

「ありゃ?曙さーん?」

 

「ごちそうさま。私は先に戻ってるから」

 

そういってさっさと立ち上がって行ってしまう曙。

フォローを後回しにしたのは失策だったか。早めに取り返さねば。

 

「うーん、乙女心は秋の空とはよく言ったものだよ。潮は曙さんと親しいよね?僕からもフォローするけれど、キミからもやってもらえる?」

 

「は、はい。でも、私からだと…」

 

「余計拗れちゃう、かな?うーん、やっぱり僕のほうでしっかりやるべきか…」

 

心のケアは苦手だけど、そんなことを言っててもしょうがないんだよね…。

 

 

その後、潮と世間話をしながら食事を終えた。

以前よりとても親密になれたようで、とても良かったと思う。

怖がられていたように思えた今までの態度は潮曰く、潮自身に自信が持てず、こんな自分とじゃ僕と上手く話せるはずないと思い込んでいて萎縮していただけであったらしく、嫌われてはいないようでとてもうれしかった。

 

さて、これからは曙のフォローもしっかりやらなければならないが、それ以上に今回の件についてどういう話がどこから出回っているのかを調査しなければならない。

潮の反応からして曙が出所ではないが、彼女も知っている様子だったため、フォローついでに聞き出してみよう。

 




ようやく提督は潮と仲良くなりはじめました。
彼はいつまで潮っぱいの誘惑に負けず紳士的にいられるのでしょうか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告